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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第8章 行商人マリカ・サンティ
210/415

8―14 広がる誤解

 

 処刑台の柱に括り付けられたルヴィスは、これ以上仲間が傷つかないように早く処刑してくれと願っていた。


 そしてあの冷酷な男が椅子から立ち上がったのを見て、ようやくこの苦しみから解放されると思ったのだ。


 すると突然周囲が真っ白になり、何も見えなくなった。


 やがて何かが自分の傍で動いている衣擦れの音が聞こえたと思った途端、括り付けられた柱ごと体が揺れていた。


 体が浮くようなふわふわした感じがしてようやく周囲の視界が広がるとそこは空の上で、地上の町や城壁が小さな模型のように見えていた。


 ルヴィスは処刑される寸前だったのに、それが何故空を飛んでいるのか全く理解できなかった。


 そして上空から急降下する恐ろしい体験をした後で、ようやく地上に下ろされると、黒い布で顔を隠した人物に柱から解放された。


 膝が笑って立ち上がれないのは、暴行を受けたからか高空から急降下した恐怖からなのか分からなかった。


 それでも痛む体を堪えて上体を起こし周囲を見回すと、そこには同じように救出された仲間の獣人と、その前に膝を付いた金色の髪を腰まで伸ばした女らしき人物がいた。


 するとその金髪の前に青色の魔法陣が現れた。


 まさか攻撃しているのかと声を上げそうになったが、それは治癒の魔法のようで、ぐったりとしていた仲間の意識が戻ったようで体が動いていた。


 その魔法使いが立ち上がると、今度はこちらにやって来た。


「貴方がルヴィス君ね。リスタちゃんに会う前にその怪我を治してあげるわ」


 リスタだと?


 それに、この女は何故俺の名前を知っているんだ?


 事態が飲み込めないまま、目の前に青色の魔法陣が現れると体中の痛みが消えて行った。


「もう大丈夫だと思うけど、体はどう?」

「え、ああ、問題ない・・・です」


 そしてどうして妹の事を知っているか聞いてみようとしたところで、その魔法使いの顔を見て固まった。


 そこにあった顔は、ブマク団の本部に飾ってあった憎しみの対象にそっくりだったのだ。


「お、お前は・・・」


 目の前の魔女の瞳は黄色でなんとなく親しみも感じるが、それでもこの顔は間違いなく俺たちの祖先を裏切った魔女に間違いなかった。


 そして突然理解した。


 7百年前も、魔女はこうやってブリアック王を信頼させてから裏切ったのだと。


 魔女が復活していたのには驚いたが、このろくでなしはまた7百年前と同じことをしようとしているに違いないのだ。


「動けるようになったら付いてきて」


 そう言って魔女と顔を隠した2人が林に向かって歩いて行ってしまった。


 ルヴィスはどうするか悩んでいると、助けられたもう1人がこちらに頷いてから後をついていくので、自分も従うことにした。


「なあ、あれは魔女じゃないのか?」

「ええ、そうね。間違いないわね」


 俺の考えを小声で確かめてみると、仲間の獣人もそれを肯定してくれた。


「お兄ちゃ~ん」


 その声に林の方を見ると、そこにはこちらに一生懸命手を振って走ってくる妹の姿があった。


「リスタ」


 俺は大事な家族である妹を抱きしめた。


 一通りお互いの無事を確認し合ったところで、妹が俺の手を引いて林の中に入って行った。


 そして連れていかれた場所には豹獣人と人間が竈を囲んでいて、その中に魔女もそれが当然とばかりに加わっていた。


「おう腹減っただろう、こっちに来て飯を食え」


 人間の男が手に持った肉を振りながら、そう言ってきた。


 その人間の顔には獣人を見下す気配は無く、傍にいる豹獣人も楽しそうに飯を食べていた。


 その和気あいあいな光景に、自分の目がおかしくなったのかと疑ったくらいだ。


 手渡されたスープはとても旨く、空腹な腹に染み渡った。


 そして魔女や人間に囲まれているというのに、妹がとても安心した顔で寛いでいるのに気が付いた。


 これはもしや、魔女に魅了の魔法でも掛けられたのではないだろうか?


 助けられた仲間も同じように感じたようで、魔女を警戒しているようだ。


 俺は同じ獣人である豹獣人に話しかけた。


「俺はルヴィスといいます。豹獣人さん、この組み合わせは一体?」

「俺はオーバンだ。俺達は、そうだな、ある目的のために力を合わせる仲間だ」


 顎をしゃくりながらそう言った豹獣人の言葉に、聞き逃せない物が含まれていた。


 目的。


 やはり復活した魔女は、7百年前を繰り返そうとしているのではないか?


「いえ、いえ、俺達はとびっきりの美人エルフと、それにかしずく男達といったところですよ。先輩」

「がははは、ベルグランド殿、正しくそれだな」


 獣人の言葉に人間達が訂正していた。


 此処に居る連中は既に魔女の術中に嵌っているようだ。


 そして妹までも。


 拙い、何時までもこんな所に居たら俺もこいつらと同じく、魔女にかしずく男達の仲間入りをしてしまう。


 俺はもう1人の仲間の顔を見ると、頷き返してきた。


「あの、エルフさん?」

「ああ、私はユニスよ」

「では、ユニスさん、助けてもらってありがとう。それで、その、俺たちは直ぐにでも仲間の所に戻らないといけないんだ」


 こんなことを言って魔女に心証を悪くされないだろうかとビクついていたが、意外にあっさりとそれは了承された。


「え? そう、体力も回復して問題ないのなら、それで構わないわよ」


 え、いいの?


