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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第6章 公都訪問
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6―12 公都での休日

 

 公都での公式行事が始まる前日、時間が取れた俺はジゼルと一緒にリーズ服飾店の公都本店を訪問することにした。


 公城から出た俺達は皆頭からすっぽりとローブを被り、何処となく怪しげな魔法使いの集団になっていた。


 リーズ服飾店公都本店は貴族街に面した商業地区にあるので、貴族街を歩く怪しげな集団はとても目立った。


「ねえユニス、馬車で行く事は出来なかったの?」

「ああ、あれは大きいからね。先方に迷惑がかかりそうだったから諦めたのよ。それにジュビエーヌに馬車を借りるわけにもいかないでしょう」


 そう言うとジゼルも王家の紋章が入った馬車で移動する事に思い至り、ちょっと眉をしかめていた。


「お姉さまぁ、良ければぁ、私が抱っこして走りますよぅ」

「余計目立つでしょう。その案は却下します」

「うぅ」


 そうはいってもこの貴族街で歩く人を見かける事はなく、行き交っているのは貴族が乗る馬車やその館に物資を搬入する商人の荷馬車だった。


 そしてリーズ社長に教えて貰った場所に辿り着くと、そこには立派な佇まいをした建物があった。


 そして豪華に装飾された馬車が止まり中から豪華なドレスを着た婦人が出てくると、ドアマンが婦人の為に扉を開けて恭しく店の中まで案内していた。


 俺はリーズ女社長から何も言われていなかったので、そのまま入口まで行くとそこに立っていたドアマンは胡散臭そうにこちらをじろじろ見て来た。


「リーズ社長に会いに来ました」

「どちら様で?」


 そう言われたのでフードを取って顔を見せた。


 ドアマンは俺が来ることを知らされていたようで、その特徴的な耳を見て態度をガラリと変えていた。


「パルラ辺境伯様、お待ちしておりました。ささ、中にどうぞ」


 ドアマンが開けたドアから中に入ると、中は高級デパートのような趣で広い売り場に販売員がお客様にキッチリついて回り商品の案内をしているようだった。


 俺が入ると、ドアマンが合図をしたらしく1人の販売員がにっこり微笑みながらこちらに近寄ってきた。


「パルラ辺境伯様、社長が直ぐに来ますので少しお待ちください」


 その販売員の声が聞えたのか、豪華なドレスを着た婦人がこちらに視線を向けてきた。


「パルラ辺境伯ですって?」


 その婦人が興味を持ったようだが、俺が気付かない振りをしていると直ぐに興味を失い販売員の言葉に注意を向けていた。


 展示されているドレスを興味なさそうに眺めていると、リーズ女社長が駆け寄ってきた。


「ユニス様、お待たせしました」

「久しぶりですね。リーズ社長」


 リーズ女社長はどうやら売り場を案内してくれるようで、連れて行かれた先には婦人用下着を装着したマネキンが置かれていた。


「大公陛下もご愛用という事でとてもよく売れているんです。それにこれらは我が店の独占販売なので儲けも十分なんです」


 そう言われて売り場を眺めていると見逃せないものがあった。


「えっと、アレは何ですか?」

「下着ブランド『アイ』ですね」


 俺はそこでガックリと脱力していた。


 その下着コーナーには、大公陛下もご愛用の下着ブランド「アイ」と書かれていたのだ。


「そのアイというのは、もしかして」

「はい、ユニス様のミドルネームを貰いました。公都での独占販売権を貰っているのですから当然ですよね」


 確かにブランドという話はした。


 そしてライセンス料の事も。


 それで名前を使われているのは、やっぱり仕方がないのか?


