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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第6章 公都訪問
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6―25 保護外装の機能

 

 その日ブリジットが授業を受けようと着席すると、教室に入って来たカピーノ教師が意外な事を言ってきた。


「皆さん、明日この学校に学校長に招かれたお客様が訪問されます。学校長のお客様ですから直接関わりはありませんが、見かけない人を見ても粗相のないように」


 ブリジットは自分には関係のない話だなと思っていた。


 すると何故かカピーノ教師が自分を見ているのに気が付いた。


「ブリジットさん」

「はい」


 私は名前を呼ばれて驚いた。


 そして周りの視線も一斉に自分に向いた事で、何かやらかしたのかと不安になった。


「ガーネット様とは見学旅行で面識がありますね。明日ガーネット様が到着されたら、学校長の部屋まで案内を頼みます」

「え、それは本当ですか?」


 ブリジットはそう言われて、見学旅行の事を思い出していた。


 パルラで遊んだことを内緒にした事が学校長にバレて怒られたのだ。


 いや、相手は公国のお貴族様ですよぉ。


 平民の私なんかが案内役では、相手に失礼になってしまいますって。


 見学旅行で面識があるというのなら、一緒に行った学生にはお貴族様も居たでしょう。


 だから何故案内役が私なのですか、という気持ちを込めてそう言ったのだが、カピーノ教師には全然伝わっていなかった。


「ああ、ガーネット様は細かい事は気にしないそうです。頼みましたよ」


 ガックリと項垂れた私は、引き受けるという選択肢しか残されていない事を認めるしかなかった。


「分かり、ました・・・」


 渋々そう答えると、周りからは私が嫌がるのを不思議がる声や、ガーネット様って何者という声が聞こえてきた。


 それと私を虐めるあの貴族の男子が冷たい視線を送って来る事には、努めて見ないようにしていた。



 そして今日、見た事もない立派な馬車が目の前に止まると、馬車から長いローブ姿の人物が降りてきた。


 ブリジットは出迎えが自分だけという事に気を悪くするのではないかと、気が気ではなかった。


「ぱ、パルラ辺境伯様、ご、ご無沙汰しております。わ、私が学校長の部屋までご案内します」


 緊張して噛み気味にそういうとパルラ辺境伯はにっこり微笑むと、「よろしくね」と答えてくれた。


 良かった。


 辺境伯様はとても機嫌がよさそうだ。


 そして学校長の部屋に案内して帰ろうとすると、学校長は今日1日私が案内役だと誤解したらしく解放してくれなかった。


 何度も聞いたことがある学校創設の由来をぼんやり聞きながら、パルラ辺境伯をそっと盗み見ると、やっぱり長い話に困ったような顔をしていた。


 学校長はパルラ辺境伯を連れて別館に行くと、私は学校長から1階で待機するように言われ、お偉いさん達の集団から解放されて内心ほっとしていた。



 学校長達が地下に降りて行ってしばらくすると、地下から物凄い音が聞こえてきた。


 地下で一体何が起きているのか心配になったが、学校長の指示を無視する訳にもいかずオロオロしていると、やがて地下から白く光る玉が現れた。


 光る玉はまるで意思があるかのような動きで、ぶつかることもなくそのまま建物の外に出て行ってしまった。


 光の玉が出て行った方向を眺めていると、階段を猛烈な勢いで駆け上がって来た学校長が私に新たな指示を出してきた。


「ブリジット君、君はここで誰も地下に降りないように見張っているのだ」


 そういうと私の返事を待つ事もなく、光の玉を追いかけて行ってしまった。


 私は学校長の老人とは思えない軽快な足取りに驚いて、返事をすることを忘れていた。


 +++++


 目覚めると、横たわった俺の目の前にはジゼルの心配そうな顔があった。


 そして後頭部にある柔らかい感触で今の状況が直ぐに理解できたが、どうしてこうなったのかは不明だった。


 だが、せっかくの美味しい状況なのでそのまま堪能していると、上からジゼルの声が降ってきた。


「ちょっとユニス、いつまでそうしている気? あれをほっとけないわよ」


 あれってなんだ?


 視界がぼやけているので目を揉み解ぐそうと手を動かすと、手の甲に連絡蝶が張り付いているのを見つけた。


 連絡蝶は、翅を開いたり閉じたりして俺に気付かせようと存在感をアピールしていた。


 俺がその翅に軽く触ると通信文に変形した。


 ジュビエーヌからの連絡内容は、小箱が罠の可能性があるという危険を知らせるものだった。


 あれ? 俺はあの箱を手に取ってその後どうしたんだっけ?


