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旅立ち準備・15

 

「それなら……そうだな。まずはハイネとアイゼイヤのステータスを鑑定してみてはどうかな? 2人はきみの配下だ。抵抗ないだろう? 近いうちに戻ってくるカインセルも試してみるといい」


 にこやかにアレスティラ様が言う。

 ハイネとアイゼイヤ、それにカインセルことカインの3人に選択権はないようだ。カインなんて私の代わりに5つもの直轄地を見て回ってくれているのに、久しぶりに法王宮に戻ったら鑑定スキルの相手もさせられる。

 さすがは身分社会。

 従者は主に絶対服従ってことだ。


「それにしてもレンフィールドの話を聞いて納得したよ。

 同じ鍛練レベルの同じ攻撃力ランクを持つ者同士の戦いのはずなのに、力量差が出るのは鍛練方法が合っていないためかと思われていたんだ。しかし、もっと根本的な理由だったのだね。同じランクでも上限値の者と下限値の者では当然、上限値の者が強いのだろうし。

 法王宮の者だけでなく色々な者たちのステータスも集めて纏めれば、なかなか面白い資料ができそうだ」


 アレスティラ様、楽しそうだな。

 守護神の影響で強さに関することは興味があるのかもしれない。


「私の数値化されたスペックも書いてくれるかい?」

「すぐに書きます。それで、ですね……。人物詳細という項目がありまして、出だしの部分で見るのをやめましたけれど……少しだけ見てしまいました。申し訳ありません」

「人物詳細?」

「はい。グリース法王国暦の何年何月に誰と誰の間にどう生まれた……とか。そういうのは個人情報ですから」

「……レンフィールドは優しいね」

「そんなことありません。優しいなら見なかったことにして話しませんから」


 内緒にしておいて、後でバレて面倒なことになったら嫌なので伝えているんです。

 報・連・相(ほうれんそう)の本音です。


「優しいよ。

 これが宰相だったら、黙ったまま対象相手の隅々まで鑑定して情報を引き出し使うだろうからね」

「あ、そうですね」


 個人情報保護法ないもんね。

 しかも相手にバレずに本当のことが分かる。

 これは気をつけないと。

 諜報員の代わりにされるのはゴメンだ。


「レンフィールドのステータス。特に鑑定スキルに関しては他言無用を徹底させるから安心しなさい」

「ありがとうございます……」


 アレスティラ様が命じてくれれば法王宮の人間は絶対に守ってくれる。

 一安心した私の手元にハイネがシープ紙とガラスペン一式を持ってきた。

 この世界にはボールペンなんていう手軽なものはまだなくて、羽根ペンかガラスペンでインクを吸わせて文字を書く。

 庶民は硬い木炭を加工して布で巻いた鉛筆の原型のようなものも使っているが、インクで書いたものと違って改ざんと劣化がしやすいので正式な書類では使えない。

 もう少し時代が進めば万年筆くらいは出てきそうだけれど……。

 逆に紙のほうは異世界だなぁと思わせる。

 公的機関や貴族の使うシープ紙は羊皮紙のシープでなく、シープという樹木から作られる。この樹木が丈夫で加工しやすいとあって人気があり、領地にシープの群生地がある貴族は余程のことがなければ安泰である。

 何故ならシープは気まぐれな樹木として知られ、気に入った土地でないと根付かないのだ。魔物ならぬ魔樹(まじゅ)で大量に魔素を循環させて成長する。気に入った土地というのは魔素との相性なのだろう。

 一方、庶民に広く使われているのはマ紙。

 魔麻(まあさ)という草木から作られる紙だが、耐久性に難があるので加工する時に繋ぎを入れなくてはならない。しかしその繋ぎによっては芸術的な仕上がりになることもあって貴族もバカにしない。

 そういったマ紙をコレクションする上流貴族もいるからね。


「これがアレスティラ様の詳細スペックです」


 考え事をしながらも数値化されたスペックを書けちゃうなんて、並列思考って便利。数値が覚えやすかったせいかもしれないが……。


 書き出した紙をハイネが受け取り、ロベルトに渡し、ロベルトがアレスティラ様に渡す。

 目の前にアレスティラ様がいるのだから、はい、書き終わりました。って直接渡せれば楽なんだけれど。

 こういうやり取りって前世でもあったから、身分社会ではどこの世界でも同じようなものなんだなって思ったものだ。


 アレスティラ様が渡された紙を見ている。

 それを見ていて気付いたが、アレスティラ様の前にあった軽食類は全て片付けられていた。

 いつの間に食べ終わったの?

