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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第4章 ロヴァル騒動
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4-27 エリアル解放

 

 鞭を持った男は一瞬焦ったが俺達が女2人だけだと分かると、直ぐに余裕の表情に変わっていた。


「何だ、態々掴まりに来たのか? それとも俺に抱かれに来たのか?」


 男は明らかにこちらを見くびっているが、その方が楽なのでそのまま魔法を撃ち込んでやった。


 男は俺の前に藍色の魔法陣が現れると自分の間違いに気が付いたようだが、既に男の傍にまで石礫が飛んでいたので避ける事も出来なかったようだ。


「うごっ・・・き、貴様、不意打ちとは卑怯だぞ」


 男は自分の迂闊さは棚に上げてこちらに文句を言ってきたが、そんなの聞くつもりは無いのだ。


 うつ伏せになった男の背中を踏みつけると態と馬鹿にしてやった。


「え、何? 足で踏みつけて欲しい? 全くとんだ変態野郎ね」

「だ、誰がそんな事を言った。ふざけ、ふぎゃ」


 面倒臭いので思いっきり踏みつけてから腰に下げていた鍵を奪い取った。


 そして先程男に鞭うたれていた男に近寄ると両腕の枷を外すと、持っていた霊木の根の薬液で怪我を直してあげた。


 傷がみるみるうちに消えていくとその男はスキンヘッドで鷲鼻をしていた。


 これで魔法の杖と黒いローブを着ていたら怪しげな魔法使いと思っただろう。


「大分やられていたけど、大丈夫?」

「はい、助けて頂いてありがとうございます。あの、大公軍というのは?」


 老人かと思っていたが、聞えてきた声は意外に若々しかった。


「公太女殿下が、軍を率いてエリアルの城門前まで来ているのよ」

「おお、やはりそうでしたか。私はアッポンディオ・ヴィッラと言います。私も殿下の元でもうひと働きさせて頂きたいです」


 アッポンディオ・ヴィッラは囚われて酷い目に遭わされていたが、まだ闘志は失っていないようだ。


「ところで、此処にエルメリンダとマーラという女性も居ますか?」


 するとヴィッラは悲しそうな顔になって、奥にある牢を指さした。


「あちらに、ですがもう虫の息です」


 指定された牢には数名の女性が居たが、皆衣服はボロボロでそこから覗く素肌は浅黒い痣ができていた。


 鍵を開けて牢の中に入ると、ぐったりとして動かない女性の傍に座ると霊木の薬液を注入した。


 すると浅黒い痣だらけの女性の顔がみるみるうちに美しい肌に変わっていくと、暫くして目を開いた。


「私はマーラと言います。貴女は?」

「ユニスと言います。公太女殿下の命で助けに来ました」

「ジュビエーヌ様の・・・ああ、足手纏いになって申し訳ありません」

「そんな事はありません。殿下は貴女方の事をとても心配していて、私が潜入するのを知ると一緒に行くと言って聞かなくて大変だったくらいです」


 マーラはその光景を思い浮かべたようで、とても優しい顔になっていた。


「ええ、ジュビエーヌ様はお優しい方ですから」


 そして他の女性達の救護が終わったところで、エルメリンダという侍女長も霊木の根の薬液で回復させた。


 侍女長は微かなうめき声を上げると、周りを見回してある程度状況を察したようだ。


「せっかく助けてもらって嬉しいのですが、ここは敵の真っただ中で、私達は丸腰です。ヴィッラは魔法は使えますが1人では力不足です。私達が囮になりますから、殿下の元に戻られた方が」


 侍女長という責任ある立場の人間なので、こちらが不利な状況を見て取ったようだ。


 ここは初めに安心させておいた方がいいだろう。


「私は魔法使いです。それにジゼルは身体能力の高い獣人ですよ。それに私達には頼もしい味方がいます」


 そう言うと持って来た2つの土人形を、錬成陣でオートマタに変えていった。


 出来上がったのは黒髪に黒目のがっちりした体形の男型と髪と目が黄色の女性型の2体だ。


「この黒い方がグラファイト、黄色の方がインジウムです」

「これは、ゴ・・・いえ、オートマタですか」

「ええ、頼りになりますよ」

「それでは、いっその事、敵の首謀者を捕まえましょう」


 そう言ったエルメリンダの顔には、悪い笑顔が浮かんでいた。


 まあ、今まで痛い目に遭っていたんだ。


 仕返ししたい気持ちは分る。


 そして空いた牢の中に鞭打ち男を放り込むと、地下牢から脱出した。



「それで首謀者、いえ、ドーマー辺境伯は何処に居るのですか?」

「この城の1階にある大会議室だと思われます」


 先頭を歩いていたインジウムが振り返ると私に投げキッスをしてきた。


「お姉さまぁ、この先に敵が沢山いますよぉ、片付けちゃっていいですかぁ?」


 何だ、あのおかしな喋り方は?


 もしかして錬成している時に、あのルーチェ・ミナーリの事が頭に浮かんだせいか? 


