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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第8章 行商人マリカ・サンティ
207/416

8―11 次の町へ

 

 スリングショットの攻撃で宿屋の外が暗闇に沈むと、俺はベルグランドに重力制御魔法をかけ、開いた窓から外に飛び出した。


 そこは本来であれば暗闇が広がるはずだが、暗視の魔法のおかげで鮮明に見えていた。


 松明を失った捕縛隊が宿の中に突入するのを眺めながら、宿の裏に回るとグラファイトとインジウムに合流した。


 そのタイミングで宿の部屋が一瞬昼間になったかと思うほど眩しく光り、男達の悲鳴がこちらまで聞こえて来た。


 それを聞いたベルグランドが「ひゅ~」と口笛を吹いていた。


「流石ですね。あれじゃあ、暫くの間何もできないんじゃないですかい」

「当然よ」


 俺はそう言ってから、2台の馬車に魔法をかけて上空に舞い上がった。


「お姉さまぁ、どちらに向かいますかぁ」


 御者台からインジウムが尋ねて来たので、ベルグランドにオーバン達が居る場所を案内させた。


「女ボス、あそこでさあ」

「分かった」


 ベルグランドが指さした家の手前に馬車を降ろすと、それを待っていたかのように家から飛び出して来た2人が馬車の中に駆けこんできた。


「ユニス様、態々迎えに来て頂いてありがとうございます」

「ガーネット卿に迎えに来てもらえるなんて、感激の極みです」


 2人の挨拶に手を振って応じると、馬車を再び上空に舞い上げた。


 そして追手が来ない事を確かめてから、2人に作戦の成果を尋ねた。


「それで、何が分かったの?」

「レッチェ渓谷というのはやはり罠でした。そこにある洞窟の中に罠が仕掛けられているそうです」

「そう。それで、ジゼルに繋がる情報は手に入ったの?」


 すると2人とも渋い顔になったので、結果は訊くまでも無かった。


「残念ながら何も、そこで提案なのですが、私が昔仕えていた貴族がマランカという町に居ります。獣人を奴隷として買う連中ですから、何か情報を持っている可能性があります」


 獣人奴隷を買う貴族か。少なくとも何処から買っているかは分かるな。そこから辿ってみるか。


「分かったわ。それじゃ、行ってみましょう。方角を教えてくれる?」

「はい、丁度西の方角です」

「オーケィ、それじゃ行きましょう」



 馬車隊は東の空が明るくなったあたりから、目立たないように地上走行に切り替えていた。


 馬車の中でガスバル達と今後の事を検討していると、御者台のインジウムが声を掛けてきた。


「お姉さまぁ、何だか北に向かっていますよぅ」


 え、北?


「インジィ、道なりに進んでいたのよね?」

「ああ、きっと道が地形にそって作られていますから、西のレッチェ渓谷を迂回しているのだと思いますよ」

「ベルグランド、随分詳しそうね?」

「え、いや、多分、感ってやつ、ですかね?」


 俺が不思議に思ってそう尋ねると、ベルグランドは視線を明後日の方向に向けて何だがもごもご言っていた。


 本当は道を知っているんじゃないのか?


「ベルグランド、この先はどうなっていると思う?」

「え~っと、町があったりして?」


 こいつ、やっぱり知っているな。


「インジィ、町が見えたら教えてね」

「はあぃ」

「それじゃあ、次の町で道を調べてみましょう」


 そして間もなく、インジウムから町が見えたと知らせて来た。


 それを聞いてベルグランドの顔を見ると、さも当然ですねといった涼しげな顔をしていた。


「町に入ったら、適当に人を捕まえて道を聞いてみましょう」

「分かりました」


 そして門の前には、結構な数の馬車や荷馬車が並んでいた。


 行列の後ろに並びようやく順番が回ってくると、門番から誰何の声が聞こえてきた。


「おーい、そこの馬車?」

「はい、こちらは行商人マリカ・サンティの馬車です」

「なんだと」


 すると急に外が騒がしくなってきた。


「何だか、騒がしいわね」

「それなんですが、もしかしてドリクの町から、何か連絡が来ているんじゃないですか?」


 そうベルグランドが言ったが、何よりも名誉を重んじる貴族が、自分の失態を他の貴族に知らせるような真似をするものだろうか?


