5-25 本能の日2
「・・・トラバール」
「ガルル、俺の女になれ」
いや、保護外装におかげで女に見えるが、俺も男だし嫌だよ。
「トラバール、覚悟は良いわね」
俺がそう言うと、それを合図にトラバールは一気に接近してきた。
そんなトラバールに狙いを付けると「微弱雷」を放った。
藍色魔法陣から放たれた電撃が命中すると体が跳ねたが、それでも止まらずに猛然とタックルを仕掛けられ、そのまま絡まるようにして地面を転がった。
俺は何とか距離を開けて2撃目を撃とうとすると、トラバールは撃たれまいと体を密着させてそれを防ぎつつ、俺の顔を両手で押さえるとそのまま顔を近づけてきた。
その行為で何をしようとしているのかが分かり、俺は身の毛がよだつ思いがしていた。
「お、おい、トラバール、貴様、まさか俺の唇を狙っているのか?」
「ガルル、俺の物」
とんでもない事態につい素がでてしまったが、今のトラバールは気にもしないようだ。
そして猛烈な力で顔を近づけてきた。
「うおっ、おい、止めろぉぉ」
俺は顔をそむけて、何とかトラバールにキスをされないように抵抗していた。
何が悲しくて、男同士で口づけしなくちゃいけないんだよ。
俺は近い距離にあるトラバールの顔を引き剥がすため、両手で頭を掴むと必死に力を込めて引き離そうとした。
「こら、こら、待て、早まるな。ちょっと、落ち着けって」
「ガルル、俺の女」
俺は何とか引き離そうとし、トラバールは接触しようとして攻防戦を続けていると、他の獣人がやって来てトラバールを掴み押しのけようとした。
思わぬ援軍の到着に何とかトラバールを引き剥がすと、俺を狙って激しく争い出した2人をまとめて仕留める隙が出来た。
「やれやれ、お前達、良い夢見ろよ」
そう言って2人まとめて微弱雷を撃ち込み、何とか動きを止める事が出来た。
ようやく凌辱の危機から脱した俺は精神的に疲れたので休みたかったが、まだこれで終わりでは無いのだ。
なんとか気力を奮い起こして立ち上がると、次の標的を探す事にした。
「後はオーバンか」
オーバンを探して魔力感知で周囲を探ると、連携の取れた動きでこちらに接近する5つの起点が現れた。
この統制の取れた動きは、オーバンと仲間の豹獣人達だろう。
俺に接近して来る輝点は、こちらを包囲するようにU字型の陣形を取っていた。
そしてその輝点は一定の間隔を保ちながらこちらに接近してくる様は、まるでプロのハンターのようだ。
きっとオーバン達は、木々が生い茂っている森の中や建物が密集している町の中なら、かなり手ごわい相手になるだろう。
だが、ここパルラでは建物の間が非常に広く、植え込みはあるが見通しが効くので身を隠しながらの奇襲には不向きなのだ。
それに相手のペースで戦ってやるつもりは無いので、重力制御と飛行魔法を合わせて僅かに浮かぶと、静止の状態から一気にトップスピードを出し、一番近い位置に居る輝点に向けて一気に駆けた。
標的となった豹獣人は、突然俺が現れた事で一瞬動きが止まったようだ。
その隙に微弱雷を撃ち込むと、糸の切れた人形のような動きで倒れ、そのまま動かなくなった。
そして次の輝点に向かった。
2人目もいきなり俺が現れた事で驚いて動きが止まったので、そのまま微弱雷を撃ち込んで意識を刈り取った。
次の相手はオーバンだ。
オーバンが目の前に現れると、その瞳は金色に輝いていた。
「オーバン、大人しく沈みなさい」
そう言いながら藍色の魔法陣を展開すると直ぐに「微弱雷」を放ったが、オーバンはこちらの電撃をすんでの所で躱すと植え込みの向う側に姿を隠した。
「くそっ」
オーバンを追撃したかったのだが、残り2人がこちらに接近していてその暇はなさそうだった。
接近して来る2人は、2時の方角と10時の方角から真っ直ぐこちらに向かって来ていた。
幸いな事に、そちらの方角には障害物が無く見通しが効くので狙い撃ちが可能だ。
俺は確実に当てるため十分に引き付けていた。
そして2人の豹獣人の顔がはっきりと分かるまで接近して来ると、その金色の瞳が目についた。
あれ? そう言えば普段の彼らの瞳の色は何色だったっけ?
