7―22 城塞跡地
グラファイトに地面に下ろしてもらい服に付いた砂を払っているところで、リングダール達が駆けつけてきた。
「ガーネット卿すみませんでした。魔物が急に方向転換してそちらに向かってしまったのです。落下したようですが、お怪我はありませんか?」
俺は服に付いた砂を払い終わると、リングダールに頷いた。
「ええ、大丈夫です。それよりも問題ないようでしたら先に進みませんか?」
俺は周りの惨状を見ながらそういうと、リングダールもそれには同意見だったようで、直ぐに出発することになった。
上空に舞い上がり、再び城塞跡地と言われる場所に向けて砂漠を南下していった。
それからは魔物に襲われることも無く何度かの休憩と飛行を繰り返した後、突然リングダールが叫んだ。
「あそこです」
俺はリングダールが指さす彼方を見たが、砂以外何も見えなかった。
だが、次第に砂漠の上に何かが突き出ているのが見えてきた。
「あれが城塞跡地なのですか?」
「ええ、そうです」
そして目的地の上空に達したところで改めて下の光景を眺めてみたが、そこには砂の中から石で作られた壁の残骸のようなものが所々突き出ているだけで、とても城跡とは思えなかった。
その中心地点に降り立つと、周囲を見回してみた。
所々、壁の残骸のような物があるが、それ以外は何もない場所だった。
しゃがみ込んで地面の砂を掴んでみると、砂はさらさらで指の間から地面に流れ落ちていった。
それは砂というよりも粉といった感じで、とても細かくて軽かった。
ビルスキルニルの遺跡で赤色魔法の魔法書を見つけた時は、保護外装が反応して光りだすと傍らの空間に入口が現れたが、ここも同じなのだろうか?
試しに保護外装が反応するか、歩き回ってみる事にした。
「私は周りを調べてみますが、貴方達はどうしますか?」
「ガーネット卿が良ければ一緒に見て回ります」
うん、手分けすると言ってくれれば飛行魔法で浮き上がって移動できたんだが、一緒に歩かれるとそれも止めておいたほうがよさそうだ。
歩くたびに足が砂に沈み込む状況に悪戦苦闘しながらも、遺跡の周りを歩いていると、保護外装が反応して光りだした。
それを見たリングダールが驚いて尋ねてきた。
「ガーネット卿、どうされたのです?」
「多分ですけど、目的の場所を見つけたと思います」
「本当ですか?」
リングダールが勢い込んで尋ねてきた瞬間、目の前の空間が光り入口が現れた。
「これは?」
「多分、これが魔法書がある場所への入口だと思います」
「これが・・・前に来た時はこんな物はありませんでした」
多分、何か条件があるのだと思うよ。
リングダールが入口と思われる空間を手で触れようとした瞬間、バチッと音がして手が弾かれた。
「これは?」
「私がやってみましょう」
俺は目の前にある空間に一歩踏み込むと、そのまま中に入ることができた。
やはり、入るには条件があるようだ。
俺は入口外にいるリングダール達に声を掛けた。
「私が見てきます。皆さんは、そこで待っていてください。グラファイト、入口を見張っているのよ」
「了解しました」
俺は前回の反省を踏まえて飛行魔法で地面から僅かに浮き上がると、そのまま中に入っていった。
中の作りは、ビルスキルニルの遺跡とほぼ同じだった。
そして魔法書を見つけて、リングダールが言っていた「豊穣なる大地形成」という赤色魔法を習得した。
魔法書から流れ込んだイメージでは、この魔法はリングダールの望み通りアンデットを浄化し、人の住めなくなった環境を変えることが出来るようだが、それはこの魔法が、その土地に大量の魔素を供給して環境を変えてしまうかららしい。
イメージとしては、テラフォーミングをするような感じかもしれないな。
+++++
リングダールは、突然現れた光る空間に入ることが出来なかった。
前回此処に来た時は、あのような物は現れなかった。
それから考えると、あれが現れたのは、ここにエルフ殿が居たからに他ならない。
それはあのエルフ殿が、この先に入ることが出来る何らかの資格を得ているという事だろう。
やはり、此処にエルフ殿を連れて来た事は間違いではなかった。
これで教国は救われるだろう。
エルフ殿が赤色魔法を発動してアンデット共を浄化して汚された大地を元に戻し、サン・ケノアノールを解放してくれるに違いないのだから。
だが、同時にドートリッシュが言った言葉も思い出していた。
「我が国に害を及ぼす場合か・・・」
ドートリッシュ達は、エルフ殿が赤色魔法を使った後、必ずその力を恐れるに違いないと感じていた。
俺はエルフ殿を殺すように命じられた場合、それが出来るだろうか?
