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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第4章 ロヴァル騒動
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4-25 エリアル潜入

 

 ピコを出発した大公軍は、エリアル北街道近辺の諸貴族軍が加わり規模がかなり大きくなっていた。


 エリアル北街道を南下していくと、中間地点となるスハイムという町に到着した。


 エリアル迄残り50リーグの距離となったので、エリアル西街道を東進して来るシュレンドルフ侯爵軍の状況を確かめてみる事にした。


 シュレンドルフ侯爵に連絡蝶を送ると、直ぐに返事が返ってきた。


 侯爵軍は周辺の貴族軍を糾合し、エリアルまで75リーグの距離にあるバースバインという町まで進んできたそうだ。


 距離的にこちらの方が4日分先行している計算になる。



 そして何の抵抗も無くエリアル迄到着した大公軍の前には、固く閉じた北門が現れた。


 サソリもどきを中心に左右に戦闘用ゴーレムを展開して相手側に心理的な圧力をかけてみたが、城壁上の兵士に動揺する気配は無かった。


 外国軍が撤退し自領も奪われているのにまだ兵士達の士気を保っていることから、何か奥の手でも隠している可能性があった。


 ジュビエーヌはエリアル市内で抵抗運動をしている仲間の事が心配で今すぐにでも攻めたそうだったが、内情が分からないので先にハッカルとツィツィにバンテ流通会社と連絡を取って貰う事にした。


 その間にもシュレンドルフ侯爵が到着すれば戦力的にも補強されるし、敵も諦めるという可能性もあるのだ。


 すると城壁の上に動きがあり、そこには木に括り付けられた女性と思しき姿があった。


 2人は拷問を受けたのか服は破れ、肌は赤黒く腫れ上がっていた。


 その姿を見た途端、ジュビエーヌが酷く取り乱すと「マーラ」とか「エルメリンダ」と口走っていた。


 やがて城壁の上から我々に向けて声が降って来た。その声はとても勝ち誇ったような響きがあった。


「エリアルに攻撃を加えたら捕まっている捕虜達の命の保証はしない。軍を解散して公女と公子だけで中に入れ。それからおかしな動きをしたらそれも敵対行動と見なし捕虜は処刑する」


