表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第7章 アイテールの黒い霧
183/416

7―16 商品登録

 

 目の前の反応を見る限り、少なくとも若い貴族令嬢達には需要がありそうだ。


 そして彼女達が学校の舞踏会で商品を使ってくれれば、それだけでかなりの宣伝効果になるだろう。


 そう考えたのはアレッシアも同じだったようだ。


 それというのもロザート商会に戻る道中で、アレッシアが荷馬車に積まれた樽を見ながらこう尋ねてきたからだ。


「辺境伯様、この顔料は、どれくらいの量を売っていただけるのですか?」


 アレッシアの言っている意味は、公都で売り出すのは我々だけなのか、それとも他社にも卸すのかという意味も込められているようだ。


「他に声を掛ける予定なのは、香水を売っているビリアナ・ワイトさんの所と、バンケット会社を運営しているエイヴリル・アッカーさんの所ですね」

「凄い、どっちも今話題になっている会社ですね」


 アレッシアも知っているという事は、あの2人も業績好調なようで何よりだ。


「あの、全てうちの店に卸してもらう訳にはいきませんか?」


 アレッシアが、おずおずといった感じで俺に提案してきた。


 まあ、こちらとしても手間が省けて助かるのだが、この量を捌けるのだろうか?


「えっと、この容器だと1樽あたり大体千6百個分になると言っていましたよね。それが12樽分ですよ。そんな量が捌けるのでしょうか?」

「勿論、大丈夫です」


 アレッシアの顔にはとても真剣だった。


 これなら頼んでも大丈夫だろう。


「分かりました。ではお願いしますね」



 そして荷馬車がロザート商会に戻ってくると、荷下ろしをグラファイトに任せて俺達はそのまま店の中に入っていった。


 そこではアレッシアの父親が待っていた。


「お父様、この顔料は儀礼科の令嬢達に好評でした。そしてパルラ辺境伯様からこの商品を当店で独占販売して良いと許可を頂きました」


 いや、在庫を全て渡しただけで、独占販売とは言っていないぞ。


 俺が直ぐ訂正するとアレッシアはちょっとがっかりした顔をしたが、直ぐに気持ちを切り替えたようだ。


「でも、今すぐ他の店に卸すことは無いのでしょう?」


 まあ、在庫が無いからな。そんな事は出来ないな。


 すると父親の方は何やら考え込んでいたが、こちらをじっと見つめてきた。


「辺境伯様」


 その声はなんだか鬼気迫るものがあった。思わずゴクリとつばを飲み込むと返事をした。


「何でしょう?」

「パルラでは、ミード酒という特産品があると聞いております。それを当店でも取り扱いさせてもらえませんか?」


 先程の親子の言い争いを聞く限り、この商会は落ち目ということだ。


 規模もそれほど大きくは無いのだろうし、一気に商品を増やして資金繰りとかいろいろ大丈夫なのか?


「随分と欲張りなのですね。この顔料だけでもかなりの在庫になりますよ?」

「ええ、分かっております。ですが、私共もより確実な商売のネタが欲しいのです」


 彼らはこの公都でも、パルラの特産品が売れると思っているようだ。


 まあ彼らにやる気を出してもらうためにも、多少の飴は必要だな。


「分かりました。ですが生産量に限度があるので、少量からの取引となりますよ」

「ありがとうございます」


 そういうと父親は手を差し出してきたので、俺もその手を掴んだ。


「では、先に顔料の小分けをお願いしますね」

「ええ、勿論ですとも」


 すると今度は娘の方がこちらをじっと見てきた。


「あのう、辺境伯様」

「何でしょうか?」

「一緒に公都の商業ギルドに行ってもらえませんか?」



 公国では会社が販売する商品は、模倣品防止のため商業ギルドに登録しておくそうだ。


 そして俺が持ち込んだ物は注目を集めるはずだから登録は必須らしい。


 商業ギルドは、公都で最も大きな通り沿いにあった。


 その建物はどっしりとした石造りで出来ていて、正面玄関の両側には白亜の化粧柱が彩りを添えていた。


 玄関前には2名の制服を着た警備員が扉を守っていた。


 アレッシアがその警備員に会員証のような物を見せると、警備員は笑顔で挨拶すると扉を開けてくれた。


 建物の1階には、受付と商談コーナーそれに公都での商品相場が分かる掲示板があった。


 アレッシアはそれらには目もくれず真っすぐ受付まで進むと、受付の女性に話しかけた。


「ロザート商会のアレッシア・ロザートです。新しく取扱う商品登録に参りました」

「分かりました。ではこちらの書類に記載をお願いします」


 そして書き上げた書類を提出すると、受付嬢が後ろに居た上司にそれを見せていた。


 するとその書類をもって、その上司がこちらにやって来た。


「ロザート商会さん、この顔料というのは白粉とは違うのですか?」

「はい、12種類の色があります」

「それと、このパルラ産のミード酒というのは本当ですか?」


 上司は明らかに疑っているような口調だった。


 パルラ産のミード酒が王都で売られるのが、そんなに変な事なのだろうか?


