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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第5章 異色の女経営者
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5-2 地域通貨

 

 あおいちゃんとの約束の通り、この町をしっかり発展させて発掘資金を稼がなければならないのだが、如何せん町の経営等やった事が無いのだ。


 自分の店を経営していた時は、大雑把に言ってしまえば安く仕入れて高く売れば良かったのだ。


 まあ、売れ筋を見極めて極力デット・ストックを無くすとか、販売管理費をどうやって安く抑えるかとか色々あるが、まあそんなところだ。


 店の経営ならそれでもいいのだが、町となるとそんな単純な話ではないはずだ。


 しかし、俺が知っている経済の知識と言えば公式を1つ知っているだけなので、今はそれに縋って何とかやって行かなければならない。


 TP=MV


 この公式を今のパルラに当てはめてみると、最も駄目な部分が「M(お金)」なのだ。


 今のパルラは戦時中のような配給状態なので、全くお金が流通していない。


 これを正常な状態に戻すには、お金を流通させるのだ。


 だが、この町はドーマー辺境伯が裕福な貴族や商人に娯楽を提供する施設であり、使われている硬貨の殆どが金貨なのだ。


 このためロヴァル金貨は大量にあるのだが、庶民が普段の生活に使う銅貨や銀貨が全く無いのだ。


 現代だと銀行に万券を持ち込めば崩して貰えるが、この世界で銀行を見た事が無かった。


 多分だが、両替商とかが居て交換してくれるのだろうが、この町には存在していない。


 もしかしたら行商人等が代行してくれるのかもしれないが、この町には住民が居なかったので行商人が来ることも無いだろう。


 他の町に協力を求める?


 ジュビエーヌを家に送り届ける時に立ち寄った町での対応を見る限り、無理そうだ。


 外部から入って来ないのなら、造ってしまえばいいのだ。


 そう言うと通貨の偽造という犯罪に聞こえるが、これは地域通貨なのだ。


 江戸時代にも、藩が独自に造った藩札があったじゃないか。


 そう、パルラと言う町全体をカジノだと思えばいいのだ。


 カジノで遊ぼうと思ったら、現金をカジノチップに交換するからな。


 元々この町は娯楽の町なのだから、違和感は無いだろう。


 だが実際に使うにしても、それがお金として価値がある事を認識して貰う必要があった。


 現代で言うところの金本位制、大昔のモンゴル帝国でいう塩だ。


 金本位制では等価の金と交換出来るという信用で発行していたし、モンゴル帝国では国の専売となっていた塩との唯一の交換手段だったので必要とされたのだ。


 それでは俺が造る硬貨にはどうやって信用を付けるか。


 簡単である。


 俺が造る硬貨を兌換通貨にしてしまえばいいのだ。


 具体的には俺が造る新銀貨百枚分を、ロヴァル金貨1枚と交換出来る事にするのだ。


 町中では新しく造った硬貨を使い、町の外に出る時はロヴァル金貨に交換するという訳だ。


 外部との接点となる南門に両替所を設けて、町に入る人物からロヴァル硬貨と交換で新硬貨を渡し、町から出て行く時に残った新硬貨をロヴァル硬貨に戻すのだ。


 当面は外からやって来る人はいないだろうから、急ぐ必要は無いだろう。


 そして発行量は俺が持っているロヴァル金貨の総量が上限になるが、5百人の町なら問題ないだろう。



 そして次の問題は、この世界に来て金銀財宝を探してヴァルツホルム大森林地帯を捜索していた時、銅は見つけたのだが銀が見つからなかった点だ。


 原料が無ければ銀貨は造れない。


 そこでアマル山脈で鉄を掘った時に一緒に掘り出したニッケルがある事を思い出した。


 確か百円玉はニッケルと銅の合金だ。


 これで代用してしまおう。


 パルラの町限定で外に出ないのだから問題ないだろう。


 おお、完璧じゃないか。


 両替所という新しい仕事場も出来るので一石二鳥だ。


 後はジュビエーヌに一言断っておけばいいだろう。



 早速、銅を見つけた場所に行って採掘して来るとそれで銅貨を、カルトロップを造った時の副産物であるニッケルと銅で銀貨もどきを造った。


 製造には錬成術を使ったが、錬成術には製錬と精錬の能力があるので純度の高い物が出来上がっていた。


 ロヴァル硬貨には銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨の4種類があり、1ルシアが銅貨1枚、10ルシアが大銅貨1枚になるようだ。


