表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第8章 行商人マリカ・サンティ
219/416

8―23 尋問

 

 電撃で気を失った奴隷商人とその護衛達は、街道の傍に転がっていた。


 俺はグラファイトに合図して奴隷商人を縛らせると、獣人奴隷と同じ気分を味合わせてやるため首を縄で縛り、その端をグラファイトに持たせていた。


 その状態で奴隷商人を覚醒させると、目を覚ました奴隷商人が瞬きをしてから自分の状況を理解すると、途端に文句を言い始めた。


「おい、俺を誰だと思っているんだ?」

「お前こそ、自分の置かれた立場が分かっているのか?」


 ベルグランドが奴隷商人に言い返すと、奴隷商人は顔を真っ赤にして怒り出した。


「貴様、誰にものを言っている。俺は・・・」


 そこで言葉を切ると、信じられない物でも見ているように俺の方を見ていた。


 俺の周りには、先程まで奴隷商人の商品だった子供達が一緒にいるのだ。


「おい、お前達、早くこいつらに襲い掛かれ」


 だが、隷属の首輪を外された子供達はその声に何も反応しなかった。


 すると自分の命令が効果を及ぼさない事に疑念を感じた奴隷商人が、じっと子供達を見て首元に隷属の首輪が無い事に気が付いた。


「まさか、き、貴様ら、隷属の首輪を外したのか? だが、一体どうやって? いや、それよりも、我が商会の大事な商品を横取りするつもりか? ぐふっ」


 興奮した奴隷商人が立ち上がろうとしたが、グラファイトが握っている手綱に阻まれると、首が締まり反動で転がった。


 そんな転がった奴隷商人を、ガスバルとベルグランドが小馬鹿にしていた。


「何を言っているんだ? 俺達は盗賊だぞ。商人の商品を奪うのが目的なんだから、当たり前じゃないか」

「そうだ、そうだ。何故、奴隷商人の商品だけ盗まれないと思うんだ? お前は阿保なのか?」


 ガスバルとベルグランドは擬態魔法で獣人に化けていて、絶対身バレしないと分かっているせいか、とても強気だ。


 特にガスバルは正規の冒険者であり帝国の貴族でもあるので、身元がバレたら大変な事になるはずだが、その心配が全く無いと分かっているので安心して相手を馬鹿にしていた。


 だが、奴隷商人も負けていなかった。


「何を言っている。盗賊は、隷属の首輪を付けられて死ぬまで強制労働だぞ。今なら俺を解放して奴隷も元に戻せば、見なかった事にしてやってもいいんだぞ」

「馬鹿かお前、名前も知らない、居場所の分からない俺達をどうやって捕まえるというのだ?」


 ベルグランドはそう言って鼻を「ふふん」と鳴らしていた。


「ふん、やはり怪盗三色を装っているのは偽りか。獣人共の盗賊ならブマク団だとバレバレだぞ」

「お前こそ大馬鹿者じゃないのか? 今までお前達は、ブマク団に襲われた事が無いのだろう? なら、俺達がブマク団じゃないことくらい、簡単に分かるんじゃないのか?」


 今度はガスバルがそう言って、奴隷商人の間違いを訂正していた。


 そんな言い合いを何時までも聞いている暇は無いので、傍に近づいてガスバルの肩に手を置いた。


「黒犬、魔法をかけちゃって」

「ま、待て、身代金を払おう。お前達の事も黙っていてやろう。だから俺を釈放しろ。いくらでも払えるぞ。どうだ?」


 奴隷商人は、魔法と聞いて身の危険を感じたようだ。


 狼狽して、早口に命乞いをしていた。


「貴方と問答している時間は無いわ。黒犬」

「はっ、分かりました」


 奴隷商人は目玉が零れ落ちるんじゃないかと言うほど目を見開くと、その目の前でガスバルの杖から黄色の魔法陣が現れた。


「わ、待て、何をする気だ。分かった。何でもやるから、命だけは」


 奴隷商人がそこまで行ったところで自白の魔法が発動すると、奴隷商人の瞳から意思の力が消えたようだ。


「商人殿。魔法は発動しましたぞ。どうぞ、尋問してください」

「ありがとう。それじゃ、まずは名前を名乗りなさい」

「ゴドイだ」


 奴隷商人は先程護衛が口走った名前を言ったので、魔法がかかっている事は間違いないようだ。


「ではゴドイ、ムルシアという名の奴隷商人を知っているか?」

「ああ、知っている」

「お前とムルシアとの関係は?」

「俺はムルシア様の命令で商品を運んでいる」


 と言う事は、この男は運び役というところか。


 運び役は、組織でも下っ端の仕事だ。


 ムルシアが幹部だとすると、居場所まで知らないかもしれないな。


 なら、別の方面から聞いてみるか。


 パメラは何て言っていた?


 確かジゼルを獣人牧場に連れて行って、子供を産ませると言っていたな。


「お前はムルシアの獣人牧場を知っているか?」

「ああ、知っている」

「それは何処にある?」

「ドックネケル山脈の麓だ」


 そう言われても俺は地理に詳しくないので、後ろに居るガーチップに視線を送ると頷いたのでどうやら知っているようだ。


 手招きして聞いてみると、その山脈はここから南西の方角にあるそうだ。


 獣人牧場の周囲には、逃亡防止の柵や石壁があり、等間隔で監視塔もあるそうなので、ちょっとした現代の刑務所のようだ。


 そんな大規模な施設が、公然と営業していることに違和感を覚えた。


 マランカの町で次期領主が、王女殿下が獣人奴隷の契約を解除させていたはずだ。


 そんな状態で大規模な生産が行えるのか?


