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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第8章 行商人マリカ・サンティ
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8-4 出発準備

 

 俺は東に向けて飛行しながらジュビエーヌに、オルランディ公爵との面会の仲介をお願いする連絡蝶を送った。


 そこで自分の恰好を見てこれでは公爵との面会には失礼にあたると思い、一度パルラに戻る事にした。


 そして先刻会ったアンドレーアにも失礼だったかと気が付いたが、時すでに遅しなので気にしない事にした。


 パルラに戻りビルギットさんに手伝ってもらって着替えをしていると、ジュビエーヌから返信が来た。


 オルランディ公爵は公都の私邸に居るので、いつでもお訪ねくださいという事らしい。



 公爵の私邸とは公城アドゥーグのすぐ傍にある白亜の大豪邸だというので、上空からだと直ぐに分かった。


 いつものように公城の敷地内の舞い降りると、そこから公爵の私邸に向けて馬車を走らせた。


 今回は相手に失礼があってはいけないので、御者はグラファイトにお願いしてあった。


 おかげでインジウムを宥めるのに多大の労力を要したが、これは仕方が無いのだ。


 門を潜り敷地内に入ると、よく手入れされた庭に迎えられた。


 流石は筆頭貴族の公都邸である。


 本邸の正面に馬車を止めると正門から先ぶれが走っていったので、正面入口には出迎えの執事が待っていた。


「パルラ辺境伯様、お待ちしておりました。私は当館の筆頭執事でございます。旦那様がお待ちですので、私がご案内させていただきます」

「ええ、よろしくお願いしますね」


 そして白亜の豪邸とでもいうべき石造りの玄関から中に入ると、通路の両側の壁には絵画、そして観葉植物の合間に鎧やら大きな壺やらが飾られていた。


 そして床には、一面にカーペットが敷き詰められていた。


 これが筆頭貴族としての威厳なのだろう。


 我が館とはえらい違いだな。


 そして案内された応接室には、いかにも金をかけてますといった応接セットが置かれ、四隅には植物、壁には絵画が飾られていた。


 そして長椅子の中央に腰を下ろして待っていると、建国祭で挨拶した白髪の男性が入って来た。


 その顔はにこやかに微笑んでいたので、少なくとも歓迎はされているようだ。


 だが対面の椅子に座った御仁は、お茶を用意していた使用人が居なくなるとその笑顔が真顔に変わっていた。


「ガーネット卿、私と会うのに陛下を使うとは、少々やりすぎではないですかな?」


 おっと、いきなり小言が飛んできたぞ。


「やり過ぎた事は重々承知いたしておりますが、緊急事態だったのでやむを得なかったのです。陛下にはこれから会って無作法をお詫びいたしますわ」

「ふむ」


 公爵はそういうと白い髭を軽くしごいていたが、どうやら小言はこれで終わりのようだ。


「それで私への要件とは、その緊急事態の事ですかな?」

「はい、私の大切な友人がルフラントの奴隷商人に攫われたのです。取り返すため王国に行きたいのですが、そのお力添えを公爵にお願いしたいのです」


 公爵は俺の顔をじっと見つめてから口を開いた。


「王国は人間至上主義の国でしてな。ガーネット卿が行かれると、友人を取り返す前に厄介毎に巻き込まれるのではないですかな?」


 つまり亜人の恰好のままでは王国には行けないという事か。


 それなら。


「公爵家のお抱え商人が、ハンゼルカ伯国に支店を設けていると聞きました」

「それで?」

「商人に化けて王国に潜入する予定です」


 だが、公爵は俺の顔を見ながら渋い顔をしていた。


「商人と言っても、その顔とその耳では直ぐにバレて厄介毎に巻き込まれると思うがのう」

「ああ、それなら問題ありません」


 そういうと擬態魔法で、以前ダラムの商業ギルドに行った時のマリカ・サンティという人間種の商人に化けてみせた。


「ほう、これは驚いた。流石は大魔法使いですな。人間に化ける事等朝飯前という事ですか」

「これなら問題ないでしょう?」


 俺がそう言うと、公爵は顎鬚をしゃくりながら俺の化け具合を観察していた。


「そうですな。それでは公爵領にいる愚息に手紙を書くとしましょう。その姿の時の名前を教えて貰えるかの?」

「はい、マリカ・サンティです」

「分かった」


 そういうと、その場ですらすらと手紙を書いてくれた。


「これを持って、我が領都ティリンに居るノルベルトを訪ねるといい」

「公爵、ご助力感謝いたしますわ」


 書いてくれた手紙には、公爵家の封蝋が押されていた。


「あ、そうそう、ハンゼルカ伯国に向かう道はティリンから先にあるでな。決して遠回りではないぞ」


 すると奴隷商人を探すのは、エリアル西街道ではなく南街道の方だったのか。


 だが今となっては、既にハンゼルカ伯国に逃げ込まれているだろうな。


「それで公爵様へのお礼は、どのような事をお望みですか?」

「ほう、それじゃ、其方の町へ招待してくれんかの。何でも、パルラという町には色々な娯楽があるそうじゃないか」