 私なんて、まだキュウリのサンドイッチを1つ食べただけ……。

 ホロホロ鳥の切り身を挟んだサンドイッチ、スコーン、ビスケット、まだ手付かずです。

 自分で淹れたお茶を飲みきったくらい。

 ハイネが2杯目を淹れてくれるが、ついでに食べないものと思われて片付けられたら悲しいので、ホロホロ鳥のサンドイッチを手にする。

 うん。

 パンにソースが()みて美味しさ倍増。

 パリッとしたパンも好きだけど、ソースで柔らかくなったパンも大好き。


「レンフィールドはホロホロ鳥が本当に好きなんだね」


 私に視線を移したアレスティラ様が微笑む。


「食べたくなったらいつでも戻ってきなさい」

「はい」


 危ない、危ない。

 アイゼイヤから話を聞いていなかったら意味不明だったよ。

 ホロホロ鳥が市場に出回らないほど不人気な食材とは知らなかったからね。


「おや? 誰から聞いたのかな?」


 そう言いながらもアイゼイヤのほうをちらりと見る。


「まあ、そういうことだから。遠慮せずに毎日帰ってきていいからね」


 にっこり笑うアレスティラ様……。

 日帰り旅、諦めていなかったのですね。


「帰ってきた時は食べます」

「ふふ」


 私をからかって楽しそうだな。


「ところで、レンフィールドに言っておくことが幾つかあるんだ」

「何でしょう?」


 スコーンを食べようかと思っていたが、真面目な話みたいなのでやめる。

 雑談くらいなら飲食しながらでも構わないけれど、そうじゃないならきちんとしないとね。


「そこまで改まる話ではないけれど……」




 アレスティラ様からの話は、最初の旅先であるペッドキアに配下の騎士を向かわせた……というものから始まった。

 移動魔法の目印付近に控えさせているけれど、それは私が無事に転移したのを確認してアレスティラ様に報告するための存在だから警戒しないでいいよ。ということだった。

 そしてペッドキアに駐在している職員や兵士の中には私のことを知っている者もいるのだから、レン·エール子爵という仮の姿はまだ見せないほうが先々のためだと言われた。

 つまり、ペッドキアは一人旅のための慣らしの場所と考えて行動したらどうかな?という話だ。

 まあ、そういう行動履歴も配下の騎士に監視……じゃなくて確認させて報告してもらうのだろうけれど。


 それから確実に訪れる他の4つの直轄地にも、それぞれ配下の者をすでに向かわせたり、これから向かわせる予定だそうで……。

 それは私の行動を制限するためじゃなく、アレスティラ様の心配の種を減らすためだからよろしくね。ということだった。


 一人旅……だよね?


 それでも、今まで避けがちだった旅の話をアレスティラ様のほうからしてくれるのは私のステータスが原因らしい。

 多少、剣の腕があっても魔法師だと思っていた私が、実はとても強いことが分かり相当安心したようだ。






「それはそうだろう。鍛練場で見せたお前のステータス。猊下に負けてないからな」


 入浴後の私の髪を乾かしながらアイゼイヤが笑う。

 まだ侍従見習いとして日の浅い彼は、浴場に入っても私の身体を洗うことができなくてハイネたちの動きを見て勉強中なのだ。

 洗髪くらいなら、と1度試したが……。

 力強くゴシゴシと(こす)るだけで地肌が傷んで禿げるかと思った。

 そこで風魔法の得意なアイゼイヤに髪を乾かす作業を頼んだら上手だったので、今日も任せている。


「なあレンフィールド。俺のステータスも書いてくれないか?」

「見ていいの?」


 アレスティラ様に言われたものの、本人たちが言い出さない限りは鑑定するつもりはなかった。

 練習なら旅行中に通りすがりの人々を勝手に見ればいいかと考えていたからだ。

 私の罪悪感も少ないしね。


「当たり前だろう? 俺は少しでも強くなるって言ったじゃないか。そのためには数値が分かるほうが張り合いも出る」

「そうだったね」


 そんなわけでアイゼイヤのステータス・オープン!




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