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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第8章 行商人マリカ・サンティ
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8―27 ジゼルの捜索

 

「ここで服を全部脱げ」


 男は俺の体を頭の上からつま先まで、下心満々の目で見ていた。


 ここでダイビンググローブを外したら今後の作戦に支障をきたすので、その要求を飲む事は出来ないな。


 だが、ジゼルは一体何処に? もう少しこの男から情報を引き出してみるか。


「行き止まりのようですけど?」

「なんだと? お前昼間の狐獣人じゃないのか?」


 あ、しまった。


 それなら仕方がないか。


「お前は誰だ? それに、そういえば何故服を着ているのだ? 裸に剥いてやったはずだ。いや、待て、そういえば胸も大きいような」


 そう言った男の顔は、初めて見るものに驚いた表情になっていた。


 この男、ジゼルを裸にしたのか。


 少し距離を取ると、疑いの目で見てくる男に電撃を浴びせた。


 そして気絶している男に自白の魔法を掛けてから、意識を取り戻させると早速尋問を開始した。


「この先には何がある?」

「繁殖用の雌を入れる檻です」


 そういわれて再び突き当りの壁を改めて観察してみたが、そこには絵が飾られているだけで取っ手も鍵穴もなかった。


「どうやって中に入るのだ?」

「あの絵の後ろに鍵穴があります」


 絵の後ろといえば隠し金庫が定番じゃないのかぁ?


「鍵は何処だ?」

「胸の内ポケットの中です」


 自白魔法では、自発的に差し出すことは無いか。


 仕方がないな。


 俺は男の上着を掴むと内ポケットに手を突っ込んで鍵を取り出した。


 懐に手を突っ込んで金品を掠め取るのは税〇署の専売特許かと思っていたが、まさか俺がやることになるとは思わなかったぜ。


 まあ、取ったのは金じゃなくて鍵だかな。


 絵をずらして現れた鍵穴に鍵を差し込んで回すと、カチリと音がして壁がかすかにずれて隙間が現れた。


 最初押してみたがびくともしないので、今度はその隙間に指を入れて手前に引っ張ったがそれでも駄目だった。


 まさかと思って横にずらしたら、すんなりと通路が現れた。


 再び気絶させた男を扉の内側に入れてから扉を閉めると、その先にある通路には両側に鉄格子があった。


 鉄格子の先にはベッドが並んでいて、その上には全裸の獣人女性が寝そべっていた。


 彼女達は闖入者に驚くと上体を起こしてこちらを凝視していたが、声をかけてくることは無かった。


 お陰で顔を確認出来たのだが、右側の列は皆腹が膨らんでいた。


 そしていつの間にか通路の突き当りまで歩いてきてしまったが、確かめた範囲内ではジゼルの姿はなかった。


 あれ? あの男の話しぶりからジゼルは此処に居るはずだが?


 俺が立ち止まってどうしようか考えて居ると、1人の獣人が声をかけてきた。


「そこの狐獣人の人、お仲間を探しているの?」


 声をかけてきた女性の頭の上には、猫耳がついていた。


 やはり、猫は好奇心旺盛なのか?


