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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第8章 行商人マリカ・サンティ
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8―8 ジゼルの行方

 

 オーバン達と別れた俺達は、宿の受付係に教えて貰ったとおりマルシェを横切ると1本裏の道に入って行った。


 その通りはマルシェがある華やかな通りとは裏腹に、薄暗く人通りも殆ど無かった。


 そして僅かに姿を現す人影も、フードを深く被り目を合わせないようにしながら、さっと通り過ぎて行った。


「想像以上にやばそうな雰囲気ね」


 俺がそうガスバルに話しかけると、ガスバルは手に持った魔宝石を嵌めた杖を握り直した。


「商人殿、私が居れば問題ありませんよ」


 俺の強さを知っているガスバルが、まるでか弱い女性を守るかのように周囲を警戒している姿を見て、ちょっとおかしくなっていた。


 だが、ガスバルのその真剣な態度を笑ってはいけないのだ。


「ええ、魔法使いさん、とっても頼もしいですよ」


 そして周囲を警戒しながら歩いていると、ようやく扉を守る人間が居る館に辿り着いた。


「どうやら、此処のようね」

「そのようですね」


 ガスバルも、正面入り口の様子を見ながら同意してきた。


 俺達が敷地内に入り門番が居るところまで来ると、誰何の声がかかった。


「どちら様で?」

「私は商人のマリカ・サンティよ。此処で奴隷を売ってもらえると宿の受付に聞いたのだけれど、入れてくれるかしら?」


 俺がそう言うと2人の門番はこちらをじろじろ見た後、何やら頷くと扉を開けてくれた。


「中に担当者が居ますので、そいつに声を掛けて下さい」

「ありがとう」


 館の中に入ると目の前には壁があり、中の様子を窺い知る事が出来なかった。


 さてどうしようかと考えていると、直ぐに壁の一部が開きそこから貧相な体付きの男が現れた。


「いらっしゃいませ。どのような奴隷をお求めで?」


 怪しげな笑顔でそう話しかける男に何て言おうかと悩んでいると、ガスバルが声を掛けた。


「こちらの商人さんは、奴隷を買うのが初めてだ。ちょっと商品を見せて貰えないか?」

「はい、分かりました。ではこちらにどうぞ」


 そう言って男は、壁を横に歩くとその奥にある扉を開いた。


 その扉の中には檻が3つあり、1つにはガタイの良い雄の獣人が、2つ目には貧相だが賢そうな獣人、そして3つ目には雌の獣人が入れられていた。


「これは護衛用、その奥が雑用そして雌の檻は慰み用です」


 その最後の言葉を聞いて俺が何か反応したと勘違いした男は、慌てて言葉を続けていた。


「おっと、最後のは不要でしたね。失礼しました」


 檻の中は客が見る事を想定しているのか牢屋のような不潔さはなく、綺麗に掃除された場所には横になれる簡易ベッドも設置されていた。


 中に入れられている獣人も健康状態は良いようで、直ぐ持ち帰って仕事を命じられる状態だった。


「どうです? 気に入ったのは居ましたか?」


 そこで俺はちょっと悩んだふりをして時間を稼ぎながら、何とかこの男から有益な情報を引き出す方法は無いかと考えていた。


 そして良い案を思いついた。

 

「此処には魔眼持ちは居ないのですか?」


 俺がそう言うと、男の顔から笑顔が消えた。


 あれ、これは不味いやつなのでは?