そして入口の前に仁王立ちしている、黒色のオートマタを見つめた。
たとえ俺がエルフ殿を殺そうと剣を抜いたとしても、あのオートマタに一瞬で無力化されるだろう。
ならば、味方に出来ないだろうか?
ジュビエーヌ殿は、どうやってエルフ殿を味方につけたのだろう?
アイテールが攻め込んだ後、ジュビエーヌ殿はエルフ殿を貴族に任命し領地を与えている。
その領地では人間と獣人が共存しているという。
同じことが教国内でできるのか?
そこでリングダールは首を横に振った。
公国はロヴァルの女狐が大公だった時代に、亜人に寛容的な政策をとっていた。
そのせいで大陸の中では唯一亜人に比較的寛容な国となっていた。
それに比べ教国では、そのような政策をとっていない為、亜人種に寛容ではないのだ。
我々はあのエルフと敵対してはいけないというのに、それを理解する土壌が教国には無かった。
リングダールはそこまで考えて、深いため息をついた。
するとそれまで晴れていた空が急に暗くなったので、何事かと空を見上げると空一面に真っ黒な砂塵が舞い上がった。
+++++
俺が2つ目の赤色魔法を習得して元に戻ってくると、そこはすっかり暗くなっていた。
そんなに時間が経っていたとは思わなかったので、そこに待機していたグラファイトに聞いてみる事にした。
「どのくらい待ったの?」
「ほんの数刻です」
そう言われて空を見上げると、何やら真っ黒い何かが舞っていた。
「何かあったの?」
「はい、砂嵐が来たようです」
「それでアイテールの方達が見当たらないのは?」
「この原因がサンドスローという魔物の仕業だそうで、それを止めに行きました」
ああ、グラファイトには入口を守れと指示を出していたから、それを忠実に守っていたのか。
それにしてもこんな視界が悪い状況で動いたら、迷子になったりしないのだろうか?
試しに魔力感知で探ってみると、1人が真っすぐ魔物が居る方向に移動しており、その後ろから残りの2人がそれを追う形で移動していた。
これなら問題ないだろうと思ったのだが、先行していた1人の反応が魔物と合わさった瞬間消えていた。
うん? もしかして食われた?
すると後を追っていた2人の反応もいつの間にか消えていた。
え、ちょっと、これどうすんだ?
リングダールの説明では、サンドスローという魔物は、この軽くて細かい砂を上空に舞い上げて獲物の視界を奪い、おびき寄せて捕食すると言っていたな。
「グラファイト、助けに行きますよ」
「了解しました」
俺はグラファイトに重力制御魔法と飛行魔法をかけてから、上空に舞い上がるとそのまま魔力感知で見つけた魔物の方向に向かった。
視界は殆ど無いが、魔力感知にはしっかりと映っているので、迷うことなく魔物の近くまで行けるのだ。
だが、暫くすると俺の耳に何か心地よい歌声のような物が聞こえてきた。
それを聞いているとなんだか、なんだかとても気持ち良い気分になってくるのだ。
すると頬に痛みを感じてはっとなった。
「大姐様、大丈夫ですか?」
どうやらおかしくなった俺を元に戻すため、グラファイトが俺の頬をつねったようだ。
「ええ、大丈夫。ありがとう」
「いえ」
グラファイトは俺が礼を言うと、ちょっと嬉しそうな顔になったようだ。
そして目的の場所に到着すると、そこにはぼんやりと棒のような物が立っていて、その先端から煙のような物を吐き出しているように見えた。
あの中に食われた人が居るのだろうか?
捕食された3人が生きている可能性もあるので、状況が掴めないまま攻撃してもろとも殺してしまう訳にもいかないので、まずはこの視界を何とかしたかった。
そこであの粉のような砂を思い出し、物は試しと、グラファイトからスリングショットと青色の弾を受け取ると一瞬見える煙突のような物に向けて撃ち込んでみた。
弾が何かに当たり大量の水をまき散らすと、細かい砂を含んだ水が泥水のようになって降って来た。
その泥水が魔物の砂を巻き上げる部分にも落下したようで、穴が詰まって砂の巻き上げが止まったようだ。
そして見えてきた魔物の外観は先端が途中で折れた木の幹に横に伸びた枝があり、その枝に提灯でも下げているように実が成っていた。
まさか、あの中に?
「グラファイト、あの実の中身を調べてみて」
「承知しました」
そしてグラファイトが木の魔物が抵抗するのをものともせず、実の中に腕を突っ込んで何かを引きずり出した。
それはリングダールだった。
なんだが、液体まみれになった姿は、あまり気色の良い物では無かった。
女の子のぬるぬるネバネバなら需要もあるだろうが、男のは無いなと益体のない事を考えてしまった。
グラファイトは他の実にも腕を突っ込み、他の2人も無事救出していた。
評価ありがとうございます。




