表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第4章 ロヴァル騒動
102/415

4-24 エリアルへの道

 

 オーバンが離れるとその足元には、あの男がこと切れていた。


 やがてアメデオ達も駆けつけて来ると、地面に倒れている男を見てその正体を教えてくれた。


「この方はコルンバーノ・ブリージ様です。この地の内政を担当されていました」


 という事は、この男が辺境伯の居ないこの町の最高責任者という事か。


 これで敵の抵抗も終わりだろう。


 コルンバーノ・ブリージが現れた場所を調べてみると地下室があり、そこに金庫があった。


 その中にも大量の金貨があったので大公軍の資金源にさせて貰う事にして、貯金箱2号を作りその中に収納した。


 辺境伯の館は瓦礫の山になってしまったので、近くにあったアディノルフィ商会の建物を借りる事にした。


 この商会はドーマー辺境伯とべったりで、街が陥落する前に逃げ出して無人だったのだ。


 そこにジュビエーヌ達に入ってもらい、町の有力者からの挨拶に応対して貰った。


 ダラムの住民達はジュビエーヌに会えてとても感激したようで、様々な物資を献上してきた。


 ここでアメデオを呼んで、エリアル北街道沿いの領主達に檄文を届けてくれるように頼んだ。


 こうしておけばエリアル迄大した抵抗を受けることなく通過することが可能になるだろう。


 ダラムで補給品を積み2日後に出発することになった。



 ダラムを出発した大公軍はエリアル北街道を進み20リーグ先のゼフォフの町に向かっていた。


 そして町の様子が見たいというのでジュビエーヌが操縦室に来ていた。


 自分の席をジュビエーヌに譲ると、サソリもどきが見ている光景を映像として見ていた。


 見えてきた町は、城門は開け放たれ、道の両側には兵士が整列していた。


 それはこちらの到着を待っているかのようだった。


 ジュビエーヌの話では、この町は大公家の直轄地で、町の行政官は大公から任命されたベニート・モンダルトという男が務めているらしい。


 そしてジュビエーヌが見えた映像に指を差した。


「彼。あの青色の髪の男がベニート・モンダルトよ。どうやら私達を歓迎してくれているようね」

「それでは会ってみましょう」

「ええ、お願い」


 城門の手前でサソリもどきを停止させると、腹のハッチを開き下りて行った。


 降りたのは俺とジゼルそれにジュビエーヌ達4人だ。


 モンダルトという男はジュビエーヌの姿を見て嬉しそうに微笑んでいたが、ジュビエーヌの周りにエルフや獣人しかいない事に気が付くと途端に顔を顰めた。


 パルラの外で見る敵以外の人間の反応を初めて見たが、どうやら歓迎はされていないようだ。


「お待ちしておりました。公太女殿下それに公子殿下。エリアルが落とされたと聞いて心配しておりましたが、こうして無事なお姿を拝する事が出来てとても嬉しく思います。お疲れでしょうから、取り急ぎ私の館まで足をお運び頂ければ幸いにございます」

「ありがとう、モンダルト。それではご厄介になります」


 そう言って町に入ろうとした4人に声を掛けた。


「公太女殿下、ゴーレムで待っていますので、用事が済みましたら呼んでください」

「え?」


 俺が手を振るとジュビエーヌが以外そうな顔で振り向いていた。


「ユニス? 何処に行こうというのです?」

「え?」

「貴女も一緒に来るのよ」


 そう言うとジュビエーヌに腕を掴まれて強引に連れて行かれた。


 その姿を見たモンダルトは俺の事を睨んでいた。


 へいへい、どうせ亜人ですよ。


 招かれた先は食堂のようで上席に公太女と公子が座り、それをモンダルトが接待するようだ。


 そして末席というか別席に俺と護衛2人が座らされていた。


 そう言えばこの2人とゆっくり話す機会が無かったので話してみる事にした。


「エリアルは獣人でも住みやすい場所なのですか?」

「ソフィア様が人間以外でも普通に暮らせる町を目指されていました。私達はバンテ流通会社に所属することで奴隷にならずに済んでいます」

「その会社というのはどのような仕組みなのですか?」


 どうやらあおいちゃんは、現代日本の会社の仕組みをこの世界に導入していたようだ。


 会社設立には資本金の出資者と事業免許が必要で、バンテ流通会社はあおいちゃんが出資者になっていたようだ。


 すると俺達のテーブルに給仕がやって来て、面倒くさそうにカトラリーを並べて行った。


 その顔は薄笑いを浮かべていて、亜人に人間のマナーなんか分かるはずがないと書いてあった。


 そして出されたのは肉や山菜が入った塩味のスープだった。


 内陸のロヴァル公国では、肉料理や森で取れる山菜や根菜が中心となるようだ。


 それでも肉の種類は豊富で色々楽しめるそうだ。


 順番に出てきた料理を地球の知識でカトラリーを使うと、どうやらそれはこちらのマナーと同じだったようで、


 使用人の顔には微かに驚きの表情が浮かんでいた。


 そしてバスケットの中に入れてある掌サイズのパンを手に取り、一口食べてみた。


 それは蜂蜜入りの白パンで、ツィツィの話では貴族が食べる高級パンだそうだ。



 会食が終わり玄関で見送りを受けている時、モンダルトがジュビエーヌに話しかけている声が聞えてきた。


「公太女殿下、本当によろしいのですか?」

「ええ、問題ありませんわ」

「それでも公太女殿下としての威厳と言う物がございますが?」

「それはあのゴーレムでも十分発揮できますわよ」

「・・・左様でございますか」


 そう言うと何故か俺の方を睨みつけてきた。


 一体何なんだ?