 なら、一刻も早く魔女が復活した事を団長に知らさなければ。


 魔女は食料を分けてくれた。


 それを持って妹と一緒に、ブマク団だけが知っている獣道を通って本部に戻って行った。


 その時、魔女がどちらに向かったかはしっかりと確かめていた。


 魔女は西へ、すなわち王都へ向かっているようだった。


 +++++


 王都のアルベルダ侯爵館では、当主のコンラド・デシ・アルベルダが王城での勤めを終えて帰宅し酒を片手にくつろいでいると、執事からオルネラス子爵から訪問の先ぶれが来たと知らせてきた。


 それを聞いたコンラドは眉根を寄せた。


 オルネラス子爵と言えば、金で男爵位を買い、その後アラゴン公爵に気に入られて娘を娶り公爵から第2爵位の子爵位を貰った男だ。


 それが突然やって来たとなれば、これはアラゴン公爵の意向と思われた。


 他派閥といえど、軽くあしらえない相手だった。


「分かった。到着したらこちらに通せ」

「はっ」


 それから暫くして表から馬車が到着した音が聞こえてくると、再び扉をノックする音が聞こえて来た。


「入れ」


 そして執事の案内で入って来た子爵は、口ひげを生やし酷薄そうな細い目をした若い男だった。


「これはオルネラス子爵、どうぞこちらへ」


 そう言って執務机の前にあるソファを指し示した。


「アルベルダ卿、ありがとうございます」


 そしてメイドにお茶を用意させて、当たり障りのない会話をした後でようやく本題に入った。


「して、態々お越しいただいた理由はなんですかな?」

「アルベルダ卿は、王都で話題になっている噂を耳にされておりますかな?」


 コンラドはそう言われて直ぐに思いつくのは、陛下の病状が思わしくない事だ。


 陛下に万が一があった場合、王位は継承権第1位である第1王女が有力だが、それに難色を示しているのが同じく継承権を持つアラゴン公爵だった。


 そしてアラゴン公爵は、玉座を虎視眈々と狙っていると有名だった。


「もしや、陛下の件で来られたのか?」


 すると子爵はにやりと笑ったが、その事に肯定も否定もしなかった。


「まずはこれを見て頂きたい」


 そう言ってテーブルに広げたのは王国の略図だった。


 子爵は前かがみになると指で王国の東側を指さした。


「ドリク、か。そこはアルマンサ伯爵の領地だな」

「ええ、アルマンサ伯爵は、怪盗三色を捕まえながら白昼堂々脱獄された挙句、潜伏先を包囲しながらまんまと逃げられたそうです」

「ほう」


 確かに王国では、怪盗三色とかいう連中が貴族の館に忍び込んでは家宝を奪い犯行声明を残していくので、やられた貴族はいい笑い者になっていた。


「そして此処」

「リンナの町か、そこでも?」

「ええ、盗賊を捕まえ広場で公開処刑を行おうとしたところで、まんまと盗賊を攫われたそうです。おかげで伯爵はいい笑い者になっているとか」


 そう貴族は他家の不幸が、なによりのご馳走なのだ。


「ほう、面白い話であるが、それが私と何の関係があるというのですかな?」


 コンラドがそう言うと、子爵はニヤリと笑いその指を西にずらした。


 そこにはアルベルダ侯爵領の領都マランカがあった。


「まさか、怪盗三色が狙う次の標的が我が領都だというのか?」

「ええ、そのまさかですよ、アルベルダ卿」


 怪盗三色は神出鬼没で、次に何処を襲うか皆目見当がつかなかったが、今回はそれが分かりやすく街道を西に、つまり王都に向けて進むように痕跡を残しているというのだ。


 コンラドは真っ青になった。


 ドリクの領主館には、陛下からお預かりしている初代国王が魔女討伐で手に入れた戦利品「ドーピングのブレスレット」という身体能力を極限まで高めるマジック・アイテムが保管されていた。


 このアイテムは、最悪の魔女を討伐した王家に呪いを与える物だと後で判明し、その呪いを王族から遠ざけるため、表向きは紛失したということにして秘密裏に初代国王以来の忠臣である当家に預けられているのだ。


 王家の呪いがどうやったら解けるのか分からないうちは、アイテムを破壊することも出来ず、こうして王家から離れた場所で保管しているのだ。


 子爵は私の様子を窺っているだけで、これ以上話そうとはしない。


 これは此処から先の情報には、対価が必要だという事だろう。


 くそ、恐らく子爵はこの情報で次期国王を選ぶ際、公爵に味方するようにと暗に言っているのだ。


 だが万が一にもあのマジック・アイテムが奪われたら、王家の秘密が白日の下に晒されてしまうだろう。


 それは何としても防がねばならなかった。


「オルネラス子爵、分かった。先を続けてくれぬか」


 私の言葉を聞いた子爵の顔には、勝利者の笑みが浮かんでいた。


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