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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第7章 アイテールの黒い霧
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7―21 キュレーネ砂漠

 

 ハーリンの村を出発して数時間経ったが、俺たちの歩みは遅々として進まなかった。


 それというのも、上空からはこの世界の恒星からの強烈な日差し、地面からは砂漠の照り返しを受け、オーブンの中で上下から焼かれている感覚なのだ。


 俺はこの保護外装のおかげで暑さを感じないが、リングダール達は1時間も飛行することが出来ず先程から砂漠に下りては小休止を繰り返しているのだ。


 おかげで何度アイテールの連中に重力制御魔法をかけて、目的地まで一気に行ってしまおうと思った事か。


 まあ実際は、今だけ味方の連中に、こちらの能力を教えてやる程お人好しじゃないので、じっと我慢しているんだけどね。


 このキュレーネ砂漠は、7百年前に最悪の魔女に焼かれたバンダールシア大帝国の帝都キュレーネ跡だそうだが、それにしては面積が広すぎる。


「リングダールさん、これが最悪の魔女の仕業にしては、随分と大規模ではありませんか?」


 リングダールは水筒から口を外すと、俺の質問に答えてくれた。


「ああ、何でも、魔女に焼かれた土地からは魔素が抜けていくようで、土地は干からびて砂漠になるそうです。それが周辺にも広がっているのだとか」


 そう言われて広大な砂漠を眺めた。これが7百年の成果という事か。


 成程、だからあおいちゃんは赤色魔法を撃った後、直ぐ魔宝石で土地の魔素量を回復させていたのか。


「そして、そんな魔素が殆どない場所にいる魔物は、砂漠の外からやって来た生き物を検知する能力に長けているのです」

「それはつまり、砂漠の魔物は、他の生物から魔素を補給しているという事ですか?」

「ええ、特に魔素量が多いガーネット卿は、直ぐに検知して襲ってくるでしょうな」


 おい、それは笑顔で言う事か? 絶対面白がっているだろ。


 そして砂漠の稜線を眺めてみると、何かが蠢いているような気がした。


 もっとよく見ようと遠見の魔法を発動させると、そこには足が何本もある大きな昆虫のようなものが沢山いた。


「足が沢山ある大きな虫みたいなのが居ますが、あれは?」

「ああ、やはり出ましたか。それがキャストネットです。気を付けてください。奴は獲物の動きを封じてから、針のような口を差し込んで魔素を吸い取りますよ」


 地球にもそんな昆虫がいたなあ。


「魔素を吸収された被害者はどうなるのです?」

「干からびます」


 生きたまま食われるなんて御免こうむりたい。


「それじゃそろそろ休憩を終わりにして、先に進んだ方がいいんじゃないですか?」

「ええ、本来ならそうなのですが」


 なんだが歯切れが悪いその言い方に、ちょっと小首を傾げて先を促した。


 すると、キャストネットは空を飛んでもしつこく追いかけてきて魔力切れで地面に落ちるのを待って襲い掛かって来るから、魔力が回復している今迎撃した方が良いという事だった。


 その顔には真っ先に狙われるのは俺で自分はその後だという、ある種の安心感のようなものが嗅ぎ取れた。


 お前達、俺の事を避雷針かなにかと勘違いしているんじゃないだろうな?