 ま、まあ、ここは気にしないでおこう。


「ええ、お願いね」

「はぁぃ、分かりましたぁ。行くわよ、グラ」

「おう」


 2人のオートマタが消えると、その先で金属鎧を破壊する打撃音やら肉を打つ鈍い音が聞えてきた。


 そして俺達がその現場に着くとそこには鎧を破壊され体中に青痣を付けた男達が伸びていて、その傍に2人のオートマタが暇そうな顔をしていた。


「大姐様、お待ちしておりました」

「お姉さまぁ、一杯お仕事しましたぁ。褒めて、褒めてぇ」

「・・・2人とも、ご苦労様」


 すると今度はジゼルがとても不満そうな顔をしながら俺の腕に絡みついてきた。


「ちょっと、貴女、馴れ馴れしいわよ」

「えー、私はぁ、お姉さまに生み出されたんですぅ。言ってみれば、私はぁ、お姉さまの子供ですぅ」

「それなら、お母様と呼びなさい」


 え、それはちょっと。


 今にも掴みかかりそうな2人を何とか宥めていると、エルメリンダ達がそこら中に落ちている武器を拾いながら廊下の先を指示した。


「ユニスさん、この先に目的の人物がいます。手伝ってくださいますね?」


 エルメリンダのその当たり前のような物言いに思わず頷いてしまった。


「はい、喜んで」


 い、いかん、つい、場の雰囲気に飲まれて居酒屋の店員のような返事をしてしまったぞ。


 俺が先に進もうとすると、2体のオートマタが指示待ちの状態だったので声を掛けた。


「貴方達も行くわよ」

「はい」

「お姉さまぁ、私の事はインジィと呼んで欲しいですぅ」

「分かったから、急いでね。インジィ」

「はぁぃ」


 インジウムはとても嬉しそうな顔でそう言うと、スキップしながら廊下を進んで行った。


 そして通路の先の扉にはそこを守る護衛騎士が居るので、あの部屋の中に首謀者が居るのが直ぐに分かった。


 護衛騎士もこちらに直ぐに気が付くと剣を構えたが、私達の姿を見て思わずにやけていた。


「おいおい、何の集団だ? 裸踊りでもしてくれるのか?」


 そう言われて自分達の服装を改めてみると牢に入れられていた女性達の服はボロボロで、俺やジゼルは露出がかなり高い服装をしていた。そしてオートマタの2人は人型にかなり寄せていているがゴーレムなので当然服は着ていない。


 その代わりに体はボディペインティングのような模様が入っているので、ぱっと見は服を着ているように見えているはずなのだが・・・


 これでも素っ裸になるのか?


 あれ? もしかするとジュビエーヌの元に置いてきたあの2体も拙かったか?


 俺がそんな事で悩んでいると、その隙だらけの姿を見て敵の騎士が切りかかってきた。


「馬鹿め、隙だらけだぞ」


 だが、俺への攻撃を2体のオートマタがみすみす許す訳もなく、あっけなくやられていた。


 俺が何やら悩んでいる姿を見たジゼルが声を掛けてきた。


「ちょっと、ユニス。大丈夫?」

「ねえ、ジゼル。オートマタに服を着せた方がいいと思う?」

「え? あれって土だよね、生きてないよね?」


 すると後ろからマーラが近づいて来た。


「だ、大丈夫です。リネン室に行けばメイド服も執事服もありますから」


 それって、やっぱり拙いと言ってるよね?


 いや、今はそれよりももっと重要な事を先にやるべきだ。


 そして騎士達が守っていた扉をぶち破って中に入った。


 部屋の中には大きな会議テーブルが中央にあり、一番奥の席に座っている男の傍に数人の男達がなにやら詰め寄っている場面だった。


「やあ、反乱軍の皆さん、お初にお目にかかります。出会って直ぐですが、とっとと捕まってください」

「誰だ、貴様は?」


 会議テーブルの奥の席に座った男が俺を睨みつけながら怒鳴ってきた。


 その男は、酷薄そうな細い目をした痩せた男だった。


 きっと彼がドーマー辺境伯なのだろう。


 初めて顔を見ましたよ。


「私はユニス。パルラの町を貴方から奪った張本人よ」

「何だと、お前が」

「護衛は何をやっている?」


 ドーマー辺境伯の声を遮って他の貴族が叫んできた。


「貴方達の兵士は全て倒しました。最早抵抗は無駄です。大人しく降伏してください」


 俺が言うよりも早くマーラがそう言っていた。


 せっかく辺境伯と最初で最後の会話を楽しむつもりだったのに、どうして周りが邪魔をするんだ。


 ほら、辺境伯もせっかくのご対面なのに、邪魔をされて渋い顔をしているじゃないか。


「公城内で残っているのは貴方達だけよ。抵抗してもしなくても捕まえますが、貴方達の処遇は公太女殿下の判断次第という事です」


 そう言うと数名の貴族が逃げ道は無いかとキョロキョロしていたが、悲しいかなこの部屋に窓は無く、逃げ道は俺達が塞いでいる扉しか無いのだ。


「ユニスさん、ここは私達に任せて貰えますか」


 エルメリンダがそう言って来た。


 きっと、牢屋での拷問の恨みを晴らしたいのだろうと思いそれに同意すると、嬉々として貴族達を捕縛していった。


 何人かは自分の身分が身を守ってくれると勘違いしているようで、偉そうな事をいっているが無駄な事だ。


 そんな中、ドーマー辺境伯が椅子に座ったままじっとこちらを睨んでいた。


 その余裕がある姿に何か脱出する手段でもあるのかと思ったが、エルメリンダ達に素直に掴まっているのできっとジュビエーヌとの交渉で何か手札を持っているのだろう。


 だが、それは俺が気に掛ける事では無いのだ。


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