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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第6章 公都訪問
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6―29 儀礼科の令嬢達

 

 悪戯を仕掛けた男子学生が俺の前で跪いて謝罪を口にしていると、遠巻きに見守っていた学生の中から声が聞こえてきた。


「何をしているのだ?」


 振り返るとそこには中年の男性が立っていて、身なりから見て教師のようだ。


 俺はこの状況をどう説明しようかと考えていると、その教師が後ろから駆け込んできた令嬢に突き飛ばされた。


「あら、これは失礼しました」


 そう言って入ってきたのは、ふわふわした金髪にかわいい髪飾りを付けた令嬢だった。


 その学生のネックスカーフの色は黄色だった。


 確か学校長の長い話の中で、黄色のネックスカーフは儀礼科だと言っていたような。


「やっと見つけましたよ、ガーネット様。もう、儀礼科にはガーネット様が学校に来るという事を誰も教えてくれないので、校庭で見かけたという話を聞いた時は驚きました。儀礼科の皆で手分けして探していたのです」


 え、なんで、俺捜索されているの?


「あの、どちら様でしょうか?」

「あ、失礼しました。私はコルネーリア・ジルダ・シュレンドルフと言います」

「シュレンドルフというと侯爵家の?」

「はい、3女です。建国祭3日目の舞踏会に出席できなかったので、ご挨拶が遅れました。父からは色々と話を伺っています」


 そういうとにっこり微笑んだ。


「初対面なのによく私だと分かりましたね」

「え、だって、その耳を見ればすぐに分かりますし、獣人さんを連れていれば見間違えるはずがありません」


 ああ確かに人間しかいない場所だと、目立ちまくりだよね。


「実は舞踏会に参加していた子達が儀礼科に居るのです。それで化粧の話が出て、あの時のお話の続きが聞きたくて探していたのです」


 ああ、あの獣人の戦化粧の件ですか。


「という訳で、ささ、ガーネット様、皆待っていますので一緒に儀礼科まで来てください」


 そう言って俺の腕を両手で掴むと教室の外に出ようとしていた。


 いや、来てくださいと言われてホイホイいける場所なのか?


「ちょっと待ってください。学校長に魔法科の授業を受講する許可は貰いましたが、儀礼科の許可は貰っていませんよ?」

「あ、大丈夫です。儀礼科は基本自習ですから」


 そう言ってコルネーリア嬢にぐいぐい引っ張られるので、仕方なくジゼルに声をかけた。


「ジゼル御免、一緒に来てくれる?」

「うん、いいわよ」


 俺はコルネーリア嬢出現のインパクトが大きかったので、先ほど声をかけてきた教師の事をすっかり忘れてしまった。



 コルネーリア達に連れて来られたのは教室ではなく広いサロンだった。


 サロンにはテーブルが10台あり、奥のカウンターには厨房があるようだ。


 テーブルには豪華な刺繍を施されたテーブルクロスと、その上に綺麗な花を飾った花瓶が置かれていた。


 テーブルの半分は令嬢達によって使われていて、中央の空いているテーブルに案内された。


 その席に俺とジゼルそれとコルネーリア嬢が座ると、それを待っていたかのように給仕係が現れ、慣れた手付きでお茶を配ってくれた。


 お茶が用意された後で、コルネーリア嬢が俺に深々と頭を下げてきた。


「ガーネット様、フェルダがルフラント軍に攻められた時、助けて頂いてありがとうございました」


 ルフラント軍というと、シュレンドルフ侯爵にジュビエーヌの檄文を持って行った時の事を言っているのだろう。


「礼には及びませんよ。侯爵には私もお世話になっておりますし、お互い様という事でよろしいのではないでしょうか」


 俺がそう言うとコルネーリア嬢は、嬉しそうな顔でお礼を言ってきた。


「ガーネット様にそう言って頂けると嬉しいです。あの時フェルダは陥落寸前だったと聞いております。ガーネット様のお陰で私は家族と領民の皆さんを失わずに済みました」


 あの時ってそんなに危なかったんだね。


「あ、それとお約束の小麦を届けに行った者から、パルラという町はとっても刺激的だったと聞きました。私はエリアル西街道の街にしか寄った事が無いのですが、そのような街は何処にも無かったのでちょっと興味が湧きました」


 そういえば侯爵から荷馬車隊が送られてきて、小麦問題が一気に解決したんだっけ。


 あの時の輸送隊メンバーは、魔素水浴場やプールバーで明け方まで大騒ぎして大金を落としていったと、ブルコがほくほく顔で話していたような。


「えっと、ちょっと娯楽が多い町って感じですかね」

「娯楽、ですか?」

「ええ、体を動かす遊技台があちこちに置いてあるのです」

「まあ、それはちょっと興味が湧きますね」


 ああ、やっぱり。


 このシュレンドルフ侯爵家のご令嬢は、深窓の令嬢というよりも馬に乗って野山を駆け回るのを好みそうだと感じてたんだよね。


 だから体を動かす娯楽に興味を持つかなと思ったが、どうやら正解だったらしい。


 すると後ろからやってきた2人の令嬢が、コルネーリア嬢を左右から挟み込むように体を寄せてきた。


「コルネーリア様、そろそろ私達の事を紹介してくださいませ」

「あら、これは失礼しました。ガーネット様、こちらのご令嬢は」


 コルネーリア嬢がそう言うと、その後を継いでその令嬢が自己紹介してきた。


「ガーネット様、私はバスクヮーリ伯爵家の3女アンナリーザです。舞踏会の時、陛下とガーネット様の素敵な化粧を拝見いたしました。そして衝撃的を受けました。今までは白さが美しさの基準でしたのに、あんなにも美しさが引き立つなんて思いもよりませんでした」