 全く、お前らを切り捨てれば簡単に振り切ることは可能なんだぞ。


 魔物の群れは既に大量の砂塵をまるで大波のように巻き上げながら、真っ直ぐこちらに向かって駆けだしていた。


 その光景は、パリダカで砂漠を走るモンスターマシンのようだ。


 早い、これは厄介だな。


「ところでアレには弱点とかあるのでしょうか?」

「場所柄、土や風、火には耐性があるようです」


 リングダール達はパルラで相手をしているので、その範囲内であれば力を見せても問題は無いだろう。


「グラファイト、私を守りなさい」

「承知しました」



 そして砂を巻き上げながら迫ってくる魔物の群れは、リングダールの言った通り俺の方に向かって来ていた。


 目の前にはグラファイトが俺を守るため立ちはだかっているので、少し浮き上がりグラファイトの後方から射線を開けると、多数の青色魔法陣を展開した。


「雷光」


 俺の前に現れた沢山の青色魔法陣から電光が走ると、真っすぐ魔物に向かっていった。


 +++++


 リングダールは、前回キュレーネ砂漠に来た時の事を思い出していた。


 あの時も今回と同じようにキャストネットに襲われ、上空に逃げるという愚を犯したのだ。


 そして振り切れないうちに魔力切れで地面に落ちたところを襲われ、多数の犠牲を出していた。


 今も、あの時と同じように絶体絶命の状況なのだが、今回は頼もしい味方が居た。


 エルフ殿と初めて戦ったのは、ジュビエーヌ大公を追いかけてパルラの町に攻め込んだ時だった。


 ジュビエーヌ大公が獅子の慟哭を使って赤色魔法を唱え始めると、それを阻止するため俺達やバルギットの連中が一斉に攻撃を仕掛けたのを、たった1人で迎え撃ったのだ。


 あの時も今と同じように多数の魔法陣を展開すると、一斉にこちらに向けて反撃してきたのだ。


 その連射速度は尋常ではなく、俺を含めて仲間達全員が空から撃ち落とされたのだ。


 敵としては恐ろしく厄介な相手だが、味方となるとこの上なく頼りがいがあった。


 リングダールも武器を手に取り魔物の到来を待ち構えたが、魔物達は皆エルフ殿の方に向かっていてこちらに来る気配はなかった。


 エルフ殿は、パルラを攻めた時は見かけなかった黒色のオートマタを前面に出して、自分はその後ろから多数の青色魔法陣を展開していた。


 俺も詠唱を行わなければ複数の魔法を同時に撃つことは可能だが、そんな事をすれば直ぐに魔力切れになってしまうだろう。


 それをあれだけの魔法を撃ってもなお、魔力切れになる気配さえないのだ。


 俺は戦闘中だというのに、魔法が発動する時の光で淡く映し出されるその姿に見入っていた。


 それは、この世に顕現したディース神かと思わせる程神々しく見えていた。


 すると部下達の危険を知らせる声が聞こえてきた。


 はっとなって視線を戻すと、そこには今にも俺に襲い掛かろうとする魔物の大きな目が目前に迫っていた。


 くそっ、殺られる。


 そう思った瞬間、目の前の魔物がまぶしい光と共に弾き飛ばされた。


 それはエルフ殿が撃った電撃魔法だった。


 エルフ殿は、今も目の前に迫る魔物に攻撃魔法を撃ち続けていたが、一瞬こちらを見て微笑んだ気がした。


 まさか守ってもらえるとは思わなかったが、亜人とは言え女に守ってもらうとは、親衛隊隊長としての威厳が台無しだった。


 不味いぞ、少しは良い所を見せないと、あのエルフ殿に頭が上がらなくなってしまう。


 +++++


 青色魔法の攻撃をすり抜けた魔物は、俺の元に辿り着く前に待ち構えているグラファイトが処理してくれていた。


 リングダール達は先程危ない時もあったが、今は自分たちに向かってくる魔物を危なげなく対処していた。


 そして猛烈に襲い掛かって来た魔物達の勢いが、どうやら弱まってきたようだ。


 そろそろ終わりが近いのかもしれないな。


 そんな気が緩んだところで、リングダールから危険を知らせる叫び声が上がった。


 そちらを見るとアイテールの連中が撃ち漏らした個体が、こっちに向かって来るところだった。


 注意を向けていなかった方向から来た魔物だが、直ぐに青色魔法陣を展開した。


 その個体は、他の魔物よりも二回りは大きかったが問題ないだろうと判断したのだ。


 だが、そいつは電撃を受けても何事もなかったかのようにこちらに迫り、俺目掛けてジャンプしたのだ。


 自分の目測の甘さを呪いながらも次の攻撃魔法が間に合わないと思った瞬間、自分にかけていた飛行魔法と重力制御魔法を解除した。


 すると俺の体は鉛の塊のように地面に落ちた。


 突然目の前の獲物が消えたため、魔物は沢山ある足をバタつかせながら通り過ぎて行った。


 俺は地面に横たわりながら魔物の方を見ると、直ぐに方向転換してこちらに向かって来るところだった。


 青がダメなら。


 緑色の魔法陣が展開すると、こちらに向き直った魔物に向けて魔法を放った。


「雷電」


 目の前に閃光が走ると、それを受けた魔物が爆裂した。


 やれやれ、目的地はまだまだ道半ばってところか。


 地面に転がった俺の所にやって来たグラファイトは、何も言わず俺の背中に両腕を差し込むとそのままお姫様抱っこしてきた。


 そして不思議そうに小首を傾げると、ぽつりと疑問を口にしていた。


「大姐様、今日は一段と重たいですね」


 グラファイトよ、お前は常識派だと思っていたのだが、それ本物の女性には絶対言うなよ。


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