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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第7章 アイテールの黒い霧
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7-3 死霊術師

 

「初代様?」


 リングダールは思わずそう言った事を後悔していた。


 そもそも相手はスケルトンで会話自体出来るはずが無いというのに、あまりの驚きで思わず声をかけてしまったのだ。


 リングダールはアイテール一族を傷つける権限を得ていないので、このスケルトンが初代様だったら即座に地上に戻り猊下に報告する義務を負っていた。


 そして拾った物は、棺の中に入れられているはずの副葬品で間違いないので、目の前のスケルトンが初代様の成れの果てである可能性があるのだ。


 だが地下1階に保管されていたロヴァルの女狐の骨の所在が不明な点も、気になっていた。


 すると目の前のスケルトンに変化が生じた。


 地面に溜まっていた霧のような物がその体に集まっているのだ。


 やがて骨だけだった体に黒い霧がその輪郭を形成していくと、心臓当たりが白く、目の部分が赤く光った黒い人形が出来上がったのだ。


 そしてその人型が喋った。


「我を殺したアイテールの一族には永遠の罰を」


 永遠の罰とは、アイテール一族が最悪の魔女に背負わされた呪いの事を言っているのだと直ぐに気が付いた。


 そしてその罰を与えた人物は1人しかいない。


「まさか、お前は、お前は最悪の魔女なのか?」


 だが、リングダールの質問は無視された。


 それは質問には答えず、手を振ると体を纏っていた黒い霧が飛び、先ほど倒した研究員の骸に纏わりついたのだ。


 すると研究員達の骸が立ち上がり、再びこちらに襲い掛かって来た。


 首が無い体にホネキリで切りつけるが、今度はいくら切っても再び立ち上がり襲い掛かって来た。


「隊長、これではきりがありません」

「剣が効きません。どうすればよろしいでしょうか?」


 疲れを知らず、死ぬこともないアンデッド相手に時間をかけるのは悪手だ。


 このままでは、いずれこちらが力尽きて飲み込まれてしまう。


 この骸達を操っているのはあの黒霧を纏ったスケルトンで間違いないだろう。


 ということは、あれは死霊術師ということになる。


 なら一思いに切り捨てるのみ。


「イェルム、ニリアン、道を開けろ。俺があの死霊術師を切る」

「「はっ」」


 群がるアンデッドを切り伏せ何とか死霊術師までの道を開くと、リングダールは飛び出した。


 イェルムとニリアンが切り開いた道を一気に走り抜け、あと少しで死霊術師を剣の間合いに入れられるというところで、死霊術師の前に青色の魔法陣が現れた。


 青色魔法だと。


 リングダールはすんでのところでフラムを起動すると、目の前では魔法の盾が火炎弾を防いでいた。


 だが、近距離で魔法弾を受けたのでその反動で後ろに弾き飛ばされた。


 死霊を操るだけじゃなく自ら魔法まで使うとは、あれはやはり最悪の魔女なのか?