 その内容を聞いたジュビエーヌは真っ青な顔になり、両腕で自分を抱きしめながら蹲り小刻みに震えていた。


 その姿から、あの2人がジュビエーヌにとってはとても大事な人達なのだと分かった。


 勝手な行動をして捕虜に危険が及ばないように、貴族達を集めて軍議を開く事にした。


 貴族達の意見の多くは、戦いなのだから犠牲はやむを得ないというものだった。


 彼らも負ける方に与するのは、身の破滅を招くのだから仕方がないだろう。


 とりあえずシュレンドルフ侯爵軍が到着するまでは待機という事で結論が出ると、軍議が終了となった。


 ジュビエーヌは軍議の最中も、終わった今も俯いたまま無言だった。


 彼女の心中は、近しい者達を助けたいと思っている事は明白だった。


 この状況をあおいちゃんに見られたら、『神威君のせいなんだから何とかしなさい』と言われそうだ。


 あの時は埋葬されずにいる骨が可愛そうだからと棺に入れただけなのだがなあ。


 そこでジュビエーヌ達がエリアルをどうやって脱出してきたのだろうという疑問が頭を過ったので、ジュビエーヌの後ろに控えているハッカルとツィツィに聞いてみる事にした。


「貴方達はどうやってエリアルから脱出したのですか?」

「ああ、それなら隠し通路を通って脱出・・・って、まさか」


 ハッカルは自分が言った何気ない答えに、目を輝かしている俺を見てそれが何を意味するのか察したようだ。


「ええ、脱出出来たのなら潜入もまた出来る、という事ですよね?」


 俺のその言葉にジュビエーヌが反応して、こちらに顔を向けてきた。


「それは良い考えね。私も行くわ」


 いや、町中は敵だらけで危険だし、そもそも総大将が潜入作戦に参加するなんて聞いた事も無いぞ。


「公太女殿下、それは良い考えとは思えません」


 やんわりと否定したのだが、ジュビエーヌはとても不満そうな顔をこちらに向けてきた。


「あら、私だって戦えます。それにこれは私の我儘なのですから私が行くのが当然です」


 そう言うと俺が渡したスリングショットを掲げて見せた。


 ジュビエーヌが持っているスリングショットは身を守る手段として渡したもので、女戦士のごとく敵に向かっていくためじゃないのだ。


「公太女殿下、周りを見てください」


 そう言って周りに居る貴族達を指さしながら、そっと耳打ちした。


「あの者達に言う事を聞かせられるのは殿下だけです。功を焦って勝手な行動をして、捕まった方達に危険が及んでも誰も制止できません」


 するとジュビエーヌは目を大きく見開いた。


 どうやらその光景をイメージ出来たのだろう。


 不安そうな顔でこちらを見てきたので、一つ頷いてから話しかけた。


「私に任せてください。大丈夫、きっとうまくいきますよ。それから反対側の南門を開けますから、シュレンドルフ侯爵軍を敵に見られないようにそちらに誘導してください」


 そこでようやく落ち着いたようだ。


 こちらに笑顔を向けてきた。


 うん、可愛らしい少女に信頼という眼差しを向けられるのは良いものですね。


 それからハッカルとツィツィを案内役として連れ出すことにより、一時的とはいえジュビエーヌの護衛が居なくなるので代わりを用意する事にした。


 土で出来た人形を2体作ると、その中に魔宝石を入れ錬成術でオートマタを作った。


 ゴーレムと違いオートマタは完全に人型で高い判断力と戦闘能力を有しているが、その分魔力消費が激しく魔宝石の寿命が短いのが欠点だった。


 それはパソコンの消費電力量とスーパーコンピューターの消費電力量の違いのようなものだ。


 だが、今回はそれ程長いミッションではないので問題にはならないだろう。


 2体のオートマタは、1体が身を挺してジュビエーヌを守る防御タイプで外見は赤毛をショートボブにした女性型。


 そしてもう1体が攻撃者を無力化する攻撃タイプで外見は青毛をセミロングにした女性型だ。


 そしてこれは内緒だが、胸の大きさはジュビエーヌよりも控えめにしておいた。


 それはジュビエーヌが俺のこの保護外装の胸と、自分のを見比べていたのに気が付いていたからだ。


 ジュビエーヌに2体を紹介すると人にしか見えないといって驚いていたが、どうやら気に入ってくれたようだ。


 名前を聞かれたので、赤毛をセレン、青毛をテルルと名付けた。


 まあ元は土だし、鉱物繋がりという事で。



 俺はジゼルとオーバンそれにジュビエーヌの護衛2人を連れて王墓に向かった。


 トラバールも一緒に行くと言って聞かなかったが、サソリもどきの操縦があるからとどうにかこうにか言い包めて何とか納得してもらったのだ。


 作戦は、王墓から潜入し南側にあるバンテ流通会社に寄って内部の協力者の力を得て捕虜の奪回と比較的手薄と思われる南門を解放するのだ。


 南門には敵側に見られていないシュレンドルフ侯爵軍を配置し、門が開いたら一気に攻め込んでもらう予定だ。


 南門は平民街が広がっているので公城アドゥーグと貴族街がある北側よりも守備が手薄と思われた。


 夜を待って王墓の近づくと、ハッカルは何の警戒をすることも無く門の鍵を開けると中に入っていった。


「え、そんな簡単に中に入って大丈夫なの?」


 思わず独り言を零すと、それを聞いたツィツィが返事をしてくれた。


「あ、ここの墓守は夜になると皆宿舎の中で眠ってしまうんです」


 それを聞いて、前に来た時も全員眠っていたという事を思い出した。


 獣人はもともと夜目が効くし、俺も暗視魔法で見えるのでハッカルの後を追って中に入った。


 先に入ったハッカルは宿舎の中を覗き墓守達が寝ているのを確かめていた。


 そしてこちらを見て唇に人差し指を当てて、「静かに」という身体言語を使うと、王墓の扉を開けた。


 王墓から離宮に繋がる通路は暗く狭かったが、誰も明かりを灯さなかった。


 しんと静まり返った狭い空間には、足音だけが響いていた。


 俺はこの先にある離宮について尋ねてみる事にした。


「この通路は離宮の何処に繋がっているの?」

「離宮の図書室に繋がっています。離宮は王城の敷地内ですが周りは森なので、身を隠しながら目的地に行けると思います」


 やがて先頭を歩いていたハッカルが足を止めて振り向いた。


「着いたぞ。この先だ」


 その言葉を合図に魔力感知を使ってみたが、扉の先には誰も居ないようだ。


 ハッカルが扉を開けるとそこはツィツィが言った通り図書室だった。


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