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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第8章 行商人マリカ・サンティ
206/417

8―10 イバン・アリセアの災難

 

 アリセアは意識が戻ると、自分が牢の中に居ることに気が付いた。


 そして女の残り香に気が付き、匂いの元を探るとそれが自分の服だと分かった。


 それはあの女商人の服だった。


 そして直ぐに女を逃がした事に気が付くと、外の者を呼ぶため声を上げた。


「おい、誰か居ないか?」


 すると牢番達がいやらしい笑みを浮かべてやって来た。


 そこで牢番達が、俺が女物の服を着ているので誤解していると気付き、直ぐに訂正した。


「待て、俺はイバン・アリセアだ」


 だが、牢番達はお互いに顔を見合わせてから笑い出していた。


「ちょっと早いが別にいいだろう。なあ、お前達」

「「おお」」


 牢番達が俺の顔を見て何故そんな事を言うのか、さっぱり分からなかった。


「おい、ふざけるな。俺の顔を見れば分かるだろう?」


 だが、牢番達は一瞬呆けたが直ぐに腹を抱えて笑い出した。


「俺たちと楽しんだ後で気がふれたのもいたが、楽しむ前から気がふれたのはお前が初めてだぞ。まあ、その方が面倒が無くていいがな」


 そう言って鍵を開けて入って来た牢番達に何とか事情を説明しようとしたが、牢番達はいやらしい笑みを浮かべるだけでまるで取り合わなかった。


 牢番達がどうして俺の事を認識しないのか分からなかったが、身の危険を感じたアリセアは、何とか牢番達の間をすり抜けて外に出ようとして服を掴まれ強引に引っ張られるとその場にあおむけに倒された。


「おおっと、逃げられると思うなよ」


 そう言って牢番達は手足を掴み動けないようにすると、俺の服を脱がし始めた。


「止めろ、服を脱がすな」


 だが、既に盛りの付いた牢番達が止まることはなかった。


 牢番達が動きを止めたのは、暴れるアリセアからズボンを引きずり下ろし露になった股間に女ではありえない物を見つけた時だった。


「うわっ、なんだ、これ?」

「女装した男?」


 そこで牢番達はやっと俺が言った言葉を理解してきたようだった。


 恐る恐るといった感じで1人の牢番が、皆の疑問を口にしていた。


「まさか、本当にイバン・アリセア様で?」

「だから、最初からそう言っているだろう。いい加減その手を放せ」


 牢番達は戸惑った顔で力を緩めたが、その内の1人がそれを制した。


「待て。顔を見ろ、どう見てもあの女商人の顔だろう」

「なんだと?」


 アリセアはようやく何が問題なのかに気が付くと、慌てて自分の顔を触ってみた。


「え? それじゃあ、出て行ったイバン・アリセア様が、あの女だったんですかい?」


 俺に化けて出て行っただと?


