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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第6章 公都訪問
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6―26 光の魔人

 

 エリアル魔法学校剣技科に通うカルロ・ベニート・アルファーノは、今ガッティ教師から言われたパルラ辺境伯が学校に来るという話に、背中に冷たい汗が流れていた。


 カルロ達は、見学旅行のレポートを改竄したことがバレて学校長に呼び出されたのだ。


 そしてガッティ教師にも呼び出されてしまい、叱責から逃れるためエルフには人間を騙す悪い癖があり、学校長に嘘の報告をしたのだと言ってしまったのだ。


 普通ならそれで何の問題も無かったのだが、そのエルフがこの学校に来るらしく、ガッティ教師はエルフに嘘をつくのは悪い事だと忠告してやろうとやる気満々なのだ。


 もし、ガッティ教師が辺境伯と遭遇してしまったら、カルロの嘘がバレてしまうのだ。


 カルロは頭を抱えながら、何とか切り抜ける方法は無いかと必死に考えていた。



 辺境伯がやってくる当日、カルロは痛む胃を抑えながら、重い足取りで登校していた。


 結局何も良い方法が思いつかなかったのだ。


 校庭で剣技科の実習をしている所に豪華な馬車がやって来たので、あれに辺境伯が乗っている事は直ぐに分かった。


 そしてガッティ教師も豪華な馬車を見ていたので、何を考えているのかはおおよそ予想が付いていた。


 後はガッティ教師と鉢合わせする前に帰ってくれるのを願うばかりだ。


 頼むぜ辺境伯様、そのまま帰ってくれよ。



 その後校庭で実践訓練をしていると、校舎の方から人が騒ぐ声が聞こえてきた。


 何だろうとみていると何やらまぶしく光る物体が空中に浮いていて、学生達がそれに向かって剣を振ったり、魔法を撃ったりしていた。


 だが、見ている限りそれは何の効果も挙げておらず、逆に反撃にあって皆倒れていた。


 その光の玉がまっすぐこちらに向かって飛んできたのだ。


「お前達、武器を構えろ」

「「「はい」」」


 ガッティ教師は、どうやらあの何だか分からない物体に攻撃を仕掛けるつもりのようだ。


 カルロも練習用の木剣から普段から装備している両刃剣に切り替えると、飛んでくる物体との間合いを図っていた。


 最初に切りつけたのはガッティ教師で、振りかぶった両刃剣をまっすぐ光の玉を両断する軌道で振り抜いていた。


 それは2つに分かれたが直ぐにくっ付いて何事もなかったかのように浮かんでいた。


 すると次の瞬間、こちらの手が届かない高度まで上昇しそこで静止すると、そこから光が漏れだしてきた。


 光の玉から流れ出した液体は地面に落ちると、粘度があるのかやや盛り上がる形で溜まっていくと、やがて形のあるものに変化していった。


 皆固まったように動かずそれを眺めていると、それは次第に形を成していき人間の倍の大きさはある光り輝く大男になっていた。


 それは腰布を巻いただけの筋肉ムキムキの裸の男の姿をしており、頭のてっぺんから編み上げた髪の束が後ろに垂れ下がっていた。


 やがて顔の部分が形成されると、そこには眦を釣り上げた憤怒の表情が張り付いていた。


 すると誰かが「光の魔人だ」と叫んでいた。


 その光の魔人が両腕を振り上げると手の先に光の剣が現れた。


「お前達逃げろ」


 ガッティ教師はそういうと、学生を逃がすため光の魔人に戦いを挑んでいった。


 光の魔人が両手に持った剣を横なぎすると、剣から飛び出した光の粒がガッティ教師めがけて飛んで行った。


 ガッティ教師は自分の剣を振りながら光の粒を避けていたが、避け損ねた数粒が体に命中した。


 すると光の粒を受けたガッティ教師は電撃を受けたように体を硬直させた後、服を焦がしながら地面に倒れていた。


 それを見た学生達が蜘蛛の子を散らすように逃げ出したが、再び光の魔人が剣を横なぎすると悲鳴を上げて倒れていった。


 カルロは地面に伏せていて助かったが、この場所から逃げることも出来ず、進退窮まっていた。


 何も出来ずにただただ魔人がどこかに行ってくれるのを願っていると、こちらに向かって走って来る学校長の姿があった。


 カルロは老人があんな軽快な動きが出来る事が信じられなかったが、この際助けが来るなら何でもいいと思っていた。


 学校長は光の魔人に対して、距離を取りながら魔法戦を挑んでいた。


 多分ガッティ教師の戦いを見ていて、この魔人には接近戦が不利なのが分かっているのだろう。