 そう言ってきたアンナリーザ嬢は、右目の下に泣きぼくろが印象的な美人さんだ。


「そしてこちらのご令嬢は」


 コルネーリア嬢がそう言うとまた、その令嬢がその後を継いで自己紹介してきた。


「ガーネット様、私はストラーニ子爵家の次女ノヴェッラです。あの化粧はもしやエルフ族の秘薬なのでしょうか? 私達が手に入れる事は出来るのでしょうか?」


 そう聞いてきたノヴェッラ嬢はちょっと釣り目が特徴のこれまた美人さん。


 ここまで注目されたら、もうホンザ達には大車輪で働いてもらうしかないだろうなあ。


 あの戦化粧は大森林から取れる鉱石か植物から取れる顔料か何かなのだろう。


 護衛の意味も込めて原料採取の時は手伝ってやるか。


「これは大森林で採れる原料から作られています。そうですね。今度皆さんが手に入れられるように手配しておきます」

「わあ」


 そう言って令嬢達は嬉しそうに微笑んでくれた。


 流通に関しては、あの3人の女社長と相談してみるか。


 すると違う令嬢が優雅な足取りで寄ってくると、俺ににっこり微笑んでからコルネーリア嬢にそっと耳打ちした。


 コルネーリア嬢はその令嬢から内緒話を聞いてからこちらに向き直ると、笑顔が消えて真剣な顔付きになっていた。


「ガーネット様、少々お伺いしたい事があります」


 コルネーリア嬢の態度が明らかに変わったのに釣られて、姿勢を正すと軽く頷いた。


「なんでしょうか?」

「ガーネット様はアドゥーグに滞在なされているでしょう。あそこにはクレメント様がいらっしゃるので、その、ガーネット様とクレメント様の関係に、ええっと、つまり、ここに居る令嬢達は、ガーネット様とクレメント様との関係が気になっているのです」


 コルネーリア嬢はそういうと恥ずかしいのか頬を赤らめていた。


 そして同席していた2人の令嬢が「わぁ」と声を上げて、目を輝かせていた。


 どうやら俺が、クレメントといい関係になっていないかを心配しているようだ。


 まあ実際はシスコン坊やが、俺に大事な姉が取られはしないかと警戒しているだけで、ここに居る令嬢達が心配するような浮いた話は一切ないんだけどね。


 だが実情を知らない令嬢達から見たら、強力な恋のライバルが現れたと警戒しているのがその態度で分かった。


 俺がそんな事を考えていると、目の前の3人が真剣な表情でじっと見つめているのに気が付いた。


 ああ、はいはい、返事ですね。


「そのような関係ではありませんよ。そもそも種族が違いますし」


 俺のその返事に、コルネーリア嬢は深い皺を眉根に寄せて考え込んでいた。


「つまり、ガーネット様はクレメント様に恋愛感情は持っていないと?」

「ええ、それに寿命も違うでしょう。これは大きな差ですよ」


 すると聞き耳を立てていた周りの令嬢達から安堵のため息が漏れた。


 どうやらこの儀礼科の令嬢達ほぼ全員、クレメント坊やがお目当てのようだ。


 そういえばジュビエーヌが、弟が学園に通っているとか言っていたな。


「クレメント様は確かこの学園に通っていらっしゃるのでしたね」

「ええ、政治・行政科の方に」

「31代様が、クレメント様にも学園に通うように言われたので、それでこの学園に急遽儀礼科が出来たのですわ」

「ほんと、31代様には感謝よね。クレメント様とお近づきになるチャンスを与えて下さったのだから」


 あおいちゃん、グッジョブだと令嬢達に褒められてますよ。


「そういえばガーネット様も香水を付けているのですね。人間達の遊びにも興味がおありなのですか?」


 コルネーリア嬢は最大の関心事が片付いてほっとしたのか、話題を切り替えてきた。


 ここにいる令嬢達は皆自分専用の香りを付けているようなので、気が付かれないと思っていたのだが、どうやらそんな事はないようだ。


「ええ、ちょっとした遊びです。お互い歩み寄れば理解も深まるでしょう」

「確かにそうですね。ええっと、ジゼルさんは、付けないのですか?」

「私はちょっと無理かな」

「試してみたんですが、ジゼルは嗅覚が良すぎて駄目みたいなんですよね」


 令嬢達が自分たちの趣味を否定されたと誤解しないように、そっとフォローしておいた。


評価、ブックマーク登録ありがとうございます。


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