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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第7章 アイテールの黒い霧
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7-4 不浄なる者達への審判

 

 奥の院で開催された御前会議に集まった人達は、大教皇と視線を合わせられず皆俯いていた。


 それというのも、リングダールが大聖堂地下で何が起こっているのか報告したからだ。


 そして最下層で出会った死霊術師が喋った内容は、皆にとってかなり衝撃的だったようだ。


 それはそうだろうあの死霊術師が言った「我を殺したアイテールの一族には永遠の罰を」という言葉を聞けば、誰だってあれが最悪の魔女の成れの果てだと思うはずだ。


 ロヴァルの女狐の骨をこの国に持ち込んだのはドートリッシュであり、ロヴァル側の度重なる返還要求に応じなかったのはル・ペルテュのメンバー達だったからだ。


 彼らが今回の事件の原因を作った張本人なのだ。


「すると最悪の魔女はジュビエーヌに乗り移ったのではなく、骨のまま不浄なる者として蘇ったというのか?」


 誰も口を開かないので、代表として統括のチェスターフィールド卿が尋ねてきた。


「その可能性がありますな」

「すると我々は、態々最悪の魔女の骨を持ち帰り、それが復活して、恐れ多くもアイテール一族のご遺体が不浄なる者になってしまったという事なのか?」


 チェスターフィールドのダメ押しに、骨を持ち帰ったドートリッシュが頭を抱えて固まっていた。


「その可能性が高いでしょう。しかもアンデッド、失礼、不浄なる者は文字通り不死で何度倒しても蘇ります」


 おっといけない。


 ディース教では、アンデッドとは言わず不浄なる者と呼ぶんだったな。


「それでは、どうするのだ?」


 チェスターフィールド卿の質問に皆押し黙ってしまった。


「死霊浄化の魔法を使うしかないだろうな」


 誰も発言しない中、そう言ったのは猊下だった。


 死霊浄化魔法は橙色魔法の1つで、魔法陣内のアンデッドを完全浄化する効果があるのだとか。


 リングダールは大教皇しか入れないという禁書庫に入れてもらった時に、そこに保管されていた虹色魔法に関する書籍からその魔法について教えてもらったのだ。


 あの時猊下は消費魔力量が大きすぎて人間には使えない橙色魔法でも、大量の魔宝石を集めれば使うことが出来ると言っていたのだ。


 そして猊下は万が一に備えて、魔宝石を集めさせていた。


 それから対アンデッド用の魔法には、最上級の赤色魔法に「豊穣なる大地形成」という物もあり、これは汚された大地ごと一気に浄化してしまう大魔法だった。


 リングダールは猊下の命でその魔法書があると言われた場所を探索したのだが、結局見つける事が出来なかったのだ。


 探索が不調に終わった理由は分からないが、見つけられる条件が整っていなかったのだろうとは推測していた。


「それでは作戦を伝える。私は大聖堂地下1階で不浄なる者達を迎え撃とう。私の護衛と不浄なる者達を魔法陣の中に押し留めておく役割はリングダール、お前に任そう」


 リングダールは、自分の主人から護衛役を任された事を誇りに思っていた。


「はっ、しかと承りました」

「そしてお前達はその間、どこか別の場所にでも避難しておれ」


 猊下はチェスターフィールド卿達を見てそう言った。


 だが、その言葉に素直に従えない者も居るようだ。


「猊下、私は恐れ多くもこの国の兵権を預からせてもらっております。こんな国の一大事に他所へ行けと言われて、はいそうですかとは素直に従えません」


 不満を口にしたのは軍事局のベルグラン卿だった。


 軍事局はロヴァル公国に攻め込みそしてパルラで負けて撤退した事で、ル・ペルテュの中で肩身の狭い思いをしているのだ。


 このような一大事で猊下の役に立てないとなると、いよいよ居場所が無くなると心配しているのだろう。


「猊下、ベルグラン卿には作戦中信者の方が礼拝殿に入ってこないよう、警備してもらった方がよろしいのではないでしょうか?」

「ふむ、ではそのように」


 猊下は少し考えてからそう言われた。


 ベルグランはこの言葉でようやく顔を上げることが出来たようだ。


 ベルグランにこれは貸ですよと目で合図を送ると、相手もそれに気付いたようだ。




 大聖堂地下1階には、猊下にお仕えする司祭達が集まっていた。


 彼らは猊下が橙色魔法が使えるようにと、魔宝石と魔力結晶を持ち込んでいるようだ。


 リングダールも教都に居る配下80名を集めて、護衛の準備は万端である。


