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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第8章 行商人マリカ・サンティ
201/414

8―5 救出隊出発

 

 俺はティリンの町のオルランディ公爵館で公爵に紹介してもらったノルベルト・トビア・オルランディ次期公爵と面会していた。


 次期公爵は、公都で会った公爵を若くした外見をしており、これぞ血のつながりだなと思わせた。


 そして俺が持ってきた公爵の手紙を読み終えると、それをテーブルの上に置き、こちらを見た。


「父上の手紙には、貴女がパルラ女辺境伯殿だと書いてありますが?」

「ええ、王国に亜人の姿で行くのは無理だと聞きましたので」


 そう言ってから擬態魔法を解除して、元の姿に戻った。


「おお、確かに貴族年鑑に記載されていた通りの金髪にエルフ耳、それにエルフ族とは思えない程凹凸のある体付きですね」


 うん、貴族年鑑にはそんな外見的特徴が記載されているのか?


「それでティローネ商会への紹介を、お願い出来ますか?」

「ええ、父上からも貴女に協力すれば、パルラでのバカンスを楽しめると書いてありますので」


 公爵家とは、そんなに暇を持て余しているのか?


「公爵家ともなればかなりの贅沢が出来ると思うのですが、ティリンには娯楽施設は無いのですか?」

「そんな物領民に見える場所に作ったら、反発して反乱でもされたら大変じゃないですか」


 それは貴族だけが楽しめる施設を作るという事か? それなら民衆に恨まれそうだな。


「ところでパルラには、どのような娯楽があるのですか?」


 そう聞かれたので、魔素水浴場やプールバーの事を説明するとなんだか目を輝かせていた。


 まあ、来た時は貸し切り扱いにしてあげるか。


 そんな話をしていると扉をノックする音が聞こえ、執事が顔を見せた。


「若旦那様、ティローネ商会長がお見えになりました」

「ああ、通してくれ」


 そして入って来たのはほっそりした体形の老人で、顔に刻まれた皺が苦労人を思わせる外見をしていた。


「次期公爵様、お呼びにより参上仕りました」

「ああ、ジェネジオ、こちらに来て掛けてくれ」

「は、それでは失礼いたします」


 そう言って商会長が空いている椅子に腰かけると、次期公爵が紹介してくれた。


「パルラ辺境伯殿、こちらがティローネ商会長のジェネジオ・ティローネ殿です。商会長、こちらがパルラ辺境伯ユニス・アイ・ガーネット殿だ」

「ジェネジオ・ティローネと申します。パルラ辺境伯様、お初にお目にかかります」

「ええ、よろしくお願い致しますね」

「それで私が呼ばれたのは、こちらの辺境伯様の御用と言う事でしょうか?」

「ああ、そうだ。辺境伯殿は事情があってルフラント王国に行きたいそうなので、その力添えを頼みたい」


 次期公爵の言葉に、商会長は渋い顔になっていた。


「パルラ辺境伯様が王国に行くのは、その、難しいかと思いますが?」

「ああ、それは大丈夫です」


 そう言って自分自身に擬態魔法をかけた。


「私は行商人のマリカ・サンティです。商会長さん、よろしくお願いしますね」


 俺がその場で人間種に化けると、商会長は目を見開いて驚いていた。


「これは驚きました。すると人間種の商人に化けて王国に潜入するという事ですね」

「はい、理解が早くて助かります。商会長の支店がハンゼルカ伯国にあると聞きました。そこから先に進むためのご助力をお願いしたいのです。あ、それと王国について知っている事を教えてください」