 そんな事を考えていると、突然アレッシアに話しかける初老の男性が居た。


「聞き捨てなりませんね。パルラ産のミード酒は我がバリゴッツィ商会が独占販売権を獲得したのですよ。まさかとは思いますが、後ろにいるエルフや獣人を使って取って来た素材で勝手に産地偽装品でも売るつもりか?」


 そういうと因縁をつけてきた男性は、俺を頭のてっぺんからつま先までジロジロ見てきた。


「そんな馬鹿な事を考えるより、このエルフなら私が百万ルシアで買ってやるぞ。ははは、どうせ運転資金にも苦労しているのだろう?」


 そう言って見下したような薄笑いを浮かべていた。


 百万ルシアといえば俺の賞金額だったよなあなんて思い出していると、アレッシアが負けじと言い返していた。


「これはバリゴッツィ商会長のブルーノ様。まがい物ではありませんわ。れっきとしたパルラ産のミード酒です」

「ふざけるな。その権利は俺が入札で手に入れたと言ってるんだ。お子様はすっこんでろ」


 バリゴッツィと言えば、あの時2人が言い争っていた時にも出た名前だな。


「いいえ、私達は直接パルラから仕入れるのですから、問題ありませんわ。別にダラム商業ギルドが、パルラ産を一手に引き受けている訳では無いようですしね」

「はあ、何を馬鹿な事を言っている。とにかくパルラ産を公都で独占販売するのはこのバリゴッツィ商会に決まったんだ。手を出すというのなら、お前の商会なんか直ぐにつぶしてやるぞ」


 何だか雲行きがおかしくなってきたぞ。


 それに俺は独占販売権なんて与えたつもりは無いし、一体何がどうなっているんだ?


「そこまで言うならそれが本当かどうか、パルラ辺境伯様に直接伺ってみましょう」


 そう言ってアレッシアがこちらを見てきたので、釣られたその男もこちらを見つめてきた。


「このエルフがなんだと言うのだ?」


 先程はいやらしい眼で値踏みしていたが、今度はうさん臭そう眼でジロジロ見てきた。


「この無礼者、こちらの方が序列第3位のパルラ辺境伯様ですよ」


 アレッシアのその言葉に、無礼な口をきいた男が驚いた顔になっていた。


「え、なんで、こんな所に?」


 すると、それまで2人のやり取りを面白がっていた商人達の顔色も真面目な物に変わっていた。


 これは何か言わないと収まりそうもないな。


「初めまして、私はパルラ辺境伯ユニス・アイ・ガーネットです。こっちは友人のジゼル。アレッシアさんの言っている事は本当ですよ」


 それを聞いた男は、今耳にしたことが信じられないようだった。


「だ、だが、ダラムの商業ギルドは独占してるって・・・」

「ダラムは隣町なのでたまに売りに行きますが、独占契約なんてしていませんよ」


 俺がそう言うと、その男は自分が騙された事に初めて気が付いたようだ。


「そんな馬鹿な。入札でいったいどれだけの金を使ったと思っているんだ。それがパアだなんて、そんなの認められるかぁ」


 男がそう叫んで顔を真っ赤にしていると、それまでその男と商談をしていた商人達から次々と契約解除を言われていた。


 相当ぼったくった価格での契約したのだろう。


 バリゴッツィはこの場から逃げるように出て行ってしまった。


 バリゴッツィが居なくなると、集まった商人達が俺の周りに集まって来た。


「あの辺境伯様、今のお話ですと、私達他の商人もパルラの特産品を買えるという事でしょうか?」


 商人達の顔には期待が膨らんでいるが、残念ながらパルラでの生産量は限られるのだ。


「パルラは5百人程の小さな町なので、生産数もそれほど多くありません。ダラムへの販売分とロザート商会に卸す分以外、今の所余力が無いのです」


 俺がきっぱりと断ると、とても残念そうな顔になっていた。


「あの、パルラ辺境伯様」


 声を掛けてきたのは、先程の商業ギルドの男性だった。


「なんでしょう?」

「公城の晩餐会でしかお目にかかれない高級果物も、パルラ産だと噂になっているのですが、本当でしょうか?」


 高級果物?


 ひょっとしてジュビエーヌにお土産として持ってきた、霊木の実の事か?


 厳密にはパルラで作っている訳ではないのだが、俺かあおいちゃんしか採取出来ないのだから、パルラ産と言い張ってもいいのかもしれないな。


「ええ、ですが、あれは生産量が少なく、陛下への献上品以外では出せませんよ」

「ああ、やっぱりそうですか」


 それからギルド職員は、パルラ産の特産品が公都でどんな扱いになっているのか教えてくれた。


 霊木の実は大公に振舞ってもらった貴族達が口々にその美味さを宣伝する事や、市場には出回らない希少性から皆の羨望の的になっているそうだ。


 その他にもパルラ産の魔素水や甘味大根は、濃度が高く品質が均一なのでとても評価が高いんだとか。


 そして大森林蜂の蜂蜜を使ったミード酒も、質が良くて出回る量が少ないものだから、それをめぐって貴族の間で激しい奪い合いになっているんだとか。


 成程、だからアレッシアの父親がそれを求めたのか。


 アレッシアもにんまりと笑みを浮かべているので、どうやら知っていたようだ。


 まったく、俺が儀礼科の令嬢達を化粧品の動く広告塔にしたのと同じように、アレッシアも俺の事を商品宣伝に使ったようだ。


 うん、君も将来立派な商人になれるよ。


ブックマーク登録ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