旅立ち準備・13
「ところで……」
え、アレスティラ様。
このまま結果発表ですか?
鍛練場の周りは私たちの手合わせを見ていた侍従長をはじめとして近衛騎士や近衛兵がたくさんいるんですけれど……。
この中で「不可」とか言われたらさすがに悲しい。
すぐにバレる話だとしても、せめてどこかの室内でお願いします。
あ、アイゼイヤはどうでもいいです。
八つ当たりの相手にするので!
「久しぶりに手合わせしたけれど、レンフィールドはずいぶんと攻撃的になったね?」
「?」
「最後に手合わせしたのはきみが成人した時だったから2年前か。その時とは比べ物にならないくらいの攻撃バリエーションだった。これが戦争などに出ていたとか、冒険者稼業をしていたなら分かるけれど、きみは学園生活を送っていただけのはずだからね」
「ア、アレスティラ様?」
「そうなると考えられるのはステータス」
あー、ヤバい!
赤ん坊の時に誤魔化したステータスのことをすっかり忘れていた!
旅に出るための見極めだって思っていたから全力で戦ってしまった……。
「レンフィールド。この場所にいるのは全て、私に血の忠誠を誓った者たち。きみのことも私と同様に守る者たちだ」
「はい……」
怒ってる?
アレスティラ様、怒ってるの?
いつもと違う魔力がアレスティラ様から流れてくるんですけれど~。
「私の愛しいレンフィールド」
「はい」
「この場でステータスチェックを受けてくれるね?」
「はい……」
法王宮にある鑑定の魔道具は私の鑑定スキルに劣る。
だから誤魔化しが可能だったけれど、実際に手合わせして感じられてしまっては今までと同じステータスというわけにはいかないだろう。
私たちの手合わせを見ていたのは法王に絶対忠誠を誓う者たちだけだ。アレスティラ様が箝口を命じれば、誰も私の本当のステータスを話すことはない。
「でもアレスティラ様。どうして皆の前で?」
最大のプライバシーであるステータスを公開させるんですか?
って言いたい。
見せて恥ずかしいものではないと思うけれど、隠しておきたい部分もあるんですよ。
特に備考欄?
【異世界からの転生者(記憶有り)】
って部分。
他にも
【主神ヴェーゼの加護】はすでに公開済みだから良いけれど、【主神ヴェーゼの寵愛を受けし者(未契約)】って何?って思うわけですよ。
アレスティラ様の守護神ドリンなら知っているかもしれないし。
どうしようかな?
うーん。
うーん。
うーん。
よし、転生者の部分は隠そう。
手合わせの件とは関係ないわけだし。
アレスティラ様もどうしても話せないことは話さなくていいって、前に言ってくれたし。
「私のステータスを皆に知らせる意味はあるのですか?」
考えが纏まった。
すると、何故ここで私のステータスを公開する必要があるのか?という疑問に気付いた。
アレスティラ様が考えなしに行動を起こすとは思えないからね。
「私のステータスは皆、知っている。だからレンフィールドと結婚した後のことを心配されていた」
「?」
「私の力にレンフィールドが押し潰されるのではないかと、皆が心配していたということだよ」
「何故、皆に心配されるのですか? アレスティラ様が私より強い力を持っているのは知っていますけれど、戦うわけでもないでしょうし……」
アレスティラ様のスペック、本当にチートだから。
特に固有スキル。
【不老】だもんね。
初めて会った時と姿が変わらない。
ずっと20代前半の頃の姿で体力腕力など全てが全盛期のまま維持されている。
それで魔法系武術系ともにオールAランクの能力だよ?
私がアレスティラ様を上回っているのなんて魔力と魔法防御力、速さと技術力くらい。
まあ、そのあたりを隠蔽していたんだけれどね……。
それにしても結婚した後の心配って何?
押し潰されるって、どういうこと?
