旅立ち準備・14
アレスティラ様と一緒に入室してきたハイネが、無言でアイゼイヤの首根っこを掴んで私と引き剥がす。
コンマ何秒?ってくらいの早業だった。
「アイゼイヤと仲がいいのは結構だが、ほどほどにしなさい」
「はい」
「2人とも大人なのだからね」
「お見苦しい姿を見せてしまいました」
座り込んだままの私を起こしてくれながら、アレスティラ様が注意する。
確かに17歳と18歳の青年貴族による取っ組み合いの姿を見せるのは色々とよろしくない。自室で良かった。
「おや、2人でお茶を飲んでいたのか」
アレスティラ様の言葉に、これでお小言はおしまい。というニュアンスを感じ取った私は素直に微笑む。
「はい、アイゼイヤが淹れてくれたお茶が今一つ口に合わず。私が淹れてみせたのですが、よろしかったらアレスティラ様もお飲みになりませんか?」
内緒にするつもりだったが、アレスティラ様に心配をかけさせた罰だ。
ばらしてしまえ。
「レンフィールドのお茶か。久しぶりだね」
「すぐに淹れますね」
私がサイドテーブルに向かうとハイネがテーブルの上を片付け、アレスティラ様の侍従がアレスティラ様のために椅子を引くのが見えた。
アイゼイヤは手を出さない。
代わりに私のほうを窺っている。
手伝いをしたいのかもしれないが、大丈夫。
むしろ邪魔になりそうだ。
アイゼイヤの時よりも丁寧に淹れたお茶を渡してドキドキしながら見ていると、一口飲んだアレスティラ様が微笑まれた。
「美味しい。レンフィールドの好きなベルガモットの香りが入ったお茶だね」
「はい」
大好きなアールグレイ。
法王国にお茶を飲む文化はあったけれど、フレーバーティーの考えはまだ無かった。だから欲求に負けて柑橘系の香料をブレンドしたアールグレイとミルクティーの提案をさせてもらった。今では自室に茶器とともにアールグレイの茶葉を置いてある。ただ残念ながらミルクティーは新鮮なミルクを置いておく場所がないので自室で淹れるのは断念した。飲みたい時はハイネに頼んで用意してもらっている。
「さあ、レンフィールドも座って飲みなさい。自分の分も淹れたのだろう?」
「はい」
アレスティラ様の正面に座ろうとするとハイネが椅子を引いてくれる。
おお、いつの間に。
素早い。
続けてサイドテーブルの上に置いてあった私の分のお茶を運んでくる。
さらにアレスティラ様の侍従たちがサンドイッチやスコーン、ビスケットの乗った皿を次々と並べていく。
アフタヌーンティーだ。
この世界では軽食の時間って言うんだけれどね。
「サンドイッチ、美味しいです」
私の分として並べられたサンドイッチの具は薄切りのキュウリ。
味付けはパンに塗られたバターとマスタード。
シンプルだけど大好き。
もう一種類は焼いてスライスしたホロホロ鳥の肉に赤ワインを煮込んだグレイビーソースを薄く塗ったもの。
こちらも大好物。
「それは良かった。体を動かした後だからね、たくさん食べるといい」
「はい、アレスティラ様」
ん?
たくさん食べる?
そうだ。
アイゼイヤが言っていた食事量。
疑う訳じゃないけれど、アレスティラ様の前に並べられたものを見る。
あ、サンドイッチの具が違う。
優雅に食されているから気付かなかったけれど、あれはオーク肉の照り焼きだ。もう一種類も分厚いチーズと熟成ハム。きっとハムの材料も魔獣肉なんだろうな。
スコーンも私はプレーンだけれど、アレスティラ様のは大粒のチョコや砂糖漬けの果実が練り込まれている。
ビスケットはさすがに同じ……じゃなかった。
アレスティラ様のビスケット、バターがたっぷり使われている上に粉砂糖が散らしてある。
う……見ているだけでヤバい。
何で今まで気付かなかったのかな?
