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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第7章 アイテールの黒い霧
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7-6 ユニスの忙しい1日1

 

 公都エリアルからパルラまで飛行してくると、南門の手前に着地してパルラの町に入った。


 南門では門を警備しているオーバンが出迎えてくれたので、留守中の様子を聞いてみた。


「オーバンご苦労様、不在の間、何かあった?」

「いえ、特には。それとユニス様の紹介状を持ってパメラ殿がやってきました。敵前逃亡の罪で断罪されるんじゃないかとびくついていましたが、ユニス様のお許しがあるのですから問題はないと言っておきました」


 どうやらパメラは無事町に戻って来られたようだ。


 後でバルギット帝国の領事館に寄って、元気な姿でも見てやることにしよう。


 だが、真っ先にやる事はホンザ達と戦化粧の量産について話し合う事だな。


 あの儀礼科の令嬢達の勢いを見たら、これもパルラの特産品になりそうだしね。


 オーバンに聞いておけば良かったが、既に馬車はパルラの町に入ってしまったので、ジゼルに聞いてみる事にした。


「ホンザが何処にいるか知ってる?」

「さあ、分からないわ」


 ま、まあ、ダメ元で聞いただけだし、それなら知っていそうな人物に聞いてみるのが一番だろう。


 町の事なら、清掃に狩猟にといろいろやってくれているベインに聞くのが一番よさそうだ。


 馬車の窓からベインを探していると丁度カフェ「プレミアム」の前を通りかかり、そこの店長であるベルタがこちらに大きく手を振って呼び止めてきた。


「ユニス様とジゼルさん、丁度良かった」

「なんですか?」

「新作のお菓子を作ったので、是非感想をお聞かせ願えませんか?」


 そう頼まれてしまうと断ることもできず馬車から降りると、そのままジゼルと一緒にカフェ「プレミアム」に入っていった。


 店長のベルタはきれいな赤い髪の毛をしているのだが、今はスカーフで覆っているので見えているのはポニーテールにした肩から先の部分だけだった。


 不思議な事に体内の魔力量は瞳の色に現れるのだが、髪の色はどうも関係ないらしい。


 そして店長自ら持ってきてくれたお菓子は、脚の付いた銀製の食器に盛られていた。


「えっと、ベルタさん、これは?」

「実は、ユニス様が公都に行っている間アオイ様に贔屓にしてもらいまして、その時、特別に教えてもらった生菓子と果物の盛り合わせです」


 そういって目の前に置かれた菓子を見て、思わず目が点になっていた。


 プリンアラモードが好きとか、あおいちゃんも意外にかわいいところがあるんだなぁ。


 この世界に百年も居れば、これくらい再現できるのか。


 どうせならガラスの食器も再現すればいいのに。


 いや、これは毒検知用なのか?


 せっかく銀食器に盛られているので変色が無いか見てから、皿の上の載っているプリンをスプーンで掬い、そのまま口の中に運んだ。


 口の中で溶けるそれは、まさしくプリンだった。


 隣ではジゼルも同じようにスプーンで掬い口に含むと、とてもうれしそうな顔になっていた。


「これは売れますよ」


 俺がそう言うと、店長はとてもうれしそうな顔をしていた。


 そして気が付くと、店のテーブルが男性客で埋まっていた。


 どうやら今日も満員御礼のようだ。


「今日も店は大繁盛ですね」


 俺がそう言うと店長は満面の笑みを浮かべて「ゆっくりしていてくださいね」と言って、店の奥に消えていった。


 そして俺の隣ではジゼルが一つため息をついていた。


「いい加減気付いてもよさそうなのに、自覚が無いのは天然なの?」


 そう言ってジゼルは呆れていた。


 俺が何の事か聞こうとしたところで、ベインがひょっこり顔を出した。


「ユニス様、お帰りなさいませ。この店が満員の時は、居場所が直ぐに分かって助かります」


 それはサボっているのが直ぐ分かるという事ですか?


