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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第7章 アイテールの黒い霧
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7-9 近況報告

 

 目が覚めると、そこは自室にしている元娼館の一室だった。


 ぼんやりとした思考の中で、昨晩の記憶がすっぽり抜けていた。


 そして喉の渇きを覚えてベッドから起き上がると、その拍子に頭がガンガン痛くなった。


 これは、二日酔いか。


 慌てて椅子に掛けてあるテクニカルショーツのポケットから霊木の根を取り出すと、その薬液を自分に注射した。


 効果は直ぐに表れ、頭の痛みがすうっと消えていった。


 頭の痛みが消えていくと同時に、昨晩の記憶が蘇って来た。


 そしてあおいちゃんの余裕の表情にも思い至り、それが毒無効か毒耐性の魔法だったのではないかという疑念が湧いてきた。


「くそう、あおいちゃんに騙されたぞ」


 そう独り言を言って悔しがっていると、扉が開きジゼルが入って来た。


「起きたのね。水を持って来たわよ。欲しいでしょう?」


 そう言われて、ありがたく差し出されたコップを受け取った。


「ところで、どうして私はここで寝ているの?」

「ああ、それはね」


 そう言ってジゼルが昨晩の事を教えてくれた。


 それによると、やっぱりあおいちゃんとの飲み比べに負けて意識を失ったようだ。


 そんな俺を駆け付けたグラファイトがお姫様抱っこで、ここまで運んでくれたのだとか。


 いや、態々お姫様抱っこって言わなくていいからね。


 そしてその姿を見たインジウムが、とても不機嫌になっているそうだ。


 寝起きでその情報は聞きたくなかった。


「あおいちゃんが何処に居るのか知ってる?」

「あ、それなら浴場に居るって言っていたわよ」


 あおいちゃん、すっかりこの町での暮らしを満喫しているじゃないか。


 俺は浴場に居るというあおいちゃんに会うため部屋を出ると、そこで何かに後ろから体をがっちりとロックされた。


「お姉さまぁ、何処に行くんですかぁ?」

「その声は、インジウムね。ちょっと、動けないんだけど」

「ずるいですぅ。どうして私じゃないんですかぁ?」


 こっちは意識がなかったんだからそんな事は知らんわ。


 だが、機嫌を直してもらわないと後々厄介事になりそうだな。


「ああ、ごめん、ごめん、今度なにかあったらインジィに頼るからね」

「本当ですかぁ、絶対、絶対ですよぉ」

「うん、うん、分かったから、手を放してくれるかな」

「むー、またどっか行っちゃうんですかぁ」


 なんだか面倒くさいなあ。


 仕方がない、一緒に連れていくか。



 まだ朝の時間帯なので浴場は人がいなかった。


 ここもバンビーナ・ブルコに任せっぱなしにしていたから、経営状況を聞いてみるか。


 それに何か問題があったなら、協力してやらないとな。


 受付の女性にあおいちゃんの居場所を尋ねると、浴室に入っていると言ったので、先にブルコに会ってみる事にした。


 2階では、ファビアちゃんとホンザの子供であるスーちゃんが一緒にブロックで遊んでいた。


「あら、2人共、何を作っているの?」

「「お家」」


 そういった手元のブロックは、コンクリート製の集合住宅にも城の城壁にも見えた。


 この娘達がパルラにやって来た時、真っ先に造ったのが住む場所だった。


 それがこんなに喜ばれているのを知ると、こちらもうれしいものだ。


「素敵ね」

「「うん」」


 2人ともとてもいい笑顔を返してくれた。



 ブルコの事務所は2階の休憩室に仕切りを作り、その奥に事務所を作っていた。


 扉をノックすると、中から声が聞こえてきた。


「入りな」


 その声を聞いて扉を開けると、机の向こう側のどっしりとした椅子に腰かけるブルコがいた。


「おや、あんたかい。随分久しぶりさね」

「ええ、そうね。ところでここの経営は順調なの?」


 パルラの住民には魔素水の風呂は、肌から魔素を吸収するようでとても好評らしい。


 文字通り仕事を終えた後に入ると、疲れがすっかり取れるそうだ。


 そして何か困ったことは無いかと尋ねてみると、遊技台の台数がもっと欲しいということだった。


 どうやら利用客の人気が高く、台が開くのを待っている客が多くいるそうだ。


 2階には客が移動するスペースをかなり取っているので台と台との間は、かなり余裕がある。


 少し詰めれば、もう少し台を追加することは可能だった。


「分かりました。それでは追加の台を作っておきましょう」



 ブルコとの会合を終えて1階に下りていくと、あおいちゃんは軽食コーナーでお茶をしていた。


