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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第6章 公都訪問
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6―13 離宮での祭事

 

 建国祭り初日は、ディース教の司祭を招いて国の安寧と発展を祈願する祭事を行う事になっていた。


 事前打ち合わせでもあるのか、今日の朝食の席にジュビエーヌ達の姿は無かった。


 俺も午後には法院でアディノルフィ商会の関係者との示談があるので、色々条件とかを考えたかったから丁度良かった。


 だというのに、周りに控えている給仕に紛れて何故だか料理人みたいな人が立っていて、じっと俺が食べる姿をチェックしているのだ。


 それが気になって、考え事をするのも難しかった。


 既に瞳の色は偽色眼で黄色に変えているので、エルフじゃないかもとは疑われていないはずなのだが、その行動はちょっと不気味であった。


 ジゼルが普通に食事をしているので、あの料理人が料理の中に何か入れたという事はなさそうだ。


 そんなおかしな朝食が終わり、部屋に戻って来ると早速ジゼルに手伝って貰って、ドレスという名の戦闘服への着替えを始めた。


 3着ある金属糸で作った鎖帷子のようなドレスを並べてどれにしようか考えていた。


 今日の主役はジュビエーヌであり、ディース教の司祭を招いての祭事だから、出来るだけ目立たない方がいいだろう。


 すると無難な黒色という事になる。


 ドレスを黒にするにあたり、白すぎる顔もちょっと変えるためホンザから貰った戦化粧で唇を紫色にして黒色のアイシャドウを付けてみた。


 保護外装に色を塗るだけなので肌荒れを気にする必要が無いのは有難かった。


 最後にビリアナ・ワイトから貰った香水を少し振りかけてから、ジゼルに手伝って貰って黒色のドレスを身に付けた。


 ドレスは既に重力制御魔法で軽くしてあるので殆ど重さを感じなかった。


 準備が整ったところにドアにノックの音があり、マーラさんが入って来た。


「辺境伯様、準備は整いましたか?」

「ええ、終わりましたよ」


 そう言ってマーラに振り返ると、そこには固まったまま動かないマーラが居た。


「どうかしたのですか?」

「あ、いえ、ちょっと、見た目が変わっているので驚いただけです」


 まあ、化粧をすると印象は変わるからな。


 でも目立たないようにしたはずだから、そんなに驚かなくてもいいだろうに。


「それでは参りましょうか」


 そう言うとマーラさんが離宮まで案内してくれるようなので、俺はジゼル達に手を振ってからその後に付いて行った。


 祭事を行う場所は離宮の中にある大広間で、何でもあおいちゃんの葬儀もそこで行ったのだとか。


 部屋を出て公城の廊下を歩いていると、すれ違う城の使用人達が皆驚いたように立ち止まり目を見開いてこちらをガン見してくるが、直ぐに我に返り慌てて頭を下げていた。



 公城を出て離宮に繋がる森の中は警備の兵士が等間隔で配置されていた。


 離宮の入口では護衛の騎士がずらりと並び、俺が入って行こうとすると全員が気を付けの姿勢を取った。


 俺はそれに対して軽く笑みを浮かべて答えるとそのまま離宮の中に入って行った。


 そして祭事が行われる大広間に入ると、それまでざわついていた会場が静かになり、椅子に座っていた貴族達の視線が一斉にこちらに向いた。


 その視線は、敵意と好奇心が半々と言った感じだろうか。


 ジゼルが居ればもっと的確な表現をしてくれただろうが、俺には他人の裏の顔を見る能力は無いのだ。


 そして集まった貴族達の服装は統一された物ではなかったが、皆暗い色合いを基調としていたので俺の選択が間違ってはいなかったようだ。


 マーラさんは最前列まで来ると、そこに空いている3つの席の前で立ち止まった。


「辺境伯様、こちらにお座りください」


 そう言われた席の隣にはシュレンドルフ侯爵が座っていて、俺の姿を見ると微笑んでくれた。


 そして俺が座りマーラさんが帰って行くと、シュレンドルフ侯爵が小声で話しかけてきた。


「ガーネット卿、今日はまた一段とお美しいですな。それに良い香りがしますぞ」

「ありがとうございます。侯爵様もなかなかの男前ですし、装いも素敵ですよ」

「ほっ、ほっ、既に男として盛りは過ぎておりますが、侯爵としての矜持は守りませんとな」


 それから俺のドレスにちらりと目を向けた。


「ガーネット卿、そのドレスの生地はエルフ独自の物なのですか?」


