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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第8章 行商人マリカ・サンティ
205/416

8―9 強欲な男

 

 オーバンとベルグランドが奴隷商館の見張りに出て行ったので、2人が戻って来るまですることが無かった俺は、ガスバルと一緒に商業ギルドに行ってみる事にした。


 目的はこの町での商売ではなく、近隣の町に関する情報を得る事だった。


 商業ギルドは町のメインストリートにあった。


 大きな正面扉を抜けて中に入ると、そこには広い空間があり、正面には受付用のカウンター、右側には商談用のブース、左側には各種商品の取引価格を示すボードがあった。


 商談をする訳ではないので、ボードの傍にいた担当者に声を掛けてみた。


「すみません。近隣の町に関する情報が欲しいのですが」

「貴女は?」

「あ、失礼しました。行商人のマリカ・サンティです」


 俺が名乗るとその担当者は、途端に目を怒らせると大声を上げた。


「マリカ・サンティだと。何故、もっと早く来ないんだ?」


 突然目の前の男から予想外の事を訊かれたので、思わず理由を口にしてしまった。


「え、だって、この町で商売しないから」


 それを聞いた男は目を見開いて驚くと、俺に手首を掴んできた。


「それは困る。今すぐ私と一緒に領主様の所に出頭するんだ」


 え、なんで?


「ちょ、ちょっと待ってください。どうして私が領主様の所に行かなければならないのです?」

「町に入る時に聞かされただろう?」


 聞かされたのは、この町で商売する時は事前に商業ギルドに申請して、見本品を提出するようにと言う事で、領主に会えとは言われていませんよ。


「ええ、ですが、領主様に会えなんて言われていませんが?」


 そんなやり取りをしていると、俺たちの会話を聞いていた周りの男達が俺たちの周りに集まりだして来た。


「何だ、何だ、何が起こったんだ?」

「あの女は誰だ?」

「誰か領主様を怒らせたのか?」


 周りの者達がこちらに注目しているので、現代日本であれば、ここで騒げば外見上はか弱い女性の外見の俺よりこの男の方が悪者になるが、どうも周りの連中の言っている言葉を聞くと俺の方が不審者と思われているようだ。


 これは、まず先にこの男の正体を確かめる方が先だな。


「ちょっと待ってください。貴方は誰なのですか?」

「私はイバン・アリセア、アルマンサ伯爵家の者だ」


 アルマンサ伯爵というのが、この町の領主の名前らしい。


 成程、領主家の関係者か、これではここで揉めても周りの連中が味方をしてくれそうもないか。


 仕方が無い、ここで揉めてこちらの作戦に影響しても困るので、大人しく付いていくか。


「分かりました。指示に従いますから手を放してください。ガスバルさん、貴方は先に宿に戻ってください」

「え、1人で大丈夫ですか?」

「挨拶だけだろうから問題ないでしょう」


 俺は心配するガスバルに手を振ると、それよりもあの男から情報を入手する方が重要だと告げた。



 アルマンサ伯爵の館はメインストリートの先にあった。


 アリセアは、正門で警備している警備兵と笑顔で挨拶を交わしているので、この男が伯爵家の者というのは確かなようだ。


 そして館に入り案内された部屋に入ると、そこは広い部屋で正面に一段高くなった床の上に玉座のような豪華な装飾を施した椅子があった。


 そしてそこにはふんぞり返り、片膝をついてこちらを見る男が座っていた。


 俺がその男を見ると突然膝カックンをされ頭を押さえつけられたので、その場で跪いていた。


 それは隣に居たイバン・アリセアがやったことだった。


 強制的に跪かれた俺に、椅子に座った男が話しかけてきた。


「私の領地にやって来た商人は、真っ先に挨拶をしに来るものだがな」


 その声はとても冷たく、怒りを抑えているような感じだった。


 俺が黙っていると、その男はいらだっているようだった。


「まあ、いい。お前が持ち込んだ商品は何処で仕入れて来たのだ?」


 本来商人にとって仕入先情報というのは、飯のタネなので教えないはずだ。


 だがパルラ辺境伯の立場なら販売先が増えるのは大いに歓迎なのだが、この世界では領主という立場の人間にホイホイ仕入先の情報を教えるものなのか分からなかった。


 なので、ちょっとぼかしてみる事にした。


「えっと、かなり東方の地から仕入れた物です」


 だが、領主はどうもそれが気に入らないようだった。


「そうか、話したくないか。なら、お前の商品を全て俺が買い取ってやろう。ありがたく思うんだな」


 いや、それは困るんだが。


「あの」

「なんだ?」

「王国に持ち込みました商品は王都まで持っていく品ですので、それは困るのですが」


 俺がそうはったりを言うと男は眉根を寄せたが、聞こえなかった風を装っていた。


「おい、そいつに代金を払ってやれ」

「はっ、畏まりました」


 そう言って文官の服装をした男が俺の元にやってくると、チャリンと音がしたので、その方向を見るとそこには小金貨が1枚転がっていた。


 どうやらこれが代金らしい。


 公国では小金貨1枚は1万ルシアだ。


 ダラムの商業ギルドに持ち込んだ時は、ミード酒5樽、魔素水5樽に甘味大根1樽で12万ルシアだった事を考えると、とてつもなく安く買い叩かれているんじゃないのか?