「ええ、私と同じ狐獣人で名前をジゼルというのですけど」


 すると猫獣人は小首をかしげていた。


「名前は知らないけど、昼間連れてこられた狐の子なら、その先に連れて行かれたわよ」

「ありがとう」

「お礼なら、食べ物でお願いね」


 おお、なんて物質的な猫ちゃんだ。


「それじゃあ、その首輪を外して自由にしてあげるというのはどう?」


 俺がそういうと、猫獣人はぽかんとした顔をしていた。


 そして猫獣人に言われた壁を眺めていたが、だんだん面倒くさくなってきたのでそのまま壁を蹴ってみた。


 普通に蹴っても大したダメージは与えないが、その保護外装は魔素を高密度で集めるので質量が半端じゃないのだ。


 ドシンという重い音が響くと、壁が凹んだ。


 その音が異常だったので、いつの間にか獣人達が鉄格子を掴んでその隙間からこちらを眺めていた。


 次の一撃で壁が吹き飛ぶとその先に空間があった。


 そしてそこには狐耳をした裸の獣人が倒れていた。


 うつ伏せで顔が見えないが、俺はジゼルだと確信していた。


「ジゼル」


 俺が声を掛けるとその耳がピクリと動き、顔をこちらに向けてきた。


「ユニス?」


 その姿を見て最初に思ったのは、無事見つけられて本当に良かったと言う事だった。


 ジゼルは俺の事を見ると立ち上がろうとしたが、直ぐに顔をしかめて力なくその場に崩れ落ちた。


 俺は駆け寄るとしっかり抱きしめた。


「ちょっとジゼル、大丈夫?」

「ええ、なんとか。ねえ、ユニス、もしかして捕まっちゃったの?」


 そういって俺の首元を指で触っていた。


 そこには擬装用の隷属の首輪が付いているのだ。


「ああ、これは擬装よ。それに私には隷属の首輪は効かないわ」

「それじゃあ、私を助けに来てくれたのね」

「そのとおりよ」


 そういって改めてジゼルの裸体を眺めると、あちこちに青あざがあった。


 それを見た途端、ジゼルをこんな目に遭わせた連中への怒りが込み上げてきたが、それよりも今は手当が先だった。


「ジゼル、直ぐ治してあげるね」

「うん」


 直ぐに隷属の首輪を左手で掴み機能を停止させると、ジゼルの体全体に「重傷治癒」の魔法を掛けた。


 ジゼルの体が一瞬光ると痛々しかった痣が消え、綺麗な肌になった。


「ジゼルの肌とても綺麗ね」


 するとジゼルはちょっと唇をすぼめていた。


「ちょっと、何時まで見ているつもり? 私に欲情したの?」

「ここが敵地でなければ、そのままベッドに連れ込みたいところね」


 そういってジゼルの柔肌を指の腹でそっとなぞると、ジゼルは抗議の言葉と共に俺の頬を抓ってきた。


「痛っ、ごめんって。それよりも服は何処にあるの?」

「分からないわ」


 そういわれて回りを見回して服になりそうな物が無かったので、自分の上着をジゼルに着せた。


「ジゼル、無事で本当に良かった」

「うん、私も、きっとユニスが助けてくれると信じていたわ」


 +++++


 オーバンは、ユニス様と2体のオートマタが獣人牧場に向けて飛んでいく姿をじっと見送っていた。


 ここに残された俺達はユニス様から合図があるまで、ここで暇つぶしをすることになる。


 オーバンはユニス様から託された3体のゴーレムの傍に行くと、異常が無い事や偽装が問題ないか等を確かめていた。


 そして近くにあった倒木に腰を下ろすと、幼少期過ごした獣人牧場の事を思い出していた。


 記憶として残っているのは、鉄格子がある部屋に入れられた大勢の獣人達。


 そこから俺達の選別が始まったのだ。


 後で知ったことだが、ここでの選別は戦闘用、労働力用、慰み用等の用途別に分けられ、豹獣人である俺は俊敏性と力に優れていたことから戦闘用の組に入れられた。


 それからは過酷な戦闘訓練の日々だった。


 教官はドーガンという名の元冒険者の人間で、情け容赦無くしごかれたのだ。


 隷属の首輪で命令されたら逆らえないのだが、訓練に落伍すると獣人牧場で飼育されている魔物の餌にされるので皆必死だった。


 飼われていた魔物の中にはスクイーズも居たので、今目の前に居るゴーレムを見ていると、どうしてもあの時の事を思い出してしまうのだ。


 獣人牧場に行ってドーガンに出会ったら、俺はどうするだろうと考えた。


 あの時は確かに怖かったし、恨んでもいた。


 だが今は、ユニス様の横に並んで戦える力を授けてくれた事を感謝してもいるのだ。


 +++++


 ユニス達が獣人牧場に向かったあと、三々五々散り散りになった獣人達から離れて森の中に入って行く人影があり、その人影の後をこっそりと付いていくもう1つの人影があった。


 先行した人影が立ち止まると振り返り、後を追ってくる人物に声をかけた。


「何故、付いてくる?」


 その質問に、後からやってきた人物が片膝をついて一礼してきた。


「失礼ですが、貴方様は第3王子殿下ではないのですか?」

「獣人の王国等どこにあるのだ?」

「いえ貴方様には、ルフラント王国第3王子カリスト殿下の面影があります」


 その一言に言われた人影の方は、一瞬たじろいだようだった。


「他人の空似だろう」

「いいえカリスト殿下には、王城トリシューラで何度もお会いした事がございます。間違いございません」


 そう断言された人影は、じっとそう言った人影を見返していた。


「お前は何処をどう見ても獣人じゃないか。言っている事に真実味が無いぞ」

「ああ、これは魔女殿の擬態魔法で顔を変えているからです。私はリリアーヌ殿下配下のエラディオです」


 エラディオは、そう言って自分の頭の上の獣耳を触った。


「リリアーヌの。そのエラディオが何故魔女の手下になっているのだ?」

「やはりカリスト殿下でしたか。何故そのようなお姿になってしまわれたのか、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


 そう言ったエラディオは、心配そうな目でカリスト殿下を見つめていた。


「それを言うつもりはないな。それよりも俺の質問に答えろ」

「失礼致しました。私は王女殿下の命で、陛下の病を治す薬を探して公国に潜入しておりました」

「それが何故、魔女と一緒に王国に戻っているのだ?」

「あの魔女なら、陛下の病を治せると思ったからです」

「そうか。父上が・・・」


 カリスト殿下は、何やら考え込んでいた。


「あの魔女が、見返りもなく手を貸してくれるだろうか?」

「それは心配ないと思います」

「何故、そう思う?」

「復活した魔女はとてもお人好しです。それに7百年前の記憶を無くしているのか、自分の事を魔女だと認識しておりません。今のままなら、願いを聞き届けてくれると思われます」


 カリスト殿下は、エラディオの言葉をじっと聞いていたが、やがて何か思い至ったようににやりと口角を上げた。


「ほう、だからあの時、態と魔女を侮辱する言葉を言ったのか?」

「ええ、国の為なら命の危険を冒す事等造作もない事です。そのおかげで復活した魔女の性格が、7百年前とは真逆だと分かりました」


 カリスト殿下は大きく頷いた。


「確かにそうだな。魔女が昔のままだったら、ガーチップが襲撃を仕掛けた時点で俺達は全員生きていないだろうな。それでも助けてくれなかったら?」

「駄目だったら、そうなるように手を回せばいいだけでは?」


 そう言われて、カリスト殿下は声を上げて笑い出した。


「ぶははは、魔女は懐の中に獅子身中の虫を飼っていたか」

「殿下、虫とは酷いではないですか。私は王国の忠臣だと自負しておりますよ」

「ああ、そうだったな」


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