 だが、外から聞こえてきた声からすると、どうやらそれは間違いないようだ。


「おい、馬車の中の者、全員降りろ」


 いきなり暴れるとこれから先、もう町に入れなくなる危険がありそうだ。


 仕方が無い、ここは素直に従って様子を見るか。


「皆、ここは大人しく従いましょう」

「「「分かりました」」」


 そして馬車から降りると、そこには馬車を取り囲むように兵士が武器を構えていた。


「お前達の素性を調べる。中に入れ」


 そう言って建物の入口を顎で示されたので、大人しく付いていく事にした。


 建物の中では取り調べ用のテーブルには俺とガスバルが座り、後ろにオーバンとベルグランドが控えていた。


 テーブルの反対側には隊長と思しき気難しい顔をした男が座り、俺たちを取り囲むように兵士たちが控えていた。


 隊長は俺が渡した交易許可証が本物かどうか調べているようだったが、やがて顔を上げると俺の事を真っすぐ見つめてきた。


「書類は本物のようだな。お前達は入国時から4人だったのか?」

「はい、そうです」

「ただの行商人が何故高価なゴーレム馬車を持ち、御者台に人形が居るのだ?」


 ああ、行商人にとっては装備が贅沢過ぎるという事か。


「私共には貴族のパトロンが居ます。その方から借り受けています」

「ほう、それは何処の誰だ?」

「ロヴァル公国のパルラ辺境伯様です」

「ふん、公国の高位貴族か。それが何故王国に来たんだ?」

「辺境伯様は、自領の特産品の販売先を他国にも広げようとしているのです」

「成程、そういう事か」


 ここで俺たちのやり取りを隣で聞いていたがガスバルが、自分の冒険者プレートを見せていた。


「私は黄色冒険者のガスバル・ギー・バラチェ、こちらの商人さんの護衛任務を受けている。そしてバルギット帝国では男爵位を拝命しておる。我が爵位に誓って、こちらの商人さんは本物だと証明しよう」


 貴族が自分の名誉に誓うと言う事は、この世界でも重い意味を持っているようだ。


 目の前の隊長は、それ以上質問することは無かった。


「分かりました。どうやら本物のようですね。実はドリクの町から怪盗三色が貴方達に成りすましたと連絡があったのです」


 怪盗三色と言えば、サン・ケノアノールの禁書庫から歴史書を盗んでいった連中だ。


 この国に居るのなら、ジゼルを救出した後で歴史書を取り返すというのも有りか。


「不安がらせてすまないな。リンナの町にようこそ」

「ありがとうございます」


 この町には馬車止まりという場所があり、泊り客じゃない商人はそこに馬車を止め、街中で買い物をするようになっていた。


 先を急ぐ俺たちも馬車止まりに馬車を置くと、昼食を兼ねて情報を集める事にした。


 そして入った食堂は昼食時だったので、結構賑わっていた。


 俺たちが入口で空席を探していると、給仕をしていた獣人が俺達の所にやって来てペコリと一礼すると、空いている席に案内してくれた。


「こちらにどうぞ」


 愛想が良くないのは、首にある隷属の首輪のせいだろう。


 この店の昼食は、焼肉か野菜スープのセットを選ぶようになっていた。


 注文をして周りの様子を見ると、客は半分が商人で残りは地元民のようだ。


 そして客達の会話を、性能の良い耳が拾っていた。


「そういえばこの後、中央広場で公開処刑があるんだよな」

「ああ、何でも例の盗賊団の獣人らしいぞ」

「いつも街道でびくびくしながら通っているからな。これは良い気晴らしになるな」

「それなら、お前も石投げに参加したらどうだ?」

「え、そんな事出来るのか?」

「ああ、自由参加らしいぜ」


 その会話は同じように耳が良いオーバンも聞こえているはずで、擬態魔法の上からでもその顔が暗く沈んでいるのが分かった。


 やはり同胞を見殺しにするのは嫌なのだろう。


 俺もあの石打ちの刑には、思うところがあった。


 だが、優先すべき事はジゼルの救出なのだ。


 昼食を終えて店の外に出ると、裏路地の露店巡りをしながら情報を集めることにした。


 露店の主人に話しかけながらそれとなく道の事を訊いてみると、暫く北に走った後で道が分岐している事を教えて貰った。


 マランカの町は、その分岐の道を左側に曲がるようだ。


 道順が分かったので、馬車に戻ろうと路地の角を曲がったところで突然現れた何かとぶつかった。


 ぶつかった相手はローブですっぽりと体を覆いフードで顔が分からないようにしていたが、倒れた拍子でフードが外れ、その頭の上に獣耳があるのが露になっていた。


「あっ」


 獣人は慌てて耳を隠すと、こちらを睨み付けてきた。


「見たな。ニンゲン」


 そういうと隠し持っていた短剣を抜いて襲い掛かって来たが、オーバンがその手首を掴んでいた。


 少女は、オーバンの拘束がびくともしないので諦めたようだ。


「畜生、殺せ」


 そう言って睨み付けてくるのだが、どう見ても小さな女の子なので迫力不足だった。


「私は人間じゃないわ」


 そう言って擬態を解除して人間種ではありえない長く尖った耳をみせてやると、獣人の少女は驚いた顔になっていた。


「ニンゲン、じゃない?」

「ええ、見た通り私はエルフよ。それに貴女を捕まえているのは豹獣人よ」


 擬態魔法を解除したオーバンも自分の姿が見えるように位置をずらしたので、少女もその顔を見ることが出来たようだ。


 するとそれまで毛を逆立てていた少女は、大人しくなっていた。


 そして突然俺に縋り付いてきた。


「お願い。お兄ちゃんを助けて」


 その瞳を涙で一杯にして懇願する姿を見てしまうと、なんというか、庇護欲がそそられるというか何とかしてあげたいという気持ちが湧き上がってくるのだが、こちらも急ぐ身なのだ。


 断ろうとしたのだが、俺の口から零れた言葉は違っていた。


「えっと、説明してくれるかな?」


 それを聞いたベルグランドが「あちゃ~」という仕草をしていた。


 仕方が無いだろう。


 この状況で泣いている少女を平気で突き放せというのか?


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