 ただし、大金貨だけは金貨百枚分の価値になっているが金貨は重たいからこれは納得である。


 そして造った銅貨の表には1ルシアを示す数字の「1」、裏に地域通貨を示す「パルラ限定」と刻印した。他の硬貨も同じように刻印した。


 出来上がった硬貨は、銀貨もどきを貯金箱3号に銅貨は4号と5号に収納した。


 ちなみに貯金箱2号はダラムの辺境伯館で見つけた金貨を収納していたが、エリアルに行った時に復興資金としてジュビエーヌに渡していた。



 そして今、娼館の食堂にはこの町の主要メンバーともいうべき面々に集まってもらい、彼らにこの地域通貨について説明を行った。


 彼らの前にあるテーブルの上には、俺が造った4種類の硬貨がサンプルとして乗っていた。


 最初に口を開いたのはブルコだった。


「お前さん、この町で国でも興すつもりなのかい?」

「そんな事はしませんよ」


 これは完全に外国為替だと思われているな。


「それで、何で金貨は無いんだい?」

「ドーマー辺境伯館の地下金庫から頂いたものが大量にありますから必要ありません。尤も造った銀貨と銅貨の交換用の分は使えませんから、貯金箱1号に封印ですけどね」

「つまり、これはカジノチップだという事ですね? パルラという町全体をカジノだと思えばいいのですね」


 ビアッジョ・アマディは、目の前にある硬貨を摘まんで眺めてはそう言ってきた。


 流石にカジノの会計係をしていただけあって、理解は早いようだ。


「そうです。だからカジノから出る、つまり町から出るときにロヴァル金貨に両替するのです」


 隣ではジゼルも釣られてサンプルの1枚を手に取り、矯めつ眇めつしていた。


「ねえユニス、これってよく出来ているわね。本物の硬貨より出来がいいんじゃないの」

「ありがとう。おかげでかなりの魔力を使いました」

「これなら偽物を作るのはかなり難しいかも」


 銅貨は材料が銅だから問題は無いけど、銀貨はニッケルと銅の合金だからね。


 縁のギザギザとか模様とか、日本の偽造防止の方法をちょこちょこっと真似てみました。


「ユニス様、こう言っては何ですが、お金を造っていいのは王家だけです」


 お、おう、流石オーバン、真っ当な意見ですな。


「大丈夫よ、ちゃんとジュビエーヌには断っておくから」

「それは、先に言っておいた方がよろしいのではないでしょうか?」

「まだ言ってないの?」

「うっ」


 場の空気が緊張したところでブルコが口を開いた。


「拙いのは銀を使ってないこの偽銀貨だろう。金貨を偽造したのなら問題になるが、銀貨ならそんなに目くじらを立てられることは無いさね」


 流石はこの世界の表も裏も知っている御仁だ。


 ブルコにそう言って貰えると、なんだか安心するなあ。


 今度は、ルーチェ・ミナーリが難しそうな顔で話しかけてきた。


 その声はとても困惑しているためか、何時もの軽い口調ではなく真面目な喋り方だった。


「あのう、リーズ服飾店でもこの硬貨を使うという事でしょうか?」

「そうです。でも、例えば利益分をエリアルにある会社に送る場合は、ちゃんとロヴァル金貨に交換しますよ」

「つまり、普通のお金に換えて貰えると? あ、すみません、えっと、このお金が普通じゃないって意味じゃなくて、えっと本物って訳でもないって、あれ?」


 普段は陽気な彼女がとても困惑した顔をしているのは、ちょっと可愛らしいと思ってしまったが、今はそんな事でほっこりしている場合じゃないな。


「この硬貨、えっと名称が無いと不便ですね。それじゃ、これからはパルラ硬貨と呼びましょう。服の代金として受け取ったパルラ硬貨は、この町から出す時にロヴァル金貨に交換しますので安心してください」

「つまり、町の人達に服を売った代金は、全てロヴァル金貨に替えて貰えるという事なんですね?」

「ええ、そうですよ。ただし、金貨以下の端数は基本切り捨てです」


 俺がそう言うとやっと安心したのか、何時もの陽気な表情に変わっていた。


「分かりましたぁ。それなら問題ないですぅ」


 ついでに口調も元に戻ったようだ。


「パルラの南門に両替所を造ろうと思います。ここでロヴァル硬貨とパルラ硬貨の交換を行います。外から入って来る人にはこの通貨交換の仕組みを説明することになりますので、アマディさんの方で必要な人材を集めて対応してください」

「はい、カジノで働いていた従業員がまだ残っていますから、心配ないと思います」

「他に質問はありますか?」

「ユニス様、このパルラ硬貨をどうやって町の人達に渡すのですか?」


 よし、それでは次のステップに進みましょうか。


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