6―19 恩賞授与式
建国祭2日目は、前年に公国に貢献した貴族達にその功績を称え、恩賞を授与する式典となる。
今回は当然前年のロヴァル騒動における活躍に対する恩賞が中心となる。
そして私はその最大の功労者、という事になっているそうだ。
公国の全貴族が集まっている中で功績を朗読されながら恩賞を渡されるなんて、どんな羞恥プレイだよと言いたいのだが、こればかりは辞退できないらしい。
そんなに俺に気を使わなくても、へそを曲げたりしないのだがなあ。
今日は祝いなので派手な装いの方がいいだろうと、リーズ服飾店に作ってもらった3着のうち赤色のドレスを選ぶことにした。
化粧もドレスの色に合わせて明るい色を選んでみた。
鏡台の前に座り、ジゼルに獣人達の使う戦化粧を施して貰っているというのに何の違和感も無いとは、もしかしたら保護外装にはそういった機能もあるのかと勘ぐってしまうな。
そして赤色のドレスに、顔が負けないように施された戦化粧は一際美しく目立っていた。
ジゼルさん、そんなに頑張ったら、大公であるジュビエーヌよりも目立ってしまいますよと懸念を口にすると、今日の主役はユニスよと言い返されてしまった。
まあ、お祭り何だからそれでも良いか。
そして最後は、ビリアナ・ワイトに調合してもらった香水を振りかければ完成である。
準備が整った俺の姿を見て、ジゼルはとても満足そうな顔をしていた。
「ユニス完璧ね。貴族って男しか居ないんでしょう。ばっちり目立ってきてね」
何だか、揉め事しか生まないような気がするなぁ。
準備が整ったところでマーラさんが迎えに来たので、昨日と同じ会場となる離宮に向かった。
離宮は昨日と同じように、警備の兵士に厳重に守られていた。
そして俺は、離宮内であおいちゃんが好きだったというテラスでお茶を飲んでいた。
何でも演出の都合で俺の会場入りは最後になるというので、ここで出番を待っているのだ。
そしてしばらくしてからマーラさんが呼びに来てくれた。
マーラさんは会場の扉の前で一度止まり、扉の両側を警備している兵士達に頷くと、兵士が踵で音を立て、大声で俺の到着を中の人たちに告げていた。
するとゆっくりと扉が開くと、中からの熱気が伝わってくるようだ。
「パルラ辺境伯様、行ってらっしゃいませ」
どうやらマーラさんはここまでで、後は俺が1人で中に入っていく流れの様だ。
室内に入った所で兵士がそっと俺に耳打ちしてくれたことによると、俺は最前列で1つだけ空いている席が指定席だと教えてくれた。
俺は優雅に見えるように背筋をぴんと伸ばし、しっかり前方を見据えて歩いて行った。
俺が登場すると、集まった貴族達の視線が一斉にこちらに向いてきた。
保護外装のこの先が尖った耳は、性能がとてもいいのだ。
そのせいで貴族達が囁く声が良く聞こえること。
どうやら俺は、ジュビエーヌがエリアルから脱出した後で拾ったペットという事になっているようだ。
他にも「エロい」とか「美しい」とかいうやつはまあ聞き流すとして、「俺の物にしたい」とか言ってるやつ、それ無理だからな。
そして最前列に座っているのは、ロヴァル騒動で一緒にエリアルまで攻め上ったアメデオ達が居心地悪そうに座っていたが、俺の顔を見て何故かほっとしていた。
指定席に座ると、隣にはオルランディ公爵が座っていた。
「おお、ガーネット卿、昨日は大変だったらしいの。それにしても内務局は融通が利かんな。全く困ったもんじゃ」
「ええ、ですが陛下がパルラを特別領に指定して下さったので、今後は揉め事は起こらないと思います」
「ほう、そうか。それじゃ儂も息子に爵位を譲ったら、そなたの領地に遊びに行かせてもらうかのう」
この好々爺は、何処までが本気でどこからが世辞なのだろうか?
