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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第7章 アイテールの黒い霧
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7―11 帝国領事館訪問

 

 パルラに戻って来てからパメラの陣中見舞いを考えていたが、色々あってすっかり失念していたのをようやく思い出した。


 そんな訳で朝食を終えてから、ジゼルと一緒に街の南東側にある帝国の領事館を目指してのんびり歩いていた。


 時折すれ違う町の人達と手を振って挨拶して何か困りごとは無いかと聞きなが歩いていると、目の前に目的の建物が見えてきた。


 帝国がこの町に拠点を置きたいと聞いて大急ぎで本館と別館を建てたが、入居してから特に苦情も聞かないので満足しているのだろう。


 領事館前に警備兵が居ないが、これは我が方の治安能力を評価してくれていると思っていいだろうな。


 だがそうなると訪問を告げる人が居ないのでどうしようかと思っていると、正面の扉にノッカーが付いているのを見つけた。


 せっかくだから叩いてみようと、正面扉まで進みノッカーを2度叩いた。


 ガツン、ガツンという音が響くと中から閂を開ける音がして、ゆっくり扉が開いた。


 そこに現れたのはパメラだった。


「あらパメラさん、元気そうね」

「あ、ユニス様、どうしてこちらに?」

「貴女が無事、この館に戻って来られたのを確かめに来たのよ」


 俺がそういうと、なんだが複雑そうな笑顔になっていた。


 その顔は、誰のおかげでこうなったのよとでも言いたげだった。


 するとパメラの後ろから聞いたことのある声が聞こえてきた。


「パメラ、誰が来たんだ?」

「あ、ユニス様です」

「なんだって」


 するとこちらに近づく足音が聞こえると、満面の笑みを浮かべたアースガル・ヨルンド・レスタンクールが出てきた。


「これはガーネット卿、どうぞ中にお入りください」

「あ、いや」


 遠慮しようとしたのだが、「ささ、どうぞ、どうぞ」ととてもうれしそうな表情で誘われては、断ることもできずそのまま中の応接室まで通されてしまった。


 そして尻が沈む程ふっくらとした椅子に座ると、パメラがワゴンを押して部屋に入って来た。


 パメラは相変わらず手際の良い動きで、目の前のテーブルにお茶とお茶菓子を準備してくれた。


「ねえパメラさん、本当は母国に帰りたかったんじゃないの?」


 ジゼルの魔眼判定がそうだったので訊いてみると、パメラは一瞬目を見開いたが、直ぐに首を横に振った。


「いいえ、そんな事はありません。また、ユニス様と一緒に仕事が出来ると思うと、とても嬉しいです」

「ほう、それならガーネット卿の傍でメイドをやったらいいだろう」


 突然聞こえた声に入口の方を見ると、そこには服装を改めたアースガルとその護衛役であるジュール・ソレルが丁度応接室に入って来るところだった。


 この2人とも最初の出会いが敵同士だったことを思うと、随分と態度が変わったものだと感慨深いものがあった。


 特にジュール・ソレルは、墓場での戦闘後クッションも無い護送用ゴーレムに放り込んで、トップスピードで走らせた過去があった。


 その時の乗り心地を想像すると、恨まれても仕方がないのだ。


 まさかとは思うが、リーズ服飾店で目撃された俺のコスプレ姿に毒気を抜かれたのだろうか?


「ジュール、それはどういう意味かしら?」


 俺が考え事をしていると、パメラが先ほどのジュール・ソレルの発言の真意を問いただしていた。


「お前は態と行方不明になった事で、将軍からしばらく帰ってくるなと言われただろう。丁度いいからガーネット様のところで仕事をすれば、将軍も大いに満足すると思うぞ」


 そう言われたパメラは図星だったようで、言い返せないようだ。


 するとピコでパメラを見つけてパルラに来るよう言ってしまったのは、パメラにとってとても都合が悪かったようだ。


 ここは助けてあげよう。


「ソレルさん、実は私が今住んでいる館は建て替えを予定しているので、せっかくの申し出ですが、働く場所が無いのです」

「え、あの娼館は取り壊すのですか?」


 今度はアースガルが興味を示して、聞き返してきた。


「ええ、新しく自分の館を建てようと思っているんです」

「それは丁度良い。ではパメラは新しい領主館のメイドとして働いてもらいましょう」

「え?」

「あ、あの、レスタンクール様、私はそのような指示は受けていないのですが?」

「ソフィーには僕の方から話してあげるよ」


 あれ、また余計な事を言ったのか?


 パメラの顔を見ると、一瞬困ったような顔になったが直ぐ元に戻っていた。


「分かりました。ユニス様、またよろしくお願いします」


 え、いいの?


