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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第5章 異色の女経営者
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5-22 カルメ訪問

 

 獣人の里でホンザの娘スーの病気を治した後、他の家族からも同様の依頼を受けた結果、パルラに移住するという人数が18人に増えていた。


 仕方が無いので獣人達の目の前で運搬用のゴーレムを作ると、それが護送車に見えたようで更に不興を買ってしまった。


 だが、子供も居るから上空ではしゃいで万が一落ちたら大変なので、どうしても鉄格子が付いた物になってしまうのだ。


 それに完全に囲ってしまうと、せっかくの景色が見えず絶対に不満を持たれるだろうしね。


 運搬用ゴーレムに18人の獣人を収容すると、重力制御魔法で軽くしてから上空に舞い上がった。


 するとそれまで怯えた表情をしていた子供は、途端にはしゃぎだし鉄格子から首を出していた。


 その姿を見た大人達に、やっとこれが安全策なのだと理解して貰えたようだ。


 上空からだとパルラは直ぐだ。



 ジゼルを見つけて事情を話し18人の獣人を預けていると、突然後ろから抱き締められた。


「お姉さまぁ、私を置いてどちらに行っていたのですかぁ?」


 この声はインジウムだ。


「え? ああ、ちょっとこの人達を迎えに行っていたのよ。それと、これからカルメという人の町に行かなくちゃいけないから、いい加減離れてくれる?」


 だがインジウムは俺に抱き着いたまま離そうとはしなかった。


「ちょっと、インジウム、いい加減離れなさいって」

「お姉さまぁ、私もお供しますぅ。連れて行くと言ってくれるまで離れませんよぅ」


 俺はインジウムに、がっちりとホールドされたまま全く動けなかった。


 これじゃ、連れて行くと言わない限りこの場から動けそうも無いな。


「仕方が無いわね。それじゃついて来て」

「はあぃ」



 そしてバラチェとの約束通りカルメの郊外までくると、そこには馬車と一緒に居るバラチェの姿があった。


「おお、ガーネット卿、お待ちしておりました。して、そのメイドさんは?」

「私はインジウムですぅ。お姉さまの天辺から爪先までの、ありとあらゆるお世話をしますぅ」

「ちょっと、インジィ、あまり変な事は言わないの」

「はあぃ」

「バラチェさん、これはオートマタです」

「え、オートマタ? 流石ですね。こんな物まで作ってしまうなんて。それでは早速行きましょう。ささ、乗ってください」


 そして俺とインジウムはバラチェが馭者を務める馬車に乗って、カルメの冒険者ギルドまでやって来た。


 前にこの町にやって来た時は、完全に敵認定されていたが、今回はどうなのだろか?


