5-29 仮装祭り2
「それでぇ、どうして私がぁ?」
俺の前には困惑した表情のルーチェ・ミナーリが座っていた。
七色の孔雀亭でファッションショーをやる事が決まってしまったので、一緒に舞台に立つ仲間を募りにやって来たのだ。
「お祭りでこのグッズを身に着けるのは人間の方々ですから、ルーチェさんも販売増のため営業活動をされるというのは良い考えだと思いませんか?」
「えっとぉ、ちょっと意味が良く分からないんですけどぉ」
う~ん、回りくどい言い回しだと理解してくれないか。
「それじゃあ具体的に言いますね。私と一緒に衣装を身に着けてステージに立ってください」
「・・・へ?」
ルーチェは今言われたことが信じられないのか、その両の眼が忙しく動いていた。
「あ、あのぅ、私じゃぁ、とてもお役にたてないかとぉ」
「大丈夫ですよ。一緒に頑張りましょう」
「でも、でも、ユニス様と私とじゃあ、月とすっぽんといいますかぁ。とてもご期待には沿えないといいますかぁ」
やっぱり協力してもらうのは難しいか。他の人に頼もうかと考えたところで後ろから声を掛けられた。
「あら面白そうじゃない。業務命令よ。ルーチェ、参加しなさい」
俺は会話に割り込んできた声の主を確かめるため振り向くと、そこにはリーズ服飾店の女社長が立っていた。
「お、オーナーぁ、おふざけですよねぇ?」
「いいえ、本気です」
「ひえぇぇぇ」
ルーチェ・ミナーリは信じられないとばかりに白目を剥いていた。
まあこの娘なら、普段から俺に倣って開放的な服装をしているのだから問題ないだろう。
それにしても思わぬところで援軍が来てくれて助かったぜ。
後はバニースーツが優勝しないように願うばかりだ。
「社長さん、ご協力ありがとうございます」
「いえ、面白そうなイベントですね。私達も見物させてもらいますわ」
「私達?」
俺の目の前には女社長しか居なかったので、思わず疑問を口にしていた。
「ああ、ちょっと待ってくださいね」
そう言うと扉の向う側に声を掛けると2人の女性が入って来た。
「初めまして、私はバンケット会社を経営しているエイヴリル・アッカーと言います」
「パルラ辺境伯様、私は公都で香水関連の仕事をしているビリアナ・ワイトと言います」
俺も挨拶を返すと、2人ともリーズ女社長と同じ雰囲気を纏っているので社長仲間なのだろうと推測できた。
それにしても2人とも社長にしては若く見えるので、かなりやり手の女性達なのだろう。
2人はリーズ女社長から自分達が過ごしやすい町があると聞いて、見学にやってきたのだそうだ。
そしてアッカーさんは公都でバンケット会社を経営しているせいか、俺がお祭りをするというのでとても興味を持ってくれたようだ。
そこで色々雑談をしていると、お祭り当日は獣人に変装した人達には露店での料理無料と言う案が出てきた。
確かに無理やり仮装させるんだから、それくらいのメリットは必要だよな。
他にも浴場やプールバーの無料開放も決まった。
そして俺やルーチェ・ミナーリが参加することになったファッションショーにも、是非協力させて欲しいというのでお願いする事にした。
リーズ服飾店から戻って来た俺を待っていたのは、ビアッジョ達が作成した提案書なる物だった。
そこには町中を馬車に乗って練り歩くパレードと俺が着せ替え人形になり最高点を取った衣装で1日店員をするという罰ゲーム付きファッションショー、露店での飲み比べや早食い、浴場の浴槽での我慢比べなんてのもあった。
浴槽の方はのぼせる危険があるので、これは却下しておこう。
それよりもファッションショーの現場として考えている闘技場の整備が先だった。
何といっても俺がこの町を制圧してから放置しっぱなしなのだ。
手を入れないと、とても使い物にならないだろう。
そこでオーバンやベインに頼んで一緒に来て貰い、早速劣化具合を調べる事にした。
ペンタゴンのような五角形をした闘技場には一の角から五の角までの区画があるが、周囲はあちこち壊されていてゴミが散乱していたが、その内レストラン街だった五の角は食料品が置いてあったので悲惨な状況だった。
「ここにある物は全部処分しないと駄目ね。ベイン、お願い出来る?」
「はい、問題ありません」
ベインが合図すると、何処からともなく現れた猫獣人達が慣れた手つきで片付けて行った。
こういうのを見ているとやっぱり餅は餅屋だなと思うよな。
会場の内装はアッカーさんに助言を貰って、ベイン達にお願いして進めていった。
そしてパレードに使う馬車や露店、会場整備と祭りの準備は順調に進んだので、後は本番を待つだけとなった。




