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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第6章 公都訪問
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6-11 ジュビエーヌとの晩餐

 

 俺とジゼルは、ジュビエーヌとの夕食を楽しむためのドレスを選んでいた。


「ジゼル、ドレス買っておいて良かったでしょう。こんなに早く使う事になったんだから」

「そうね、でもこれを着る最初の相手が女王様だなんて、なんだか気が重いわ」

「あら、パルラで本人に会っているんだから初対面じゃないでしょう? 問題ないわよ」

「ユニスは気楽でいいわね」


 ふふん、公式行事は3日間もあるし、その間は海千山千の貴族達からどんな嫌がらせがあるか分からないからな。


 始まる前から緊張していたら身が持たないし、気が抜ける相手ならのんびりさせてもらうさ。


 そして俺はインジウムがやたら勧めてくる黄色いドレスに着替えるとジゼルと一緒に、3階にある王族専用の特別食堂に向かった。


「ユニス、会いたかったわ」


 食堂に入るといきなりジュビエーヌが飛びついてきた。


 突然の事に、後ろに控えていたインジウムとグラファイトがピクリと動いたので、慌てて手で制するとジュビエーヌを抱きとめた。


「ちょ、ジュビエーヌ、誰かに見られたらどうするの?」

「ここは王族専用フロアよ。誰も見ていないわ」


 いや、そうはいっても、先程から弟さんが俺の事を凄い目で睨んでいますよ。


 部屋の隅にはセレンとテルルが控えていて、近衛服を着た恰好はとてもよく似合っていた。


 そして魔力感知で見える魔力残量は少なくなっていた。


「ジュビエーヌ、先にセレンとテルルの魔素を補給しておいた方がいいみたいよ」

「え?」

「ジュビエーヌもここで2人に自爆されたくないでしょう。先に魔宝石の交換作業をさせてね」


 俺がそう言うとジュビエーヌはその光景を想像したのか、俺から離れていった。


 俺はその行動に苦笑しつつ、荷物を持っているグラファイトを見た。


 ドレス姿ではポケットが無いから荷物は誰かに持ってもらう必要があるのだ。


「グラファイト、魔宝石を出して」

「了解です」


 そういうとグラファイトが持っている袋の中から魔宝石を取り出すと俺に渡して来た。


 そして会話の流れからセレンとテルルは俺の前までやって来た。


「姉貴、護衛任務は恙なく熟しているぜ」

「あ、セレン、私が報告しようと思ったのにぃ。姉様、数名変なのが居ましたが、問題無く排除しました」


 俺はその報告を聞きながら2人の労を労った。


「2人ともご苦労様ですね。それじゃ魔宝石の交換をします。舌を出して」

「「はい」」


 セレンとテルルが舌を出すとそこにある魔宝石を新しい物と交換していった。


 交換中、例の自爆シーケンスが実行されていたが、問題無く時間内に交換作業を終えていた。


 ジュビエーヌと弟のクレメントはその間、食堂の外からそっと俺の作業を見守っていた。


「戻って来たぜ、姉貴」

「姉様、私は霊体になって上空から作業を見守っていました」


 いや、だから、お前に霊魂は無いだろう。


 どこでそんなフレーズを覚えてくるんだよ?


「姉様がこの城にいる間、護衛役を交換するというのはどうですか?」

「どういう事?」

「私なら姉様を色々な所に案内出来ますよ」


 ふむ、公都見物にはガイド役になるという事か。


 それはそれで魅力的な提案だな。


 だが、それをあからさまに否定する声が聞えてきた。


「ちょっと、そこの青いの、そんな事は受け入れられませんよ」

「あら? そこの黄色いのには聞いてませんよ」


 なんだが、テルルとインジウムの間に不穏な空気が漂っているぞ。


 すると2人の姿がブレると、一瞬でぶつかり合った。


 その衝撃音はすさまじく、大型トレーラー同士が正面衝突したような重低音が部屋中に響き渡り、衝撃波によって飾られていた調度品が床に落ちた。


「きゃぁぁぁ」

「うわぁぁぁ」


 周囲からジュビエーヌ達の悲鳴が響き渡った。


 拙い、ここで2人が暴れたら間違いなく公城が吹っ飛ぶ。


「停止」


 俺がそう叫ぶとテルルとインジウムの動きがぴたりと止まった。


「セレン、グラファイト、邪魔だからそこの2人を部屋の隅っこにでも置いておくのよ」

「承知」

「了解しました」


 そう言って2人はとても嬉しそうな顔で、動かなくなったテルルとインジウムを態と壁側を向くように部屋の隅に置いていた。


 あの姿を見ると、2人とも相方に相当苦労させられているのだろうと察しがついた。




 オートマタ同士の激突を初めて目の当たりにして動揺しているジュビエーヌとクレメントを何とか落ち着かせていると、いち早く我に返った給仕達が先程の衝撃で倒れたり壊れた調度品を慣れた手付きで片付けていた。


