4-28 戦後処理
公城が解放され首謀者が全員捕縛されたことが伝わると、残存する反乱軍も素直に降伏した。
俺達は入城してきた大公軍を出迎えるため城の入口で待機していた。
ちなみにグラファイトとインジウムは、マーラさんの好意でリネン室にあった執事服とメイド服を身に纏っていた。
そしてやって来たジュビエーヌの後ろには護衛役のセレンとテルルが居たが、彼女達は前にジュビエーヌとクレメントが着ていた平民服を着ていた。
それを見て次にオートマタを作った時は服も用意しようと心に決めていた。
ジュビエーヌ達の後には、初めて見る貴族達が沢山続いていた。
その見慣れない貴族達の目的は直ぐに分かった。
入城すると直ぐに、ジュビエーヌに戦後処理の会議をするように促してきたのだ。
そして公城アドゥーグの1階にある大会議室に集まった貴族達は、少しでも自分達が咎められないように言い訳を繰り返していた。
ジュビエーヌの話によると公国の貴族達は3つの派閥に別れており、ジュビエーヌを支持するオルランディ公爵派、次期大公にカッサンドラを推すアメーリア公爵派そして現状維持を望む日和見の連中とのことだった。
ドーマー辺境伯はアメーリア公爵派に所属していたらしい。
俺とジゼルはジュビエーヌの護衛を兼ねて後ろに控えていた。
そして俺達の後ろには執事服を着たグラファイトとセレン、メイド服を着たインジウムとテルルが待機していた。
ちなみにセレンとテルルの喋り方は案外普通だった。
「この度の戦いでバルバリ丘陵に兵を送らなかったのは、バルギット帝国が攻め込んで来る事が予想されためですぞ。そして通過を許したのは圧倒的戦力差があったため致し方が無かったのです。決して公国に反旗を翻したわけではありませんぞ」
「それなら私の方では逃げて来る敵兵を多数捕縛しております。これは立派な働きだと思いますぞ」
「今回、檄文を送られたのはエリアル北街道と西街道の貴族だけだったと聞き及んでおります。それなら南街道沿いの私が出遅れたのはやむを得ない事ではないですかな?」
そんな光景にうんざりした俺は、隣に居るジゼルに話しかけた。
「ジゼル、あいつらを見た感想は?」
「う~ん、オークやゴブリンがいっぱい」
ジゼルの魔眼では、この狸達はそう見えるのか。
「マトモなのは居るの?」
「ええっと、ユニスが助けに行った西の貴族?」
「ああ、シュレンドルフ侯爵ね」
「それから一緒に進軍してきた貴族じゃない人達も、かな」
貴族達の不毛な議論を聞き流していると突然扉が勢いよく開き1人の貴族が入って来た。
その姿を見た貴族達が口々に「アメーリア公爵」と口走っていた。
「ジュビエーヌ殿下、水臭いですな。何故私に協力を仰いでは下さらないのですか? 知らせを聞いて慌ててやって来てみれば、既に反乱者共は降伏した後とは。これでは私の活躍の場がありませんな」
「公爵も息災なようで何よりです。今は戦後処理をどうするか話し合っているところなので、公爵も一緒にご参加くださいませ」
「おお、左様ですか。では喜んで参加させてもらいましょう。ですが、その前にこの場を仕切る権限についてお尋ねしてもよろしいですかな?」
「なんでしょうか?」
するとアメーリア公爵は入口から奥のジュビエーヌが居る場所まで移動してくると、集まった貴族達の方に向き直った。
「ジュビエーヌ殿下が大公になるのは20歳になってからであって、それまではまだ公女殿下でしかありません。本来であればエドゥアル陛下が場を仕切らなければなりませんが、不幸な事に今は行方知れず。そして公国の法律ではこのような場合は公爵家が摂政となって後見することになっているはずです。ゆえに、この場を仕切れるのは私という事になりますね」
「それは・・・確かにそうなのですが」
ジュビエーヌの歯切れが悪い事から、それが事実なのだろう。
すると、シュレンドルフ侯爵が異を唱えた。
「平時であれば確かにそうですが、今回は戦時です。それに反乱を起こしたドーマー辺境伯は公爵の派閥の1人ではなかったですかな?」
「侯爵、それは違うぞ。かの者は既に我が派閥に所属してはおらん。その非難はあたらないぞ。それに公国の法では平時や戦時で扱いが異なる事は無い。私が摂政として取り仕切る事で問題はないはずだな?」
そう言うとアメーリア公爵は集まった貴族達をねめつけていた。
公爵の物言いに反論する者が居ないことから、どうやらこれが公国で決められた法のようだ。
そして同じ派閥の貴族達が公爵の意見に支持を表明していくと、それまで日和見だった貴族達もその声に迎合していった。
成程、ドーマー辺境伯が大人しく捕まったのはこれを予期していたのか。
アメーリア公爵派が一気に会議の主導権を握れば、いいように事後処理をされてしまうだろう。