 俺は不思議そうな顔をしているシュレンドルフ侯爵に悪戯っぽい笑みを見せた。


「これ、防具なんですよ」

「なんと、何処かに敵が居るのですかな? 及ばずながら助太刀いたしますぞ」


 そう言って侯爵は面白そうに答えてきた。


 どうやら侯爵は俺が冗談を言ったと思ったようだ。


 俺達が小声で話していると次の人物がやって来た。


 その顔はロヴァル騒動の時にも見かけたあのアメーリア公爵だった。


 上等な仕立ての服を着た公爵は、苦虫が噛み潰されたような顔を俺に向けると無言のまま隣の席に座った。


 どうやら俺にはあまり良い感情は抱いていないようだ。


 そして最後にやって来たのは、白髪の好々爺といった人物で、直ぐに俺に気が付くと、立ち止まって軽く挨拶してきた。


「ほほう、貴族の中に女性が居るというのは華があってよろしいですな。私は、イラーリオ・マウロ・オルランディじゃ。よろしくのう」

「ユニス・アイ・ガーネットです。こちらこそよろしくお願いします」


 どうやらこの御仁が序列第1位の公爵様のようで、この気の良さそうなおじいちゃんは俺に敵意は持っていないようだ。


 まあ、ジュビエーヌの後見人らしいから、どちらかと言えば味方と言っても差し支えないのだろう。


 公爵は俺の返事に目元を緩めてから自分の席に座った。



 全員が集まって暫くすると手に黄金の錫杖を持ち金色の司祭服を着た男と、その後に白い祭事服を着たジュビエーヌとクレメントがやって来た。


 ジュビエーヌとクレメントの姉弟は、オルランディ公爵の傍に置いてある椅子に座ると、司祭がジュビエーヌに一礼してから祭壇の前に立った。


 本日の祭事が始まったようだ。


 司祭による祭事が一通り終わると、今度はジュビエーヌが祭壇に一礼して国の安寧と発展を祈願した。


 そしてジュビエーヌとクレメントが司祭の前にくると、司祭が錫杖を掲げて神のご加護があらん事をとか何とか話しかけていた。


 それが終わると司祭が退席し、ジュビエーヌが残った。


 ジュビエーヌは司祭が部屋から出て行くのを待ってから、集まった貴族達に語り掛けた。


「公国は元ドーマー辺境伯の裏切りにより滅びた。今ここにある公国は、新しく興された国であり、私が初代大公である。我が公国に賛同し、私と共に新しい国を発展させていこうという者は立ち上がり賛意を示せ」


 俺は立ち上がった。


 周りでも急いで立ち上がろうとする貴族達の物音が続くと、やがて周り中から「公国万歳」という声が聞えてきた。


 俺もその熱気に当てられて「公国万歳」と叫んだ。


 万雷の歓声を受けてジュビエーヌが口角を上げたのを見逃さなかった。


 ジュビエーヌは既に立派な女王の風格を備えているようだ。



 ジュビエーヌとクレメントが退出すると、それが初日の祭事が終わった合図だった。


 集まった貴族達は序列上位から退出するので、最前列に居る俺達が先に席を立ち出口に向かった。


 俺はアメーリア公爵の後ろを歩いていると、通路の両側でまだ椅子に座ったままの貴族達が、俺に視線を向けているようだった。


 その視線には好奇、羨望の他、敵意や嫌悪も含まれているようだった。


 すると突然俺は手を掴まれたのだ。


 驚いて立ち止ると、その無礼者が誰なのかと睨みつけた。


 そこには禿頭に薄い口髭、たるんだ顎に揺れる腹があり、その姿を見て思わず陸に上がったトドを思い浮かべてしまった。


 貴族の間では、位の低い方から話しかけてはならないという不文律がある。


 ましてや物理的に掴む等という事は重大な礼儀違反だ。


 そうしておかないと上位者はアイドルのごとく取り囲まれ、大変な目に遭ってしまうからだ。


「アニス殿、やっと会えた」

「な・・・」


 俺が絶句していると、後ろを歩いていたシュレンドルフ侯爵がその無礼な手を掴み、男を窘めてくれた。


「アリッキ伯爵、無礼ですぞ」


 アリッキ伯爵と言えば、あおいちゃんが言っていたダンスを踊ってはいけない相手だ。


「あ、いえ、シュレンドルフ卿、そこに居るのはアニス殿ではないのですか?」

「アニス? 何を言っているのだ。こちらのお方は序列第3位のパルラ辺境伯だ。無礼があってはいけませんぞ」


 そうだ、そうだ。


 俺はユニスだ。


 アニスとか言う名前じゃない。


「え、あ、これは失礼いたしました」


 俺はこちらを見て呆気に取られている禿げおやじを無視して、会場を後にした。


 後ろではアリッキ伯爵が「そんなバカな、あの姿アニスに瓜二つじゃないか」と呟く声が聞こえてきた。


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