 そして今、地下1階のカタコンベに通じる閉鎖された通路の壊された扉の前で防衛線を展開していた。


 アンデッドが現れたらリングダール達が壁となって止めている間に、猊下が浄化魔法を撃つ手はずになっていた。


 やがてカタコンベの入口を監視していたヤルテアン達が、緊迫した表情で現れた。


「隊長、石蓋が破られました」


 ヤルテアン達を防衛線に加えると、部下達に号令をかけた。


「構え」


 するとあの黒い霧のような物が、地下1階の床をこちらに向かって流れ込んできた。


 それから直ぐ廊下の先から大人数の足音が聞こえてくると、壊れた扉を越えて元研究員や看守達のアンデッドが現れた。


 そしてその後にはボロボロの埋葬服を着たスケルトンがいて、手に副葬品と思われる杖や剣が握られていた。


「皆、一歩も引くな」


 リングダールが命じると部下達は剣を抜き構えた。


 リングダール達大教皇親衛隊80名がアンデッドを防衛線に押し留めていると、その後ろにあの黒霧を纏った死霊術師が現れた。


「猊下、あれです」

「うむ、分かった」


 すると目の前のアンデッド達の地面に、橙色の魔法陣がうっすらと現れた。


 後はあの魔法陣が完成するまでの時間、アンデッド達をあの魔法陣の中に留めておくのが俺達の仕事となる。


「お前達、魔法が発動するまで防衛線を死守しろ」

「「「はっ」」」


 自分達が魔法の有効範囲内にあることを悟ったのか、死霊術師の前に青色の魔法陣が現れた。


「フラム展開」


 防衛線では、親衛隊80人がアンデッド達と戦闘を繰り広げていた。


 部下たちは、アンデッドをホネキリで切り捨て、蹴とばして魔法陣の中に押し留めていた。


 アンデッドはそんな部下達を防衛線から引っ張り出し、引き倒して自分たちの仲間にしようとし、その隙を狙って後ろに居る死霊術師が魔法弾を撃っては迂闊な部下を仕留めていた。


 そして時間の経過とともに、死なず疲れも知らないアンデッド達に服や腕を掴まれそのまま引きずり倒され止めを刺される部下が増えてくると、防衛線のあちこちに穴が出来るようになってきた。


「ファルク、防衛線に穴があるぞ。付け込まれる前にふさげ。全く、今度許可なく防御線に穴を開けた者は、後で懲罰にかけろ」


 リングダールがそう言うと、意外にも周りから笑いが漏れていた。


 まあ懲罰にかけるも何も、死んでしまった者を懲罰になどかけられないのだから、俺の冗談だと皆分かっているようだ。


 リングダールは戦闘中であるにもかかわらず、パルラでの戦闘の事を思い出していた。


 あの時は雌エルフが防衛役で赤色魔法が完成するまでの間、魔法を邪魔しようとする俺達から術者を守っていた。


 百人の魔法騎士で赤色魔法が完成する前に術者を倒そうとしたのだが、あの赤い瞳をしたエルフは涼しげな顔で目の前に沢山の魔法陣を展開し、味方を次々と撃ち落としていったのだ。


 その時、俺はあの雌エルフの戦う姿が美しいと思ってしまったのだ。


「お前達、気張れ」


 リングダールはアンデッドと切り結んでいる部下達を督戦しながら、自らも飛んでくる魔法弾をフラムで防ぎ、眼前のアンデッドの剣を弾き、蹴り飛ばした。


 永遠と思える時間を耐えていると、ようやくその時が来た。


 アンデッドの足元で橙色の魔法陣が完成したのだ。


 背後から猊下の声が聞こえてきた。


「不浄なる者達へ正義の審判を下せ。死霊浄化」


 橙色の魔法陣から暖かく輝く光が広がっていった。


 勝った。


 リングダールがそう思うと周りの部下達も同じだったようで、いつの間にか周り中から歓声が上がっていた。


 そして魔法の効果が無くなってくると、徐々にその光が弱くなり目の前の状況が見えるようになってきた。


 そこには死霊術師を中心にアンデッドが集合していた。


 嘘だろう。


 リングダールがそう心の中で毒を吐いていると、後ろから猊下の声が聞こえてきた。


「信じられん。あの瞬間、空間障壁の魔法を展開したのか」


 空間障壁の魔法とは橙色魔法の防御魔法だ。


 するとあの死霊術師は、橙色魔法までも使えるということか。


 そんな相手どうやって討伐すればいいんだ?


 リングダールが睨みつけると、死霊術師は笑ったように感じた。


 それはこちらの攻撃をあざ笑っているかのようだった。


 絶望感が周囲に広がっていくに伴い、死霊術師の方からあの黒い霧が猛烈な勢いで噴き出してきた。


 まずい、あれに捕まったら暗闇の中で何も見えず全員やられてしまうぞ。


 リングダールは撤退を命じると、自身も猊下の体を持ち上げて必死に走り出した。


高評価ありがとうございます。

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