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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第6章 公都訪問
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6―6 公都への長い道のり1

 

 ついに公都エリアルに出発する日がやってきた。


 新造した馬車は錬成術で作った鉄製で、装飾が殆ど無い黒色をした箱形をしており、一般的な馬車の2台分以上ある大きな車体になっていた。


 馬車の出入り口も中央の両側ではなくバスのように左前部に付いていて、車内は左側が通路で右側に個人座席が2つ前後に設置してあった。


 個人座席は、斜め向きに設置してあり、座席の右側にあるサイドテーブルには食事トレーやドリンクが置けるようになっていた。


 馬車内の右前方には冷蔵庫があり、中には食事や飲み物が冷蔵されていた。そして、左後方には毛布や枕を収納するキャビネットがあった。


 その配置や座席は旅客機のファーストクラスをまねて作ってみたのだ。


 それは俺が財宝を発見して有頂天になっていた時、空の移動の時ファーストクラスを使っていたからだ。


 あのシェリー・オルコットから「そんな浪費していたらすぐにお金に困る事になるわよ」と忠告されて、余計むきになっていた。


 まあ、その結果は酷いものだったが。


 今は、あの時の自分を思いっきりぶん殴りたい気持ちでいっぱいだよ。


 随行する荷馬車には、滞在中に使うドレス等を入れたチェスト、お土産用のミード酒と、甘味大根を入れた樽それとジュビエーヌの好物だという霊木の実も積み込まれた。


 同行者はジゼルと、馬車の馭者として2体のオートマタを連れて行く事にした。


 これにはトラバールやオーバンから不満が出たが、獣人は偏見の目で見られるので、目立たないように少ない方がいいだろうと諦めて貰ったのだ。


 馬車の傍ではニコニコ顔のインジウムと、そんなインジウムを困ったような眼で見つめているグラファイトが立っていた。


「グラファイト、インジウム、馭者よろしくね」

「了解」

「はあぃ」


 2人は俺に返事を返すと、インジウムが俺達のために扉を開くと、グラファイトが乗り易いように踏み台を用意してくれた。


 俺はそんな2人に軽く頷くとジゼルを伴って馬車に乗り込んだ。


 ジゼルはその変わった内部構造に驚いていた。


「ねえ、ねえ、ユニスこれは何? 見た事も無い椅子? だけど」


 ジゼルは前後に2脚しかない座席を見て困惑していた。


「この椅子は後ろに倒すとベッドになるのよ」

「え?」


 そう言って俺はシートに座り背もたれを90度倒して横になって見せると、ジゼルも隣の席に座って同じ事をして喜んでいた。


「キャビンアテンダントが飲食物を持って来ないけどね」

「キャビンアテンダント?」

「ああ、何でもない。でも野営の時はこの馬車の中で眠る事が出来るわよ。こうやって枕と毛布を掛ければ簡単でしょう」


 そう言って俺は後ろのキャビネットから毛布と枕を取り出して実演してみせた。


「凄いわね。こんな馬車、王侯貴族でも持ってないわよ」


 俺は興奮するジゼルを宥めていると、馭者席と繋がる小窓を開けたインジウムが声を掛けてきた。


「お姉さまぁ、そろそろ出発しますかぁ?」

「ええ、お願いね」


 インジウムの合図でゴーレム馬の目が光ると馬車がゆっくりと動き始めた。


 ゴーレム馬は力があるので重い馬車でも簡単に引いていた。


 スピードも一般的な馬車よりも出せるのだが、街道には他の通行人や馬車も走っているので、能力を最大限発揮することはなさそうだ。


 俺は出来るだけ楽をしようと既にTシャツに短パンに着替えていて、それを見たジゼルも似たような恰好になって寛いでいた。


「こんな楽な旅が出来るなんて思わなかったわ」


 前の座席ですっかり寛いでいるジゼルが感想を口にしていた。


「前の冷蔵庫に飲み物があるから、好きにしてね」