意味が分からん。
「もしかして、今のアレスティラ様から感じる魔力が関係するのでしょうか?」
普段は春の日差しのような柔らかな魔力に包まれているアレスティラ様なのに、今は真夏のギラギラした太陽のような……何て言うか、焼けつくような魔力を感じる。
「ああ、すまない。レンフィールドがこれだけ強いなら問題ないな。と思ったら、嬉しくて気が緩んでしまったようだ」
あれ?
怒ってない?
アレスティラ様、怒ってないの?
良かった。
強さを隠していて怒られるのかと思ったけれど違うみたいだ。
「猊下。鑑定の魔道具をお持ちしました」
アレスティラ様の侍従が持ってきたのは、以前も使った鑑定具だ。
見た目は壁掛け用によくある楕円形の鏡に見えるが、法王宮に置いてあるのは初代法王の私物だったものでかなりの精度を持っている。それでも私の鑑定スキルのほうが詳細に出るけれど……。
【転生者】の他はオープンしてもいいかな?
「レンフィールド」
そんなことを考えていたら、アレスティラ様が鑑定具を持って私を呼んだ。
「どうしても話せないことがあるのなら、それは話さなくてもいい。
以前、私がきみに言ったことは本当の気持ちだよ。でも、きみの本当のステータスを皆にも知っておいてもらったほうが、これから先の様々な事柄に対応しやすくなる」
「はい、分かっております。お気遣いありがとうございます」
そっか。
そうだよね。
次の法王家当主になる人間によっては、私がアレスティラ様の配偶者になっても喧嘩売ってくる可能性が高いわけだし。私のステータスを周りの者が正確に知っておいたほうがいい場面もあるだろう。
そうして鑑定し直したわけだが……。
「レンフィールド」
「はい」
「一度、自室に戻っていなさい。後で改めて話そう」
「はい……」
鍛練場に居合わせた皆の前でステータス披露という羞恥プレイに耐えた後、私はアイゼイヤに付き添われて自室へ戻ることになった。
「はあーっ」
ため息が出る。
もう何度目だろうか?
自室に戻って、おとなしく待機しているけれど。
どうしてステータスのことを忘れるくらい暴れちゃったかな~って思い返しては……。
「あー、どうしよう」
ステータスを見たアレスティラ様の目が、一瞬、恐ろしく光ったのを見てしまった。やっぱりステータスを誤魔化していたのを怒っているんだ。
「とりあえず、茶でも飲んで落ち着けよ」
「うん……」
アイゼイヤが淹れてくれたお茶を飲む。
苦っ。
ハイネと比べたら悪いが美味しくない。
飲みかけのカップをアイゼイヤに向ける。
「まだ残っているだろ?」
「違う。自分で飲んでみろ」
そう言うと、アイゼイヤは困った顔をした。
ああ、そうか。
「大丈夫だ。ハイネには黙っていてやるから」
自分の淹れたお茶の味くらいチェックしてほしいものだが、アイゼイヤも王子様だ。1年程度の社会人生活では無理だろう。
「……ったく」
ブツブツ言いながらもアイゼイヤはカップを受け取って口にした。
「ブーッ! 苦っ! 何だ、この茶は!」
「お前が淹れたお茶だよ」
「分かってるよ!」
冷静に突っ込みを入れると、アイゼイヤが頭を掻いた。
「くそ、格好つかねー」
「私の淹れたお茶のほうがマシだな」
サイドテーブルに置いてある茶器と魔道具で沸かした湯を使い、ササッとお茶を淹れる。
「飲んでみろ」
アイゼイヤの前にカップを置いたが、なかなか手をつけない。
「お前の淹れたのより美味いから飲んでみろ」
「あ、ああ……」
覚悟を決めた顔をしてカップを持ったかと思ったら、一息に飲んだ。
「あちっ!」
「バカ、火傷するだろっ」
急いでアイゼイヤに治癒魔法をかける。
「舌や口の中は大丈夫か?」
「大丈夫だ。悪い、助かった」
今度はゆっくりとカップに口をつけたアイゼイヤが私を見る。
「美味いな」
「そうだろう、そうだろう」
何しろ前世はアラフィフ独身女性だからね。
そこまでの人生で色々と勉強させてもらいましたよ。
緑茶、紅茶、珈琲の淹れ方からはじまって、ビールの注ぎ方やウイスキーの水割りまで簡易接待術は持ち合わせているぜ。
昭和のオヤジどもとデュエットする時は腰抱き、肩抱きは当たり前。
酔ったふりして抱きつかれるのは可愛いもの。
頬にキスしてくるのもいたからな!