 そこで王国を騒がせる3人組の怪盗の事を思い出した。


 確かその中の1人白猫は、変装の名人なのだ。


 イバン・アリセアは、自分がコケにされたことに頭に血が上っていた。


 畜生、よくもこの俺に恥をかかせてくれたな。


「あの女は怪盗三色だ」

「え? じゃあ、あの怪盗がこの町に現れたんで?」

「詮索は後だ。外に出る門を閉じて、出来るだけ多くの兵を集めろ。あいつらが宿泊している宿を急襲するぞ。こんな失態が伯爵様に知れたら俺たちはお終いだ、急げ」

「へ、へい、分かりました」

「いや、待て、その前にまずは男物の服を持ってこい」


 +++++


 領主の館を出て裏路地に入り、周りに人が居ないことを確かめてから、擬態魔法で元のマリカ・サンティの顔に戻した。


 あの男が気絶した後、服を取り換え、顔を擬態魔法で交換するとイバン・アリセアとして館を出てきたのだ。


 そしてあの男には俺の服を着せて、顔を擬態魔法でマリカ・サンティにしてきたので、暫く時間を稼ぐ事が出来るだろう。


 そして宿に戻ってくると、グラファイトとインジウムがいる場所に向かった。


「グラファイト、インジウム、様子はどう?」


 俺が声を掛けると、2人は馬車に荷台から降りてくると俺の前までやって来た。


「大姐様、何度か賊がやって来ましたが、それだけです」

「ちょっとグラ、先に言わないでよ。お姉さまぁ、何か変な偉そうなのが何回か来ましたけどぉ、小指の先でちょと小突いてやると、悲鳴を上げて逃げていきましたよぅ」


 やっぱりあの領主の手下が何回かやって来て、この2人にボコボコにされたようだ。


「2人ともご苦労様。引き続き警戒をお願いね」

「はい、分かりました」

「はあぃ」


 それから宿に入り、階段を上り借りている部屋に戻ると、そこにはガスバルとベルグランドが待っていた。


「ガーネット卿、お帰りなさいませ。あれ、服装が違いますね」

「女ボス、お帰りなさい。ほんとだ、それは女ボスの趣味ですかい?」


 館から脱出する時に顔だけでは疑念を持たれると思ったので、男の服と交換していたのだ。


 まあ他人の服を着るのは気持ち悪いので、しっかりと洗浄と乾燥の魔法はかけてあるけどね。


「領主の館から脱出するのに必要だっただけよ。ベルグランド、男の家は分かったの?」

「ええ、勿論です。それで知らせに戻りました。先輩は引き続き男の家を見張っています」


 時間稼ぎは朝までは持たないだろうな。


「今晩のうちに宿を引き払うわよ」

「え、作戦は中止ですか?」

「いいえ、オーバンは現地で拾います。もたもたしてると、捕縛隊がやってくるのよ」

「では、やはり領主との間で何かあったんですね?」

「流石は女ボス、行く先々で喧嘩を吹っかけては、相手の自尊心をズタズタにしますよね」


 おい、こら、人を歩く迷惑みたいに言うな。


「ん、ベルグランド、ひょっとして貴方?」

「ああ、言わなくていいです。あの時の罠は結構自信があったんですぜ」

「そうなの、それは悪かったわね」

「でも、初めてでしたよ。トラバサミを踏み砕かれたのは」


 ああ、確かにそんな事もあったな。


「それでは一足先にオーバン殿の所に行っています。後で迎えに来てくださいね」

「ええ、分かったわ」


 ガスバルが出て行った後で、ベルグランドに出発の準備を命じた。


「分かりました。それじゃちょっと次の町までの必要物資を調達してきますんで、少し待っていてください」

「ええ、お願いね」


 全員出て行ったところで、俺は着替えを済ませ不要となった男の服をゴミ箱に放り投げると、荷物を纏め馬車の中に入れた。


 そしてようやくベルグランドが戻って来た頃には、外はすっかり暗くなっていた。


「遅くなりました」

「遅い」

「これでも大急ぎで準備を整えたんですよ、そんなはっきり言わなくてもいいじゃないですか」


 食料品等が入っていると思われるずた袋を肩から降ろすと、ベルグランドはそう不平を口にしていた。


「ああ、遅いと言ったのは、あれよ」


 俺が窓の外を指さしてそう言うと、ベルグランドが俺の傍にやって来て窓から外を見た。


「火の行列がこっちに向かって来ますね」

「ええ、私達を捕まえる捕縛隊よ」

「え? ああ、本当だったんですか」


 こいつ俺の言ったことを全然信じてなかったな。


「ベルグランド、これでここの扉を開けたら爆発する罠を作って」


 そう言ってスリングショット用の白色の弾を渡した。


「これは?」

「衝撃を与えると破裂して強烈な閃光を発生させるのよ。しばらくの間目が見えなくなるから足止めになるわ」

「へえ、面白い物をお持ちで」


 ベルグランドは閃光弾を受け取ると、自分の専門分野とあってとても楽しそうに作業していた。


「出来ましたぜ。ですが、これじゃ俺達も外に出られませんが、これからどうするんで?」

「夜陰に乗じて窓から脱出するわ」

「え、でも、外は松明を持った連中が取り囲んでますが?」

「貴方、暗視は出来るわね。部屋の明かりを消して」

「はい、分かりました」


 そして真っ暗になった部屋の中で右の踵を窓枠に上に置き、足首にあるスリングショットを取るため膝を曲げて前かがみになると、スカートの裾がするりと下がり太ももまで露になっていた。


「女ボス、暗闇でもそのあられもない姿はしっかり見えてますぜ。いえ、俺に取っちゃあ、とってもそそる姿なんで眼福ですがね」

「だったら、黙って見て見ぬふりをしていなさい」


 そして足首のベルトからスリングショットを取り外すと、外の松明に向けて青色の弾を撃ち込んでいった。


 +++++


 アリセアは、集めた兵達と一緒に女が宿泊している宿の入口までやって来た。


 そこで宿を見上げて、女が宿泊している部屋に明かりがついている事を確かめた。


「アリセア様、本当に怪盗三色なんで?」

「荷馬車を守っていたのはどんな奴だ?」


 そう尋ねると、顔に青あざを作った男はちょっと考えた後で答えた。


「え、確か黄色い女だったような?」

「いや、黒い男だろう?」


 他の男がそう否定していた。


「奴らは変装の名人だ。おそらくそいつは剛腕の赤熊で間違いないだろう。これでおかしな道具を使ってきたら黒犬も此処に居る事になる。気を抜くなよ」


 そう話していると突然、包囲している兵達の間から悲鳴が上がり、松明が次々と消えて行った。


「なんだ? 何が起こった?」

「突然水が降ってきて皆びしょぬれになってます」

「くそ、やはり黒犬も居るのか」


 そう言った途端、アリセアの全身を冷水が襲い掛かり、隣の部下が持っていた松明が消えて、周囲が暗闇に閉ざされた。


 くそ、もたもたしていると、取り逃がしかねないぞ。


「お前達突入するぞ。付いて来い」

「「「はっ」」」


 僅かな明かりを頼りに宿に突入すると、びっしょり濡れて重たくなった服に足を取られながらも階段を駆け上がり、目的の部屋の前までやって来た。


「はあ、はあ、くそ、俺にこんな思いをさせたんだ、泣きながら命乞いをさせてやる」


 白猫に加え、黒犬にも馬鹿にされて完全に頭に血が上っていたが、同時に賊を捕まえた時の自分が受ける称賛と褒美の額も冷静に計算していた。


 否が応でも気合が入り、部下達を一喝した。


「お前達、賊を捕まえたら褒章は思いのままだぞ。気合を入れろ。強硬突入だ。扉をぶち破れ」

「「「おお」」」


 そう言って複数の部下が扉に体当たりしてぶち破ると、雪崩を打って部屋の中に入った。


 その瞬間。


 部屋一杯に広がった眩しい光に、何も見えなくなっていた。


評価ありがとうございます。

新年あけましておめでとうございます。

皆様に幸多い1年でありますよう願っております。

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