 確か学校長に言われてあの小箱を手にして、それから・・・。


 ぼんやりしている頭を振ってはっきりさせると、朧気ながら何が起こったのか記憶が戻ってきたようだ。


 そうだ。


 俺はあの小箱を手にしたんだ。


 それはかまぼこ型をした手提げ金庫位の大きさで、蓋を開ける取っ手が無かった。


 蓋を持ち上げればいいのかと手を伸ばすと、突然蓋が開き、猛烈な勢いで魔素を吸われたのだ。


 相撲のガブリ寄りのように体が上下に揺すられると、保護外装が集めた高密度の魔素の結合がバラバラに分解され、そして細かい粒子になったところを吸い取られたような感じだった。


 大量に吸い取られる光景は、パルラであおいちゃんが見せてくれた魔法演舞のようだった。


 そしてどのくらい時間が経ったのだろう、意識が朦朧としたところで突然手が弾かれて床に倒れたのだ。


「ユニス、ユニス」


 ジゼルは俺の体を揺すりながら不安そうに見つめてきた。


 喉がひりひりしてうまく声が出せなかったが、何とか大丈夫だと目で伝えると、ジゼルは目を丸めて意外なことを言ったのだ。


「ユニス、貴女、瞳の色が変わっているけど、偽色眼の色を変えたの?」


 黄色冒険者のバラチェから、人の町に行く時は瞳の色を変えた方がいいとアドバスされたので、今回の公都訪問でも偽色眼で瞳を黄色に変えていた。


 そして目を瞬くと偽色眼が外れていることに気が付いた。


 恐らくさっきのガブリ寄りのような振動で外れたのだろう。


「ねえ、ジゼル、私の瞳の色はどうなってるの?」

「えっとね、黄色かかった橙色になっているわ」


 ああ、そういえば、あの小箱に大量に魔素を吸われたからな。


 うん? どういう事だ。


 それだとこの保護外装の瞳が、体内魔力量で色が変わるという事ではないのか?


 試しにジゼルに頼んで荷物の中から霊木の実を取ってもらうと、それを食べてみた。


 霊木の実は魔素を大量に含んでいるので、1つ食べても十分な魔素の補給になるのだ。


 そしてジゼルに瞳の色を聞いてみると、今度は鮮やかな橙色になったと教えてくれた。


 どうやら間違いないらしい。


 保護外装の瞳の色が赤色から黄色そして橙色になったという事は、瞳の色で体内魔素量を表示していると思って間違いないだろう。


 この世界の魔法である虹色魔法の色とリンクしているとしたら、赤が満タン、紫色が魔力切れ寸前という事じゃないのだろうか?


 魔力が無くなったら当然この保護外装が強制解除されるはずだから、これは重要な情報だぞ。


 こうなってくると、本気でこの保護外装の取扱説明書が欲しくなってくるな。


 ビルスキルニルの遺跡で調査しているあおいちゃんに聞けば、何か知っているかもしれないな。


 よし今度会ったら聞いてみよう。


 そしてジゼルに手伝ってもらって落とした偽色眼を探していると、その姿がまるでコンタクトレンズを落として探す姿とそっくりで、思わずにおかしくなった。


 やっと見つけた偽色眼で瞳の色を黄色に変えると、初めてこの場所に俺とジゼルしか居ない事に気が付いた。


「学校長は何処に行ったの?」

「それがね。小箱から出て行った光の玉を追いかけて出て行っちゃったのよ」


 ああ、さっきあれと言ったのは、その光の玉の事なのか。


 あれ? もしかして俺が、その光の玉に魔素を与えて逃がしたという事になるのか?


 それで慌てて学校長がそれを追いかけて行ったと?


 そしてジゼルは、光の玉がどこに行ったのか気にしているという事か。


 俺の責任かどうかは分からないが、逃げて行った光の玉がどうなったのかは気になるな。


 それを確かめるため1階に戻ると、そこには困り顔のブリジットが待っていた。


「ああ、皆さん無事で良かった。地下で何が起こったのですか?」

「小箱の中から光の玉が逃げたのよ。それで学校長は何処に行ったのですか?」

「ああ、それでですか。学校長は多分校庭だと思います」


 そういってブリジットはその方角を指さした。


「それじゃ、校庭に案内してもらえますか」

「えっと学校長から地下に誰も入らないように、ここで見張れと言われたのですが?」

「大丈夫よ。もう地下には何もないわよ」

「分かりました」


 ブリジットに案内されて校庭に向かうと、その途中に何人もの学生が倒れていた。


 意識のある学生に事情を聴いてみると、ふわふわと浮いている光の玉にちょっかいをかけたら、光の粒子が飛んできて皆倒れたそうだ。


 そして校庭にたどり着くと、そこでは光り輝く人のような物体と戦う学校長と、その周りに横たわる学生達の姿があった。


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