 そんな給仕達も、動かなくなったテルルとインジウムの傍には近寄らなかった。


 メイド達が倒れた調度品を片付け終わると、ようやく食事が出来る環境が整った。


 ジュビエーヌ達が落ち着いて席に着くと、周りに控えていた給仕達もようやく自分達の本来の仕事が出来るとほっとしているようだった。


「ジュビエーヌ、お土産を持って来たわ。現物は城の使用人に渡したけど、目録はこれよ」


 そう言って、グラファイトが差し出した目録をジュビエーヌの前に置いた。


 ジュビエーヌは目録の中に霊木の実があるのを見て、とても喜んでいた。


「霊木の実、これって御祖母様以外誰も入手出来なかったのよ。とても嬉しいわ」


 霊木の実はあおいちゃんが直接調達していたようで、今となっては誰もその入手方法を知らないそうだ。


 まあ、知っていたとしても魔物が跳梁跋扈するヴァルツホルム大森林地帯の最奥まで取りに行けるとも思えないけどね。


 ハンター達だってそんな危険は犯したくないだろう。


「ねえユニス、貴女にパルラの町を渡したけど、もっと欲しいのならドーマー辺境伯領だった土地を全て渡しても構わないわよ」


 いや、この外見で、人間達の町を管理なんてとても無理だろう。


 そんな苦労を背負わされるのは御免こうむりたい。


「いえ、今のままで十分です」

「そう、それじゃ、パルラの登録を町に変更しておくわね」


 町? ここでも人口比で市町村と区分けしているのか?


 それならパルラは村でよさそうだが?


「村でいいんじゃないの?」

「ああ、そう言う意味じゃないのよ。パルラは、書類上は要塞なの」

「要塞?」

「ええ、ヴァルツホルム大森林地帯から出て来る魔物を退治するための軍事拠点ね」


 あれが?


 どこからどう見ても町だ。


 すると俺が理解していないのが直ぐに分かったようで、更に説明してくれた。


「公国では、ヴァルツホルム大森林地帯と隣接する場所には軍事拠点しか建設出来ない決まりになっているのよ。あ、勿論パルラが町なのは私も見たから知っているわよ。ドーマー辺境伯は、軍事拠点なら国からの査察が入らないから要塞に擬態していたのよ」


 要塞に擬態するメリットって何だ?


「町と要塞とでは何が違うの?」

「軍事拠点の運営全般は司令官に任されているから、兵士の士気を上げるためと言えば賭け事だろうが、紫煙草だろうが許されているのよ」


 そうか、だからドーマー辺境伯はあのような娯楽施設を堂々と運営出来たのか。


「それで、ユニスにお願いがあるんだけど」

「何でしょう?」

「公式行事が終わった後で、エリアル魔法学校の学校長を訪ねて欲しいの」


 学校長というとあの見学旅行の時、生徒達の行動を教えてくれと手紙をくれた相手だな。


 あの報告書に何か不備でもあったんだろうか?


「会うだけでいいの?」

「実は学校に設置してある始祖ロヴァルの像から、魔法で封印された小箱が出てきたの。もしかしたら始祖様の大切な品かもしれないのだけれど、誰にも開けられないのよ。後はユニスしか頼れる人が居ないの」


 そこまで期待されちゃうと、何とかしたくなるよな。


「分かったわ。ところでエリアル魔法学校にはどうやって行けばいいの?」

「あ、それは学校側から迎えが来るそうよ。こちらからお願いするのだから当然よね。そうそう、クレメントが今通っているわ」


 そう言って話題を振られたクレメントは、俺達の会話に加わらず空気だったので、ジュビエーヌが話題に加われるように気を使ったようだ。



 ジュビエーヌ達との晩餐が終わると、停止させていたテルルとインジウムを再起動させた。


 2人は涙も出ないはずなのに、泣き真似をしながら不平を口にしていた。


「うっ、うっ、私は姉様のためを思って言っただけなのに、うっ、それなのに、邪魔だなんて」

「私だってぇ、そうですぅ、お姉さまのためにぃ、一生懸命頑張っているんですよぅ」


 ああ、めんどくさいなあ。


 本当にどこまでが本気でどこからが演技なのかさっぱり分からない2人だった。


完結した「悪役令嬢の華麗?なる脱出劇」に評価、ブックマークをいただきまして、ありがとうございました。

本作はまだまだ続きますのでこちらも引き続きご愛顧いただけますようよろしくお願いします。


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