そこで普段から彼らにあまり係わって来なかった事に気が付いた。
「もう少し彼らと交流を深めておく必要があるな」
そして2人の豹獣人がくわっと口を開けたところで、藍色の魔法陣から白い閃光が走った。
電撃を受けた2人の獣人はビクリと跳ね酔っ払いのような千鳥足になったが、それでもこちらに向かってよろよろと接近していたが、金色に輝いていた瞳から光が消えるとそのまま倒れ込んできた。
俺はその体を両手で掴むと、ゆっくりと地面に寝かせてやった。
だが、その隙だらけの背中に向けてオーバンが覆いかぶさって来ると、そのまま地面にうつ伏せに倒されていた。
腕を後ろ手に取られて、上から圧し掛かられると身動きが取れなくなった。
そして足の間に膝を押し込まれると徐々に足が開いて行った。
「おい、オーバン、お前本気か?」
「ガルル、俺の女」
「畜生、お前もか」
しかしこの態勢だと圧倒的にこちらが不利だ。
「オーバン、分かった。大人しくするからちょっと離れてくれ」
そう言って体の力を抜くと、締め上げられていた力も緩むのが分かった。
そして僅かに腰を浮かすと、俺の体をくるりと回転させて仰向けにした。
「騙して悪いな、オーバン」
俺は、油断したオーバンに向けて「微弱雷」を撃ち込むと、オーバンは「うっ」と一声呻くとそのまま後ろ向きに倒れ込んだ。
その後も町中を回って獣人達を1人残らず気絶させると、後始末をするためグラファイトとインジウムを呼んだ。
2人は目の前の光景を見て不満を口にしていた。
「大姐様、もっと早くお呼び頂ければ手伝えましたが?」
「酷いですぅ。私もぅ、お手伝いしたかったですぅ」
「貴方達に任せたら、皆殺しにしてしまうでしょう」
「え、あ、いや、そうですね」
「当然ですぅ。お姉様に襲い掛かるような不埒者は、生かしておく価値もありませぇん」
俺はグラファイト達を宥めすかして、パルラの町中に転がっている獣人達を集めるとベルヒニアが言っていた2日間、監禁しておくことにした。
「お姉様ぁ、雌の獣人はどうするのですかぁ?」
「彼女達が男を襲う事は無いから、放置していて大丈夫でしょう」
だが、大丈夫では無かった。
男共が皆ここに集められているので、女性獣人もそれを求めてやって来たようだ。
「「「フー」」」
その威嚇音に、グラファイトとインジウムが直ぐに反応した。
「貴方達、殺してはダメよ。優しくやるのよ」
「了解」
「はあぃ」
それからは接近して来る獣人達をグラファイト達が阻止し、俺が「微弱雷」で意識を刈り取って行った。
「やれやれ、これで本当にお終いね」
「はい、そのようです」
「ちょっと暴れ足りないですぅ」
そして獣人達を皆気絶させて安全になったところで、武器防具を装備したトマーゾ達がやって来た。
「ユニス様、女達が襲われたと聞いたのですが、獣共はどちらですか?」
「獣共・・・全員眠らせてます。2日もしたら元に戻りますから大丈夫ですよ」
トマーゾの言葉からは獣人への敵意が窺えたが、今は襲われた直後だから仕方が無いとそのままにしていた。
そして俺はベッドに寝かせてあるジゼルが起きるのを待っていた。
ベルヒニアが言っていた2日が過ぎていたので、目を覚ませば何時ものジゼルに戻っているはずだ。
ベッドに横になっているジゼルは規則正しい呼吸をしていて、時折頭の上にある獣耳がぴくりと動いていた。
何か夢でも見ているのだろうか?
そして我慢が出来なくなった俺はそっとジゼルの耳に手を伸ばしたが、ジゼルの瞼が開き俺の動きをばっちり見られてしまった。
俺が動きを止めて固まっていると、橙色と紫色のオッドアイがじっとこちらを見つめていた。
「や、やあ、おはよう」
いたずらを見つかった悪ガキのように笑って誤魔化そうとしたが、ジゼルにはバレていたようだ。
「何をしようとしたの?」
「いや、何も」
そう言って手を引っ込めると、そのまま頭を掻いて誤魔化した。
そしてジゼルが何か言おうとしたところで、お腹が「ぐぅ」と鳴った。
まあ、2日間も眠っていたのだから当然か。
「それじゃ、朝食を食べに行こうよ」
俺がそう言うと腹の虫が鳴って恥ずかしがっていたジゼルが、にっこり微笑んでくれた。
「うん」
俺がジゼルを連れて食堂に入って行くと、隅の方に人間種の女性達が食事をしていた。
そして俺達の姿を認めると、笑顔だった顔が引き攣ったものに変わった。
俺達がカウンターに座りチェチーリアさんに食事をお願いしていると、先程の女性達がそそくさと食堂を出て行く姿が見えた。
「はい、お待たせ」
そう言ってチェチーリアさんが朝食をカウンターの上に置いてくれた時に、質問してみた。
「人間種達の様子がおかしいのですが、何かあったのですか?」
するとチェチーリアさんの顔が、途端に曇るのが分かった。
「どうかしたのですか?」
俺が促してみると、チェチーリアさんはジゼルの方を見てとてもいいにくそうにしていた。
どうやらジゼルに聞かせたくない話らしい。
食事の後で、こっそり聞いてみた方が良さそうだ。
今は正気に戻ったジゼルと食事を楽しむとしよう。
誤字報告ありがとうございます。




