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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第8章 行商人マリカ・サンティ
222/415

8―26 潜入

 

 ガーチップ達が洞窟から出て来ると、目の前に現れた3体のゴーレムを見て固まっていた。


「ユニス殿、これは?」

「ヴァルツホルム大森林地帯に生息しているスクイーズという魔物です。こちらでは見かけませんか?」

「スクイーズ?」

「そうよ。獲物に強烈なタックルをして動けなくするので、扉を破壊するにはうってつけでしょう。背中に籠を作ったから、皆さんにはそこに乗ってもらいますね」

「お、おう」


 俺はガーチップ達にそう説明しながら、大森林地帯で俺を捕まえようとした男の事を思い出していた。


 あの男は魔物の足に隷属のアンクレットを付けて、手駒にしていたな。


 そしてスクイーズのゴーレムに乗り込んだブマク団の選別隊の中に、あのチュイも入っていた。


「あら、文官かと思っていましたが、貴方も行くのですか?」


 俺の軽い挑発にチュイが睨み付けてくると思ったが、意外にも微笑んでいた。


「ええ、ユニス殿のご活躍を、是非この目で直接見たいと思いましてね」

「まあ、いいけど。足手まといにならないでね」


 俺が態とそう言うと、笑顔が固まっていた。



 選抜隊がゴーレムに分乗した後で、重量制御魔法をかけ上空に浮かせるとそのままドックネケル山脈に向けて飛行を開始した。


 空を飛んでしばらくすると、前方に白い頂を冠した連峰が見えてきた。


 その連峰の裾野には、深い樹林地帯が広がっていた。


 その峰の麓を遠見の魔法で見ると、南側に人工物が見えてきた。


 それは紙に書き写した図面に酷似していた。


 どうやらあれが目的地のようだ。


 獣人牧場の城壁の手前は、さえぎる物がないなだらかな丘陵が続いていた。


 それでは馬鹿正直に正面から攻めても、被害が大きくなるだけだろう。


 俺は同行者達にその場所を指し示してやると皆そちらの方を見て頷いたので、目的地に到着した事を理解したようだ。


 3体のゴーレムを隠せる場所を探して飛行していると、森林地帯の中に丁度良い広さの空き地があるのを見つけた。


 空き地に着地すると、早速ゴーレム3体のカモフラージュと夕食の準備が始まった。


 獣人達はやっぱり肉が食いたいらしく、狩猟に出かけるというので俺も手伝おうと声をかけた。


「オーバン、私も協力するわね」

「いえ、ユニス様はどうかのんびりお寛ぎください」

「なんで? 人数分の肉を調達するには、人手があった方が良いでしょう?」


 ブマク団の方に視線を向けると、ガーチップがそれに気付いてくれた。


「いや俺達も協力するので、ユニス殿はそこらへんで森林浴でもしていてくれ」

「ちょっと、貴方達。なんだか私に手伝って欲しくないみたいね」

「いえ、そんなつもりは・・・」


 すると竈を作っていたガスバルが声をかけてきた。


「がはは、商人殿、聞きましたぞ。商人殿が狩猟に行くと周りがとんでもない迷惑を被ると」

「あ」


 オーバンが「ああ、言っちゃった~」って顔をしたので思い出した。


 そういえばパルラで狩猟に行った時、魔物の暴走でみんなボロボロになっていたんだよな。


「ガスバル、それは私が歩く迷惑だと言っているのかしら?」

「うぉ」


 俺がそう指摘するとガスバルもやっぱり「しまった~」という顔をして、ベルグランドに助けを求める視線を送っていた。


 かわいそうに、いきなり話を振られたベルグランドは何のことが分からないらしく、どう反応すべきかまるで分っていないようだった。


 そしてパニックったベルグランドは、とんでもない事をいいやがった。


「え? ええ? 歩く淫乱?」


 俺はベルグランドの尻を思いっきり蹴飛ばした。


「ぴぎゃぁぁ」


 飛ばされたベルグランドは、近くにある木に激突していた。


「貴方達が私の事をどう思っているのか良く分かったわ」



 夕食が出来上がると、食べながら作戦について話し合った。


「それでは商人殿、私が同行して警備兵を気絶させましょうか? もぐもぐ」

「ありがとう。でも、グラファイトとインジウムを連れて行くわ。もぐもぐ」

「あの2体なら、私らの応援要らなくないですかな? もぐもぐ」


 俺はそっとガスバルの脇腹を指で押すと、声を落とした。


「ちょっと、これは共同作戦なのよ。この意味分かるわよね?」


 するとガスバルは、ブマク団の人達をちらりと見てから謝ってきた。


「おっと、これは失言でしたな」


 そして気を取り直して計画を話した。


「宵時の見えにくい時間帯に、そっと上空から潜入します。獣人達の首輪を外したら上空に花火を上げるわ。オーバンにはゴーレム達の命令権を与えるから、私から合図があったら獣人牧場の扉を破壊して突入し、管理棟を占拠してね。もぐもぐ」

