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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第5章 異色の女経営者
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5-20 行き倒れの男

 

 俺はジゼルを誘ってカフェでお茶を飲んでいた。


 最近はこの店も一昔前と比べて客が入るようになっているので、店長の顔色も良かった。


 その店長からは冗談なのか本気なのか、また店員をやってくださいと言われていた。


 通りではウジェが慌てた様子で走っていて、俺と目が合うととてもほっとした顔になり、こちらに駆け寄って来た。


「ユニス様、大変です。大森林の中で行き倒れを見つけました」


 そう言われて最初に思ったのは、ドワーフのバラシュだった。

 バラシュがまた調査にやって来て、不幸にも今度は自分が犠牲になったのだろうと思ったのだ。


 彼からは錬成術を教えて貰ったという借りがあるので、もし彼なら手厚く葬ってやろうと考えていると、ジゼルに声を掛けられた。


「ねえ、ユニス、貴女大丈夫?」

「うん、ええ、大丈夫よ。それで死んだのは誰だったの?」

「いや、危険な状態ですが、まだ生きています」

「ちょっと、それを早く言ってよ。それで何処に居るの?」


 俺が立ち上がると、ウジェが手招きしてきた。


「こちらです。ついて来てください」


 ウジェの後を追って北門から大森林地帯に出ると、そこには人だかりが出来ていた。


 そして俺の姿を見ると、まるでモーゼの十戒で海が割れるように自然と通路が出来上がり、その先に倒れている人物を見る事が出来た。


 その頭には獣耳、腰には尻尾があった。


 俺はその首元に霊木の薬液を注入すると、直ぐに意識を取り戻した。


 そして俺の事を認識した行き倒れは、すごい勢いでしがみついてきた。


「ちょ、ちょっと、何?」

「ユニス様ですよね? お願いです。助けてください」


 いきなりそう言われて戸惑ったが、その獣人の必死な表情からは冗談を言っているようには見なかった。


 だが、その顔はどこかで見たような気がしていた。


「以前、会った事がありますか?」


 俺がそう尋ねると何かに気が付いたのか、しがみつくのをやめて一歩後ろに下がっていた。


「失礼しました。私はホンザです。覚えていないでしょうが、東にある獣人の里をゴブリンに襲われていた時は助けて頂いた」


 そこまで言われて、嫌な事を思い出していた。


 そうだ。


 生餌にされた獣人を送り返した時に、里がゴブリンに襲われていたのを追い払ったのだ。


 そして俺は感謝されるどころか、最悪の魔女と言われて石を投げられた。


 俺がそれを思い出してちょっと嫌そうな顔をすると、ホンザと名乗った獣人はそれに直ぐに気が付いたようだ。


「助けてもらったのに石を投げた事は謝ります。ですが、娘を助けて貰えないでしょうか?」

「どういう事?」


 俺の声が一段低くなったので、ホンザは顔をやや引き攣らせていた。


「ゴブリンに襲われた女のうち、ユニス様に助けられた者は元気なのですが、そうでない者が皆病気になってしまいまして」

「それで私に治せと?」


 俺がすごく嫌な顔をしていたのだろう。


 やり取りを見ていた獣人達がさわぎだしていた。


「こいつ、ユニス様に助けられて石を投げたのか?」

「それで、また助けて欲しいとか図々しいな」

「追い出そうか?」


 何だがやばそうな雰囲気になって来たので、俺は集まっていた獣人達に振り返った。


「ちょっと、皆さん。物騒な事をしては駄目ですよ」

「「「はい、分かりました」」」


 この町の獣人は、本当に素直でいい人ばかりだな。


 ホンザも場の雰囲気が変わったのを感じて、ほっとしているようだった。


「虫が良い話なのは理解しておりますが、他に頼れる当てが無いのです」


 そこでホンザを見ると歩き詰めだったのだろう、服はヨレヨレだし靴はボロボロだった。


 あの里からここまでは随分離れているし、そもそも俺がここに居る事を知らないはずだ。


 きっと、俺を探してあちこち歩き回ったのだろう。


 娘の為必死だったのだろうな。


 ここで突き放すのは簡単だが、それで諦めるとも思えないし、仕方ないか。


 俺は「はあ」とため息をついた。


「仕方がない。だけど、今回だけだからね」


 俺がそう言うとホンザは余程嬉しかったのか、泣きながら礼を言ってきた。




 ヴァルツホルム大森林地帯を歩いて移動するのはとても困難だし時間もかかるが、上空からホンザの里に向かうとあっという間だった。


 ホンザも同じ事を思ったのだろう、その事実に驚き呆れていた。


「こんなに早く帰れるなんて・・・」


 まあ、そう思うよね。


 だけど、俺はあの時の記憶が蘇って来てとても気分が悪いのだ。


