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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第8章 行商人マリカ・サンティ
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8―1 ジゼルの捜索

 

 俺宛てに連絡蝶を送って来たのは、ビルギットさんだった。


 彼女には何かあった時の為にと連絡蝶のマジック・アイテムを渡していたのだが、まさか初めて送られてきた内容が、これというのは全くの想定外だった。


 何はともあれ、ビルギットさんから事情を聞かなければその後の行動が決まらないので、真っ直ぐ領主館に舞い降りた。


 そしてビルギットさんを探していると、何処からともなく地鳴りのようなドドドドという音が聞こえてきた。


 そして音がする方向を見ると、そこにはインジウムがこちらに向けて駆けてくる姿があった。


 そして近くまで来るとぴょんと撥ね、そのまま膝を曲げ上体を屈めた態勢のまま着地しようとしたので、慌てて重力制御魔法をかけた。


 いや、インジウムが心配というよりも、あの勢いのまま着地されたら床が抜けそうだったからだ。


 そしてそのままの態勢で床に着地すると、すすすと滑って俺の目の前で停止した。


 それは見事なジャンピング土下座だった。


 どうしてそんな事をインジウムが知っているのかと叫びそうになったが、そこであおいちゃんが腹を抱えて大笑いしている姿が脳裏に浮かんだのだ。


 それにしても、こんな事をオートマタに教えるのは止めてもらいたいものだ。


「お姉さま、申し訳ありませんでしたぁ」


 うん、なんで謝っているんだ?


