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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第8章 行商人マリカ・サンティ
227/416

8―31 それぞれの戦い

 

 オーバンがゴーレムごと獣人牧場に突っ込んでいったベルグランドを眺めていると、後ろからガーチップ達が雄たけびを上げながら破壊された城門に突入していった。


 そこではっと我に返ると、慌ててガーチップ達の後を追って中に入っていった。


 牧場内では、ガーチップ達が建物から飛び出してきた警備兵を蹴飛ばすと、そのまま目標の建物内に突入していった。


 こいつらはついこの間までユニス様の敵だったというのに、今では頼りになる同盟者って感じになっていた。


 流石はユニス様という事か。


 人たらしにかけては右に出る者は居ないな。


 そんな事を考えていると、後ろからガスバルに肩を叩かれた。


「オーバン殿、我らもガーネット卿からあの連中を手伝うように言われているだろう。行かなくて良いのか?」

「ああ、そうでしたね」


 オーバンはガスバルにそう言うと、牧場内で停止しているゴーレムに向かった。


 そしてベルグランドを探すと、敵の矢から避けるようにゴーレムの下に隠れているのを見つけた。


「おい、大丈夫か?」


 オーバンが声をかけると、助かったと言うようにため息をついた。


「先輩、助けに来るのが遅いですよぉ」

「お前が勝手に突っ込んでいったんだろう」


 オーバンがベルグランドを引っ張りだした所で、ガスバルが声をかけてきた。


「ブマク団の連中を追いかけた方が良さそうだ」

「そうですぜ、先輩。早いとこ連中を追いかけないと、後で女ボスにご褒美を貰えませんぜ」


 オーバンはベルグランドが言った褒美の意味が分からなかった。


「勿論、後を追いかけるさ。だが、ユニス様からご褒美を貰うとはどういう意味だ?」

「何を言っているんです? ちゃんと仕事をしたら後で女ボスが、バインバインのおっぱいとぷりっぷりのお尻を振りながらお酌をしてくれるんですよ。こんなチャンスを逃すなんて、男として終わってますぜ」


 その光景を想像してしまったオーバンは、直ぐにその考えを振り払った。


「おい、ユニス様はそんな事をするとは、確約していなかったはずだぞ」

「いや、いや、先輩だって今想像したんじゃないですか? もしかしたら口移しとか、あの胸の谷間で飲ませてくれるかもしれませんよ。ああ、想像したら居ても立っても居られなくなりました。お先に失礼」