 それとも王国の物価は、こんなにも違うのか?


 俺はその小金貨に触れずに目の前の男を見た。


「申し訳ございませんが、私の商品を待っている方達が居るので、お売りできません」


 だが、目の前の男は俺が言った言葉を聞く気が無いないようだ。


「早く受け取れ、それともただで献上してくれるのか?」


 どうやら選択肢はタダで商品を強奪されるか、小金貨1枚で売らされるかの2択しかないようだ。


 だが。


「お断りします」


 俺がそう言うと目の前の男は一瞬睨みつけた後、ニヤリと口角を上げた。


「ああ、言っていなかったが、お前達の宿の場所は分かっている。今頃は部下達がお前達の荷馬車を差し押さえている頃合いだ」


 男がそう言ったところで扉が開き、顔に青あざを作った男が転がり込んできた。


 そのボロボロな姿と、先程目の前の男が言った言葉を加味すると、俺達が宿泊している宿を見つけ出し、裏の馬車置き場から荷馬車を盗もうとしてグラファイトとインジウムにボコボコにされたのだろうと予想できた。


 青あざの男が領主の後ろに近寄ると、そっと何かを耳打ちしていた。


 すると椅子にふんぞり返った男の余裕そうな顔が、見る見るうちに憤怒の顔に変わっていった。


 そして椅子から立ち上がると俺を指さした。


「おい、そこの女を捕えよ」


 どうやら俺の予想は大当たりだったようだ。


 ここで暴れると後々面倒になりそうだったので、大人しく捕まる事にした。



 俺はイバン・アリセアに引っ立てられて、館の地下にある牢の中に放り込まれた。


 暫く牢の中に居ると、先程のイバン・アリセアがやって来た。


「おい、こっちに来い」


 何だろうと立ち上がり男が立っている傍まで歩いていくと、男は書類を掲げた。


 その書類には、今回持ち込んだ商品を領主様への献上品とするという内容が書かれていた。


 どうやら積み荷を取られるのは決定したようだ。


「ここから出して欲しかったら、さっさとこの書類にサインして、商品をここに持って来い。それと仕入先も教えて貰おうか」


 この書類は俺から荷物を強奪する事を合法化するものだな。


 そしてグラファイトとインジウムから荷物を強奪できないから、大人しくもって来いと。


「お断りします」


 俺がそうきっぱり拒否すると、イバン・アリセアが怒り出した。


「お前、自分の立場が分かっていないようだな。まあ、いいだろう今晩牢番達にたっぷり可愛がってもらった後なら、考えも変わるだろうさ。がははは」


 ああ、そういう事ですか。


「屑の部下もやっぱり屑と言う事ね」


 俺がそう言った途端、男は激高した。


「なんだと、平民のくせに伯爵様を侮辱するとはいい度胸だな。いいだろう、そんなに教育されたいのなら、今すぐそうしてやる」


 そういうとイバン・アリセアは、壁にかかっていた警棒を手に取ると鍵を開けて牢の中に入って来た。


「自分からサインさせてくださいと言わせてやる」


 どうやら俺が唯の非力な女だと思って油断しているようだ。


 イバン・アリセアが警棒を振り上げたところで、魔法を発動した。


「微弱雷」

「ふぎゃぁ」


 藍色の魔法陣から現れた電撃を受けた男は、体が痙攣してその場に倒れた。


 +++++


 アルマンサ伯爵館の地下にある牢の牢番は、アリセア様が連れて来た女を牢の中に放り込んだのを見ていた。


 女は美人ではないが、その長い金髪はとても綺麗だった。


 肌を露出しない旅装だったので、体付きまでは見て取れなかったが、女が通った後の残り香は森林を思わせるとても爽やかな香りがした。


 そして、そんな香りを漂わせる女に興味が湧いてきたが、直ぐに解放されるだろうと思うととても残念だった。


 伯爵は時折、気に入った商品を持ち込んだ商人を牢に閉じ込めて、商品を寄贈するという書類にサインさせてから放り出す事をするのだ。


 牢番である俺たちの楽しみは、商人がサインを拒み牢に一泊する時に訪れる。


 牢に一泊する商人は、朝、サインをさせるための教育と言う名の暴行を行うのだ。


 それが女なら、その暴行も性的なものになるのでとても楽しみなのだ。


 牢の扉が閉まり鍵がかかる音が聞こえ、その後、足音が1階に上がっていくのを聞いていたが、牢番はその足音が1つしかない事に気が付いた。


 こっそりと牢を覗くとそこには横たわっている女の姿があった。


 それを見た途端牢番は舌なめずりをした。


 一泊するのが女なのは随分久しぶりだ。


 今晩は素晴らしい夜になりそうだ。


ブックマーク登録ありがとうございます。

年内更新はこれで最後となります。皆さま良いお年を。


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