 ま、まあ、ここはアイというミドルネームは殆ど知られていないからまあいいか。


 売り場の案内が終わり連れて来られた部屋は、ふかふかの絨毯に豪華なソファが置いてあり、壁には風景画が飾ってあった。


 そして社長仲間のエイヴリル・アッカーとビリアナ・ワイトが待っていた。


「「ユニス様、ご無沙汰しております」」

「2人とも、元気そうで何よりです」


 俺が全員集まったのでお土産を渡す事にした。


「グラファイト、お土産を出して」

「はい」


 そう言うとグラファイトが担いでいた荷物を下ろすと、ミード酒を入れた木樽を取り出した。


「パルラの特産品よ。大森林蜂の蜂蜜から作ったミード酒なの。みんなで飲みましょう」

「うっひょぉ、高級酒よ」

「え、そんな高級酒良いんですか?」

「勿論よ」


 ミード酒を見て大騒ぎする3人娘の姿を見て、俺のお土産のセンスもまあまあだなと思っていた。


 リーズ社長はつまみを用意すると言って席を外すと、今度はビリアナ・ワイトが俺に御返しをくれるようだ。


「私もユニス様にお渡ししようと思って、私の店で取り扱っている商品を持ってきました」


 そう言って見せてくれたのは香水だった。


 公国での社交の場では、皆自分用の香水を使って存在感をアピールしているそうだ。


 そのため自分だけの香水をブレンドして作るのが流行っているのだとか。


 だが、そんな事言われても元が男なので香水なんてさっぱり分からなかった。


「ご婦人方は、独自の調合で自分用の香水を作って楽しんでいるんですよ。でも、ユニス様はこういった人間の嗜好に興味はありませんか?」


 俺があまり良い反応をしなかったせいか、ビリアナ・ワイトが心配そうな顔で尋ねてきた。


 いや、香水には詳しくないだけで興味が無いわけではないのだ。


「そう言った習慣が無いので、良く分からないのです」

「それでは私がユニス様に合いそうなブレンドをしてみましょう。ジゼルさんのも用意しましょうね」

「あ、私は遠慮しようかなぁ」


 ジゼルは鼻が良いので匂いのきついのは厳しいようだ。


 暫く残った3人で談笑していると、ビリアナ・ワイトの作業が終わったようだ。


「ユニス様、出来上がりましたよ」


 そう言ってワイトは手に小瓶を持ってやってきた。


 差し出された小瓶を受け取ると、ワイトが期待を込めた瞳でこちらを見てくるので、直ぐに蓋を開けて匂いを嗅いでみた。


 それは何と言うか森林の香りみたいな感じだった。


「やはりエルフと言うと森林ってイメージなのよね」


 ああ、そう言う事ですか。


「ありがとうございます。でも、これを使える場所が思いつかないわね」

「貴族様は公式行事には必ず付けていますよ。明日から3日間、公式行事がありますからそれに使って貰えると嬉しいです」


 ああ、そうか。


 ビリアナ・ワイトは、俺が人間達の習慣に疎いと持ったからこうやってそれとなく教えてくれたようだ。


 これは是非とも3日間はこれを使わせてもらおう。


 そしてリーズが使用人を連れてやってくると、瞬く間にテーブルの上には色々な料理が並び出した。


 俺達はそれを肴にミード酒を酌み交わした。


 後は女子会になった。




 楽しい一時を過ごして公城の部屋に戻って来ると、絨毯の上に封筒が落ちていた。


 封筒を拾い裏を見ると、そこには「公都法院」と書かれていた。


 封筒に入っていたのは召喚状で、俺はパルラにあったアディノルフィ商会の財産強奪の嫌疑が掛けられていた。


 そして原告側との示談を勧められており、法院が仲裁するので話し合いに応じるようにと書いてあった。


 ドーマー辺境伯に町を封鎖されていた時、あの商会の倉庫から物資を調達したのは確かに身に覚えがあった。


 そしてそこに記載してある原告の名前にはどこか見覚えがあった。


「チーロ・ピエリ・・・何処かで聞いた事があるような・・・あ」


 そこで見学旅行でやって来た学生達の中に、そんな名前の学生が居たのを思い出していた。


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