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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第6章 公都訪問
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6―28 悪ガキの悪戯

 

 その日、教室に入って来たカピーノ教師が明日学校に来客があると言っていた。


 聞き流していたので誰が来るかまでは記憶に残っていなかった。


 そして今日、学校にやってきた来客をたまたま見たという奴が、獣人を見たと言ったのだ。


 すると今度は別の奴が、エルフを見たと興奮しながら話していた。


 希少種であるエルフを見る機会なんて皆無に等しい。


 俺は伯爵家の4男で既に兄が後継者に指名されているため、既にどうでも良い存在になっていた。


 貴族の中でも期待されている男子は、金をかけてもらえるので皆フラムというマジック・アイテムを持たされて剣技科に通っている。


 そして俺のような親から期待されていない予備の予備は、自分で何とかしなければならないのだ。


 だからこの魔法科に通っていた。


 フラムが普及してからというもの魔法科は冷遇され、通っている学生も平民や貴族でも男爵程度という有様だ。


 こんな連中なら獣人や、ましてエルフ等見たこともないだろう。


 だが、俺は父親に連れて行ってもらった夜会で見たことがある。


 あれはドーマー辺境伯が得意げな顔でエルフ奴隷を披露していたのだが、確かに人間ではありえない程美しい顔立ちをしていた。


 だがその分、あの貧相な体付きが余計に目立っていたのだ。


 大人たちはエルフ奴隷を観賞用としてとらえているようだが、雌ならもっと肉がついてなければ抱き心地が悪くて仕方がないだろうに。


 だから俺はそんな幻想を抱いている奴らに、現実を教えてやったのだ。


「馬鹿か、エルフというのは顔が良いだけの観賞用だ。あの貧相な体を見たらガッカリするぞ」


 俺がそう指摘してやると、あいつ等は皆俺の事を可哀そうな奴でも見るような目で憐れんでくるのだ。


 ふざけやがって、そんなに貧相なエルフがいいというのか。



 そしてブリジットが噂のエルフを連れて教室に入ってきた。


 ローブをすっぽりと頭からかぶった2人組は、空いている席に座るとそのローブを脱いだ。


 1人は雌の獣人で大きな獣耳とモフモフの尻尾が特徴的だった。


 そしてもう1人がエルフで妖精種特有の美しい顔立ちをしていた。


 そして俺は目を疑った。


 そのエルフは服を通しても分かるほど、豊満な肉体をしているのだ。


 最初は人間かと思ったが、そこには疑いようもない長く尖った耳があるのだ。


 そして先ほどまでエルフの事で俺を馬鹿にした奴らが、俺の方を見て笑ったのだ。


 その顔を見てカッと怒りが込み上げてきた。


 授業中その姿を盗み見ていると、大きく伸びをするように一度上体を逸らすとその豊満な胸の膨らみが強調されていた。


 そして俺の直観が、あれは偽物だと告げていた。


 問題はあれが偽物の乳を付けたエルフか、人間がエルフ耳を付けて化けているかだ。


 面白い。


 お前達が俺のことを馬鹿にするのなら、あの嘘を暴いて俺が正しい事を証明してやる。


 いや、それだけじゃつまらないな。


 そうだ、せっかくだからこれを賭けの対象にしてやろう。


 偽物は乳か耳かだ。


 俺は奴に賭けの事を書いたメモを回した。


 奴はそれを読んで俺に賭けに乗ったとジェスチャーで示してきた。


 そして何回かメモを渡しているうちに俺たちが賭けをしていることが広まり、他の奴もそれに乗り結構な人数と金額になると、もはや後戻りは出来なくなった。


 俺はあの乳が偽物だと思っているが、ゾックの奴はあれがローブを脱いで歩いた時、胸が揺れたと言って耳が偽物だと自信を持っていた。


 良し、後は確かめるだけだ。


 そこで休憩時間にブリジットを呼びつけると、あの胸を掴んで本物かどうか確かめろと命じた。


 あの女は目を大きく見開き首を横に振って嫌がったが、エルフは耳を触られるのを極端に嫌うといって乳を掴めと圧力をかけた。


 相手が亜人とはいえ男が胸を掴めば問題だが、知り合いの女がやれば唯のじゃれ合いだ。


 確かめるにはどうしてもこの女にやらせるしかないし、そうしないと賭けが成立しないのだ。


 ブリジットを取り囲み脅しをかけ、ようやく首を縦に振らせた。


 +++++


 俺は知らない魔法を教えてもらってご機嫌だった。


 そして休憩時間になると、俺の周りには学生達が集まってきた。


「あの、ガーネット様とお呼びしても?」

「ええ、好きにどうぞ」

「あはっ、光の魔人との闘い見てました。剣技科の連中が全く歯が立たなかったのに流石です」

「そうそう、剣技科の連中は、フラムが普及してから私達を見下してくるんですよ。全くむかつく連中です」


 ああ、あの魔法を弾く盾ね。あれには結構苦労させられたからな。


 そんなことを考えていると、ブリジットが目の前にやってきた。


 その深刻そうな顔は、何か拙い事でも起こったかのようだった。


 まさか、あの光の玉の影響を受けていたのか? いや、学校長に何か言われたのか? 


