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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第7章 アイテールの黒い霧
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7-2 大聖堂地下の捜索

 

 大聖堂地下を調査するための人員が管理棟に集まると、そこで役割分担について相談が始まった。


 当然地下1階がドートリッシュ、そしてそれよりも下の階がリングダールの調査範囲になるのだが、ここでドートリッシュが地下1階の調査に人員を分けてほしいと言ってきたのだ。


 元々こちらは1階あたり3名の人員しか手配していなかったので、管理外の地下1階に割く余分な人員は居ないのだ。


 そこで仕方なく全員で先に地下1階の調査に協力し、その後カタコンベを調査することにした。


 ドートリッシュの方でも10名を地下1階の調査に準備しており、22名で地下1階に通じる階段を下りて行った。


 リングダール達の出番は、ドートリッシュから依頼があった場合なので、暫くはドートリッシュ達の後をついていくことになっていた。


 最初に向かったのは、アンデッドになったあの男の勤務場所である研究所だ。


 あの男が最後に口にした、ロヴァルの女狐の骨が保管されている場所でもあった。


 現在の最大の関心事は、その骨がどうなっているかだ。


 研究所の入口がある通路に差し掛かると、調査隊の足取りが慎重なものに変わっていた。


 リングダールはいつでも剣を抜いて駆け付けられるようにしていた。


 そして見えてきた扉は大きく開け放たれていたが、耳をすませてみても中から物音は聞こえてこなかった。


 ドートリッシュはちらりとこちらを見てきたので、俺も何時でも飛び出せる事を頷いて知らせてやった。


 ドートリッシュは俺たちに中に入ってほしくないみたいで、こちらに待機するように手で合図してから研究所内に入っていった。


 そしてしばらくしてから姿を見せたドートリッシュは、青い顔をしていた。


「リングダール殿、研究員が誰一人居ないのだ。そして女狐の骨も無くなっている」


 骨が勝手に歩くはずがないので、研究員の誰かが持ち出したのではないかと尋ねると、手に持った記録簿を広げながらそれは無いと一蹴した。


 その記録簿はあの男が毎朝盗難が無いか記録しているもので、今朝の記録を見ると異常なしと記載されていた。


 研究所の中は争った形跡もなく、ただ忽然と人だけが消えていた。


 そして他の牢屋や拷問部屋等も探したが、誰一人そこには居なかった。


「ベッグといったか、あの男が地上に上がってきたという事は、他にも地上に上がって来たとは考えられないか?」


 だが、ドートリッシュは首を横に振っていた。


「それは無い。1階を探したとき研究所員の姿は無かったし、罪人が地上に上がってきたら直ぐに分かる」


 すると残る可能性は更に地下深く潜ったという事だ。


「では我々が地下2階から下を捜索する。他の連中があのベッグとかいう男と同じ状態だったら始末してもよいな?」

「やむを得えまい。それにしてもこの人員の損失は痛手になりそうだ。猊下になんとお詫びすればよいか」


 ドートリッシュはそう言って渋い顔になっていた。


 ここの研究所ではアイテール一族の呪いの研究も行っていたのだから、その落胆もやむを得ないだろうな。


「救えるものなら救ってみるが、あまり期待はしないでくれよ」

「ああ、すまないな」



 地下2階のカタコンベに降りる階段は、普段人が通らない通路の先にあった。


 その通路に入るには鍵がかかった扉を開ける必要があるのだが、その扉は壊されていた。


「全員、警戒」


 リングダールは隣に居るファルクに軽く頷くと、ファルク達第2班の3名が先に扉の中に入っていった。

 すると直ぐに戦闘音が聞こえてきた。


 リングダールも応援のため中に入っていくと既に戦闘は終わっており、周りに散らばっている戦闘の痕跡から此処にいたのは牢の囚人と思われた。


 此処に居ない牢の看守と研究所の職員は、この先に居るのだろう。


 警戒しながら先に進むと、カタコンベへの入口に辿り着いた。


 そこは普段は聖遺物である石蓋で封印されていて、万が一にも埋葬者がアンデッドとして復活しても外に出られないようになっていた。


 だが、そこには壊された石蓋があるだけで、カタコンベへの入口がぽっかりと口を開けていた。


「お前達気を抜くな」


 そしてしばらく様子を見て無いも出てこないことを確かめてから、中に入ることにした。


「ファルクの第2班は地下2階、エドバリの第3班は地下3階、ヤルテアンの第4班は地下4階そして1班は俺と一緒に最下層に向かうぞ」

「「「はい」」」


 大聖堂地下のカタコンベは、元々は自然の洞穴を整備して地下5階まで降りる階段が作られている。


 そして各階から更に横穴が伸び、そこにカタコンベがあるのだ。


 地下2階に降りるとそこは不気味なほど静かだった。


 リングダールは声を出さずにファルクを見ると頷いて送り出した。


 第2班が地下2階のカタコンベに向かうと、リングダールは他の班を連れて更に地下に降りて行った。


