旅立ち準備・12
アレスティラ様の使っている長剣と私の合成棍棒は、それぞれの守護神からの贈り物である。
子供の頃、鑑定してみたら神クラスのものだった。
それはそうだよね。
そんなわけだから、生半可な攻撃では太刀打ちできない。
そうでなくてもアレスティラ様の守護神は戦いと守りの神ドリン。
一方、私の守護神は神々の頂点に存在しているというヴェーゼ神らしいが、詞を交わしたこともないので本当に守護されているのか疑問に思うこともある。
それでも自分のステータスには主神ヴェーゼの加護って記されているから間違いないのだろうし、この合成棍棒もアレスティラ様に引き取られた翌朝、私の枕元に置いてあったものだ。
まあ当初は幼い私への脅し……つまり暗殺予告かと騒がれたけれどね。
しかしアレスティラ様がこの合成棍棒はヴェーゼ神から私への贈り物だという神託をドリン神より受けて騒動は落ち着いた。教えてくれたドリン神によると、アレスティラ様もドリン神から贈り物として長剣を授かっているので、こんなにも大騒ぎになるとは思わなかったそうだ。
それを聞いた私はいつかヴェーゼ神と詞を交わせるようになったら、2歳児の枕元に予告なく武器を置くのは怖いからやめろ……いや、やめたほうがいいですよ。と伝えようと思う。
合成棍棒にはエルフィン·ストンと刻まれている。
この合成棍棒の名前らしいが、それを読めることこそ神々の加護を受けている証だとも言われた。
実際、刻まれた銘は私とアレスティラ様だけが読める。
他の人にはただの紋様にしか見えないらしいし、そもそも武器として扱うこともできない。持つことはできるが、使おうとすると私の合成棍棒の場合はメチャクチャ重くなる。
ちなみにアレスティラ様の長剣はデマイスという銘で、他の人では鞘から抜くことすらできない。私はかろうじて抜くことはできるけれど、それだけ。長い刀身と重さで満足に振り回すことができない。
何はともあれ合成棍棒は私のための武器だが、幼かった当時はアレスティラ様のようにカッコいい剣が欲しかったなあ……と思ったりしていた。
今は合成棍棒の良さも分かってきたけれどね。
「では、遠慮なくいかせてもらいます」
アレスティラ様のステータスは私より高レベルでバランスがいい。
チート転生を疑うくらいだ。
最初から全力で向き合わないと簡単に負ける。
エルフィン·ストンに素早く魔力を流し雷魔法を放つと、雷撃と呼ばれる無数の雷がアレスティラ様に向かった。
詠唱?
そんなのしていたら何の魔法で攻撃するのか分かるからしない。
そうでなくても高レベルの魔法師なら、魔法が放たれる前の一瞬の魔力の質で何の系統魔法が紡がれたのか分かるからね。
だからそれと同時に媒介なしの風魔法をアレスティラ様の背後から放った。
雷撃から逃れるだろう彼の足止めをするためだ。
触れれば切り裂く疾風の嵐。
アレスティラ様相手に単一魔法なんて効かないのは分かっている。
私に魔法と剣を教えてくれたのは彼だからだ。
常に相殺されると思って戦えと言われた。
更に魔法を重ねる。
自分の身体に加速をかけて、残像攻撃を仕掛ける。
私はアレスティラ様に比べて力と防御力が低い。
正面からの戦いは不利なのだ。
その分、速さと技術は上回っているので、それに加速をかけ、攻撃回数を増やす。
アレスティラ様は体力以外オールAランクのハイスペックな魔法騎士タイプ。
考えて戦わないといけない。
そうそう体力はSランクで、これも私より上。
このスペックの高さはゲームなら主人公かボスキャラだと思うよ。
「雷撃からの攻撃に風魔法による足止め。そこに加速をかけた特攻か。私じゃなかったら即死だよ?」
エルフィン·ストンを使った乱打をデマイスの刀身と鞘で、ことごとく受け止められてしまった。力の弱い私でも打ち据えるタイプの合成棍棒は当たれば非常に効くので、手数を増やして叩いたのだがアレスティラ様に見切られていた。
「相変わらず、お強いですね」
直接攻撃だけでは敵わない。