 俺がブリジットに声をかけようとした時、彼女は目をぎゅっと閉じるといきなり謝罪を口にした。


「ごめんなさい」


 いったい何がと思っていると、突き出されたブリジットの両手が俺の保護外装の胸をすっぽりと包み込むとそのまま指に力が込められた。


 むにゅ


「え?」


 何、ここってそういう世界なのか?


 いや、馬鹿なことを考えるのはよそう。


 暴挙に及んだブリジットはその場でへたり込み、頭を床に付けて謝罪の言葉を言い続けていた。


 これ、どうすんだ? と思っていると、ジゼルがそっと耳打ちしてきた。


「ユニス、この子脅されているわね」


 何だって、すると誰かに脅されてやらされたという事か。


「ジゼル、犯人分かる?」

「う~んとね。あ、あの男の子ね」


 そう言ってジゼルが指さした先に、指に指輪を付けた男子学生がいた。


 俺が睨みつけると慌てたように視線を逸らしたので、後ろ暗い事があるのが直ぐに分かった。


 俺は席から立ち上がると、その男子学生の目の前に立ちじっと見降ろした。


 男子学生はいつまでも目を逸らしているわけにもいかなくなったのか、こちらを見上げてきた。


「あの、なんでしょうか?」

「女の子を脅して悪戯をさせて、自分は高みの見物とは随分と良いご身分だこと」

「さて、何を言っているのかさっぱり分かりませんが?」

「とぼけても無駄よ。貴方は知らないでしょうが、私には看破の魔法が使えるのです」


 まあ、嘘だけど。


 ジゼルの魔眼の事を宣伝する訳にもいかないからね。


 そう言って指先でそっと頬をなぞってやった。


 悪戯っ子はぞくりと体を硬直させた後、最後の悪足掻きをしてきた。


「クソ、だ、だから何だというんだ。俺はパッセラ伯爵家の者だぞ」


 そう言って逆ギレしてきた相手をじっと見つめていると、ジゼルがやってきてそっと囁いた。


「卒業後の進路で脅されたそうよ。圧力をかけて働けないようにしてやると言われたんだって」


 全く、親の地位を利用して他人に嫌がる事を強要するなんて、とんでもない悪ガキだな。


「ふうん、そうやって立場を利用して女の子を脅したのね。君に最後のチャンスを上げるわ。大人しく謝るなら良し、そうでないなら罰を与えますよ」

「ふざけるな。偉そうに俺に命令するお前は何者なんだ」


 すると隣のジゼルがクスリと笑うと、態と周りに聞こえるように言ってきた。


「あら、この子ユニスの事を知らないみたいよ。自己紹介でもしたら?」

「え、そうなの。仕方がないわね。私はパルラ辺境伯ユニス・アイ・ガーネットよ。さて、権力を笠に着る坊やは、どうするのかしら?」


 俺が自己紹介してやるとようやく事態が飲み込めたのか、目を大きく見開いてカタカタ震えていた。


「え、ちょ、え、辺境伯ぅ?」


 どうやらこちらの方が格上だという事は理解できたようだ。


「さて、どうするの?」


 俺は態とにっこり微笑んでやると、男子学生は椅子から立ち上がり俺の前で跪いた。


 そして震える声で謝罪を口にしたのだ。


「パルラ辺境伯様、知らぬこととはいえ、大変なご無礼をお許しください」


 おお、案外素直じゃないか。


 俺はブリジットへのいじめを止めることを条件に許す事にした。


 そして未だに青い顔をしてカタカタ震えているブリジットに向き直ると、そっと声をかけた。


「ブリジットさん、学校を卒業しても仕事が見つからなかったらパルラに来なさい」


 ブリジットに将来の就職先を保証すると、彼女は最初言葉が理解できなかったのか惚けていたが、次第にその言葉の意味を理解すると、俺に何度も頭を下げて礼を言ってきた。


高評価ありがとうございます。


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