 あおいちゃんの向かいの席に腰を下ろすと、給仕の女性に果実水を注文した。


「あら、お姉ちゃん、もう起きられるのね」


 その言葉で周りを見ると、俺達以外に客は無く給仕の女性も奥に消えるところだった。


「霊木の根の薬液で復活したよ」

「そう、それじゃ、バニーちゃんはよろしくね」


 そう言われて、あれは反則じゃないのかと言ってみると、気付かない方が悪いと言われてしまった。


 やれやれ、トレジャー・ハンターの世界でも相手を出し抜くのは基本だからな。


 これも授業料だと思って甘んじて受け入れるか。


 またジゼルやビルギットさんに協力してもらわないといけないな。


「ところでビルスキルニルの遺跡調査は順調なのか?」

「そうねえ。分かった事と言えば、あの遺跡は地球からこの世界への転移装置で、逆方向への転移は出来ないという事ね」

「すると地球へ転移する遺跡が、この世界の何処かに存在するという事か」

「まだ、存在していればね」

「それを知る方法は?」

「さあね。今は遺跡の傍を発掘しているけど、存在を示す石板とか文献とかが見つからないと、何ともならないわね」

「手がかりとなる情報が無いと、どうしょうもないという事か」


 地球でも昔の遺跡の大半は土の中や海底の泥の中に埋もれているので、建築現場とか海底調査で偶然見つけるという幸運が無い限り、遺跡調査はままならないのだ。


 それらを探すにも、その存在を記した文献とかの取っ掛かりとなる情報が無いと探しようがないしな。


「そうすると今のところ何も分からないという事か」

「あら、それは私が無能だと言っているの?」

「いや、そんな事は無いよ。運が無いだけだろう」


 俺がそう言って嫌味を言っている訳ではないと釈明すると、あおいちゃんは指を1本立てた。


「ビルスキルニルの遺跡を調べていて、1つだけ分かった事があるわよ」

「そうなの?」

「ええ、あの遺跡を作った者達が誰かという事ね」

「それは?」

「どうやらあの遺跡を造ったのは魔法国というらしいわ」

「魔法国?」

「ええ、どうやらこの世界で使われている虹色魔法も、きっとこの魔法国の技術だと思われるわね」


 するとこの世界には魔法技術に長けた国があったが、何らかの理由で滅びてしまったという事か。


 そうするとあおいちゃんの遺跡調査をはかどらせて、俺が帰る道を見つけるためにも、魔法国に関する情報を見つけないといけないという事か。


「そんな事が聞きたくて私を呼び出したの?」


 あおいちゃんがそう言ってきたので、俺は一瞬躊躇した。


 あの公爵から言われた事をあおいちゃんに話すかどうか、まだ決めていなかったのだ。


「えっと、あおいちゃんは大公の生活と土いじりしている今の生活で、どっちが気に入っているの?」


 俺がそんな質問をすると、あおいちゃんは眉根を寄せてじっとこちらを見てきた。


「私は考古学者よ。今の生活に決まっているでしょう」


 あおいちゃんが考古学の話を始めると、目が輝いてとてもうれしそうだ。


 この笑顔を守るためにも、何が何でもあの縁談話をご破算にしないといけないな。


「ところで、神威君は何時まで娼館に居候しているつもりなの?」

「え、あの館は元経営者のブルコから譲り受けた物だよ」

「つまり、自分の館を新築するつもりは無いと?」

「そうだね」


 するとあおいちゃんは、「はあぁ」と大きなため息をついた。


「え、なんで呆れられているんだ?」


 するとあおいちゃんは手に持ったスプーンを俺の方に突き出し、上下に振りながら説教が始まった。


「いい、町の人達は貴方が自分の家を建てないから、何時か出て行ってしまうんじゃないかと不安なのよ」

「ま、まあ、地球に帰る方法が見つかれば、そうなるだろうな」

「それは何時?」


 いや、それを調べているあおいちゃんに聞かれてもなあ。


「さあね」

「その間、ずっと町の人達を不安なままにしておくつもりなの?」

「それは・・・」

「いいから、この町に辺境伯館を建てて、皆の不安を取り除いてあげなさい」


 町の人達がやたらと俺に構ってくるのは、そういう訳だったのか。


「分かったよ」

「あ、私の部屋もよろしくね」


 結局、それが目的なのではと思ったが、そこであおいちゃんが住む場所が無かった事に思い至った。


 ああ、これは失敗したな。


 分かったよ。


 あおいちゃんが気に入る部屋もちゃんと用意してやろう。


 そしてあおいちゃんと雑談をしてから浴場を出ると、そこには酒場の店主カストが待っていた。


「カストさん、こんなところで何をしているのですか?」

「ユニス様を待っておりました」

「私を?」

「ええ、約束通り、当店で給仕をしてもらいますよ」

「・・・あ」


 そうして俺は、あの酒場に引っ張って行かれたのだった。


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