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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第7章 アイテールの黒い霧
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7-13 それぞれの思惑

 

 ハンゼルカ伯国からの使者と会ってしばらく経ったある日、何時ものように執務室で政務をとっていたジュビエーヌは左手に違和感を覚えた。


 それまで目を通していた書類を机に置き自分の左手の甲を見ると、そこにはユニスから送られてきた連絡蝶が翅を広げていた。


 ジュビエーヌはそれを見て頬を緩めると、そっと指先で触れた。


 すると蝶は形を変えて直ぐに連絡文に変わり、今からパルラを出発して昼前にはこちらに到着する旨を知らせてきた。


 空を飛ぶことで、馬車移動で何日かかる旅程をあっという間に短縮するとは、いろいろ規格外な事をする御仁である。


 ジュビエーヌは頬を緩めると、扉の前に控えている当番兵を呼び寄せた。


「裏の厩舎番にパルラ辺境伯の馬車が昼前に到着すると連絡を、それからマーラに直ぐ来るように伝えて」

「は、畏まりました」


 ジュビエーヌの命を受け、当番兵は弾かれたように駆け出して行った。


「またしばらくの間、気の置けない日々が始まるのね」


 だが直ぐに、あのアメーリア公爵との約束の時期でもあることに気が付いた。


「ユニスはどうやって切り抜けるのかしら? まさか、本当に妹を引き渡すつもりじゃないわよね?」


 そしてユニスの双子の妹を知らない事に気が付いた。


 妹もユニスと同じ能力があるのなら、アメーリア公爵は強大な力を手に入れることになる。


 それによって、落ち目だった派閥が盛り返すのかと思うと頭が痛い問題だった。


 アメーリア公爵が力を盛り返せば、また大公の座を自分の娘であるカッサンドラに譲れと難癖をつけてくるかもしれないのだ。


 重大な懸念事項だと心に留めていると、当番兵に呼ばれてマーラがやって来たので、ユニス達の料理を料理長に追加させる事と部屋の手配を指示した。


 手配が済み大きく伸びをして気合を入れ直すと、ユニスが来るまでの間書類仕事に没頭する事にした。


 だが、それはもう仕事ではなく単なる暇つぶしになった事に、当人は気が付いていなかった。


 書類仕事の合間に机の上に置いてあるお茶に手を付けると、そのタイミングで当番兵が声をかけてきた。


「陛下、パルラ辺境伯様が到着されたようです」


 それを聞いたジュビエーヌは、読みかけの書類を元に戻すと立ち上がった。


「そろそろ昼ね。ユニス達を食堂に案内するように」

「畏まりました」


 当番兵が出て行くと、ジュビエーヌはユニスを出迎える準備をするため私室に戻っていった。


 それを見た城の使用人達は、主の足取りがとても軽い事に気が付いていた。


 私室でマーラに手伝ってもらい着替えを済ませると、食堂に移動した。


 クレメントは魔法学校で昼食をとるので、本当ならここで自分1人だけのさみしい食事のはずだったが、ユニス達が来ればきっと楽しい時間になるだろう。


 そして食堂に入って来たのはユニスとジゼルだけではなく、フードを深く被り顔が見えないもう1人が居た。


 どうしても気になったのでユニスに聞いてみる事にした。


「ユニスお帰りそれとジゼルさんも、えっと、後ろのもう1人は誰なの?」


 ジュビエーヌが質問すると、ユニスはフードを取るように手振りで示すと、その人物を紹介してくれた。


「ジュビエーヌ久しぶりね。それと、これは私の妹のアオイよ」


 アオイと紹介された人物はフードをとり、私にペコリと頭を下げた。


「陛下、お初にお目にかかります。アオイでございます」


 その顔はユニスと瓜二つで、全く見分けが付かなかった。


 そして追加していた料理が2人分だったことを思い出した。


「いけない、妹さんの分の食事を直ぐ用意するわね」

「あ、大丈夫、どうやら移動で疲れて食欲が無いようなの」


 そういうとユニスは、妹を連れて用意した部屋に戻って行った。


 再び現れたユニス達と昼食にしたが、ユニスは何か考え事があるのか上の空といった感じだった。


 考えていることは、どう見ても妹さんの事だろう。


 妹さんだって、いきなり縁談話を持ってこられて困惑したはずだ。


 姉妹喧嘩をしたのかもしれない。


 実際、食欲もなくふさぎ込んでいるじゃないの。


 だが、それを聞きたくても、なんとなく上の空の今のユニスに何を言っても無駄だろうと先送りにする事にした。