 +++++


 地下2階の調査を任されたファルクは第2班の仲間達を見回し、皆が普段通りの力が発揮できるように深く深呼吸させ落ち着かせた。


「これからカタコンベに入る。先頭は俺、その後はヴェリーンそして最後尾はシーンバリの順番で入る。後油断するな」

「「はい」」


 地下2階のカタコンベへの入口は、階段から伸びる細い通路の先にあった。


 カタコンベの中も通路が狭いので大人数で入ってもかえって身動きが取れず敵に後れを取るので、3人という人員は中で自由に動き回るには丁度良いのだ。


 ここから先は縦隊でしか侵入できないので、ファルクが先頭に立ち一歩一歩慎重に進んでいった。


 照明の魔法に照らされる通路の先に見えてくるのは、前にも見たことがあるカタコンベだった。


 カタコンベは左右の壁に3段の空間が作られ、そこに遺体が安置できる設計になっているが、今ここを使っているのはディース教の高僧が数名だけだった。


 空いている空間を飛ばして奥に進むとそこには 安置されている遺体があった。


 すでに骸骨になっている遺体は、埋葬された当時の服がそのままの状態で残っていた。


 ファルクが見た感じ遺体に別段おかしなところはなかった。


 だがその時、最後尾にいたシーンバリの緊迫した声が聞こえてきた。


「ファルク隊長」


 ファルクが後ろに視線を送ると、そこには数名の男達に囲まれたシーンバリの姿があった。


 集まっている男達の服装はどうやら地下1階の看守のようだった。


 思わず声をかけようとしたが、その男達の土気色の顔はどう見ても生者のそれではなかった。


 +++++


 リングダール達は、埋葬された遺体が無い地下3階をエドバリに任せ、更に下の階に降りて行った。


 地下4階には、2代様から先代様までのアイテール一族が埋葬されていた。


 異変があって問題となるのがこの地下4階からだ。


「ヤルテアン、お前達はこのままカタコンベを調べてきてくれ」

「分かりました」


 リングダールは残った2人の顔を見た。


 2人とも毎日の訓練を共にしている頼りになる仲間だ。


 地下5階には、このアイテール大教国を建国した初代様の亡骸を安置してあった。


「いくぞ」

「「はい」」


 最下層に通じる階段を下りていくと、他の階とは違う事に気が付いた。

 魔法の光で照らし出された最下層の地面は、光を飲み込む暗い霧が比重の重い気体のように広がっていた。


 静寂と暗闇が支配するその場所は、奥に初代様の棺が納められた玄室があるはずだったが、今は深い闇の中に飲み込まれていた。


 リングダールは階段の終わりまでたどり着くとそこで一度止まり、それが人に害する物なのかつま先をそっと霧の中に入れてみた。


 足に纏わりつくような霧は、特に害をもたらすような物ではなさそうだった。


 だが、奥に居る何者かには侵入者の存在を知らせる警報の役割を果たしているようで、奥の玄室から研究員の恰好をした人々が襲い掛かってきたのだ。


 その土気色の顔に濁った眼を見れば、それが死人だということは直ぐに分かった。


 リングダールはホネキリを抜くと、先頭の死霊の首を切り落とした。


 部下2人も腕が立つので、数が多くても動きの鈍い死霊など相手にならずあっという間に制圧していた。


 どうやら地下1階に居た人間に生き残りは居ないようだ。


 最後に玄室に異常が無いことを確かめてから撤収しようとしたところで、背筋にぞくりと嫌な感触が込みあがってきた。


 この先に何かが居る。


 先程から俺の第六感が、これ以上先に進むなと危険を知らせてきた。


 そんな俺の気持ちが伝わったのか他の2人もその場でホネキリを抜くと、俺の両脇を固めていた。


 リングダールが耳を済ませると、やがてカタカタというかすかな音が聞こえてきた。


 その音はこちらに近づいてくるのが分かると、ゆっくりとホネキリの柄に手をかけた。


「ガキン」


 何かが飛んできたので思わず剣を抜きそれを切り捨てたが、手の感触からそれが何か硬い物だと感じた。


 それは玄室にいる何者かが投げつけてきたのだが、そこにあるのは初代様の骸と副葬品以外考えられなかった。


 初代様の骸がアンデッド化したのなら、その処分は同じアイテール一族が行う決まりになっていた。


 このためリングダールの最優先課題が、そこにいる何者かの正体を探ることに移っていた。


 つま先で地面を探ると、先ほど剣で撃ち落とした物が当たった。


 それが初代様と一緒に石棺に収められた副葬品なら、石棺が開いた事が確かめられる。


 それを確かめるため拾いたいのだが、奥にいる何者かがその隙を狙っている可能性もあるので、迂闊に拾うことが出来なかった。


 だが、確かめない訳にもいかないのだ。


「イェルム、ニリアン、前方注意」

「「はっ」」


 リングダールは2人に正面の対応を任せると、素早くしゃがみ込んでそれを拾った。


 そして立ち上がると目の前にスケルトンが立っていた。


 スケルトンの肋骨の中には光る玉があり、頭蓋骨の眼窩の奥には炎が宿っていた。


「初代様?」


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