まあ、ここは日本人的挨拶で問題ないだろう。
「ええ、お待ちしておりますね。公爵様」
そんな他愛もない会話をしていると、会場にジュビエーヌが入ってきて目の前の1段高くなった場所にある豪奢な椅子に座った。
ようやく2日目の式典が始まった。
そして最前列に並ぶ人達の名前と功績が1人ずつ読み上げられ、ファンファーレが流れる中ジュビエーヌの元で片膝付くと、新しく爵位を下賜された貴族家の家紋を描いた旗と恩賞の目録が渡されていた。
「ユニス・アイ・ガーネット殿」
どうやら俺の番になったようだ。
俺は立ち上がり、ジュビエーヌの前まで行くとそこで片膝をついて待った。
見事に着飾った儀典官から、俺の業績というものが読み上げられていった。
その内容は、公都から脱出したジュビエーヌの保護からパルラでの多国軍の撃退、そして反乱軍の鎮圧までが全て俺の功績として語られていった。
そしてそれを聞いた貴族達が呟く声が、俺の耳には届いていた。
「帝国のカタパルトの攻撃を全て弾くなんて、信じられるか?」
「無敵と言われる教国の魔法騎士を撃退しただと?」
「攻城用ゴーレムだと? そんな物まで持っているのか」
「誰だ、たった5百人の領民しかいない、名ばかり辺境伯だといった奴は、これじゃ公国一の軍事力を持っているという事じゃないか」
「本当に救国の英雄だったのか」
おやおや、先程までの嘲笑が、今度は恐怖や畏怖に変わったようだぞ。
それにあの儀典官、態となのか口調がすっかり吟遊詩人で、しかも聴衆が興味を持つようにとかなり話を盛っているぞ。
恥ずかしいから、それ以上歌うように誇張しまくるのは止めてくれぇ。
ようやく儀典官による俺の功績の読み上げという羞恥プレイが終わると、ジュビエーヌが椅子から立ち上がった。
その姿はとても優雅で、公式な場でのみ見せる厳粛な雰囲気を纏っていた。
「ユニス・アイ・ガーネット、パルラ辺境伯位を贈る」
そう言って広げた旗に描かれた紋章は、ジュビエーヌに聞かれて、パルラの城壁の中にデザイン画のような三角形の木を3つ並べた物だった。
これはパルラの町にエルフと獣人そして人間の3種類の人達が暮らしているのでそれをイメージしたのだが、それをそのままパルラ辺境伯領の旗にしてくれたようだ。
それを隣に立つ従者が丁寧に畳むと、それを再びジュビエーヌに返していた。
他の人とは違い、ジュビエーヌが直接俺に渡してくるようだ。
俺がそれを受取ろうと一歩前に進むと、ジュビエーヌはそのまま俺をハグしてきた。
それを見た会場の貴族達から驚嘆の声が漏れる中、ハグしたままのジュビエーヌが俺の耳元でそっと呟いていた。
「これでユニスは私の物ね。だって、そうでしょう。公国の全貴族が証人なんだから」
これだとより一層俺が「大公のペット」と呼ばれるんじゃないだろうか?
まあ、公都には滅多に来ないから別にいいか。
式典が終わると俺の前には何故か騎士の恰好をしたグラファイトとインジウムが迎えに来てくれた。
どうやらこれもジュビエーヌの心配りの様だ。
俺は前後を2人に守られながら会場を後にする時、貴族達の間から俺に対して拍手する者が現れた。
それは最初は1人だったが、次第にあちこちから起こり、そして会場を出る頃にはかなりの音量で鳴り響いていた。
きっとあの儀典官の話に感動した者達なのだろう。
だが、そんな中にも当然面白くないと思っている者も居て、拳を握りしめて苦虫を噛み潰したような表情をしていたのを目撃していた。
グラファイトとインジウムに前後を守られた俺が会場を出ると、警備の兵士がいつものように俺に会釈してくれた。
そしてアドゥーグ内の部屋に戻ってくると、ドレスを脱いで楽な恰好になりベッドで横になって寛いでいた。
しばらくゆっくりしていると扉にノックの音があり、マーラさんがワゴンを押して入って来た。
そしてお茶とお茶菓子の用意をしてくれたので、ジゼルと一緒にお茶の時間を楽しんだ。
「辺境伯様宛の招待状や釣書を預かっております」
マーラさんにそう言われて、一瞬固まった。
招待状は昨日路地で会った女性から晩餐へ招待したいと言われたので、来るだろうなという予想はあった。
だが、釣書ってなんだ。
「あの、私はエルフなんですが」
「それが何か?」
いや、種族が違うだろうと言おうとしたが、マーラさんはそんな事には意を介さずお盆に載せた手紙の山を差し出してきた。
「これでございます」
「え、こんなに沢山あるのですか?」
「はい、半分は釣書ですが、後半分は晩餐会やお茶会それに舞踏会の招待もあるようです。モテモテですね。辺境伯様」
そして俺は、会場で拍手していた貴族達の何かに取り付かれたような顔を思い浮かべていた。
ジュビエーヌ、あれはちょっとやりすぎだったんじゃないのか?
きっと、ジュビエーヌに取り入ろうとした連中が、将を射んと欲すれば先ず馬を射よとでも思ってるんだろうな。
いや、待て、俺を貶めてジュビエーヌの足を引っ張ろうとしているのかもしれないぞ。
とりあえず釣書は無視して、手紙の山の中から2通の招待状を抜き取った。
それはシュレンドルフ侯爵と、昨日会ったスクウィッツアート女男爵からの招待状だ。
シュレンドルフ侯爵は、はっきりと味方だと分かるから招待を受けてもいいだろう。
スクウィッツアート女男爵は昨日会った印象では問題なさそうだったけど、情報が足りないな。
「マーラさん、このスクウィッツアート女男爵というのは、どういった人物なのでしょうか?」
「えっと、詳しくは分からないのですが、公国で初めての女性当主ですね。あ、勿論辺境伯様もそうですが、人間の女性では初めてという意味です」
それは女性同士仲良くしましょうという意味だろうか。
まあ、最も俺の場合は女性に見えるのは外見だけなんだけどね。
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