 バラチェが扉を抑えてくれたので、入ろうとするとインジウムに止められた。


「お姉さまぁ、まずは私がぁ、危険が無いか調べてきますぅ」


 そう言うと先に入って行ってしまった。

 俺が外で待っていると、中から何かがぶつかる凄い音が聞えて来た。


 俺は嫌な予感がして中に入ると、そこではインジウムと冒険者達が今にも殺し合いを始めそうな険悪な光景が広がっていた。


「ちょっとインジィ、何をしているの?」

「お掃除ですぅ」


 違うだろう。


 どうしてこうなったのか不明だが、このままでは賞金を取り下げて貰うどころか、逆に金額を引き上げられてしまいそうだ。


 そこで床に転がってピクリとも動かない冒険者の姿が目に映り、事態を一瞬で把握すると、背中に冷たい汗が流れた。


 そしてよく見ると冒険者達は、武器を構えてはいるがどう見てもビビっていた。


 これは今すぐにでも事態を収拾しないと拙い事態になりそうだ。


「インジウム、お座り」

「はあぃ」


 インジウムは私の方に振り向くと、大人しくその場で正座をした。


 そして私はインジウムの頭を軽く小突くと小言を言った。


「駄目じゃないの。大人しくしているのよ」

「はあぃ」


 その光景に毒気を抜かれたのか場の空気が和らぐと、ギルドの制服を着た女性が冒険者達に武器を収めるよう命じていた。


 そしてどう見てもインジウムがやったと思われる倒れた男の傍に座ると、助け起こして霊木の薬液を注入した。


 薬液の効果が直ぐに効いて、ぐったりしていた冒険者は意識を取り戻した。


「どこか痛い所はありますか?」

「え? あ、いや、あ、無いです」


 ふう、どうやらこれでインジウムのしでかした事をフォロー出来たようだ。


 だが、その光景に我慢がならなかったインジウムが不満を口にしていた。


「お姉さまぁ、そんなゴミに膝枕なんてやりすぎですぅ」

「やりすぎなのは貴女でしょう?」

「うぅ」


 そんな俺達のやり取りを見ていたバラチェさんが声を掛けてきた。


「ガーネット卿、皆が待っております。そろそろ2階に参りましょう」

「あ、はい。それでは冒険者さん、膝の上からどいて貰えますか?」

「え、はい、すみません」


 そう言うと俺の膝の上からどいてくれたが、周りの冒険者からの視線を受けて罰が悪いのか俯いて頭を掻いていた。


 冒険者ギルドの2階にはギルドマスターの部屋があり、そこに入ると3人の男達が俺達を待っていた。


 その顔色はとても悪そうだったが、俺の顔を見て全員が驚いていた。


 誰も動かないのでどうしようかと考えていると、バラチェが空いている椅子を勧めてくれた。


「ささ、ガーネット卿、こちらにお座りください」


 俺がバラチェに礼を言ってから椅子に座ると、インジウムが俺の後ろに控えた。


 男達は俺と後ろのインジウムを交互に見ていたが、やがてバラチェの咳払いで正気に戻ると自己紹介を始めた。


 それによると領主と商業ギルドは代理で、冒険者ギルドはギルドマスターが居るようだ。


 自己紹介が終わると、いきなりバラチェが問題発言をした。


「ガーネット卿、ここに居る連中が恐れ多くも、ガーネット卿を賞金首にした大罪人共です」

「ちょっ、ちょっと待ってください。そんな事を言ったら、私達消されてしまうでしょう」


 そう言って商業ギルドの代理が、慌てた様子で俺の方を見て来た。


 まあ、賞金首だし、俺ってそんな感じに見られていても仕方がないか。


「そんな事はしませんから安心してください。それと今はロヴァル公国のパルラという町の領主をしております」


 俺がそう言うと、集まった男達は信じられないと言った顔で「本当だったのか」と呟いていた。


「それで私に対して懸けられている賞金を、取り消してくださるのですね?」

「ちょっと待ってください。それには私達に対して危害を加えないという保証と、ヴァルツホルム大森林地帯で狩りをする許可が必要です」


 許可? 俺があの森を管理しているとでも言いたいのか?


「私を襲わなければ、こちらから危害を加える事はありませんよ。それと何故私に狩りの許可を求めるのです?」

「貴女はヴァルツホルム大森林地帯の支配者、最悪の魔女様なのでしょう?」


 まただ。


 何故俺を最悪の魔女と呼ぶ?


「違いますよ」

「え、ですが、その赤い瞳、御伽噺の魔女そっくりですよ」


 瞳の色? そう言われて男達の瞳の色を見ると藍色や紫色だった。


 バラチェを見ると彼は緑色をしていた。


 バラチェは俺と目が合うと嬉しそうな顔をして、瞳の色について話してくれた。


「ガーネット卿はとてもきれいな赤色をしておいでですな。赤い瞳は体内魔力量が高い事を示すのです。そして瞳が赤色だったのは過去に最悪の魔女しかいないのです」

「そうですか、それでは私が2人目ですね」


 俺がそう言うと集まった男達は、何か言いたげな表情をしていた。


「え? いや、それは・・・」

「なんですか? 私はその魔女ではありませんから、2人目で間違いありませんよ」


 だが、集まった男達は何だか複雑な表情をしていた。


 すると、バラチェさんが何か思いついたのか、持っていた袋の中を掻きまわしていた。


「おお、それでしたらガーネット卿、この偽色眼を使ってみますか?」

「それは何ですか?」

「瞳の色を変えるマジック・アイテムです。人間の町に来るときは他のエルフと同じように黄色にしてみてはいかがです?」


 どうやら偽色眼とは、カラーコンタクトのようだ。


 俺は差し出された箱の中からコンタクトを取り出すと、早速使ってみた。


「バラチェさん、どうです? 似合いますか?」

「う~ん、やっぱりガーネット卿は赤い瞳が一番映えますなあ」

「そうよね、やっぱり金色の髪の毛には黄色よりも赤が良いわよね。ふふふ」

「こほん」


 俺とバラチェとのやり取りに呆れたギルドマスターが、咳払いをしていた。


 おっと、今はまだ会議中だったな。俺は罰が悪そうにぺろりと舌を出していた。


 すると俺のその姿を見た3人の男達が噴き出したので、それまでの重たい空気が一気に軽くなったようだ。


「ぶははは、全く、殺されるかもとかビビっていたのが馬鹿みたいだな」

「全くです。今までの自分を返せと言いたくなります」

「それで、えっと、ガーネット卿と呼べばよろしいですかな?」

「ええ、それで構いませんよ」

「カルメの冒険者が、ヴァルツホルム大森林地帯に入って狩りをするのは問題ないという事でよろしいですかな?」

「ええ、問題無いと思いますよ」


 会合の結果は、俺の討伐クエストは取り下げとなった。


 そしてやたらヌメイラへの訪問を促されたが、それは断った。


 そしてバラチェさんがパルラに来たいというので歓迎しておいた。


 会談は満足のいく内容だった。


 そして1階に下りて行くと、そこには冒険者達がずらりと集まっていて、俺が薬液を打った冒険者が頭を掻きながら一歩前に出てきた。


「へへ、先程は助けてくれて、その、ありがとう」

「いえ、こちらが先に手を出してしまったのですから、お詫びをするのはこちらの方です。すみませんでしたね」

「ああ、いや、その。なんだ、いいって事よ」


 俺は、そういって頭を掻いている冒険者達の間を縫って出口に向かった。


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