若い女性職員にはしたくてもできないことでも、年増職員ならやっても許されるって勘違いするオヤジどもの多いこと。
年増職員になってもセクハラはあるから。
セクハラだけじゃない。
パワハラ、アルハラ。
フルコースを浴びながらも生き抜いてきたキャリアを舐めるなよ!
おっと、いかん。
また脱線思考してしまった。
「アイゼイヤにはこれより美味く淹れてもらわないとな」
「分かった。努力する」
冗談半分で言ったのに真面目に返されてしまった。
「アイゼイヤ?」
カップをテーブルの上に戻したアイゼイヤが私の前に膝をつく。
「さっき、鍛練場で見せてくれた猊下との手合わせ。
猊下の強さは何となく分かっていたけれど、お前があんなに強いとは思わなかった。猊下が皆の前でステータスを公開させたのは、お前の強さの裏付けを見せるためだったんだな」
え?
そうなの?
アレスティラ様は皆に知っておいてもらったほうが色々と対策しやすくなるからって言っていたけれどなあ。
「レンフィールド殿下、本当に申し訳ない」
「どうした? いきなり……」
人前でもあるまいに膝をつくし、殿下呼びするし。
「正直、力勝負は弱いと思っていた……」
「は?」
「お前、身長のわりに細いから非力だと思っていたんだ。今まで知らされていたステータスも魔法特化型だったし。合成棍棒も武器として使うんじゃなくて、魔法の媒介にだけ使っているんだと勝手に思っていた」
「はあ……」
「だけど、猊下への初手。
俺だったら雷撃を捌ききることもできなかったし、風魔法もまともに食らっていただろう。何しろ殆ど目で追うこともできなかったからな。加速をかけて合成棍棒を振るう必要もなく、雷撃で倒れていただろう。自信がある」
「何だ、それ? そんな自信は持つなよ」
「そうだな。お前が旅に出ている間に少しでも強くなる」
ガバッと顔を上げたアイゼイヤの目がキラキラしている。
「だから、俺とも手合わせしてくれ。あ、もちろん多少の手加減は頼む」
「はあ?」
「手合わせを頼んでおいて、手加減も頼むのは狡いかもしれないが、そこはお前と俺の仲だ」
「どんな仲だよ……」
「主と従者」
「……まだ見習いだろ?」
「似たようなものだ」
「え~?」
「従者が主より弱すぎるなんて格好つかない」
「アレスティラ様はいいのか?」
「猊下は猊下だからな」
「意味が分からない。分かるように言ってくれ」
押し問答しながらアイゼイヤが膝立ちのまま、ずりずりと私に近寄ってくる。
「猊下の強さはステータス上だけど知っていた。だから目の前で実際に見ても納得しかなかった。でもレンフィールドはステータスを隠していたせいで直接攻撃に弱い魔法師だと思っていた。俺が守らなくちゃって思っていた。それが、あの攻撃ぶり! あんなのを見せられたら、格好つかないけれど興奮しないわけがない!」
「えー、何だそれ?」
「なあ、頼む。俺を男にしてくれ!」
「はああ?」
勢い余ったアイゼイヤが私の片足にしがみつく。
「ちょっ……」
バランスが崩れる。
「痛っ……」
腰をうった。
「きみたちは何をしているのかな?」
アイゼイヤに押し倒された形で床に座った私の瞳に、にこやかな笑みを浮かべるアレスティラ様が映った。