「何か、あったの?」

「ええ、ちょっとした事なのですが、ユニス様にはお伝えしておいた方がいいだろうと思いまして」


 ベインの話では、最近この町にはヴァルツホルム大森林地帯で素材採取をするハンター達が、立ち寄るようになったそうだ。


 そしてこの町の若い女性達が俺の服装に影響されて、とても開放的なものだから女性にしつこく絡んでくるんだとか。


 それで俺も被害に遭うのではと、心配になって知らせたかったらしい。


 そこで自分の服装を見ると、公都の堅苦しさから解放された反動でスカートはかなり短いし、上着はノースリーブなうえ、へそも出ていた。


「ベイン、知らせてくれてありがとう。ところで、ホンザがどこにいるか知ってる?」

「ああ、ホンザ達犬獣人は、ウジェ達の畑の手伝いをしています」


 どうりで街中で見かけないはずだ。


 俺達は店を出て北門に向かう事にした。


 その時、周りの客達からかすかな残念そうな声が漏れた事に気が付かなかった。


 カフェを出て北門を目指して歩いていると、目の前には武装した男達に囲まれている女性の姿が見えた。


 その女性はルーチェ・ミナーリで、とても困った顔をしていたので声をかけてみることにした。


「ルーチェさん、大丈夫?」


 俺がそう声をかけるとルーチェ・ミナーリはほっとした顔になると、俺の方に駆け寄って来た。


「ユニス様ぁ、戻っていたのですねぇ。お会いできてとっても、とっても、うれしいですぅ」


 なんだか涙目になっているのは、気のせいではなさそうだ。


「これは丁度いい、女が増えたぞ。俺はあの尖った耳の方な」

「じゃあ、俺はあの獣耳でいいや」


 ルーチェの後ろの方で不穏な会話が聞こえてきた。


 こちらに近づいてきた4人は防具を身に纏い武装もしていることから、どこかの会社に所属しているハンターのようだ。


「ほう、これは上玉じゃねえか」

「なんだ、なんだ、こんな恰好をして男を誘っているのか?」


 ハンターの男はそういうと俺の周りを一周しながら、舐めまわすような視線を投げてよこした。


 俺の事を知らないということは、この町についても碌に下調べをしてこなかったのだろう。


「この町でそのような下品な行動をすることはご法度ですよ。女性を見たいのならさり気なく、相手に気づかれないように。それが出来ないというのなら、この町にはふさわしくないので出て行ってもらいます」


 俺がそう言いうと男たちは、突然噴き出すと腹を抱えて笑い始めた。


「ブハハハ。これは最高だ。俺達に意見しているぜ」

「これは個室でたっぷり、手取り足取り教えてやらないとな。ヒヒ」

「それじゃ、早速行こうか。お嬢さん達。ケケ」


 男達のそんな脅し文句に、ルーチェ・ミナーリが震えながら俺の背中に周り身を隠していた。


 全く、若いお嬢さんを怖がらせるとは困った連中だな。


 そして男の1人が俺の手首を掴んできた。


「さっさと来い」

「微弱雷」


 藍色の魔法陣が展開すると電撃を受けた男がビクリと体を硬直させた後、白目を剥いて地面に倒れこんだ。


 他の男たちは一瞬何が起こったのか分からず固まっていたが、そこは実戦経験のあるハンターのようで、直ぐに戦闘態勢を取ると剣をこちらに向けてきた。


「良くもやってくれたな。俺達はバンテ流通会社のハンターで、今仕事中なんだ。この落とし前は高くつくぜ」

「へえ、高いとはどの位なの?」

「そんなの決まっているだろう。へへ」

「そうさ、2、3日は眠れないと覚悟しておくんだな。ヒヒ」


 全く、こういう連中は何処にでもいるんだな。


 バンテ流通会社というと、ハッカルとツィツィが所属している会社か。


「分かりました。どうやら貴方達はこの町に相応しくないようですね」

「ほう、随分偉そうじゃないか。田舎者過ぎて、言われている意味が分かっていないんじゃないのか。ハハ」


 実力で排除してもいいのだが、人間には権力の方が効果的だろうな。


「私、パルラ辺境伯ユニス・アイ・ガーネットが命じる。パルラの町に相応しくないこの男達を速やかにつまみ出しなさい」


 すると何処からともなくやって来たベイン達が、ハンター達を取り囲んだ。


「パルラ辺境伯だと、お前が?」

「え、なんで亜人がお貴族様なんだ?」

「こいつらいつの間に、おい嘘だろう」


 ベイン達に取り囲まれ、俺の正体を知った男達は、これ以上抵抗するのはまずいと認識したようで大人しくなっていた。


「バンテ流通会社の所属員は、今後パルラの町への出入りを禁じます。ベイン、その男達を町の外へ放り出しなさい」

「了解いたしました。辺境伯様」


 おう、おう、ベインもノリが良いなあ。


 すると途端に男達が慌てた様子で抵抗しだした。


「ま、待ってくれ。いや、待って下さい。俺達はこの町に拠点を設置するための事前調査に来たんだ。いや、来ました。このまま追い出されたら困るんだ、です」

「そんなことは知らないわ。それにこの町の治安が悪くなるような人達は歓迎しないと、社長にはそう伝えるのね」


 そしてベイン達に合図をして男達を南門の外に連行させた。


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