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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第8章 行商人マリカ・サンティ
203/416

8―7 国境の町

 

 ハンゼルカ伯国を出発した俺達は、一路ルフラント王国目指してアイテール大教国の国内を西に進んでいた。


 馬車隊の1台目は俺やオーバン、それにガスバルとベルグランドが乗る旅客用の馬車をインジウムが、2台目は商人に偽装するための交易品を載せた荷馬車をグラファイトがそれぞれ運転していた。


 先を急ぐ俺達は町には泊まらず、野営しながらゴーレム馬の能力を最大限生かして西進していたが、流石に食料等の消耗品は消費するので、途中、ロヴェーラという町に立ち寄って物資の補給をしていた。


 ロヴェーラと言う町では広場でなにやら集会が行われ、時折観衆から歓声が上がっていたが、何を言っているかまでは聞き取れなかった。



 そしてようやく王国の国境に辿り着いたのだ。


 王国の最初の町はドリクというらしい。


 町の東門では、王国入りする人達が門で警備兵の検分を受けていた。


 そして俺達の順番が回ってくると、オーバンが対応してくれた。


 これはインジウムもガスバルもどうも不安だったので、オーバンにお願いしたのだ。


「お前達、商人か? なら、交易免許証は持っているな?」

「はい、これでございます」


 馬車の中に聞こえてくる声を聞いていると、オーバンが事前に渡しておいた交易許可証を門番に見せているようだ。


 ここまで聞いている限りだと、オーバンに応対させたのは正解だったようだ。


「良し、それでは商品を見せてみよ」


 こう言われてしまうと自分で応対した方が良さそうだと、馬車から降りて門番に挨拶した。


「私が商人のマリカ・サンティです。それでは私がご案内いたします」

「ほう、女の商人か。私はドリクの町で商人達の積み荷を調べる検査官だ。では、商品の説明をしてもらおうか」


 そして積み荷の商品を説明していくと、検査官はそれを手元のクリップボードに丁寧に書き込んでいった。


 それはまさに通関手続きをしているように見えた。


 そして積み荷のチェックが終わり、手に持ったクリップボードへの書き込みが済んだ検査官が顔を上げると、真っすぐこちらを見て来た。


「ドリクで商売をする前に商業ギルドに寄って商売の許可を取るように、それと販売する商品の見本品を事前に提供するのだ」

「見本品、ですか?」

「ああ、しかと申し伝えたぞ」

「あ、はい、分かりました」


 まあ、この町での目的はムルシアという男がどの方角に向かったかという情報なので、特に商売をするつもりは無いけどね。


 ドリクの町に入り、最初に行ったのは宿探しだ。


 ドリクの町は国境の町と言うこともあり、伯国からやってくる商人や巡礼に教国に向かうディース教徒等で賑わっていて、手頃な値段の宿は既に満室になっていた。


 残る宿は貴族や裕福な商人が使う高級宿と、それ以外が使う素泊まり専門の木賃宿と言うことになる。


「奴隷商人の情報を持っていそうな連中が泊まる宿かぁ?」


 俺のその独り言に反応したのはガスバルだった。


「なら当然高級宿でしょう。奴隷を買うような連中は金持ちに決まっていますからな」

「いえ、奴隷を買うのは現地の奴隷業者からが殆どでしょう。それよりも奴隷を狩る連中が居そうな、場末の宿の方がよろしいのでは?」


 そう反論したのはオーバンだった。


 どちらの意見にも一理あったが、このドリクという町が他国からの玄関口と言うこともあり、奴隷狩りの連中よりも奴隷を買う連中のほうが多いと想定して、高級宿の方を選ぶ事にした。


「どちらの意見にも一理あるけど、ここは高級宿の方にしましょう」


 俺がそう言うと、それまで言い争っていた2人の議論がピタリと止まった。


 そして大きく装飾が施された門前に、2人のこぎれいな制服を着た門番がいる宿が目に付いた。


 ここならそう言った連中が泊まりそうだな。


「此処にするわよ」



 宿に入って受付に行き、部屋を2つ借りて前払いの代金を払うと、愛想の良い受付に声を掛けた。


「ねえ、この町に奴隷が買える場所はあるのかしら?」


 そう言って俺は銀貨を1枚手に取ると、それをそっとカウンターの上に置いた。


 受付はその銀貨と俺の顔を交互に見てから、カウンターの上に置いた銀貨の上に手を置くと、にっこり微笑んだ。


 そして俺の耳元に顔を近づけると、そっと耳打ちしてきた。


「西にあるマルシェの1本奥の路地に奴隷商人の店があります。入口に護衛が立っているので直ぐ分かりますよ」


 部屋割りを終えて宿の食堂に集合すると、今後の事を話し合うことにした。


「私は奴隷商人の館に行ってみるわ」

「それでは私が護衛役を務めましょう」


 そう言ったのはガスバルだった。


 オーバンはそれを不快そうな顔で見つめていたが、何も言わなかった。


「それじゃあ、オーバンとベルグランドはマルシェまでは一緒に行って、そこで分かれて情報収集をするという事でいいわね?」

「はい、分かりました」

「了解。それと、その後酒場とかにも寄るので、帰りは遅くなりますぜ」


 オーバンが頷いた隣で、ベルグランドがそう嬉しそうに言ってきた。


 まさか、遊びに行くんじゃないだろうな?


