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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第7章 アイテールの黒い霧
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7-7 ユニスの忙しい1日2

 

 歓迎されない男達を町の外に放り出させ、ルーチェ・ミナーリをリーズ服飾店に送ってから、ベインに質問をしてみた。


「ルーチェがあの男達に捕まっていた時、何故直ぐに助けてあげなかったの?」


 するとベインの顔が曇った。


「実は、前にも他の人間を助けようとしたのですが、皆さん怖がってしまって。それ以来介入するのを控えています」


 ああ、獣人達のあの本能が爆発する現象か。


 あれも根本的に何とかする方法が見つかればいいんだが、それまでは獣避薬という対処療法しかないんだよなぁ。


 また何か交流イベントでも考えるか?


 ベインと別れて北門を通り過ぎ作業小屋に向かって歩いていると、俺達の姿を見つけたウジェが嬉しそうな顔で走って来た。


「これはユニス様、態々お越し頂いたと言いう事は何か急用でございますか?」

「ごめん、急用じゃないんだ。ホンザを探しているんだけど、ここに居るの?」

「ええ、居ります。今、呼びますので、ユニス様は小屋の中でお待ちください」


 そういうとウジェは軽く一礼してから走っていった。


 俺はジゼルと一緒に小屋の中で待つ事にした。


 テーブルの上には、休憩用のお茶セットとお茶菓子が置いてあった。


 椅子に座って待っていると、小屋に向かって走ってくる足音が聞こえてきた。


 そして「バン」と扉が慌ただしい音とともに開かれると、息を切らせたホンザが入って来た。


「はぁ、はぁ、ユニス様、私に御用と聞いて急いでやって来ました」


 いや、俺は独裁者でも恐怖の大王でも何でもないので、そんなに急いで来なくても怒ったりなんかしないぞ。


 そしてホンザの呼吸が落ち着かせるため、テーブルの上のお茶を一杯用意して渡してやった。


「どうぞ」

「え? あ、え?」


 俺の顔と差し出されたお茶を交互に見ている姿はなんだかパニックになっているようにも見えるが、そろそろ本題に入らせてもらおう。


「ええと、実はお願いしたいことがあるのです。貴方達が使う戦化粧を他の町で売りたいのです」

「へ? あ、あの・・・多少なら問題ないと思いますが、どの位の量を用意すればよろしいでしょうか?」


 数量か、取り敢えずは儀礼科の令嬢達だけでいいか?


 えっと何人ぐらい居たかな?


「とりあえず、30人分かな?」

「まあ、それ位なら問題ないと思います」


 どうやらホンザは1回分と勘違いしているようだ。


 ここは化粧した経験のあるジゼルに聞いてみた方がよさそうだな。


「ジゼル、あの化粧品があったらどれくらいの頻度で使う?」

「そうねえ。外出の度に使うと思うけど」


 ということは毎日か。


「えっと、30人が毎日使う量ね。それを1年分お願い」

「え?」


 俺がそう言うと、途端にホンザは青い顔になっていた。


 流石に1年分は厳しいか。


 えっと、確か社交シーズンは3ヶ月位だったか。


「それじゃあ、3ヶ月分ではどう?」


 そう言ってみてもホンザの顔は青いままだったので、ここはなんだか手伝わないといけないような気がしてきた。


「えっと、材料を集めるのが大変なら私も手伝うけど?」

「ユニス様に手伝ってもらうなんて恐れ多いです。と言いたいところですが、手伝ってもらえるととても助かります」

「ええ、勿論よ」



 そしてヴァルツホルム大森林地帯の奥にあるその採取地に向かって歩いていると、ホンザが大真面目な顔で呟いていた。


「噂は本当だったか」

「噂って何?」


 ついホンザの呟きを俺の耳が拾ってしまったので、聞き返してしまった。


「す、すみません。聞かれるとは思いませんでした。えっと、町の皆が言っていたのですが、ユニス様が居ると魔物が近寄ってこないと」


 ああ、何だか森の魔物は俺の魔力量を感知するようで近寄ってこないんだよな。


「ここです」


 そうホンザが言ったのは森が開けた場所で、地面の人が入れそうな穴がいくつも開いていた。


「えっと、ここでどんな素材を採取するのですか?」

「ここは若者が大人の戦士になるための儀式をする場所なのです」

「大人の儀式?」

「ええ、ここでは地面からストーンウォームという魔物が現れるのです、それを狩るのが一人前の男になる証になるのです。そしてストーンウォームの石の鱗は戦化粧の原料になるのです」