 帝国側は俺の傍にスパイを置きたいのだろうが、別に隠すような事もないし、パメラは有能なのでこちらとしては願ったりなんだよね。


 俺はパメラに同意を示すため微笑み返した。


「ところで、ガーネット卿にお伺いしたい事があるのですが?」


 アースガルを見ると、今までの笑顔から真面目な顔になっていたので、俺もつい居住まいを正していた。


「なんでしょう?」

「帝国の皇帝は、不老の指輪という呪われたマジック・アイテムのせいで皆短命なのです。この呪いを解く方法を色々試しているのですが、うまくいきません。ひょっとしてガーネット卿なら、解呪の方法をご存じではないかと思いまして」


 そう尋ねてきたアースガルの顔は、何処となくこちらの反応を窺っているようだった。


 だが、そんなこと言われても初めて聞く物だし、さっぱり分からないんだよね。


「すみません。お力になれないようです」

「左様でございますか。それともう1つ、絶滅したと言われたエクサル草がどうしてこの土地にはあるのでしょうか?」


 そういえばパメラにも、同じ事を言われたな。


 しかし、理由を話す訳にもいかず困っていると、アースガルは何かを勝手に理解したようだ。


「成程、確かにそうですよね。そんな極秘情報を、そう簡単に言う訳にはいきませんよね」


 このアースガルという男も不思議な人物だ。


 普段の行動だけ見ればただの女好きに見えるが、こう見えて彼はバルギット帝国の3大公爵家の1つ、レスタンクール家の御曹司なのだ。


 本国でもそんな重要人物が、いつまでも外出していたら問題になるんじゃないのか?


「レスタンクール卿は、何時までパルラに滞在なされるのですか?」


 俺がそう尋ねると、アースガルは何故か衝撃を受けたような顔になっていた。


 え、なんで?


「ガーネット卿から、そんな冷たい事を言われるとは思いませんでした。私は常日頃からガーネット卿と懇意になりたいと思っているのです。それにパメラが働きに出たら訪問する理由も出来ますよね」


 あ、しまった。


 それが目的だったのか。


 今更断れる訳もなく、ここは甘んじて受け入れるしかないな。


 そしてテーブルの上に置いてあるお茶を飲み干すと、再びこちらを見てきた。


「せっかくですから、エクサル草からエリクサーを作成する現場を見学していきませんか?」


 そう言われると、ポーションの作り方に興味が湧いてきた。


 傍で見学さえてもらえば、自分でも薬草からポーションを作れそうな気がしてきたのだ。


 そして案内された部屋には薬品のような匂いが充満していて、長テーブルにうえにはいろいろな器具が置いてあり、白いローブを着た魔法使い達がなにやら作業をしていた。


「ここです。ガーネット卿からエクサル草を頂いて直ぐに作業が出来るように、本国から魔法使いを連れてきたのです。そして品質には魔法使いの能力が大いに関係するので、きっとガーネット卿なら最高級品質のエリクサーが作れるのでしょうね」


 それは、俺に作れといっているのか?


 隣に居るジゼルの顔を見ると興味深そうに眼を輝かしていた。


 どうやらジゼルも俺がポーションを作るところが見たいらしい。


 それならせっかくだから作ってみますか。


 俺は作業をしている魔法使いの方に作り方を教わりながら、1本のエリクサーを作ってみた。


 出来上がったポーションは鮮やかな赤色をしていた。


 それをみたアースガルから「流石ですね」という褒め言葉を頂く事になった。


 +++++


 ソフィ・クリスティーン・フリュクレフ将軍は、ルーセンビリカ本部の自分の執務室で愛用の椅子に座りながら、パルラに赴任しているジュール・ソレルと友人のガルから送られてきた連絡蝶を読んでいた。


 ガルは最悪の魔女に不老の指輪について尋ねてみたが、全く反応しなかったそうだ。


 それは最悪の魔女が希代の詐欺師で表情に全く出ないか、過去の記憶を失っているかのどちらかだが、皇帝用に最高級品質のエリクサーを無償で作ってくれたという下りを読んで、後者だと判断した。


「どうやら復活した魔女は、話が出来る相手で間違いないようね」


 そして続き読んで、思わず目が点になっていた。


 そこには魔女は人間の女性には興味を示すが、男は全く興味を示さないと愚痴が書いてあったのだ。


 人間とは種族が違うせいか、それとも元々魔女とはそういう種族なのか、人間の女性には興味を示すようだ。


「ふふ、魔女はパロットを気に入ったようね。それにソレルからの推薦もあるし、メイドとして働く命令を出しておきましょう」


 帝国では、3大公爵家のレスタンクールとオーリクが公国へ攻め込んで失敗し力を失ったため、現皇帝が世継ぎを残さず崩御した場合、次期皇帝の座はアブラームが獲得したと言っていい状況だった。


 そのアブラームが、盛んに最悪の魔女の危険性を吹聴していた。


 暗愚と噂されるリュカ・マルタン・アブラームが自分で考えているとは思えないので、裏で糸を引いている連中がいると思われるが、なかなか尻尾を掴めなかった。


 ルーセンビリカの方針は決定した。


 最悪の魔女とは友好を結び、エクサル草の供給を絶やさないようにするのだ。


 皇帝の健康問題が喫緊の課題では無くなったので、国内の治安維持に全力で取り組むつもりだった。


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