ここら辺で流れを変えた方がよさそうだ。
「貴方が言っている事は間違っておりますよ」
しんと静まり返った室内に俺の声が響くと、その場に集まった貴族達の視線が一斉にこちらに向けられた。
そして横やりを入れられたアメーリア公爵は俺を睨みつけてきた。
「何だ、お前は? 何故、こんな所に亜人や獣人が居るのだ。おい、警備兵、あの汚らしい亜人共をつまみ出せ」
そう言って警備兵に命令を出すが、その警備兵は俺達の立場を知っている大公軍の兵だった。
俺の顔と公爵の顔を交互に見ては、どうしたらよいか分からず困っていた。
「何をしている。私の命令が聞けないのか? それとも耳が聞こえないのか?」
そう言って兵士達を怒鳴りつける公爵を俺は睨みつけた。
「黙りなさい。お馬鹿さんにも分かるように説明してあげます。まず、貴方が言っている公国は、他国に攻められ、ドーマー辺境伯がエリアルを占拠した時に既に滅びているのです。亡国の法律に効力等ありません。ここに居るジュビエーヌ様はドーマー辺境伯が興した国を滅ぼして自らの国を立ち上げた、いわば新たな王なのです。今、此処に集まってもらったのは初代女王が興した新しい国に貴方達は従属するのか、それとも敵対するのかを問うているのです。ジュビエーヌ様を認めないというのであれば、今すぐ領地に帰って戦いの準備を整えなさい。他国軍や反乱軍と同じように攻め滅ぼして差し上げましょう」
俺がそう言うと集まった貴族達は唖然としていた。
だが、アメーリア公爵は直ぐに顔を真っ赤にして怒りだした。
「亜人が何を言うか。お前の言うことなど聞く者等おらん。とっとと出て行け」
「貴方の領都アビラールは、確かエリアル東街道沿いでしたね」
「それがどうした」
「エリアル東街道の全長はおおよそ157リーグ、普通に歩けば26日の行程です。それをバルギット帝国軍は30日程でエリアルに到着しています。貴方は何をしていたのですか?」
俺が敵軍の侵入に何もしていないだろうと指摘すると、アメーリア公爵は真っ赤になっていた。
「な、貴様、私が敵に寝返ったとでも言いたいのか?」
「さあ、でも、少なくともシュレンドルフ侯爵のように必死に戦っていないのは確かですよね?」
「き、貴様」
そう言って顔を真っ赤にした公爵は俺に掴みかかろうとしたが、グラファイトがその腕を掴んだので動けなくなっていた。
「亜人だから何だというのです? 私に歯向かうというのならこの席からつまみ出しますよ。グラファイト」
「はい」
俺が名前を呼ぶと、アメーリア公爵の腕を掴んでいるグラファイトがそのまま引きずるようにして出口に連れて行こうとした。
すると途端に公爵が慌てだした。
「おい、待て、痛い、こら、俺を誰だと思っているんだ」
そして俺に威圧が効かないと分かると、今度は大人しくすることを選んだようだ。
「わ、分かった。認める。認めるから、放してくれ」
どうやら自分の思い通りに行かない事を悟ったようだ。
俺は更に大人しくしているように釘を差してから、グラファイトに放すように命じた。
公爵は掴まれていた腕をさすりながら、愚痴を言っていた。
「な、なんだ。そいつは?」
「オートマタよ。ドーマー辺境伯の兵士を皆殺しにしているから、怒らせない方がいいですよ」
俺がそう言うと場が再び騒然となった。
だが、今回は今まで黙っていたジュビエーヌが加勢してくれた。
「ユニスはこの国に侵攻してきた外国軍を追い返し、エリアル解放に多大な貢献をしてくれた私の同盟者です。彼女の言は私が言ったも同然。私の事を大公と認めないのであれば、ユニスが言った通り領地に戻って軍備を整えればいいでしょう。尤も私だったらそんな勝ち目の無い事はしませんけどね」
ジュビエーヌはそう言うと私の方を向いてそっとウィンクしてきた。
成程、ジュビエーヌも俺の案に乗ってくれたようだ。
せっかくなので、グラファイトとインジウムにちょっと威嚇させることにした。
俺が合図するとグラファイトとインジウムが大きく拳を打ち鳴らした。
その轟音と風圧が集まった貴族達に風圧となって襲い掛かった。
「ひいい、た、大公陛下、私は陛下に従いますぞ」
「わ、私もです。ですから、アレを近寄らせないでください」
どうやら他の貴族達も逆らったらどうなるか理解してくれたようで、話が早くて大助かりだ。
アメーリア公爵は場の空気が一気に自分に不利になったのを理解すると、渋々といった感じでジュビエーヌを大公と認めていた。
やれやれ、これでどうにかジュビエーヌを無事送り届ける事が出来たようだ。
後はジュビエーヌに任せておけば大丈夫だろう。
あけましておめでとうございます。
皆様にとって良い年になるよう願っております。
評価ありがとうございました。