「はい、分かりました」

「それで俺達は、管理棟に居るボスを捕まえれば良いのだな?」


 そう質問してきたのはガーチップだった。


「ええ、大物は貴方達に任せるわ。オーバン達は援護をお願いね」

「はい、任せて下さい」



 そして周囲が薄く暗くなってきたところで、俺達は出発した。


「それじゃ行ってくるわ」

「お気をつけて」

「ええ、ありがとう」


 オーバン達にそう言ってから立ち上がると、グラファイトとインジウムを連れて上空に舞い上がった。



 目的の連峰に近づくと高度を上げて姿が見らえないようにすると、遠見の魔法を発動して牧場の様子を窺うことにした。


 上空から丸見えとなっている牧場内は取り立てて動きは無く、時折警備兵が見回りをしているだけだった。


「これなら潜入するのも簡単そうね」

「流石は大姐様、見事な計画ですね」


 俺の独り言を聞いたグラファイトがそう言ってくると、インジウムが不満そうにグラファイトを突いていた。


「ちょっと、グラ。お姉さまを持ち上げるのは私の役目なのよ。横取りしないで」


 いや、ただの独り言なんだが。


 そしてしばらく様子を窺っていると、警備兵の巡回パターンが見えてきた。


 その隙をついて生産設備と思われる建物の傍に、目撃されることなく降下出来そうだった。


「グラファイト、インジィ、あの警備兵が建物の角を曲がったら一気に降下するよ」

「はい、大姐様」

「はあぃ、お姉さまぁ」


 そして上空から遊園地にあるフリーフォールのように真下に向かって降下していくと、地面直前で急ブレーキをかけてふわりと着地した。


 そして建物の影から警備兵が駆けつけてこないかじっと耳を澄ませていたが、誰も出て来なかった。


 俺達の後ろには切り立った崖があり、2体のオートマタをスリープモードにすると崖を削って作った彫り物に見えそうだな。


「よし、それじゃ。2人はここでスリープモードにするわよ」

「え、それではここまで一緒に来た意味が無いのでは?」

「そうですよぅ。お姉さまの色香に吸い寄せられる害虫をぶちのめす楽しみがぁ」


 インジウムはそういうと両手で頭を抱えてイヤイヤのポーズをしていた。


 インジウム、お前、そんな事を楽しみにしていたのか。


「全く私が何でジゼルに化けているか分からないの? 今回はジゼルを保護することが最優先なのよ。貴方達にはその後で活躍してもらうから我慢してね」

「はぁい、分かりましたぁ」


 ちょっと、不満気味だがまあいいだろう。


 そしてグラファイトに持たせている袋の中からダイビンググローブを取り出すと、左手にはめた。


 そしてもう一度周りを見てから、2人をスリープモードにした。


 スリープモードになったオートマタは、どこからどう見ても置物に見えた。


「よし、それじゃ、始めますか」


 そして見取り図にあった生産施設の正面に回り扉が開くか試してみたが、施錠されているようでびくともしなかった。


「やはり駄目か。それじゃあ警備兵を探してジゼルの元に連れて行ってもらうか」


 俺は周りを見回して出来るだけ1人で居る警備兵を探していると、丁度良く1人で見回りをしている兵士を見つけた。


 俺は先回りをすると、態と見つかるようにかすかな物音を立てた。


「誰だ」

「あっ」


 物陰に隠れるふりをすると、直ぐに先程の兵士がやってきて手に持ったカンテラを翳した。


「お前は昼間生産施設に運び込んだ金蔓じゃないか。どうして此処にいる? いや、そんな事はどうでもいい。逃げ出した事がムルシアさんにバレたら大変な事になるじゃないか」


 そう言うと俺の腕を掴み、こちらをちらちらと見ながら強引に生産施設の方に引きずって行った。


 いや、そんな警戒しなくても大人しく付いていくさ。


 男は腰にぶら下げている鍵束から鍵を選び扉の錠前に差し込むと、生産施設の扉を開け中に入って行った。


 そこは通路になっていて両側に部屋があるようだった。


 明かりが消えているが、男が持っているカンテラの明かりがあるのでぼんやりと輪郭が分かった。


 どうやらそこは様々な機材を取りそろえた研究室といった感じだった。


 そして次に現れた部屋には、産婦人科の診察台のような物が並んでいた。


 男がこちらを振り返るとカンテラで部屋の方を翳していた。


「この部屋が分かるか?」


 俺が黙っていると、男はいやらしい笑みを浮かべた。


「ここは種付け部屋だ。お前は明日からここで種付けされるんだ」


 良かった。ジゼルはまだ無事のようだ。


 俺が何も分からないと思ったのか、男は明日何が起こるのか具体的に言うことにしたようだ。


「まあ明日になったら分かるさ。素っ裸で台の上に固定されて、突っ込まれたらな」


 何だか楽しそうだな。まあ、そんな未来は永遠に来ないがな。


 それでも俺が平然としているのが気に入らないようだったが、それ以上何も言わずに通路の突き当りまで来ていた。


 突き当りの壁には場違いな絵が飾られていた。


 そこで男の顔を見ると、にやりと笑っていた。


「ここで服を全部脱げ」


 なんだってぇ。


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