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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第5章 異色の女経営者
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5-12 酒場の手伝い

 

 カフェでの体験を終えた翌日、他の場所を調べに行こうとジゼルと一緒に娼館を出たところで、1人の男が俺達の事を待っていた。


「ユニス様、お待ちしておりました」

「はい?」

「実はユニス様に助けて頂きたい事がございまして。ここで出て来られるのをずっと待っておりました」

「それなら声を掛けてくれたらよかったのですよ?」

「いえ、そんな恐れ多い事です」


 そう言って男は頭を深々と下げた。


 俺の事をずっと待っていたなんて、よっぽど深刻な事なのだろうか?


「それで私に何をして欲しいのですか?」

「とても言いにくい事なのです」

「はあ?」

「ユニス様に協力して頂ければ、たちまちに売り上げが上がり、パルラ生活協同会社にも少なからず貢献できると思うのです」


 売り上げが上がる?


 それは聞き捨てならないぞ。


 でも、なんで?


「どうして私が協力すると、売上が上がるのですか?」

「プレミアムのベルタに聞きました。ユニス様は各店の売り上げを実地で調べられていると。そして昨日、同店の給仕をして店の売り上げに多大なる貢献をなされたと聞き及んでおります」


 ま、まあ、あれだけ人が押しかければ噂にもなるか。


「ま、まあ、そうかもしれませんね」

「それで、実は私の店も売り上げが芳しくありませんので、ユニス様に是非、実地調査をして頂けないかと。さすれば、売り上げも相当な額になると思うのです。助けて頂けないでしょうか?」

「つまり、カストさんの店でも調査のため給仕をしろと?」

「はい、プレミアムでは店のエプロンを提供したようですが、私の店ではユニス様にぴったりの素敵な制服をご用意しております」


 そう言えばリーズ服飾店にも制服があったな。


 この世界でも制服があるのは、普通なのかもしれないな。


「分かりました」

「ありがとうございます」

「それでは私について来てもらえますか」

「ええ、良いですよ」



 そしてやって来た店には、長い耳を模した看板があった。


「これは?」

「この店の看板です。素敵でしょう?」


 いや、そんな事を聞いてるんじゃないんだが。


 そして店に入ると奥にバーカウンターがあり、カウンターの後ろの棚には酒が入っていると思われる木樽が沢山並んでいた。


「ここは?」

「はい、見た通りの酒場です」

「酒場まで流行っていないのですか?」

「ええ、悲しい事です。ですが、ユニス様が協力して頂ければ、たちどころに売り上げが回復するはずです」


 やれやれ、カフェのウェイトレスの次は、酒場の店員か。


「それでユニス様、これが制服です」


 そう言って差し出してきたのは、ちょっと変わった服だった。


 そしてそれを広げたところで俺は固まった。


「カストさん、これは?」

「はい、この店の制服です」

「私にはバニーガールの服に見えるのですが?」

「バニーガールの服というのが何なのかは分かりませんが、兎獣人に擬態するための服ですね」


 俺はバニースーツを握って、前に突き出していた。


「ちょっと待ってください。こういう服はカジノで使うのではないですか?」

「いえ、酒場でも普通に使います」


 その答えに思わず脱力していた。


「何故、酒場でバニーガールなのです?」

「何故と言われましても、ここはドーマー辺境伯様の頃からそうなっております」

「・・・どうしてもこれを着ないと駄目なのですか?」

「はい、ユニス様も先程協力すると仰って頂きました」

「うっ」


 俺は同じようにバニースーツを見ているジゼルの方を見た。


「私はユニスがやるなら協力するわよ」


 拙いジゼルは既にやる気だ。


 こ、これは逃げられないぞ。


 だが、カフェの時も2人であれだけ大変だったのだ。


 酒場となれば、とても2人では回らないだろう。


 これは他にも犠牲者、おっといけない、協力者を引っ張り込んだ方が良さそうだ。



「それでユニス様、いきなりお呼びになられて、これはどういった状況なのですか?」


 そう言ったビルギットさんは、とても不機嫌そうだ。


 仕方がないじゃないか。


 バニースーツを見て、思わず兎獣人を連想してしまったんだから。


 それにビルギットさんなら作り物じゃなくて本物の兎耳があるし、丁度良いと思って、つい。


「えっと、私達と一緒にこれを着て、この店の給仕をして貰います」

「つまりユニス様もこれを着るから、私にも着ろと仰せですか?」


 おお、笑顔なんだが、なんだか黒い霧がでているような気がするぞ。


「はい、そうです」


 俺がそう言ってじっとビルギットさんを見つめると、やがて根負けしたのか「はぁ」と深いため息をついていた。


「分かりました。ですが、ユニス様、これは貸ですからね」

「はい、分かりました」


 あれ? 俺ってこの町で一番偉いんじゃなかったっけ?