 だが、学校長が繰り出す魔法でも光の魔人にはあまり効果が無いようだった。


 攻撃魔法が命中するたびに光の魔人から光の粒が飛び散るのだが、飛び散った粒は直ぐに魔人に吸収されてしまうのだ。


 このままだと学校長の魔力が尽きてやられてしまうだろう。


 カルロは、剣も魔法も効かない相手からどうやったら逃げられるのか必死に考えていた。


 そして左手にフラムがあるのを思い出した。


 これは錬金術師フラムが造った魔法の盾を起動するマジック・アイテムで、緑色魔法の魔法障壁を盾の形で具現化できるものだ。


 左手のフラムを起動して魔法の盾を起動すると、光の魔人が振りまく光の粒を避けながら地面に伏せたままじりじりと後ろに下がっていった。


 こんな時間がかかる行為をしていると、光の魔人と魔法戦をしていた学校長が時間の経過とともに不利になっていった。


 このままでは拙いと立ち上がって駆け出そうとしたところで、また新たな助っ人がやって来た。


 現れたのはローブ姿の2人組で、そのうちの1人が左手に手袋のような物をはめるとこちらに向かって走り出してきた。


 だが不思議な事に、足が動いていないので文字通り地面を滑っているようだった。


 +++++


 校庭から逃げてくる学生が、口々に光の魔人が現れたと叫んでいた。


 そして校庭が見える場所までたどり着くと、校庭で学校長が光の魔人と戦っている姿があった。


 学校長は光の魔人に対して距離を取りながら、炎や石等の魔法攻撃を仕掛けていた。


 それは周りに剣を持った学生達が倒れていることから、光の魔人に剣による攻撃が効かないと判断したものと思われた。


 だが、学校長の攻撃魔法は光の魔人に効果を上げているようには見えず、時間の経過とともに劣勢になっていた。


 物理攻撃も魔法攻撃も効かない相手をどうやって倒せばいいのかと考えていると、隣にいたジゼルがポツリと呟いた。


「あれって、ユニスの魔素を吸収したんだよね」


 ああ、そうか。


 魔素を奪われたなら、奪い返してしまえばいいのだ。


 そしてジゼルが持っている荷物の中から、ダイビンググローブを取り出して左手にはめた。


 このグローブの中には、エナジードレインの魔法を刻印した霊木の葉を張り付けてあるので触った相手から魔素を吸い取ることが可能なのだ。


「ジゼル、ちょっとあいつから奪われた魔素を取り返してくるわね」


 そういうといつものように重力制御魔法と飛行魔法を組み合わせてわずかに浮くと、光る巨人がいる校庭に滑り降りて行った。


 俺が近づいていくと、光の魔人の攻撃を受けた学校長が倒れるところだった。


 俺の接近に気付いた魔人は直ぐに手に持った光る剣を横なぎした。


 水平に振るわれた剣からは光の粒子が飛び出し、まっすぐこちらに向けて飛んできた。


 相手は俺が飛べる事を予想していないので、その粒子は上空に飛ぶと簡単に避けられた。


 するとそれを見た光の魔人は、今度は俺が滞空している空間に向けて再び光の剣を振るった。


 光の粒子は剣の軌道にそって飛んでくるので、上空で避けるのは簡単だった。


 そして光の魔人は動きが鈍いので、次の一撃までの間が長いのだ。


 その攻撃の合間に接近すると、剣をもった腕をダイビンググローブで掴んだ。


 すると光の魔人の腕と剣が光の粒子となってダイビンググローブに吸収された。


 失った腕と剣は再生しなかった。


 俺と光の魔人の戦いを遠巻きに見ていた学生達から歓声が上がった。


 そしてもう片腕も同じように失い戦闘力が無くなると、上空に浮いた光の玉との接続が切れて俺に向けて突撃してきた。


 最早魔素として吸収するだけとなった胴体が光の粒子となってダイビンググローブに吸収されると、上空にあった光の玉はいずこかへ消えていた。


 戦闘が終わると様子を窺っていた教師達が駆け寄り、倒れている学生を救助していった。


 俺は青い顔で横たわる学校長の傍に跪くと声をかけた。


「学校長、無事ですか?」

「ガーネット卿、儂はもう駄目じゃぁ。最後の願いを聞いてくれんかのう?」


 学校長は今にも止まりそうな弱弱しく浅い息遣いであり、俺としては老人の最後のお願い位は聞いてあげようという気持ちになっていた。


「なんでしょうか?」


 すると学校長は訴えるような眼差しでそっと要望を口にしていた。


「ガーネット卿に膝枕をしてもらいたいのじゃ」


 え、俺はしてもらうのは好きだが、するのは出来れば遠慮したい。


 だが、臨終間近の老人の頼みを無碍には出来ず、仕方なく老人の頭の傍に正座するとそっと頭を持ち上げて自分の膝の上に置いた。


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