 そして私はティローネ商会の系列商人という扱いにしてもらい、ハンゼルカ伯国が発行する交易許可証を手配して貰える事になった。



 公爵館での話し合いが終わり皆が待っている場所まで戻ってくると、そこではオーバンが何だか渋い顔をして俺を待っていた。


「皆、どうしたの?」

「ユニス様、じゃなかった。サンティさん、実は荷馬車の中に隠れていた密航者を発見しました」

「はあ、密航者?」

「はい、こいつです」


 そう言ってオーバンが引っ張って来たのは、もう二度と会う事も無いと名前も憶えていなかった、あの倉庫に潜んでいた男だった。


 まだ国境を越えていないから、今の段階だとただの無賃乗車といったところか。


「えっと、貴方は確かベ・・・」

「ベルグランドです。それにしても見事な化けっぷりですな」


 いや、そうじゃないだろう。


「何故此処に居るのです?」

「え、だって、雇ってもらえたんだから、手伝うのは当たり前だろう、いえ、でしょう?」

「うん、誰が雇ったって?」

「何を言っているんですか、倉庫の掃除をやれば雇ってもらえるんでしょう。ちゃんと条件は果たしましたぜ」


 俺はオーバンの顔を見た。


 オーバンは困った顔付きをしながら視線をずらした。


 どうやら倉庫掃除の意味を誤解されたようだ。


 これでは、ここで放り投げる訳にもいかなくなったな。


 これは仕方ないか。


「分かった。私達はこれから西に進み、攫われた友人を救出する。貴方も手伝いなさい」

「お、おう、任せてくれ」


 ベルグランドは西と聞いて一瞬嫌な顔をしたが、直ぐに何も考えてなさそうな顔付に戻っていた。


 きっと、西方には何か都合が悪いものがあるのだろう。


 もしかしたら途中で姿を消すかもしれないな。


 俺はオーバンに傍に寄るとそっと耳打ちした。


「オーバン、あの男から目を離しちゃ駄目よ」

「はい、お任せください」



 ティリンはエリアル南街道の終着地だが、西街道とは違い、その先、ハンゼルカ伯国に通じる道がきちんと整備されていた。


 この道を通るのは殆どが商人で、荷馬車の上には沢山の商品が載せられていた。


 そして公国と伯国との間には壁も検問所も無く、此処から先は伯国であると示す石碑が立っているだけだった。


 ティローネ商会長の話では、商人が往来することによって繁栄している伯国では、物流を滞らせる関所とか通関とかは設けていないそうだ。


 そして物流を混乱させる盗賊対策も万全で、伯国は道のあちこちに軍の駐屯所を設け、そこから兵士を巡回させていると言っていた。


 そして今、目の前の道をこちらに向かって歩いてくる集団は、きっとその兵士達なのだろう。


「やあ、君達は何処の商人だい?」

「俺たちは、ティローネ商会の者だ」


 護衛役のガスバルがそう答えると、リーダーと思しき兵士がガスバルの冒険者証を見ていた。


「ほう、黄色冒険者が護衛するとは、とんでもなく高価な積み荷なのか?」

「ああ、この世に2つとないとても貴重で、魔法使い共通の憧れだ」

「うん、何だか良く分からんが、その大事な物を無事届けるんだな」

「ああ、言われなくてもそうするさ」


 ガスバルは一体何の事を言っているんだ?


 インジウムといい、誰か、マトモに話せる相手を探さないと駄目か?


 そしてやって来たハンゼルカ伯国の町は、とても高い城壁に囲まれていた。


 城門でのチェックは商人には甘く、積み荷が危険な物でないことを確かめた後は、そのまま通してくれた。


 ただ商人以外は厳しいチェックを受けるようで、俺たちが通り過ぎる脇で係員と激しく口論している人達やら、足止めされて途方に暮れている人達の姿もあった。


 俺達はそのまま目的地のティローネ商会の支店に入った。


 そこでは既に商会長から連絡が来ていたようで、商会の人達から暖かい歓迎を受けた。


 ここからルフラント王国へ通じる道は、一度アイテール大教国領内に入ることになるそうだ。


 アイテール・・・禁書庫での調べ物の途中で抜け出してきてしまったが、後始末は彼らに任せておいても問題なかっただろうか。


 そして、あおいちゃんが失望する顔が脳裏に浮かんだ。


 あの男に言えば、また禁書庫を調べさせてもらえるだろうか?


 暫く待機していると、ティローネ商会の支店長が現れた。


「サンティさん、ハンゼルカ伯国に交易許可証の申請を行いました。許可を貰うには王国に持ち込む商品サンプルが必要です。ご一緒に出頭してもらえますか?」

「ええ、分かりました」



 ティローネ商会が用意した馬車に乗り、向かった先は伯国の交易省という部署らしい。


 移動する馬車の車窓からは立派な建物群が見えていて、それが皆何処かの商会の建物だそうだ。


 他の場所には一般客が利用するマルシェもあり、そちらには道の両側に露店が並び、伯国の国民や小口の取引を行う行商人が集まるそうだ。


 ハンゼルカ伯国は、バンダールシア大帝国が崩壊した時に独立した4人の領主のうちの1人が興した国だそうだ。


 独立当初は公国、帝国、教国に挟まれた弱小国で、いつ制圧されてもおかしくない状況だったが、世代が進みその3ヶ国の関係が冷え込んでくると、今度は安全に話し合える中立地帯が必要になり、その需要を掴んだのがハンゼルカ伯国だった。


 すると今度はお互いが干渉しない安全な交易ルートが欲しくなり、伯国を経由する中継貿易が生まれたんだとか。


 その自由な交易ルートは当然王国の知るところとなり、王国でも伯国を経由して交易を行うようになったそうだ。


 馬車が止まった場所には、赤レンガ造りの2階建ての建物があった。


 建物の中は、手前が広い空間になっていて奥に様々な申請をする窓口が並んでいた。


 俺を案内してくれた商会の担当者は迷うことなく、ある窓口に向かって進んでいった。


 そこで待っていた担当者が俺たちの姿を見るとにっこり微笑んで、来訪を歓迎してくれていた。


「いらっしゃいませ」

「ティローネ商会の者です。申請していた交易許可証の件で参りました」

「ああ、それではこちらにお願いします」


 そういうと担当者は、俺達を連れてカウンターの近くにある対面で話が出来るボックス席に場所を移した。


「それでは交易品を見せて貰えますか?」

「ええ、分かりました」


 俺はサンプルを持っているグラファイトを振り向いた。


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