 何だか立場が物凄く低いような気がするぞ。



 それからは大変だった。


 店長のカストが事前に宣伝でもしていたのか、開店と同時に客が押し寄せた。


 客の中にはオーバンやアマディ等の他、何故かグラファイトとインジウムまで居た。



「それじゃあ、お疲れ様」

「はい、ユニス様も応援の皆さまも、本日はご協力頂きましてありがとうございました」


 酒場での仕事を終えてようやく解放された頃には、日が替わっていた。


 バニースーツを脱いで普段着に着替えると、ようやく戦場のような1日が終わったと実感できた。


 更衣室として使っていた小部屋から出ると、カストが待っていた。


「ユニス様お疲れさまでした。あ、汚れた制服はこちらで洗濯しておきますので、渡してください」

「あ、はい、お願いします」

「あ、そうそう、せっかくですから1杯飲んでいきますか?」

「え、いいの?」


 そして俺達は残った食材と酒で軽く打ち上げを行った。


 酒場で提供されている酒は、麦から作った白ビールが一般的なようだ。


 ドーマー辺境伯が所蔵していた高級酒もまだ沢山残っているのだが、高級過ぎてあまり出ないのだそうだ。


 ということで、俺も白ビールをカストが用意してくれた豆をツマミに飲んでいた。


 +++++


 ユニス様達が引き上げた後の酒場では、余韻を楽しむ常連客が残っていた。


「ああ、華があるというのはいいもんだなぁ」

「そうだなあ。ユニス様があんなに気さくだとは思わなかったぜ」

「給仕の時の、あの腰のぽんぽんのような白くて丸い尻尾が歩くたびに左右に揺れる姿は、可愛くて堪らなかったなあ」


 そう言うと常連客は、先程までの光景を思い出すように遠い目をした。


「あの魅力に耐えられず、思わず触ろうとした猛者が居たな」

「ああ、居たな、そんな奴。ユニス様のオートマタに電光石火の早業で放逐されてたがな」


 そう言って常連客は、皿に乗っているツマミをひょいと口に放り込んだ。


「ああ、あのオートマタはマジでやばいな。鋭い眼光で睨みつけてくるから、目から魔法弾でも飛び出すんじゃないかと思ったぞ」

「そうだなあ、あいつはデブで相当重かったはずなのに、片手でひょいと摘まみ上げて、そのまま店の外に放り投げたからなあ」

「ああ、俺ももう少し酔いが回っていたら、あの見事に回転しながら飛んでいく姿を見て、思わず願い事を口にしていたぜ」

「確かにな、俺にも流れ星に見えたぜ」


 そう言って常連客達は、笑いながら白ビールを飲んでいた。


「アマディの旦那が事前に警告してくれていて本当に良かったぜ。そうじゃなかったら、俺もあいつと同じように空を飛んでいたぜ」

「そうだな、ユニス様に粗相したらどうなるかを、身をもって示してくれたんだ。俺達は勇者の犠牲を忘れないぜ」


 そう言って「くっくっ」と笑うと、常連客は目の前にある木製ジョッキから残りの白ビールを飲み干し、店主の方を向いた。


「ところでユニス様が着ていた服はどうするんだ?」

「これか、勿論、このまま店に飾るんだよ。客を呼ぶ良い展示品になるだろう? これを見たら皆ユニス様のあのお姿を思い出せるんだ。話題にもなるし、酒も進むだろう?」

「確かにそうだな。店主、お前さんその為にユニス様に給仕なんかさせたのか?」

「営業努力と言って欲しいね。ユニス様に嘘を見破られるんじゃないかと、ヒヤヒヤしてたんだぞ」


 カストは常連客にそう言うと、ユニス様が脱いだバニースーツをハンガーにかけ、まるで宝物でも触るように丁寧に皺を伸ばしていた。


 すると店の入口が開いて太った男が入って来た。


「なんだ、もう終わりか?」

「あ、勇者だ」

「おお、勇者だ」

「勇者、生きてたのか?」


 常連客からのツッコミに、勇者と呼ばれた男は顔を真っ赤にしていた。


「誰が勇者だ。それに勝手に殺すな」

「お前、空に放り投げられてただろう。どうやって生き延びたんだ?」

「いや、投げられた先が木の上でな。生い茂った葉がクッションになって助かった」

「狙って投げたな」

「ああ、本当に恐ろしいぜ」


 すると店主のカストが手招きしていた。


「白ビールなら残っているから一杯やったらどうだ?」

「お、奢ってくれるのか?」

「ああ、いいぜ、その代わり、ユニス様の尻に触ったのかどうか、ちゃんと教えろよ」


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