 そう言うとベルグランドは、管理棟の中に突っ込んでいった。


「あ、こら」


 オーバンはベルグランドの後に続き中に入ると、手柄を横取りするため鬼神の如く暴れまわった。


 何としても、ユニス様にそのような破廉恥な事をさせる訳にはいかないのだ。


 そしてそこには見知った顔があり、彼の周りには槍の間合いに沿って数人の獣人が倒れていた。


「ははは、獣人とはこの程度か。もっと骨のある奴は居ないのか?」

「ドーガン」


 名前を呼ばれた男が、さっとオーバンの方に視線を向けた。


「お前、俺の事を知っているのか?」

「ああ、嫌になるほどな」

「なら、相手をしてやろう」


 そしてオーバンはかつて自分の教官だった男を目標に定めると、槍の間合いに入らないように注意しながら、あちこちに散らばっている物を掴みそれを教官に投げつけていった。


「貴様、俺の戦闘スタイルを知っているな?」

「ああ、良く知っているよ」


 ドーガンは長槍での一撃必殺を得意としているので、馬鹿正直に近づくと一撃でやられてしまうのだ。


 なので、こうやって物を投げつけて、あわよくば敵の急所に当たって動きが止まればいいなと思っているのだ。


「き、貴様、正々堂々戦うという事を知らんのか?」

「はん、俺は勝てる戦いをするんだよ。教官殿」


 そして当たったらタダでは済まなそうな固い石像を掴み教官の頭めがけて投げつけると、その後を追って一気に接近した。


 教官は顔めがけて飛んできた物体を槍で叩き落とす瞬間、隙が出来ていた。


 その隙をついて剣を突き出すと、教官は片足を上げて反撃してきた。


 オーバンは腹に蹴りを受けて弾き飛ばされると、机に激突した。


 ぼんやりする頭を振って何とか意識を保つと、直ぐに敵の姿を探した。


 教官は、オーバンの剣を胸に受け後ろの壁に張り付けになっていた。


 オーバンはふらつく足を何とか進めながら元教官の傍まで行くと、自分の剣を引き抜いた。


「あばよ、教官殿。あんたには恨みもあったが、鍛えて貰った事は感謝しているんだぜ」


 オーバンが教官に最後の挨拶をしていると、ブマク団の連中も集まってきた。


「オーバン殿、お見事。では、最上階に居る敵のボスを仕留めに行こうか」

「ああ、そうだな」


 最上階に上がる階段には敵の姿は無く、そのまま最上階まで上がってきた。


 最上階の扉の前にはまぶしい明かりが煌々と照らされており、暗闇に慣れていた目にはとても眩しかった。


 明るさに目が慣れてきたところでガスバルが魔法で扉の開錠を行うと、ブマク団の連中が一気に中に突撃していった。


 それを見てオーバンも中に入ると、そこは暗闇の世界で外の明るさに慣れた目がまた見えなくなっていた。


 そしてオーバンの鼻は、部屋の中に充満している甘い匂いを嗅ぎ取っていた。


 +++++


 オーバン達に合図を送りしばらくすると城門の方から戦いの喧噪が聞こえてきたので、後は此処を制圧して皆で帰るだけだった。


「グラファイト、貴方は先程の宿舎に戻ってあの子達の護衛をお願いね。私はオーバン達の応援に行ってくるわ」


 すると何時もはイエスマンの如く頷いてくれるグラファイトが、首を横に振っていた。


「大姐様、私は女性に怖がられるゴリマッチョです。私が応援に行ってきますので、大姐様は少女達の護衛をお願いします」


 俺がゴリマッチョといったことをまだ根に持っていたか、だがこれでは俺が行くと言えないな。


 仕方がない。


 奴隷商人共はグラファイトに任せて、大人しく少女達を安心させる側に回るか。


「分かったわ。それじゃ管理棟は任せるわね」

「はい、直ぐに片付けて大姐様の元に戻ってきます」


 そしてグラファイトが走り出すと、俺は踵を返して少女達が待っている宿舎に向かった。


 獣人宿舎は、何だが出てきた時と雰囲気が変わっていた。


 一体何事だろうと周囲を見回していると、ポッと明かりが灯った。


 そこには派手な服を着た恰幅の良い男が居た。


「やっとお戻りですか、最悪の魔女殿。いや、パルラ辺境伯殿とお呼びした方が良かったですかな?」

「そうね。どちらでもいいわ、奴隷商人のムルシアさん。野営した時はまんまと騙されたわ」

「はっはっはっ、お互い正体はバレていると言う事ですな」


 ムルシアの腕の中には、先程俺が助けた少女が羽交い絞めにされていた。


「それで、その子をどうしようというのですか?」

「要求を通すための人質ですよ。隷属の首輪を外すなんてどれだけの損失になると思っているのです? この補償は当然貴女がしてくれるのですよね。辺境伯殿?」


 成程、俺を爵位で呼ぶことで、暗に補償しないと名誉が傷つきますよと言いたい訳か。


「何を言っているの。ジゼルを奪還する為にかかった時間と労力を考えれば、貴方の首も付けて貰わないと割に合いませんよ」

「ほう、俺の首を所望か。だが、そう簡単には渡してやるつもりはないぜ。それにこの状況でよくそんな強気な事が言えるな」


 そういって力を籠めると、少女の口から苦悶の悲鳴が上がった。


「それで人質に取ったつもりなの?」

「ああ、そうだよ。とぼけても無駄だ。あんたがこいつに言った言葉は知っているぜ」


 ちっ、抜け目のない奴め。


「武器を隠し持っているかもしれんからな。服を脱いでもらおうか」

「私は魔法使いよ。武器なんか持っていないわ」

「それを素直に信じるとでも? いいから早く脱げ」


 グラファイトが戻ってくるには、もう少し時間がかかるか。


 俺は何だかストリップショーをしているようだと思いながらも、時間稼ぎのためゆっくりと服を脱いでいった。


 すると、足首のベルトに付けていたスリングショットが見つかってしまった。


「あれ、あれ? 魔法使いは武器を持たないんじゃなかったのか?」


 ちっ、勝ち誇った顔しやがって。


「それも外してもらおうか」


 その場で足首からベルトを外すためしゃがみ込んだ時、ムルシアから見えないようにベルトに挟んでいた小さな玉を飲み込んだ。


 そして外したベルトは、そのままムルシアの方に放り投げた。


「ほう、これはスリングショットか。それじゃあ、残った下着も脱いでもらおうか」

「もう武器は持っていないわよ」

「いや、魔女なら貼紙1枚でも油断ならんからな。全部だ」


 俺は下種な男にじっと見られながら、下着を脱ぐという羞恥プレイをさせられていた。


 異性が俺の目の前で着衣を脱ぐ姿を見るのは非常にそそるが、それが逆の立場になると何とも気持ち悪いものを感じた。


 全裸になると、両手でブラとショーツを持ちあげて見せた。


「これで満足?」

「まだだ。その場で回って背中を見せろ」


 言われたとおりに背中を見せると、さらに要求が来た。


「髪の毛が邪魔だ。背中が見えん」


 ちっ、要求が多い奴だな。


 後ろ手に髪を梳いて背中が見えるようにしてやった。


「ふむ、何も仕掛けていないようだな」


 あおいちゃんに重力制御とか魔力障壁の魔法を改めて教えてもらっていたので、霊木の葉が不要になっていた。


 それが無かったら今頃は攻撃に対して無防備なうえ、重くて動けない状態だっただろう。


 あおいちゃんには、王国で何かお土産でも買って帰った方がよさそうだな。


「流石は魔女殿。いい体をしているじゃないか」

「そりゃ、どうも」


 魔法で作られた保護外装の外見がお好みなら、たっぷりみせてやるぜ。


「美食家を自称する連中の事を知っているか? 奴らは魔女の血肉を食する為なら、全財産を差し出しても良いと思っているんだぜ」

「私をその連中に売りつけるつもり?」

「ああ、ここでの被害額なんか簡単に取り戻せるぜ」


 この野郎。俺を1グラム千円のバラ肉にして売るつもりか?


 ムルシアは懐から取り出したペン型をした物を取り出すと、こちらに転がしてきた。


「それを受け取って、先端の蓋を外せ」


 言われた通り拾い上げると、突然手の中のペンが膨れ上がるのを感じた。


 それはパンと音を立てて破裂し、中に入っていた白い粉末が噴き出した。


「コホ、コホ、これは?」


 俺はその粉末を盛大に吸引してしまい、せき込んでいた。


「ふははは、タツィオという男の事を覚えているか? パルラの町でお前を牢屋に運んだ男だ。そいつが紫煙草の煙を吸って気を失ったと教えてくれたぞ」


 初めてパルラの町に行った時、牢屋で襲ってきたあの男の事か。


 そんな事を思い出したところで、猛烈な眠気に襲われ意識を失った。


ブックマーク登録ありがとうございます。

レビューを書いてもらいありがとうございます。ご意見は参考にさせていただきます。



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