 再び攻撃を仕掛けようとしたところで、奥の玄室から新手が現れた。


 そのスケルトンが纏っているボロボロになった衣装は、僅かにそれがディース教の最高位の埋葬衣装と判別できた。


 その姿は一目見れば初代様と分かるものだった。


 もはや初代様がアンデッドになってしまったらリングダールに出来ることは、急いで地上に戻り、猊下にこの事実をご報告する事になっていた。


「くそっ、撤退するぞ」


 その言葉を相手が理解したのか、猛烈な魔法攻撃が始まった。


 魔法を使う死霊術師は、無詠唱で魔法を放つ度に胸の白い玉が強く光っていた。


 それが魔力の根源だろうとそれを狙って魔法攻撃を行うと、今度は初代様のスケルトンが手に持った魔法の杖で魔力障壁を展開して防いでしまうのだ。


 初代様の魔法は、手に持った魔法の杖に嵌め込まれている魔宝石が魔力の根源のようだが、あの大きさだと魔力切れは望めそうもなかった。


 そして死霊術師に操られた元研究員のアンデッドは、こちらの退路を断とうと回り込んで来ていた。


 唯のアンデッドなら連携した動き等しないので倒すのも簡単だが、今はあの死霊術師が操っているので効率的にこちらを追い込もうとしていた。


 今いる場所は階段がある洞穴を拡張した場所で、地下2階まで吹き抜けとなっていた。


「イェルム、ニリアン飛ぶぞ」


 リングダールは部下たちに声をかけてから飛行魔法で舞い上がった。


 アンデッドは飛べないので注意するのはあの死霊術師の魔法だけだ。


「魔法攻撃に注意しろ」


 そう言って下を見下ろすとあの死霊術師の正面に緑色の魔法陣が現れた。


 まずい。


「お前達気張れ、射程距離から脱出するんだ」


 リングダールはフラムを展開してこちらを狙っていた爆炎弾を防いだが、その威力でフラムが対消滅していた。


 そしてリングダール自身も魔法弾の威力に弾き飛ばされて、地下4階に投げ出されていた。


 リングダールはそこでヤルテアンに受け止められていた。


 そこには地下4階の調査隊であるヤルテアン達の他、地下3階を担当していたエドバリ達も居た。


「お前達、異常はあったか?」

「地下4階、問題なしです」

「地下3階、異常なし。それで隊長、下でいったい何が?」

「撤退だ。イェルム、ニリアン無事か?」

「はい、何とか」


 イェルムとニリアンの2人は、地面に倒れていたが無事を知らせてきた。


 ここから逃げるにしても洞穴の空間を飛ぶと、また魔法の恰好の的になってしまうだろう。


「階段で地下2階まで上るぞ」


 そういった時、最下層から水位が上昇するように黒い霧が溢れてきて地下4階に到達すると、そのままカタコンベの方へ流れて行った。


 まさか。


 リングダールの懸念は直ぐ現実の物として現れた。


 カタコンベの方からアイテール一族のアンデッドが出てきたからだ。


 ヤルテアンの悲痛な声が聞こえていた。


「あれは先代様です」

「アイテールの方々が続々と出てきました」

「駄目だ。俺たちはアイテールの一族を害する権限が無い。急いで地上に戻るぞ」


 そして地下2階に辿り着くと、そこではファルク達がアンデットと戦闘中だった。


 そのアンデッドは服装から地下1階の看守達だと思われた。


「リングダール隊長、こいつらいくら切っても立ち上がってきます」


 リングダールはファルクのその言葉で地面を見ると、そこには黒い霧の膜が覆っていた。


「そいつらは死霊術師が操っている。地下1階に上がってこいつ等を閉じ込めるんだ」


 リングダールがそう命じたところで、最下層を覗いていた部下が叫び声を上げた。


「下から何か来ます」

「何かとはなんだ?」

「赤い光が2つとより大きな白い光が見えます」


 それを聞いたリングダールは、直ぐにそれがあの死霊術師だと気が付いた。


「気をつけろ、そいつは敵で、魔法を撃ってくるぞ。警戒しつつ撤退する」


 そして部下にフラムを起動させると、的にならないように階段を駆け上がっていった。


 動きが鈍いアンデッドを振り切ると、ようやく地下1階に通じる場所に到着した。


 この上にはアンデッドが復活している可能性もあったので、武器を抜いて何時でも相手を切り伏せられるようにしながら駆け込んだが、そこにあったのは破壊されたままの石蓋だけだった。


 全員戻ってきたところで石蓋を元に戻すと、その上に目に付く物を重石として石蓋の上に載せていった。


「これで少しは時間稼ぎが出来るだろう。俺は急いで猊下に報告してくる。エドバリとヤルテアンの班はここで監視、ファルクの班は宿舎に行って全員集めてこい」

「「「はっ」」」


 リングダールは管理棟に居るドートリッシュに御前会議の招集を伝えると、そのまま奥の院に走っていった。


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