 公爵は、パルラの町の事もある程度は知っているようだ。


 そして暇を持て余している貴族は、娯楽に飢えているのだろう。


「畏まりました。それでは友人を取り返したら、必ずご招待させて頂きます」

「ああ、よろしく頼むよ」



 公爵邸を出て公城アドゥーグに戻ると、今回の件で力を貸してくれたジュビエーヌにお礼を言い、ついでにオートマタの魔法石を交換すると再び上空に舞い上がった。


 そして念のためエリアル南街道を終着地のティリンまで捜索した後で、パルラに戻った。


 勝手が分からない国に行くのだから、ある程度は事前準備が必要だ。


 当然商人という設定なのだから、荷馬車に商品を載せる必要があるので、この町の特産品である魔素水とミード酒それに甘味大根を精製して粉末にした物を用意した。


 そしてホンザの所に寄って戦化粧も少し用意して戻ってくると、荷馬車の前にオーバンが待っていた。


「オーバン、どうしたの?」

「ユニス様、王国に行くと聞いたのですが?」

「ええ、ジゼルを攫ったのが獣人牧場を経営している男だと分かったからね。そうだ、オーバンも獣人牧場で育ったのなら、その場所が何処にあるか知らないかしら?」

「それがその、何分小さい頃だったので、覚えておりません」


 まあ、そうだろうな。


 それにオーバンが知っているような情報なら、帝国の人達が知らないとは思えなかった。


「それで私は、ここに来る前は王国貴族の護衛をしておりましたので、少しは役に立つと思うのです」

「私と一緒に行きたいの?」

「はい、是非に」

「それじゃあ、王国について知っている事を教えて」

「はい」


 オーバンの話では王国は獣人を目の敵にしており、大陸西方やヴァルツホルム大森林地帯の中にあった獣人の集落をしらみつぶしにしているそうだ。


「そんな国に貴方が行ったら、厄介毎に巻き込まれるわね」

「ええ、ですから隷属の首輪を付けて奴隷にしてください。それなら見慣れた光景になるでしょう」


 オーバンのその言動から、あの国では獣人がどんな扱いを受けているのか理解できた。


「オーバン、貴方は目の前で獣人が酷い扱いを受けていても我慢できるの?」

「はい、問題ありません。それよりもユニス様の方が、我慢出来ないのではないかと心配です」


 オーバンの思いがけない切り替えしに自問してみると、なんだが怪しいのが分かった。


「そうね。その時は貴方が止めてくれるのかしら?」

「はい、全力で御止め致します」


 そうは言ってみたが、オーバンに再び隷属の首輪を付けるのは嫌だった。


 擬態魔法で俺の助手という事にしておけばいいか? 


 そんな事を考えていると、何やら騒動がこちらに向かってやって来ていて、よく見るとそれはあの帝国のあの黄色冒険者だった。


「おお、ガーネット卿、探しましたぞ」

「バラチェさん、どうして此処に?」

「え、嫌だなあ。ガーネット卿がパルラに来て良いと言ったじゃないですか」


 そういえばそんな事を言ったような気もするが、まさか本当に来るとは。


「バラチェさん、せっかく来ていただいたのですが、私はこれからルフラント王国に出発するのです」

「他国の貴族が王国に行くことは、難しいと思いますが?」

「ええ、分かっております。人間種の商人に化けて行きますわ」

「おお、それなら優秀な護衛が必要ですな。僭越ながら私がその任を仰せつかりましょう」


 そう言われて、俺は傍にいるグラファイトとインジウムを見た。


「護衛なら、私にはオートマタが居りますよ?」

「いえ、正式な冒険者の証を持った者が護衛した方がそれらしく見えますし、相手にも疑われないですよ」

「え、そうなのですか?」

「ええ、普通行商をする商人の馬車には、冒険者が護衛に付くのです。逆に護衛が居ない馬車は、門番等に疑われます」


 確かにそう言われてしまうと、そんな気もしてくるな。


 そしてオーバンを見た。


 それならオーバンに擬態魔法をかけて人間の見た目に変えて、バラチェの冒険者仲間にしてしまえばいいではないか。


 後は、留守番だな。


 バラチェ達を伴って館に戻ってくると、早速ビルギットさんを探した。


「あ、ビルギットさん」


 俺が呼び止めると、ビルギットさんの長い兎耳がピンと立ち、こちらを振り返った。


「ユニス様、今度は何でしょうか?」

「しばらく留守にするので、後をお願いします」

「え、それはかなりの期間になりますよね?」


 ビルギットさんは、俺がジゼルを助けに行くことを理解しているようだ。


「期間は分かりませんが、定期的に連絡蝶で連絡を入れますね」


 そこで良い事を思いついたので、私室の置物になっていたオートマタを持ってきた。


 そういえばちゃんと名前を付けていなかったな。


 確か英語では影武者はボディ・ダブルというそうだが、俺の代わりだから赤いガーネットだね。


 そしてオートマタを起動させた。


「いい、今日から貴女の名前は、アルマンダイン・ガーネットよ」

「はい、お姉さま」

「私が居ない間、貴女がユニス・アイ・ガーネットとなって私の代わりを務めるのよ」

「はい、畏まりました」


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