「獣人牧場の敷地は誰の領地なの?」

「アラゴン公爵様のご領地だ」


 随分敬意を払っているじゃないか。


「ムルシアとアラゴン公爵の関係は?」

「ムルシア様と公爵様の間では、たまに手紙のやり取りがあるようだ」


 すると領主と奴隷商人の間には、交流があるということか。


 隣に居るガスバルを見ると、頷き返して来た。


「商人殿、多分繋がっていると思いますよ」


 成程、ムルシアは領主の後ろ盾があるので、堂々と経営をしているという事か。


「それでどうします?」

「勿論、殴り込みをかけるわよ」


 ガスバルのその質問に、俺は力強くそう返事を返した。


「黒犬、奴隷商人はもう一度眠らせてから街道の脇に護衛達と一緒に放置しましょう」

「分かりました」

「まあ、それ程寒くないし死にはしないでしょう。他の盗賊に金目の物は盗まれるでしょうがね。ぐふふ」


 ベルグランドは、獣人奴隷がこの後どうなるか想像してニヤついていた。


 尋問が終わったので馬車に戻ろうと振り返ると、そこには10人の子供が待っていた。


 成り行きとはいえ助けてしまった事で、子供達の行く末について責任が生じているのだ。


「えっと、貴方達、これからどうしたい?」


 俺が問いかけると、皆互いに顔を見合わせていたが1人が声を上げた。


「お姉さんと一緒がいい」


 すると他の子供達も一斉に首を縦に振った。


 子供達は俺がビルギットさんに化けているので同胞だと思っているのだろう、ここは先に正体をばらしておいた方が良さそうだ。


「ええっと、私は兎獣人じゃないのよ」


 そう言って擬態魔法を解除すると、子供達は口をあんぐりと開けていた。


「ごめんね。私は貴方達の同胞じゃないのよ。それでも一緒にいたい?」


 俺がそう言うとオーバンが俺の横に並んだ。


「ああ、だけどユニス様は領主様なんだ」

「「「領主?」」」

「そうなんだ。ユニス様が治める町には沢山の獣人が居て、人間とも一緒に暮らしているんだよ」

「「「ニンゲン?」」」


 子供達の顔がこわばってしまうと、オーバンが慌てて補足していた。


「ああ、皆仲良しなんだよ。それにユニス様の町は此処とは違う国にあるんだ」

「「「違う国?」」」

「ロヴァル公国という国だよ。だから、この耳の長いお姉ちゃんが領主になれるんだ」


 大真面目な顔のオーバンに耳の長いお姉ちゃんと呼ばれるのは、何だがちょっとからかわれているような気がするなあ。


「オーバンの言った事は全部本当よ。私と一緒に来るのなら歓迎するわよ」


 するとまた子供達はお互い顔を見合わせていたが、直ぐに先程の子が声を上げた。


「一緒に行く」


 すると他の子供も次々に「一緒に行く」と言い出した。


 こうなると俺達が獣人牧場で救出作戦をしている間、この子達を預かってもらわないといけないな。


 そこで先程からずっと大人しくなっているガーチップを見た。


「ガーチップ、私達が獣人牧場に行っている間、この子達を頼めるかしら?」

「ああ、分かった。1つ聞くんだが、獣人牧場にはお前達だけで行くのか?」

「ええ、そうよ」

「たった4人で?」

「4人と頼りになるオートマタ2体よ」


 俺がそう言うと、グラファイトとインジウムが得意そうに背を逸らせていた。


「俺達も協力しよう。それに俺1人じゃ子供達を本部まで運べないし、そこには王国の地図があるから場所も教えられるぞ」

「つまり、貴方達の本部まで一緒に来いと?」

「ああ、そうだ」

「何故、協力するつもりになったの?」

「あんたといると、なんだか面白そうだからだ」


 面白い? 俺はお笑い芸人じゃないぞ。


 まあ、ガスバルとベルグランドはその素質がありそうだがな。


「分かったわ。それじゃあ皆、馬車に戻るわよ」

「「「はあぃ」」」


 子供達は元気よく返事をすると、カルガモの親子よろしく俺の後ろを一列になって付いてきた。


 俺達の馬車は2台しかないので、10人の子供が増えると明らかに定員オーバーだった。


「ユニス様、どうしますか?」

「そうねえ。とりあえず運搬用ゴーレムを1体作りましょうか」


 そして土を捏ねてその中に魔宝石を埋め込むと、錬成用の魔法陣に魔力を流してゴーレムを作成した。


 小さい子供は馬車の中に入れて、他は皆運搬用ゴーレムの荷台の上に乗せていった。


 全員が乗ると、馬車とゴーレムに重力制御魔法を掛けて浮かせて、上空に舞い上がった。


「ガーチップ、貴方達の拠点の場所は何処なの?」


 俺が声を掛けると、ガーチップは自分が空に浮かんでいることに驚いていたが、直ぐに手で方向を指し示して来た。


「あっちの方角だ」

「オーケー、分かったわ」


ブックマーク登録ありがとうございます。

いいね、もありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