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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第6章 公都訪問
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6―8 公都への長い道のり3

 

 馬車はピコの町に到着した。


 途中で盗賊らしき連中の待ち伏せがあったが、グラファイトとインジウムが対処してしまったようで、馬車から外を覗いた時には既に終わっていたのだ。


 道に横たえられていた倒木をグラファイトが簡単にどかすと直ぐに出発したのだが、またゼフォフで行政官の挨拶があり、当初の予定よりだいぶ遅れていた。


 遅れを取り戻そうとピコの町はそのまま通り過ぎたいと思っていたが、既に門の前で出迎えの騎士が待ち構えている状況では、その願いは叶えられそうもなかった。


「パルラ辺境伯様の馬車とお見受けする。この町の領主代行であるダニロ・クレート・ストゥッキ様が館でお待ちしております。ご案内いたしますのでついて来てください」


 すると馭者台の小窓が開きインジウムがどうするか聞いてきたが、こちらの素性がバレているのでは素通りも出来ないだろうと諦める事にした。


「インジウム、仕方が無いから招待を受けますよ」

「はあぃ」


 馬車は騎兵に先導されて領主館に向かった。


 馬車の窓を開けて町中を見ると、ここがエリアル北街道の要衝であることを物語るように沢山の店が軒を連ねていて、とても活気がある町に見えた。


 ロヴァル騒動の時はジュビエーヌが貴族達の歓待を受けている間、外で待機していたので町の中を見ていなかったのだ。


 まあサソリもどきの大きさでは家屋にかなり損害を与えただろうから、降伏後では押し入ることは出来なかったんだけどね。


 領主館の正面では、使用人達が出迎えてくれていた。


 馬車の扉が開きインジウムが声を掛けてきた。


「お姉さまぁ、到着しましたよぅ」


 俺はローブを羽織るとジゼルを伴って馬車を降りた。


 すると使用人達の中から白髪の執事が前に出て俺に礼をした。


「私はストゥッキ伯爵家の執事でポテンテと申します。我が主がパルラ辺境伯様の到着を心待ちにしておりました」

「そうですか、私は先を急ぐので簡単なご挨拶をしたら直ぐに発ちたいのです。その旨を伯爵様に伝えて貰えますか?」

「えっと、既に歓迎の準備を整えておりますので、主人に聞いてみませんとなんとも」


 そう言うと、とても困ったような顔をしていた。


 拙いなあ、このままだと相手のペースにずるずると巻き込まれそうだ。


 とりあえず中でお待ち下さいというので仕方なく執事の案内で館の中に入ると、その先で1人のメイドが鞭で叩かれていた。


 その頭には獣耳が見えた。


「あれは何をしているのですか?」


 俺がそう質問すると、執事は俺が見ている先に視線を移してから答えた。


「言われた事をきちんと出来ない使用人に罰を与えているのです」


 鞭で叩かれている獣人は、頭を両手で庇いながらしきりに謝罪を口にしていた。


「ごめんなさい。ごめんなさい。お願いです、もうぶたないで」


 するとジゼルが鞭を振り上げた女の後ろに回り、その鞭を掴んでいた。


 獣人を叩いていた女は動かなくなった鞭に気付いて後ろを向き、邪魔をしているジゼルに悪態をついた。


「なんだい、この獣は? どっから現れた? 私の邪魔をするんじゃないよ。それともあんたもぶたれたいのかい?」


 そして今にもジゼルを殴ろうとしているところで割って入った。


「この娘は私の友人です。暴力はご遠慮願えますか」


 俺がそう言うとメイドは目を細めると、とんでもない事を言い放った。


「ふん、亜人がなんでこんな所に居るんだい。領主様が買った奴隷ならお前の居場所は領主様の寝室だよ」

「まあ随分と教育が行き届いた使用人ね。伯爵は随分変わった趣味をしているようだわ」

「ちょいと伯爵様を馬鹿にするなんて、ポテンテ、なんでこの亜人共に教育を行わなんだい?」


 メイドが執事の方を向いてそう言うと、ポテンテと呼ばれた執事が少し焦った顔で俺の視界を遮った。


「こちらのお方はパルラ辺境伯様だ」

「し、失礼しました」


 ようやく女は自分の失敗に気が付いたようで、真っ青になって床に跪いていた。


 俺は先程までぶたれていた獣人メイドの傍にしゃがむと、震える背中を優しく摩ってやった。


「大丈夫ですか? 今怪我を直してあげますね」


 そして霊木の根を取り出すと薬液を注射した。


 するとみみず腫れになっていた獣人メイドの腕や足が元の綺麗な姿に戻っていった。