 後で教えて貰ったところによると、王族用の豪華馬車を用意すると申し出たらしいのだが、ジュビエーヌがそれを断ったらしい。


 まあ、サソリもどきの中にはサロンがあるし、個室の中にはベッドもあるからね。


 馬車よりも遥かに寛げるよね。


 +++++


 ゼフォフから14リーグの距離にあるピコの町ではこの町の領主であるアッスント伯爵が公太女殿下の檄文に肝を冷やしていた。


 アッスント伯爵の領軍は、ドーマー辺境伯から味方するように圧力を掛けられその軍門に下っていて、今はエリアルに居るのだ。


 この状況では公太女殿下の元に馳せ参じても、敵として断罪されかねなかった。


 どうしたらよいか分からなくなった伯爵は、エリアルに居る息子を経由してドーマー辺境伯に助けを請うことにしたのだ。


 そして受けた命令は「援軍を送るのでそれまで持ちこたえろ」だ。


 大公軍はダラムでの戦いで甚大な被害を出したので少数でもこの町を防衛出来るし、援軍が到着したら一気に潰せるという内容だった。


 アッスント伯爵は、ピコの城門を閉じさせると自分も守備兵と一緒に城壁に上り、大公軍を待ち構えた。


 そしてやって来た大公軍を見たアッスント伯爵は、背中に冷たい汗が流れた。


「な、なんだ、あれは・・・」


 狼狽したアッスント伯爵は隣に居た隊長に思わず声を掛けていた。


「ゴーレムのようですね」


 遠見のマジック・アイテムに映ったのは、2体の厳ついゴーレムだったのだ。


「2体のゴーレムなら何とかなるな?」

「ええ、兵士達で取り囲み関節部分を上手く狙えば何とか」

「おい、ちょっと待て、後ろから続々と続いているぞ。一体何体居るんだ?」

「さ、さあ、まだ遠いので何体いるのか不明です」

「・・・10体以上居るぞ。大丈夫か?」

「ええっと、援軍が来るまでなら何とか」

「・・・おい、ゴーレムの後ろで山が動いているぞ」

「伯爵様、あれは山ではなくゴーレムのようです」

「な、ななな、なんだと、あんなでかいゴーレムが居て堪るか」

「ですが、目の前に実物がおりますが」

「か、勝てるのか?」


 伯爵の声は完全に裏返っていた。


「勝てるどころか、あっけなく蹂躙されるのではないでしょうか?」

「い、今すぐ城門を開けろ。降伏するんだ」


 伯爵は城壁を駆け下りながらエリアルに居る息子を切り捨てる事にした。


 そして伯爵家の命脈を保つためにも、自分も伯爵位を返上して公太女殿下に慈悲を請う事にしたのだ。


 +++++


 ピコの町に到着すると、突然城門が開き中から手を振りながら出て来る男が居た。


 どうやらこの男がこの町の領主だったらしく、降伏して来たのでそのまま館の自室に軟禁しておいた。


 その後、ピコの町には周辺の領主が兵を連れて続々と集まって来て大公軍に加わったのだ。


 俺はジゼルに頼んでドーマー辺境伯の回し者が居ないか探してもらったが問題無さそうだったので、後はジュビエーヌに任せる事にして、郊外のゴーレム達の待機場所に戻ってきた。


 偵察に出していたゴーレムからの報告では、エリアルまでの行程で障害となる町はなさそうだという事だった。


 サソリもどきの隣に停車している給仕用ゴーレムでは、チェチーリアさんが食事を作っていたのでジゼルと一緒に頂く事にした。


 そこにはアメデオ達も居て俺を見ると直ぐに近づいてきた。


「ユニス様、周りに集まった貴族軍の方からこのゴーレムは危険は無いのかと質問を受けましたので、人が中に入って操縦するので問題は無いと答えておきました」


 俺はそれを聞いてサソリもどきのを見上げてみた。


 この攻城用ゴーレムはかなり大きいし、知らない人間が見たら恐ろしい存在だろう。


「あ、それから他のゴーレム達を操っているのは誰かと質問を受けましたので、公太女殿下の忠実なるエルフの大魔法使いだと答えておきました」


 まあ、合っているんだけど、ゼフォフの行政官の態度を見れば、態々エルフと言わなくてもいいんじゃないのかと思っていた。


ブックマーク登録ありがとうございます。

1リーグ=4.828kmで計算しています。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