「……聞いてる? レンフィールド」
「え?」
視線を上げると、アレスティラ様が苦笑いしていた。
「私との話より、私の食べているものに興味が向くなんて初めてだね」
「申し訳ありません……」
子供じゃないんだから、相手の食べているものを見ていて話を聞き逃すなんて……。
恥ずかしい。
これというのもアイゼイヤのせいだ。
「もう一度、お聞かせ願えますか?」
「もちろん構わない。先ほどの手合わせの内容やステータスを見せてもらって、ようやく私も安心したと言ったのだよ。これなら一人旅でも大丈夫そうだとね」
「ありがとうございます」
やった。
お許しが出た。
「でも、くれぐれも油断しないこと。鑑定スキルを使うことに躊躇ってはいけないよ? それから分かっているだろうけれど、鑑定スキルの持ち主は狙われやすい。ステータスの開示は慎重にね」
「はい」
「それにしてもレンフィールドのステータスには驚かされたね」
「そうでしょうか?」
私からすればアレスティラ様のほうが驚きのステータスなんだけれどね。
「当たり前じゃないか。魔力、魔法防御力、速力、技術力、それに運気がSランクなんて……。まるで物語の主人公だ」
「それは……」
違う。と言うには、ステータスに5つもSランクがあるのだ。
謙遜したら嫌味だ。
「物語の主人公というのなら、やはり純粋な力や防御力、戦い抜く体力が重要ですし。何よりバランス良いのが一番だと思いますよ」
アレスティラ様は体力がSランクで、他はオールAランク。
全属性魔法に適正があるのは一緒だし。
固有スキルの【聖魔法】【インベントリ】も同じ。
私は【鑑定】持ちだけど、アレスティラ様は【不老】だからね。
備考欄扱いの【神々の加護】もアレスティラ様、持ってるし……。私と違って神託という形で話せるみたいだし。
「私は直接攻撃に関する力や防御力が低いですから」
「レンフィールドは魔法師より、騎士に憧れるのかな? でも近衛たちに確かめたけれど、きみの力や防御力を補うための速さと技を生かした戦い方はとても実践的で、見ていた者も話を聞いただけの者も自分たちも手合わせをお願いしたいと言っていたよ」
「それは嬉しいですね」
戦いの本職である騎士たちに認められるのは自信になる。
「レンフィールドは私を基準にしているみたいだけれど、他の者のステータスもたくさん見てみればいい。せっかくの鑑定スキルなんだ。しかも初代法王の遺産である鑑定具より有能なのだから活用しない手はないよ」
「そこは言わないでください……」
鑑定具を騙せる時点で、その道具よりランクが上なのはバレる。
だからそこのところは否定しないけれど、やっぱり他人のステータスを勝手に見るのはプライバシーの侵害だって思ってしまって気が引ける。
「私のステータスも遠慮なく見ていいのだからね? 鑑定具より詳しいことが分かるかもしれないし。そうだ、そうしよう」
「何をですか?」
「私のステータスを見て教えてくれないか?」
「え……」
それはどうなんでしょう?
チラッとハイネを見るとニッコリ笑われた。
あの笑みは肯定だ。
アレスティラ様が望んでいるのだからって言っている。
それならと、アレスティラ様の侍従の一人を見た。
ロベルトって名前の古参の侍従。普段から無表情なのだが、今も私の視線を無視している。
「大丈夫だよ。私が望んでいるのだから」
逃げ道を塞ぐように言われてしまっては仕方ない。
私はアレスティラ様を鑑定した。
名前:アレスティラ·マーガス·ドリン·グリエス。
年齢:38歳。(肉体年齢23歳)
種族:人族。
職業:グリース法王国法王。
レベル:114
基本スペック:体力 S
攻撃力 A
防御力 A
技術力 A
魔力 A
魔法防御力 A
速力 A
運気 A
詳細スペック:体力 25507
攻撃力 9999
防御力 9999
技術力 9999
魔力 9999
魔法防御力 9999
速力 9999
運気 9999
汎用スキル:全属性魔法。無属性魔法。
固有スキル:聖魔法、インベントリ、不老。
備考欄:戦いと守りの神ドリンの加護。(主要効果は争い事が無敗となる。詳細スペックの数値が相手によって倍増する。上限無し)
神剣デマイスの主。
レンフィールド·アレスティラ·ヴェーゼ·グリエスの養父、配偶者。(不老の対象/未契約)
人物詳細:グリース法王国暦3272年3月誕生。
父親ジェローム·グリエス。母親アンジェ·ミラー。
当時のグリエス法王家当主でグリース法王国の摂政だったジェロームが下働きとして奉公にあがっていたミラー騎士爵家の娘アンジェを行きずりの犯行の如く、空いていた部屋に引っ張りこんでコトを成した結果、生まれる。
その頃の法王家は先代のマーガス法王の崩御後154年に渡って『聖魔法』の遣い手が生まれず、その存在意義が揺らいでおり……………………………………………………
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「ぐっ……」
ダメだ。
プライバシーの侵害で訴えられるレベルだ。
詳細部分は基本、見ないことにしよう。
それにしても子供の頃より細かく鑑定結果が出るようになったな。
レベルが上がったせいかな?
それともアレスティラ様が望んで鑑定したからかな?
詳細スペックとか、人物詳細なんて見たことなかったよ。
これを見るに数値が5桁になるとSランク相当ってことになるの……かな?
自分のステータスも何年もじっくり見たことがないし。
S、A~Fランクだけじゃなかったのか。
んー。
アレスティラ様が言われたみたいに鑑定する習慣をつけて、数値とランクの関係性を知っておいたほうがいいよね? 何かの役に立つかもしれないし。
「レンフィールド? 私のステータスにおかしな部分でもあったのかな?」
心配そうな顔をされていることに気付いた。
「いいえ。あの、あまり鑑定スキルを使わなかったので正確なことは言えないのですが……。体力や攻撃力などのスペックが数値化されて表示したので驚いてしまいました」
「数値化?」
「はい。他の人のステータスも見てみないことには断言できませんが、Aランクは9999まで。Sランクはその上、5桁からのような……」
「レンフィールドは自分のステータスも見ていなかったのかい?」
「そうですね。殆ど見ていません」
赤ん坊の頃、隠蔽する割合を考えるために周囲の人間を見た時。
子供の頃、ハリアスの街を建て直すのに亜人たちの適正チェックをした時。
対人で鑑定スキルを使いまくったのはそれくらいだ。
バカ3人組やサラのステータスチェックもプライバシーを考えて本当に必要な時しかしてないし。
マメにしておけば良かったんだろうな……。