 ああ、だから地面に穴が開いているのか。


 あの穴から飛び出してくるんだろうな。


「どうやって倒すの?」

「普通に剣で戦いますが、鱗が硬いので弱点となる口を狙います」

「分かりました」


 それからしばらく様子を見ていたが、穴から魔物が出てくることは無かった。


「ちょっと、出てこないわよ」

「う~ん、やっぱり駄目ですか」

「駄目ってどういう意味?」

「いや、ユニス様が居ると魔物が出てこないので、もしやとは思っていたのですが」


 ああ、そういう事か。


「そういうのはもっと早く言ってよね。それじゃあちょっと一回りしてくるから、出てきたら任せましたよ」


 そういうと上空に舞い上がり森林地帯をゆっくり一周してから元の場所に戻ると、そこではホンザ達が数匹の魔物と戦っていた。


 ストーンウォームという魔物は大きなミミズのような形状をしていて、その体は赤や黄等の実に様々な色をしていた。


「手伝うわよ」


 そう言って戦闘が行われている場面に下りていくと、ホンザが一瞬こちらを見た。


「ユニス様、口を狙ってください」


 そう言われてもぱっと見、何処に口があるのか分からなかった。


 すると俺が来たことで恐慌に陥ったストーンウォームが、こちらに向かってきた。


 その外皮は文字通り岩にように硬そうで、剣で切りつけても表面を削るのがやっとのようだ。


 何処に口があるのだろうかと思っていると、突然先端がぱっくりと裂けるとそこに無数の歯のような物が現れた。


 そのあまりの変わりように驚き、思わずその口に向けて魔法をぶっ放していた。


「爆炎弾」


 猛烈な業火がストーンウォームの口の中に入っていくと、突然体が爆発して黒焦げになった破片がホンザ達にも降りかかった。


「うぉっ、ユニス様魔法が強すぎます。素材が取れません」

「あ、ごめん」


 あの一瞬、魔物に食われるんじゃないかと思ってしまったのは確かだ。


 確かにあの凶悪な口に向けて武器を振るうには勇気がいるな。


 これが大人の戦士になるための儀式というのも納得だった。


 今度は抑えようと魔物が襲ってくるのを待っていると、既に周りに魔物の姿は消えていた。


「あれ、魔物はどこに行ったの?」

「全部逃げました」


 こうなるとすこぶる効率が悪いな。


 手伝うと言った以上、後をホンザに任せて帰るのもなんだか気まずい。


 すると罠を仕掛けるか、あ、いい事思いついた。


「ホンザ、私は獲物を捕獲するための良い方法を思いつきました。ちょっと準備がありますので一度パルラに戻ります。貴方達は引き続き狩をお願いしますね」

「はい、分かりました」



 そして必要な物を取って戻ってくると、ホンザ達は1匹のストーンウォームを倒していた。


 おお、すごい、この調子なら全種類コンプリートも時間の問題だな。


「ホンザ、すごいわね。これなら直ぐにでも全種類集められそうよ」

「いや、全部の色を揃えるのは、そんなに簡単じゃありませんよ」


 そうなのか。


 まあ、色が偏るなんてことは良くあることか。


 そこでパルラから持ってきた金属糸の先に魔物の肉を括り付けると、地面に開いた穴の中に放り込んだ。


 定期的に金属糸を上下に動かして餌に食いつくのを待っていると、反応があった。


 ググっと金属糸を引っ張る力は強く、腕ごと持っていかれそうになった。


 その強い引きに、元の世界で海釣りをした時のことを思い出していた。


 暴れる魚を逃さないようにしっかりと竿を握り、竿を引いてはリールを巻いて徐々に手繰り寄せるのだ。


 ストーンウォームの体長はこちらよりも大きいので、単純な力比べならあちらが有利に見えた。


 だが、この保護外装の質量は半端ないので、魔物の強い引きにも全く負けていなかった。


 金属糸をぐいと引っ張りながら手繰り寄せると、ずるずると穴の中からストーンウォームが姿を現した。


 そして素早く金属糸に魔法を流して仕留めた。


 俺は久しぶりの釣りの感覚に、気分が高揚していた。


 こんな事なら釣り竿とリールでも作ってみたいが、この大きさだとかなり頑丈に作らないと簡単に折れてしまいそうだ。


 それから次々と釣り上げては一人で奇声を上げていたので、周りでホンザ達があの細腕でどうやって引っ張り上げられるんだという声は聞こえていなかった。


 そして大量に積み上げられた釣果を見上げていると、ホンザ達が検分してくれて全種類コンプリートした事を教えてくれた。


 鱗の色は、ストーンウォームが食べた石や土の種類で変わるそうだ。


 そして鉱物の毒とかは体内に取り込んで解毒してしまうので、その鱗からは安全な顔料が作れるんだとか。


 釣り上げた釣果を運搬用ゴーレムに載せて、意気揚々とパルラに凱旋した。


 そこであおいちゃんから連絡蝶の返事が届き、現実に引き戻された。


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