1-1 間違われた男
新作始めました。こう書くとなんか夏場の冷やし中華始めましたみたいですが、前作「悪役令嬢の華麗?なる脱出劇」共々よろしくお願いします。
俺は今ある物を探すため、まるで緑の絨毯のような森林の上空を低空で飛行していた。
眼下に広がる広大な森林は、木々が生い茂り地表等これっぽっちも見えなかった。
こんな状態で探し物を見つけるなど、干し草の中から針を探すような愚かな行為だろう。
もう何十時間もこうやって探し続けていると、目も霞みやる気も徐々に失せてきていた。
思考力も大分鈍ってきた頃には広大な森林が終わり、その先には平原が広がる光景が見えてきた。
そしてその平原には人工物もあった。
その人工物は石を積み上げたほぼ円形をした城壁のようで、高さはおよそ5mはあった。
俺の知識の中で、市街地にそんな物があるのは長安の町くらいしか思いつかなかった。
そんな遺跡のような町に興味を持ったのは、仕方がない事だった。
それにこちらは上空にいるので、城壁をちょいと超えて中を見るのはとても簡単なのだ。
上空から覗く町の中は、ジオラマのような建物が所狭しと立ち並び、その建物は全体的に灰色といった感じで色彩的には鮮やかさに欠けるが、それでもその中で暮らす人々の生活を思い浮かべる事は可能だった。
そしてその光景の中で、酒場でうまい酒を飲む自分の姿を思い浮かべたところで、突然喉の渇きを感じたのだ。
長時間飛行して疲れた脳には、ちょっとそこに寄って水分補給するのがとても良い考えに思えてきた。
それが間違いの元だった。
森林が途切れた先にあるその城壁に囲まれた町に飛んで行くと、俺の目の前の森から続々と何かが飛び出し、真っ直ぐ前方にある人間の町に向かって突進していく姿が見えた。
最初それはバッファローの群れのようにも見えたが、良く目を凝らして見ていると、それはそんな可愛らしいものではなく、もっと禍々しい物だった。
サイのような鎧を着た4足獣や凶悪な爪を持つ大型犬、ワニのような固い鱗を持ち何物をも簡単に粉砕しそうな極太な尻尾を持った4足獣等だった。
すると町の方にも動きがあった。
けたたましい鐘の音が鳴り響くと、それまで無人に近かった城壁上にわらわらと小さな人型が走りだしてきた。
最初俺はその光景をただ何も考えずに眺めていたが、次第にこの事態を作り出したのが自分なのではないかと思い至ると、その責任を感じ始めていた。
それからの行動は早かった。
俺は魔物達を追いかけると城壁や城門に激突した先頭の魔物に向けて霊木の枝から切り出した杖を向けると、杖の先に藍色の魔法陣が現れた。
この杖は、体内の魔力を元に魔法を放つための触媒なのだ。
藍色の魔法陣から現れた石礫が、城門を攻撃している魔物に向けてマシンガンの弾のように連続して飛んで行くと、その体が弾けて吹き飛んだ。
そして流れ弾が城門や城壁にも着弾した。
その光景は城壁の上からも見られていたようで、城兵達が何かを叫びながらこちらを指さしてきた。
俺は城兵と協力しながらであれば、魔物の討伐も簡単に済みそうだと少し楽観していた。
だが次の瞬間、それが全くの間違いであった事を思い知るのだった。
城壁に上がる階段から駆けあがってきた金髪の若い男は、黄金色の全身鎧に身を包み赤いマントを羽織っていて、明らかに指揮官と思われた。
すると、それまで俺を指さして何かを叫んでいた兵士の一人が、その男の前で跪き何事か報告していた。
金髪男はその報告を聞きながら俺の方に目を向けると、その顔には驚愕の表情が浮かんでいた。
次の瞬間、腰に差した剣を抜き、切っ先を俺の方に向けると大声で叫んでいた。
その頃には俺も声が届く範囲まで近づいていたので、金髪男が発した命令内容を聞くことが出来た。
それは、「最悪の魔女だ。今度は魔物を従えて攻めてきたぞ。矢を放て、魔法を撃て」だった。
最悪の魔女とは誰だ? とか、今度とは何だ? とか色々教えて欲しい事だらけだが、こちらを睨みつけてくる男の顔は、まるで親の敵にでも遭ったかのような厳しい表情をしているので尋ねてみる事は無理に思えた。
ああ、誰でもいいから俺にこの状況を説明してくれ。
そんな俺の願いもむなしく、城兵達が放った矢や魔法弾が明らかに俺に向かって飛んで来ると、そんなボケをかましている暇は無くなっていた。
俺はまっすぐ飛んで来る矢や魔法弾を回避しながら、何故俺を攻撃するのかと文句を言いたくなってきた。
そこでふっと城兵達から見て、俺がどう見えるのかに気が付いたのだ。
何事も無く平穏な昼下がりに、突然現れた魔物の群れ、そして魔物が現れた森の上空には俺が居るのだ。
それはまさに、俺が魔物の一団を連れて町を攻めてきたと受け止められないだろうか?
あれ? これって、とてもまずい事態なのでは?
俺は平和的な一次接触に失敗したことを痛感し、この状況では言い訳しても最早無駄だろうと感じていた。
そして久しぶりに酒が飲めるという希望が潰えた事で「畜生」と毒づくと、森の中に戻ることにした。
俺が森に戻って行くと、それまで町を攻めていた魔物達が急に理性を取り戻したかのように攻撃を止め、そのまま森に戻っていった。
それは城兵達から見ると、明らかに魔物達のボスが逃げたので、手下達も慌てて逃げたように見えているだろう。
俺の名は、海城神威。トレジャー・ハンターだ。
普段は自分の店でオークションや店に売り来た客から品物を仕入れ、それを他の客に売っていた。
そして情報屋が持って来た財宝があるとうネタを元に探索に行ったのだが、同じネタを商売敵にも売っていて、まんまと先を越されてしまったのだ。
おかげで店を担保に借りた金が返せず、破産が時間の問題だった。
溺れる人は藁をも掴むというのは本当で、俺は普段なら胡散臭くて絶対に相手にしない情報屋からシュメール人の海底遺跡があるという話に乗ってしまったのだ。
そしてこれがとんでもない罠だったのだ。
確かに海底に遺跡はあった。
そして俺は今、地球とはとても思えないここに居るのだ。
しかも俺は男なのに、今の外見は金色の髪に赤い瞳、胸には2つの膨らみがあり、腰が括れた女性型の体形をしていて、そして人間ではありえない程長い耳をしていた。
城兵達は俺のこの外見を見て「最悪の魔女」と叫んでいたようだが、俺だって好き好んで女の恰好をしている訳ではないのだ。
そう、理由がちゃんとあるのだ。
表現を少し修正しました。