「どうしてそんな事を知っているんで?」


 急に男の声が、低く脅すような口調に変わっていた。


「前に一度高貴なお得意様から聞いたのよ。獣人の中には魔眼持ちが居るってね。此処では取り扱ってないのですか?」


 俺がそう説明すると、途端に男の顔から疑念の色が消えていた。


 そして男は俺の方に顔を近づけると、そっと耳元で囁いた。


「此処だけの話なのですが、獣人を飼育、販売している男に伝手があります。此処から南西にあるレッチェ渓谷という場所です」


 +++++


 ジゼルは意識が戻ってくると、自分が何処か狭い場所に閉じ込められていることに気が付いた。


 そして自分の首に違和感がある事にも。


 パルラに戻って来た翌日、朝起きた時ユニスと過ごす部屋の模様替えをして驚かせようと、材料集めの為館を出たのだ。


 そして街中を歩いていると目の前に馬車が止まり、そこから人が降りて来て道を聞かれた。


 その男に道を教えていると、後ろに人の気配を感じて振り返ろうとしたが突然意識を失ったのだ。


 意識を集中して周りの様子を窺うと、道を動く振動が体に伝わってくるので移動しているのは分かった。


 やがて体に伝わる振動が止まると、こちらに近づく足音が聞こえて来た。


 すると突然体が横倒しになり、そのまま体が回転したのだ。


 外から聞こえる音と考え合わせると、私は樽の中に入れられてゴロゴロと転がされているようだった。


 そして目が回りそうになったところで止まると、頭上でこつんと音がして、そこから外気が流れ込んできた。


「おい、出てこい」


 その言葉に従わないでいると突然首が締まり息が詰まるとともに、体中に痛みが走った。


 これは前にも経験があった。


 隷属の首輪に従わなかった時だ。


 恐る恐るそこから顔を出すと、そこには見知らぬ男達が居て周りも知らない場所だった。


「貴方達は一体誰ですか? それにここは一体何処ですか?」


 だが私の質問に誰も答えてはくれなかった。


 すると扉が開き、誰かが入って来た。


 その横に大きな体に赤い髪、それに派手な服を見て、何かが脳裏に蘇った。


「貴方は野営した時の」

「ああ、覚えていたか。あの時は行商人と名乗ったが、本職は奴隷商人だよ」

「奴隷・・・私を今すぐ解放しなさい。私にこんなことをしてユニスが黙っていると思って」


 そこまで言ったところで太い腕が目の前に現れ、後ろに吹き飛ばされた。


 頬を張り飛ばされた痛みに耐えながら、男を睨み付けた。


 男はそれが気に入らないようで、今後は足を踏みつけられた。


「うっ」


 思わず足を抑えると、髪の毛を掴まれて無理やり上を向かされた。


「奴隷は従順であればいい。その生意気な口がきけないくらい躾が必要だな。お前は商品という子供を産むだけの唯の道具だ。手足を潰してダルマにしてやってもいいんだぞ」


 男はそういうと今度は左手の甲を踏みつけた。


「うっ」

「魔眼持ちの雌が死んだおかげで、出荷が止まって困ってたんだ」


 そういうと今度は左足を踏みつけられた。


「あうっ」

「魔眼持ちは貴重な資産だからな。出荷先で魔眼が発現した個体を探していたんだ。そしたらどうだ? ロヴァルの辺境伯から不良品だとさんざん文句を言われていたから、まさか魔眼を発現していたとは思わなかったよ」


 男はそういうと今度は右足を踏みつけてきた。


 あまりの痛みに気を失いそうになったところで、暴行を止めた男は私に最後の希望を潰してきた。


「良い事を教えてやろう。お前を取り戻そうと追ってきたとしても、間違った情報で死地に向かうことになる。仮にその罠を破ったとしても、「ぶまく」だか「ぶまっく」だかと名乗るおかしな連中に情報が流れるようにしておいたから、お前を助けに来た連中はそいつらが始末してくれるだろう。お前に希望など無いのだ。ぶははは」


 ジゼルはそう言ってこちらを見下してくる男の顔を、悔しそうにじっと見つめ返した。


 +++++


「気に入らない」


 俺のその一言に周りに集まった3人は、ビクリと反応していた。


 昨日オーバン達と別れて訪れた奴隷商人の館では、収穫があった。


 だが、あまりにも簡単に手に入った情報に胡散臭さを感じていたのだ。


 それを聞いたオーバンが恐る恐るといった感じで、聞き返して来た。


「何がお気に召されなかったのでしょうか?」


 俺はオーバンの顔をじっと見つめた。


「簡単に情報が手に入り過ぎ。罠の匂いがプンプンするわ。貴方達の方は何も情報が無かったのでしょう?」

「はい、申し訳ございません」


 俺は謝るオーバンに首を振った。


「いえ、そう簡単に有益な情報が得られるとは思えないのだから、謝る事は無いわ。それにしてもあの男、何か知っているんじゃないかしら?」

「それじゃあ、私があの男に自白の魔法をかけてみましょうか?」


 俺が何か手は無いかと考えていると、ガスバルが呆気なく解決策を提案してきた。


「そんな便利な魔法があるのですか?」

「ええ、私は黄色魔法使いですからね。当然です」


 つまり、黄色魔法の中に自白という魔法があるという事か。


 後は、どうやって相手に気付かれずに魔法をかけるかだ。


 下手に攫ったりすると敵に警戒されてしまうので、こっそりとやる必要があるのだ。


「オーバン、奴隷商会を見張って商会の男の家を突き止めてくれる。深夜寝静まった後にそいつの家に忍び込んで、ガスバルに自白の魔法をかけてもらいましょう」

「畏まりました」


 方針が決まったところでベルグランドやって来て、手に水が入った木製ジョッキを俺に差し出して来た。


「そろそろ喉が渇いたのではないですか? これをどうぞ、女ボス」

「あら、気が利くわね」


 そう言って俺が差し出されたジョッキを手に取ろうとすると、突然立ち上がったオーバンが俺の手からジョッキを弾き飛ばした。


「ちょっとオーバン、何事なの?」

「すみません。ユニス様、手が滑りました」


 オーバンはそう言って俺に謝罪すると、射殺しそういな鋭い視線をベルグランドに投げていたが、ベルグランドはそれをどこ吹く風といった風に受け流していた。


 あの2人に間で何かあったのだろうか?


 +++++


 ドリクの町の領主イケル・ビオ・アルマンサは、商業ギルドから報告にやって来た男を見下していた。


 おかしいじゃないか。


 商人というのは儲けるため、仕入れた品は直ぐに硬貨に変えるか、他の商品に交換するものではないのか?


 この町にやって来たあの女商人は、宿を探すよりも先に商業ギルドに顔を出すはずだろう?


 それが何故来ない?


「おい、街中を捜索しろ。ゴーレムの馬なんて滅多にお目にかかれるものじゃない。泊っている宿なら直ぐに分かるだろう」

「はっ、畏まりました」


 全く、手間を掛けさせてくれる。


 この俺にこれだけ手間を掛けさせたんだ。


 この手間賃分もしっかり検査用として徴収してやらないとな。ぐふふふ。


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