それならアレスティラ様を上回る能力……魔力を生かして魔法攻撃のみをすればいいのだが、それは違う気がする。彼から合格をもらうには最後は武術で勝負しないとダメだって思うから。
もう一度距離を取ると、エルフィン·ストンに火と土の混合魔法をかける。
イメージは上空から落ちる溶岩群。
落下先はもちろんアレスティラ様だ。
しかしアレスティラ様は溶岩が落ちる前にはご自分の周囲を結界魔法でドーム状に覆っていた。
これは私も読んでいた。
だから溶岩群が魔防され、結界魔法がゆるむタイミングに合わせて改めて攻め込んだ。
エルフィン·ストンで攻撃するように見せかけながらも直前で手放し、両手にインベントリから出した小刀を握る。
両手から小刀に一体型の強化魔法をかけることも忘れない。
この小刀はドワーフの鍛えた銘のあるものだが、神の贈り物であるデマイスと斬り合うには厳しすぎる。でも小刀の間合いに引きずり込めば勝機が生まれる。
「いっ!」
小刀の間合いに対応すべく、アレスティラ様もデマイスの刀身と鞘を捨てていた。そして瞬時に強化した手刀で私の小刀を叩き落とす。
「レンフィールド」
「はい……」
小刀を失った私の両手首はアレスティラ様の両手に握られている。
「すまないね、痛かっただろう?」
小刀と一体化させていたので叩き落とされた衝撃が連動し、鋭い痛みが走ったのは確かだ。
「大丈夫です。アレスティラ様が治癒魔法をかけてくださいましたから」
手首を捕まれたと同時に痛みは消えていた。
完敗だ。
「そう、良かった」
アレスティラ様は手を放すと、地面に転がっているデマイスを拾いご自分のインベントリにしまわれた。
見極めは終わったということだ。
私も放り投げたエルフィン·ストンを拾ってインベントリに収納する。
あーあ。
旅に出させてもらえなかったらどうしよう……。
アレスティラ様から一本取るまで鍛練するのか?
そう思いながら叩き落とされた小刀も拾い上げる。
「その小刀はなかなかの出来映えだね」
近寄ってきたアレスティラ様が手を差し出されたので、小刀を渡す。
「ハリアスの街に住むドワーフが作ったのかな?」
「はい」
5つある私の直轄領の1つ、奇蹟の街ハリアスは様々な種族が暮らしている。
グリース法王国は全ての種族の平等を口にしながらも人族優位で、政務を司る関係部署や貴族に他の種族はいない。数多くある街の顔役たちも人族ばかり。公に人族以外を集団の代表者として認めているのは国の東端にあるエルフの里の長だけだ。
彼らはエルフの国から他の種族との交流を求めて出てきた変わり者の先祖を持っている。つまりエルフの国が把握している者たちなので、それなりの対応をしないわけにはいかなかったのだろう。
それくらい人族以外は生きにくい国でも他の種族……俗にいう亜人たちは移り住んでくる。
理由はただ1つ。
『聖魔法』の遣い手である法王の在位中は気候変動や疫病とは無縁の国だからだ。
この世界は魔物からの脅威だけでなく、盗賊などの被害もあり生きていく上で色々な障害がある。しかも自己責任というか、自分たちで何とかしないといけない社会構成だ。それなら天候不順で作物の実りが悪かったり、暴風雨などでなぎ倒されたりするという心配事が殆どなく、流行り病もおこらない法王国はそれだけで魅力的な土地なのだろう。
簡単に言えば、少しでも安全に生きたいのなら多少の不便(人権侵害)はあっても法王国を選ぶ……ということらしい。
私の小刀を作ってくれたドワーフもその1人だ。
鍛治だけをして生きたい。
世の中のしがらみから離れたい。
それだけを願って長年住み慣れた場所から法王国にやって来た。
「レンフィールドの手に馴染むように作られているね。大したものだ」
小刀を返してくれながらアレスティラ様が誉めてくれた。
「そうですよね。やはりドワーフの技術は素晴らしいですよね」
彼らの技術が認められたことが嬉しくて微笑んでしまう。
「そうだね」
アレスティラ様も微笑み返してくれた。