「インジウム、何を謝っているの?」


「お姉さまに狐獣人を送り届けるように命じられましたのにぃ、このような失態になってしまいましたぁ」


 いや、俺が命じたのは無事送り届けるまでだから、その後に行方不明になったのはインジウムの責任だとは思ってないぞ。


 俺は上体を屈めて手を差し出した。


「インジィの責任ではないから安心して」

「お姉さまぁ」


 俺がそう言うとインジウムの顔がぱあっと花が咲いたような笑顔になると、勢い良く俺の腰に抱き着いてきた。


 普通であれば微笑ましい光景になるはずなのだが、そこは力の強いオートマタ。


 それは完全に鯖折りというかベアハッグの状態になっていた。


 俺は猛烈な力で締め付けられて命の危険を感じたので、インジウムに停止を命令しようとしたが、がっちりとホールドされた状態では引きはがすのが面倒だった。


 そこで後ろにいたグラファイトに助けを求めた。


「グラファイト」

「承知しました」


 グラファイトは俺の口調で危機を察知してくれたようで、がっちりと俺に抱き着いているインジウムの腕を取ると、力任せに振りほどいてくれた。


 ようやく命の危険から解放されたところで、ビルギットさんが駆けつけてくれた。


 隣ではインジウムとグラファイトが何やら言い争いをしているが、どうせ大した事は言っていないので聞こえないふりをする事にした。


「ユニス様、良かった。連絡蝶を使ったのが初めてだったので、ちゃんと送られたかどうか心配だったのです」

「ええ、問題なく届きましたよ。それでジゼルが行方不明と言うのは?」


 ビルギットさんの話によるとジゼルはパルラに到着した翌日館から外に出て、そのまま帰ってこなかったそうだ。


 最初は何時も一緒に居る俺が居ないから、偶には1人で羽目を外したいのだろうと思い心配していなかったそうだ。


 そう言われると、何だか俺の御守が大変だと暗に言われているような気がしてきた。


 そしてそれが3日も経つと流石におかしいということになり、俺に連絡をしてきたんだそうな。


 それを聞いて最初に確かめるのは町から出たかどうかなので、まずは南門に行く事にした。


 そう思ったところで、じいっとこちらを見ているインジウムの視線に気が付いた。


「インジィ、どうしたの?」

「私もぉ、お手伝いしますぅ」


 ここでインジウムと問答している時間が惜しいので、連れて行く事にした。


「では、付いてきて」

「はあぃ」


 立ち上がったインジウムは、そのまま俺の腕に手をまわしてピッタリとくっついてきた。


 それが男と女なら恋人同士に見えるかもしれないが、残念ながら他人の目から見ると俺達は、人形を自分の腕に巻き付けた頭のおかしな亜人にしか見えないだろうな。


「インジウム、これでは歩けないわ。ちょっと離れてくれる」

「えー、はあぃ」


 ちょっと不満顔のインジウムを従えて南門に向かうと、門の警備についていた獣人達が直ぐに気付いて控室から出て来てくれた。


 その中心にはトラバールが居た。


「トラバール、ジゼルが南門から出た可能性は無いの?」


 俺がそう聞くと、トラバールは周りの獣人達に声を掛けてから返事をしてきた。


「皆にも確かめましたが、出て行った姿を見た者は居りません」

「そう」


 獣人達の嗅覚は鋭い。それでも気付かないとうのなら出ていないのだろう。


 南門が外れなら次は北門か。


 ジゼルは森で生活した事が無いから、もし森に入って迷ってしまったら生還は厳しいかもしれないな。


 だが、そんな事はジゼル自身分かっているはずだから、1人で森に入るとはとても思えなかったが、どれだけ可能性が低くとも確かめない訳にはいかないのだ。


 北門を出てウジェ達が使っている小屋に向かうと、ウジェが尻尾を振りながらやって来た。


「ユニス様、いらっしゃいませ」

「ウジェ、ご苦労様。忙しい所悪いんだけど、ジゼルを見なかったか、他の人達に聞いて欲しいんだけど」

「はい、分かりました。それではユニス様・・・達は小屋の中でお待ちください」


 ウジェは俺の名前を言った後で、一瞬後ろに居るインジウムに視線を移して目を見開くと、言い直していた。


 見ないでも、インジウムが自分の事を無視されて怒っているのだろうと想像が付いた。


 しばらく待っていると、ウジェが数名を後ろに従えて小屋に入って来た。


「ユニス様、お待たせしました。この者達にも確かめましたが、ジゼルさんを見た者は居ません」


 予想通りここも外れだった。


 すると街中に居て姿を見ないという事は、何処かで誰かに監禁されているという事か?


 この町で獣人を攫うというのなら、奴隷商人とか奴隷を捕まえるハンターでも紛れ込んでいるのか?


 潜伏していて姿を見せないというのなら、俺たちが生餌になって誘ってみるか。


 そこで今度は街中でジゼルが行きそうな場所として、俺が良く連れて行ったカフェに行く事にした。


 そして事前準備として俺もメイド服着て、擬態魔法でインジウムと2人で獣人に化けた。


 カフェ「プレミアム」に入ると、店員が直ぐやって来た。


「いらっしゃいませ。空いている席にどうぞ」


 そう言われたので態と外から良く見える席に座ると、何故かインジウムが椅子に座ろうとしなかった。


 そこでオートマタの重量に思い至り、直ぐに重力制御魔法をかけてから座るように言った。


 店員がお茶とお菓子を持ってきてテーブルに並べている時に、最近の事を聞いてみる事にした。


「店員さん、最近ガラの悪いよそ者とか見かけますか?」


 そう聞いてみると、店員はちょっと考えてから話してくれた。


「そうですねえ、最近は他所から来る人も多くなったような気がします」


 旅行者が増えるというのは町の運営としては良い事なんだが、人が増えるとこういった招かれざる客もやってくるのは困りものだ。


 そしてカフェでお茶をしていると、道の方から大きな笑い声が聞こえてきた。


「わははは、こんなところで獣人メイドがサボっているぜ」


 そこには、明らかにガラの悪そうな男達が居た。


 おや? 早速釣れたか。


「なあ、サボってる事をチクられたくなかったら、その可愛い尻を持ち上げて、俺達にちょっと付き合えよ」


 そう言ってニヤリと笑っていた。


 俺はインジウムに軽く頷くと、困った顔でどうしようか悩む演技をした。


「えっと、その、これには事情があるんですぅ」

「ほう、その事情ってやつを聞いてやるから、ちょっと付き合えよ」

「えっと、話したら、メイド長さんに内緒にしてくれますかぁ?」

「ああ」


 というやり取りをした後、男達に付いていく事にした。


 男達はカモを誘い出せてにっこり。


 そして俺達も、阿保が簡単に釣れて心の中でにっこり。


 男達が向かった先は、店長が逃げてしまった彩花宝飾店だった。


 店員だったマウラ・ピンツァは、ようやく公都の本店と連絡が付き本店に戻る事になったので、今は無人のはずだった。


 男達は、そこがまるで自分達の家とでもいう気軽さで入って行った。


 こうなってくると、他の無人になっている店舗も一度中を調べてみる必要があるな。


 男達の後に付いて店内に入ると、そこは薄暗く床にはごみが散乱していた。


 そしてそこにもゴロツキ共が居て、いやらしい笑みを浮かべてこちらを取り囲んできた。


「おやおや、かわいいお嬢ちゃん達じゃないか」

「えっと、この人達は?」

「一緒に話を聞いてくれるお仲間だ。時間は十分あるからな、たっぷりとその体に聞いてやるよ」


 おや、早速本性を現したか。


 俺がインジウムに頷くと、インジウムはとても晴れやかな顔になっていた。


 えっと、やりすぎないでね。


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