 上空から見るホンザの里は、動きがなく時間が止まっているかのようだった。


 そのまま中央にある広場に着地すると、ホンザの案内で1軒の平屋に向かった。


 中は思ったよりも広く、ベッドの上には若い女性が横たわり、その周りに2人の獣人が見守っていて、その内の1人は生餌にされていたボーと名乗った少女だった。


「スーの具合はどうだ?」


 ホンザがそう尋ねると年上の女性が振り返り、首を横に振っていた。


 それは駄目と言う意味ではなく、変化が無いという意味のようだ。


「ユニス様、お願いできますか?」


 ホンザは申し訳なさそうにそう言ってくると、他の2人もそれに合わせて頭を下げていた。


 俺はベッドの傍に行くと、眠っている獣人を見た。


 獣人の顔は何か痛みを耐えていると言った感じで、時折顔を顰めていた。


 霊木の薬液が病気にも効くのか分からないが、試してみる価値はありそうだ。


 早速霊木の根を1つ取り出すと、眠っている獣人の首筋に刺して中の薬液を注入した。


 効果は覿面で顔色がみるみるうちに良くなり、それまでの苦しそうな息遣いが穏やかなものに変わったのだ。


 そして瞼が揺れると、ゆっくりと目が開いた。


 初めて見る俺の顔に少し目を見開いたが、直ぐに傍に自分の近しい人の顔を認めたのだろう直ぐに安心した表情に変わった。


「お父さん、お母さん、お姉ちゃん・・・それと知らない人?」

「私はユニスよ。それじゃ、元気になったみたいだから私は帰るわね」


 そう言って立ち上がると、外がやけに騒がしくなっていた。


 するとホンザの家族が皆青い顔になり、ホンザが俺に話しかけた。


「どうやらユニス様の事がバレたようです」

「そう、なら早々に退散しましょう」


 俺が退散しようとすると外から声が聞えてきた。


「おい、ホンザ、人族が来て、魔女の事を聞いているぞ」


 俺は生餌でお呼び寄せられた時の事を思い出していた。


 まだ俺を討伐しようとしているのか?


 するとホンザが「まかせてください」といって外に出て行ってしまったので、帰る訳にも行かずどうした物かと考えているとボーが話しかけてきた。


「ユニスさん? 妹を助けてくれてありがとう。それから、その、私の事も」


 そう言って俺の顔を探るように見上げてきた。


 これは俺がどう反応するのか見ているのだろう。


 だから俺はにっこりと微笑むとそれが正解だったようで、ボーも俺に会わせてにっこり微笑み返してきた。


 戻って来たホンザの後ろには、見た事がある男がついて来ていた。


「おおお、ユニス・アイ・ガーネット殿。やっと会えた。私です。ガスバルです」


 ガスバル? ガスバル・・・ああ、あのお喋りな男か。


「えっと、討伐しようというのなら抵抗しますよ」

「いや、滅相もない。私は貴女のファンになったのです。例えユニス殿が賞金首だろうが関係ありません。それで今はこの里に住んでいるのですか?」


 そう言えば俺は賞金首だったな。


 ここは俺が貴族になった事を教えて置いた方が良さそうだ。


「ガスバルさん、よく聞いてください。今の私は、ロヴァル公国のパルラと言う町で領主をしています。私の首にかかっている賞金を取り下げて下さい。分かりましたか?」


 それを聞いたガスバルは驚いた顔をしていたが、直ぐに何か思いついたのかニヤリと笑ったのだ。


「えっと、それにはカルメの冒険者ギルドに行って、依頼を取り下げて貰うしか無いのです。どうです、私と一緒にカルメに行きませんか?」


 この男は、もしや俺を罠にかけようとしているのか?


「ちょっと、そんな事をしたら私が討伐されちゃうでしょう。それに私が居なくても、ガスバルさんが説明してくれれば済む事ではないのですか?」

「いえ、いえ、ガーネット卿がいかに美し・・・いえ、いかに無害かを石頭共に知らしめる必要があるのです。大丈夫です。ガーネット卿の身の安全はこの私、ガスバル・ギー・バラチェ男爵が、必ずやお守りすると御約束いたしましょうぞ」


 これはいかん、この男は本気だ。


 それに俺が言い出した事だし、今更無かった事にも出来そうもないな。


「仕方がないですね」

「ちょっと、待ってください。ユニス様、俺達家族を貴女の町に住まわせて貰えませんか?」

「どうしてです?」

「再びユニス様をこの里に招いてしまったので、私達家族はもうこの里で暮らせません」


 俺の事を最悪の魔女と呼んで忌み嫌うこの里では、さぞ暮らしにくいだろうな。


 俺がどうしようか悩んでいると、ガスバルが提案をしてきた。


「それでは一度ガーネット卿はこの者らを連れて町に戻り、私が一足先にカルメの冒険者ギルドに事情を説明しておきましょう。待ち合わせはカルメの町の外でどうですか?」


 これが今取れる最善策か。


 おれはガスバルの提案を受ける事にした。


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