 そして数日後、アメーリア公爵から使者がやって来たのだ。


 アドゥーグの使用人の中には当然アメーリア公爵の息がかかった者も居るので、ユニスが妹を連れて戻って来た事は直ぐに伝わったはずだ。


 使者は案の定、ユニスに会いたいと言ってきた。


 最初は握りつぶそうとも考えたが、念のためユニスに話してみると意外にも同意したので、最早私が強権を発動することも出来なくなっていた。


 そして約束の日、謁見の間に入るとアメーリア公爵とその一派は既に集まっていて、自分達の未来が明るい事で浮かれているようだった。


 その表情を見てむっとしたが、隣に立つユニスの横顔を窺うとそこには怒りや悔しさという感情は無く、意外にも楽しんでいるように見えた。


 +++++


 アメーリア公爵は、公城アドゥーグに潜り込ませた使用人からの報告を聞くとにやりと笑みを浮かべた。


 それはあの雌エルフが約束通り、自分の妹を連れてきたからだ。


 双子なのだから、あれの妹も姉と同等の力を持っているに違いない。


 ジュビエーヌが公国のしきたりを破り20歳前で大公に就任できたのは、ひとえに雌エルフという強大な武力を手に入れたからだ。


 雌エルフの力を失えば、後ろ盾となっているオルランディ公爵軍も先のアイテールとの戦いで力を失っているし、実力的には我が方が上回るのだ。


 力関係の変化は、当然そのまま国内の発言力になって現れる。


 先の騒動で帝国軍に抵抗することなく通過を許した事や、派閥内のドーマー辺境伯が反乱を起こした事で我が家の威光は大きく落ちていた。


 帝国軍に通過を許したのも、反乱と外国軍の侵入という状況では公国が負けるのは誰の目にも明らかだったからだ。


 それをあの雌エルフが余計な事をして、思惑が外れてしまったのだ。


 だが、それも今日までだ。


 再び我が家の威光が戻るのだ。


 早速派閥の連中に声をかけて、一緒に公城アドゥーグに乗り込む事にした。


 謁見の間に通された派閥の貴族達は、自分達が手に入れる力を話題にして大いに盛り上がっていた。


「これで派閥の力が蘇りますな」

「いや、他派閥を押しのけることも可能だろう」

「我らの未来は明るいな」


 一人悦に浸っていたアメーリア公爵は、謁見の間に響いた兵士の言葉に口を噤んだ。


「大公陛下が来られました」


 そして謁見の間に陛下が入ってくると、それに続いて長い耳が特徴の女性2人が続いていた。


 その顔は報告にあった通り、瓜二つだった。


 玉座に座ったジュビエーヌの額には深い皺が寄り、今回の件で懸念を示しているのは明白だった。


 それはそうだろう。


 我が派閥が強力な手札を手に入れるのだ。


 面白い訳が無い。


 それにしてもこんなに簡単に力が手に入るとは、正直考えていなかった。


 そう思うと、あの男が耳元で囁いた言葉が真実だったと証明されたのだ。


 バンダールシア大帝国の復活か。


 あの男は雌エルフを倒す方法があると言っていたが、それよりも妹をうまく洗脳して姉と戦わせれば俺の手柄になるんじゃないのか?


 それが出来なくても、人質として雌エルフの足枷とすれば俺の株が上がるという物だ。


 くくく、そうすればその功績で復活した大帝国で、広大な領地と権力が手に入るだろう。


 その明るい未来を考えると、どうしても心が躍るのを抑えきれなかった。


 そのためにも今回の件は、確実に成功させる必要がある。


 じっと2人のエルフに視線を送ると、それに気づいた雌エルフ達が俺の正面にやって来た。


「アメーリア公爵、私の妹を紹介しますわ」


 雌エルフがそう言うと隣の同じ顔が一歩前に出て、ペコリと頭を下げた。


「アオイです。よろしくお願いします」

「ああ、分かっている」


 思惑通りに事が進む事に、何とか口角が上がるのを抑えるのが大変だった。


「ではアメーリア公爵、このアオイを常に自分の傍に置くことを誓ってくれますね?」

「ああ、勿論だとも」

「アオイ、聞きましたね。貴女は常にこの公爵の傍から離れてはいけませんよ」

「はい、お姉さま。承知いたしました」


 そういうと妹の方は姉の元を離れ、俺の隣に並んだ。


 先程までの茶番にどんな意味があるのか分からないが、これで強大な力を手に入れられたのはまさに僥倖だった。


「ああ、そうだったわ。アメーリア公爵、重要な事を言い忘れていました」


 そういった雌エルフの顔に、こちらを見下すような笑みがあることに気が付いた。


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