 でもまあ情報集めの為なので、これはやむを得ない事だとしよう。


 そしてマルシェまで来ると2手に分かれて、俺とガスバルが奴隷商人の館に向かい、オーバンとベルグランドは酒場やマルシェ等で聞き込みをすることになった。


 +++++


 マルシェでユニス様達と別れたオーバンは、ベルグランドを連れてマルシェでの情報収集を始める事にした。


 ユニス様が自分をマルシェでの情報収集に向かわせたのは、奴隷商人の館で同胞の哀れな姿を見せないための気遣いだと気づいていた。


 少しでも情報を集めてユニス様のお役に立たなければと決意を新たにしたところで、にやにや顔の男が俺たちに声を掛けて来た。


「旦那方、旦那方、ちょっと、いいですかい?」

「なんだ?」


 オーバンがぶっきらぼうに返事をしても、男は気にする様子も無く話しを続けていた。


「お連れの女をあの優男に取られたんですかい? なら、ぴったりの物がありますぜ」

「なんだと、一体何を言っているんだ?」

「それは何だ?」


 オーバンが無礼な男を一瞥すると、隣に居たベルグランドが興味を持ったようだ。


「これでさぁ」


 そう言って男が差し出して来たのは、小さな小瓶で中に透明な液体が入っていた。


「これは?」

「媚薬です。これがあれば、寝取られた女を取り戻す事も可能ですぜ」


 それを聞いたオーバンは、途端に腹立たしい気分になっていた。


 だが、隣に居たベルグランドは違うようだった。


「それは本当か? 本当に効くのか?」

「ええ、そりゃもう、イチコロでさぁ」


 ベルグランドのその態度を見て、オーバンは途端に不安になってきた。


「おい、ベ・・・、お前まさか」

「なんですかい、先輩。そんな焦った顔をして?」

「まさか、それをユ・・・サンティさんに使うんじゃないだろうな?」

「ええ、まさか、そんなはずないじゃありませんか」


 そう言って首を横に振っているが、その顔を見るとどうしても不安が払しょくできなかった。


「おい、別の場所に行くぞ」

「え、ちょっと待ってくださいよ、先輩」

「お前、まさかそれ、買うのか?」

「ええ、こんな掘り出し物、買わなかったら後で後悔しますよ」


 男から媚薬を買うとベルグランドは満足そうににやにや顔をしているので、再び不安になって、もう一度問い詰めた。


「おい、絶対にユニス様には使うなよ」

「大丈夫ですって、先輩。でも、あの女ボスがベッドの上ですっぽんぽんになって、こっちに両手を広げ、頬を染めて「こっちに来て」なんて言われたら耐えられますかい?」


 それを聞いたオーバンは、自分の耳が熱くなるのを感じてしまった。


「おい」


 オーバンが叫び、ぶん殴ろうとすると、ベルグランドはひょいと避けて駆けて行った。


「さ、先輩、女ボスを喜ばせたいなら、早いとこ情報を集めましょうぜ」


 オーバンは込み上げてくる不安を抑えながら、先を行くベルグランドの後を追う事にした。


 そうだ、今はこんな奴の事はほっといて、情報を集めなければならないのだ。


 +++++


 ルフラント王国の国境の町ドリクの領主イケル・ビオ・アルマンサは、商人達が大陸東方から持ち込んでくる商品の一部を上納させて私腹を肥やしていた。


 王国と伯国との交易条約はあるが、このドリクでは俺が絶対者なのだから、そんなのは関係ないのだ。


 ただ、あまり横暴な事をすると商人がやって来なくなるので、商人が不満を口にしない程度にしているだけだ。


 今も俺の目の前には伯国からやって来た商人がひれ伏し、伯国から持ち込んだ商品を献上していた。


「この町で商売をしようというのなら、見本品を献上するのは当たり前だな?」

「は、はい、その通りでございます」

「それにしては見本品の量が足りないのではないか?」

「え、あ、それは・・・」

「我が領内で流通する物を検査するのは当たり前であろう? この量でそれが可能と思っているのか?」

「し、失礼いたしました」

「分かれば良いのだ。それでは検査に足る量を持ってくるように」


 そう言って商人を下がらせた。


 やれやれ、初見の商人はこの町でのやり方をきっちり教えてやらなければならないよな。くくく。


 商人が下がると、本日東門を通った商人達の持ち込み品リストが送られてきた。


 アルマンサはリストに目を通しながら、その中の1枚で手を止めた。


「うん、マリカ・サンティ? 女の商人とは珍しいな。それに、なんだこれは、大森林蜂の蜂蜜で作ったミード酒だと? それとこの化粧品とはなんだ? 女性の化粧といえば白粉じゃないのか? それに甘味も持ち込んでいるのか」


 その商品一覧を見て、アルマンサは金の匂いを嗅ぎ取っていた。


「これは是非とも検査をする必要があるな。くくく。おい、商業ギルドに使いを送れ」


 そして使いの者を送り出すと、これから手に入る貴重品の使い道を考えて、にやりと口角を上げるのだった。


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