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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第6章 公都訪問
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6―2 公都への訪問要請

 

 俺は、ジゼルとビルギットさんを誘ってカフェ「プレミアム」でお茶とお菓子を楽しんでいた。


 これは仮装祭りで酒場の給仕を手伝って貰ったお礼なのだ。


 3人で訪ねた酒場「エルフ耳」は前回よりも客が多く、そしてその中にはあのバルギットの貴公子という2つ名を持ったスケコマシまで居たのだ。


 そして注文品を運んで行くと、必ず俺の手を取ると歯が浮きそうな甘い言葉を投げかけてくるのだ。


 それを見た他の客も同じような事をしてこようとするので、物凄く効率が悪く、閉店の時間まで殆どの客が帰らなかったので、閉店した後はもうへとへとだった。


 それはジゼルやビルギットさんも同じだったようで、こうやってお疲れさん会を開いているのだ。


 やれやれ、来年はルールを変更したいのだが、皆があんなに喜んでくれているのを見ると、それも難しそうだ。


 そんな所に珍しくオーバンがやって来たのだ。


「ユニス様、ちょっといいでしょうか」

「何、オーバンもここに混ざりたいの?」

「いえ、そのような事は・・・いえ、本音を言えばそれはそれで嬉しかと」

「いいわよ。椅子を持って来てここに座りなさいな」


 そう言って俺の隣を叩いて指し示した。


 オーバンはそれを見て素直に隣の席の椅子を掴むと、俺の隣に置いてそこに座った。


 俺がオーバンの為にお茶を注文していると、オーバンがそっと話しかけてきた。


「私は、此処に来る前は、とある貴族家の護衛をしておりました」

「へえ、そうだったのですね」


 俺が相槌をいれると、オーバンは話の先を進めていた。


「確か、エリアルは今、社交シーズンのはずです」

「社交?」

「はい、公国内の貴族達がエリアルに集まって交流をするのです。ユニス様も貴族になられたので、エリアルに行って社交をしなければならないのではなかと」


 そう言えば新しく貴族になったアメデオから何時頃エリアルに行くのかという手紙が来ていたな。


 行く予定が無かったから行かないと返信しておいたが。


「私はエルフですよ。人間達の遊技に付き合う必要は無いでしょう?」

「まあ、ユニス様がそうおっしゃるなら」


 オーバンはそう言うとこの件はもう口にしなくなった。



 そしてお疲れさん会を終えて娼館に戻って来ると、ジュビエーヌから連絡蝶が届いた。


 ジュビエーヌから送られて来る連絡蝶は、2体のオートマタの状態だったり、貴族達への愚痴や、俺が何をしているのかと言う内容が多かった。


 だが、今回はそう言った内容ではなく、公都で開催する建国祭への出席要請だった。


 そして例によって、また使者が細かい説明をしますという文言で締めくくられていた。



 ジュビエーヌの連絡蝶が来て数日後、すっかり連絡係となってしまったアッポンディオ・ヴィッラがやって来た。


 彼は今では魔法師団団長という高い役職についているのに、パルラまでお使いに来るという仕事をやらせてもいいのだろうか?


「ヴィッラ殿が態々やって来られるとは恐縮です」

「いえ、ガーネット卿は公国の事をあまりご存じないかと思われますので、こうやって説明に上がるのは至極当然の事です」


 そしてヴィッラの説明によると、ロヴァル公国では、始祖である大魔法使いロヴァルが建国した日を記念して、毎年その日を国主催で祝っているのだそうだ。


 公国はこの建国日が1年の始まりとなり、次回の建国日までを1年とするカレンダーが使われていた。


 建国祭は3日間に渡って行われ、初日はディース教の司祭を招いて大公による国の安寧と発展を祈願する祭事が行われる。


 2日目は前年に功績があった貴族達の功績の紹介と王家による恩賞の授与。


 3日目は新しい貴族年鑑に従った序列の紹介と舞踏会の開催となるようだ。


 初日は式に出席するだけでいいらしいが、2日目はロヴァル騒動での功績と恩賞授与になるので、これは参加する必要があるようだ。


 そして、3日目が問題で、そこには貴族の嗜みと言うべき舞踏会があるのだ。


 そもそもこの世界の踊り等、俺に分かるはずも無いのだ。


「私もその建国祭りに参加しなければならないのね?」

「はい、そうです。そして陛下もそれを望まれております」

「分かりました。ただ、1つだけ問題があります」


 俺がそう言うと途端にヴィッラは心配そうな顔になったので、俺が気が変わってやっぱり止めると言い出すんじゃないかと懸念しているようだ。


「3日目の舞踏会というのはダンスパーティーですよね? 私はエルフだから、この人間達の踊りには参加しなくてもいいのでは?」


 ヴィッラは目を見開いて驚いていた。


 そして勢いよく近づいてくると肩を揺すられていた。


「え、何を言っているのですか? ガーネット卿は公国で今最も注目を集めているお方ですよ。参加されないでは済まされませんし、そんな事をされたらガーネット卿を貴族に推した大公陛下の威信に傷が付いてしまいます」

「うっ」


 こ、これは、拙いぞ。


 仕方がない、踊りはあおいちゃんにでも教えて貰うか。


 後は3日分のドレスが必要だな。これはルーチェにでも相談するか。


「分かりました。参加しますから、そんなに興奮しないでくださいよう」


 それを聞いたヴィッラはほっとしたところで、自分が何をしたのかを思い出して真っ青な顔になっていた。


「し、失礼しました。ガーネット卿」

「いいえ、気にしなくていいですよ」

「ありがとうございます。ところでガーネット卿はエリアルで社交をするための拠点はお持ちですか?」

「拠点? いいえ、ありませんが、それが何か?」


 そもそもエリアルにはジュビエーヌを家まで送って行ったただけなのだから、拠点などあるはずが無いのだ。


 するとヴィッラは、貴族達の社交について話してくれた。


「建国祭の前後2ヶ月間は社交シーズンとなっております。まあ、年々貴族達が早めに集まるようになったので今では前2ヶ月に増えていますがね。それで、エリアルに集まった貴族達は、他の貴族に招待状を送り、自分の館に他の貴族を招いてお茶会や夜会を開いて親交を深めています」

「はあ?」


 ああ、成程ね。それでエリアルに拠点があるのかと聞いたのか。


 だが、俺は別に他の貴族達と親交を深めるつもりは無いのだ。


「特に他の貴族と関わり合いを持つつもりはありませんので、気遣いは無用ですよ」


 他の貴族との親交といったって、どうぜ腹の探り合いだろうしね。


「分かりました。そうすると宿泊場所はどうするのですか?」

「適当に空いている宿を探しますよ」

「申し訳ございませんが、それは難しいかと」

「何故ですか?」

「建国祭の時期は沢山の見物人が集まるので、宿はどこも満杯です。それにガーネット卿は目立ちますからね。仮に宿が取れたとしてもトラブルの原因になると思われます」


 ああそうか。


 そう言われてしまうと確かに何となく分かるな。


 俺がどうしようかと考えていると、ヴィッラは俺に笑顔を向けてきた。


「陛下は、公城アドゥーグに部屋を用意すると仰せでした」


 それは助かるのだが、なんだかそんな所に入れられたら、監視されているようでとてもじゃないが羽を伸ばせないよな。


 だが、他に選択肢が無いのなら仕方がないか。


「分かりました。それではお言葉に甘えることにしましょう」


 段取りを終えたヴィッラはエリアルに帰って行った。


 俺は祭りの数日前にアドゥーグに行く事をジュビエーヌに伝えて貰った。


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