「嘘、痛みが無くなったわ。あ、ありがとうございます」


 獣人メイドが顔を上げて俺を見ると、驚いたような顔になった。


「あ、あれ?」

「大丈夫ですよ。1人で立てますか?」

「あ、はい、大丈夫です」



 執事に案内された部屋で、直ぐに発ちたいというこちらの要望に対する答えを待っていると、扉をノックして入って来たのはワゴンを押したメイド達だった。


「失礼いたします」


 そう言うと私とジゼルが寛いでいるテーブルまでやってくると、俺の目の前にお茶を置いた。


 だが、態となのかジゼルの前にはお茶は置かれなかった。


「ちょっと、私の友人にもお茶を出して貰えますか」

「え?」


 メイド達は俺がジゼルにもお茶を出してくれるように言うと、とても意外そうな顔をしていた。


 そして用意しようとしないので、重ねて申し入れてようやくだった。


 獣人を差別するようなその態度に憤慨していると、1人のメイドの顔がどことなく見覚えがあるのに気が付いた。


「ちょっと、貴女」


 俺が声を掛けると、そのメイドはビクンと体を硬直させてから、恐る恐るというふうにこちらを見て来た。


「あの、何でしょうか?」

「どこかで会っていませんか?」

「いえ、初対面です」


 余りにも連れない返事をすると一礼して出て行こうとしたので、思わずその手を掴んでしまった。


 拙い、これってセクハラ? いや、パワハラか。


「あの、手を放して貰えますか?」


 メイドが上目遣いにこちらに非難の目を向けてくると、後ろから近づいて来たジゼルがそっと耳打ちしてくれた。


「ねえユニス、この娘、パルラに居たメイドさんよ」


 その声は目の前のメイドにも聞こえていたようで、それまでの態度とは打って変わり、狼狽したように目がキョロキョロと動いていた。


 パルラで行方不明になっているメイドは1人しか居なかった。


「貴女、パメラ・アリブランディね」


 俺がそう言うとまるで弾丸を撃ち込まれたようにビクリと体を硬直させると、直ぐに目に涙を溜めて命乞いをしてきた。


「ごめんなさい。ごめんなさい。逃げ出したのは将軍に命じられたからです。決して私の本意ではありません。どうかこのまま見逃してください」


 将軍? そう言えばあの墓泥棒も上司の事をフリュクレフ将軍と言っていたな。


「貴女の上司とは、フリュクレフ将軍の事ですか?」


 するとパメラは目を大きく見開いて、口をぽっかり開けていた。


 その姿を見れば返事を聞かなくても、当たっていることは一目瞭然だった。


「今、パルラにはジュール・ソレルが居ますよ。多分、貴女の仕事仲間でしょう?」


 俺がそう決めつけると、パメラはガックリと項垂れていた。


「全て、お見通しなのですね。それで私はどうなるのでしょうか?」

「パルラに戻って来られるように連絡を入れておきます。貴女も仕事仲間が傍にいた方が心強いでしょう?」

「・・・はい、分かりました。よろしくお願いします」


 パメラが満面の笑みでそう言ったので、俺はそれが了解の意味と取って早速手紙を書いてパメラに渡した。


 パメラが礼を言って出て行くと、ジゼルが俺に話しかけてきた。


「ユニスから手紙を貰った時、パメラさんとっても悲しそうな顔をしていたわよ」

「え? なんで? あんなに嬉しそうな顔・・・」


 ジゼルの魔眼は正確だ。


 という事は、パメラは本心ではパルラに戻りたくなかったという事か?


「きっと、国に戻りたかったんじゃないかな?」

「ああ、それならそうと言ってくれればいいのに、悪い事をしたわね。それにしてもパメラさんの社交辞令の能力は凄いわね。全く気付かなかったわ」

「パルラを経由して帰国出来る事を祈ってあげましょう」

「そうね。でも、私達がパルラに戻ってもまだ居たら、ご飯でもご馳走して慰めてあげましょうね」







ブックマーク登録ありがとうございます。

+++++(寸劇)

(パメラ)あああ、どうして私の周りには人をこき使う女しかいないのよぉ。私は休暇が欲しいのよぉ。求ム、我が憧れのロング・バケーション。

(将軍)パメラ、何時までも遊んでないで、さっさと働きなさい。

(パメラ)えっ、私はちゃんと働いていますよ?

(将軍)とぼけても無駄よ。 ユニスさんから、パメラが遊んでいたと教えて貰っているんだから。

(パメラ)えっ、何時の間に仲良くなっていたんですか?

(将軍)いいから働きなさい。

(パメラ)ひぇぇぇぇ、パワハラ上司と勘違い派遣先がコンボで私を働かそうと圧力をかけて来るうぅぅぅ



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