 俺がそう言うとジゼルは椅子から立ち上がると冷蔵庫を開けると、2人分の飲み物を取って来てくれた。


 俺はジゼルから片手で持てる取っ手付きの小さな木樽を受け取ると、サイドテーブルの飲み物受けに置いた。


 木樽の上辺の飲み口には栓が付いていて、振動で倒れても中身が零れないようになっていた。


「ジゼル、のんびり行くわよ」

「うん」


 それからしばらくして馬車の速度が落ちるのを感じると、馭者台からダラムに到着したと声を掛けられた。


 各都市を通過する際は、王家から発行された建国祭の招待状を見せることになっていた。


 この招待状は何処でも通行を可能とする命令書も兼ねているので、門の通過は何の問題も無いのだ。


 馬車が完全に止まると外から声が聞えてきた。


「その馬車には誰が乗っている?」

「この馬車にはぁ、お姉さまが乗っておられますぅ」

「お姉さまだと、ふざけているのか?」

「はぁ、全く無粋な男ねぇ。これを見なさぁい」

「こ、これは王家の、失礼しました。どうぞお通り下さい」


 全く、最初から王家の招待状を見せればいいものを。


 そういえばダラムにはマリカ・サンティという商人名では来た事があったが、パルラ辺境伯として来るのは初めてだったな。


 馬車の窓から町中を眺めると、珍しい馬車を見上げる通行人と目があった。


 その通行人はこちらを見て口をぽかんと開けていた。


 するとまた馬車が止まり、外から声が聞えてきた。


「申し訳ございません。ダラム行政官のベニート・モンダルト様が辺境伯様に是非ご挨拶したいので館までご足労願いたいと申されております」

「行政官ふぜいがぁ、馬車の通行の邪魔をするというのですかぁ? 思い上がるのもいい加減にしてくださいねぇ」


 こら、こら、余計な諍いを作るんじゃない。


 全く、これじゃ、そのまま素通りが出来ないじゃないか。


「インジィ、せっかくだから挨拶に寄りますよ」

「え? はあぃ」


 インジウムの返事はとても不満そうだったが、これはお前のせいなんだからな。


 せっかく楽な恰好になったのにまた服を着替えると、カルメの町でバラチェに貰った偽色眼で瞳の色を黄色に変えた。


 ベニート・モンダルトはロヴァル騒動の時会っているので、瞳の色を覚えているかもしれないが少しでも問題の種は排除しておいた方がいいだろう。


 ダラムの領主館に入ると館の主が待っていた。


 モンダルトは初対面の時とは違い、職場にやって来た上司に対応するサラリーマンといった態度だった。


 貴族の間では、俺は「大公のペット」と呼ばれているようだから、この男も俺の姿を通してジュビエーヌを見ているのだろう。


 この男はあれだ、日本企業にはよく生息しているヒラメ君と同じなのだろう。


 だが残念ながら俺は君の上司ではないから、おべっかを使っても君の評価は上がる事はないのだよ。


 しかし、この足止めで、今日中にゼフォフまで行くという当初の案は破綻していた。


 それを見越していたのか、モンダルトはダラムで一泊していくようにとしきりに誘ってきていた。


 それを何とか断り、ダラムを出発した頃には大分日も傾いていた。


「今日は途中で野営になりそうね」

「それじゃあ、早速この椅子が使えるのね?」


 なんだか、ジゼルは野営を楽しみにしているようだ。


 俺としては上空をエリアルに向けて飛びながら、ゆっくりひと眠りしたかったけどね。


 街道を少し離れた場所に馬車を止めると、周囲はすっかり暗くなっていた。


 俺とジゼルは後部のキャビンから枕と毛布を取り出すと、座席を90度倒して眠る準備を整えた。


 俺は想定通りのベッドの柔らかさを堪能していると、同じく隣のベッドに横になったジゼルからも感嘆の声が聞えてきた。


「ねえ、ねえ、ユニス、これ、凄いわね」


 どうやらジゼルも満足してくれたようだ。


 外では、眠る必要のない2体のオートマタが暗闇の中、周囲の警戒を行っていた。


評価ありがとうございます。

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